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■大江健三郎略年譜

             
不意の唖
新潮社文庫    
解説:江藤 淳
定価:550円(税別)
頁:19頁(文庫)
ISBN4-10-112601-1
カバー画:山下菊二 初出:1958年(昭和33年) 雑誌新潮2月号掲載
いまもみずみずしい感動!
   
 『死者の奢り・飼育』に収められている。

 初期の作品の中でも特に気に入っています。
 進駐軍がある日寒村にやってきた。そこにいる一人の日本人通訳。彼をめぐってのトラブルが静かに重低音が進んでゆく。外国兵たちは谷川に泳ぎに行く。通訳も一緒に裸になってゆく。外国兵たちはまっ白な皮膚と陽に輝く金色の体毛とをもっている。通訳の皮膚は黄褐色はしていても体毛もなく、全身がつるつるしていてきたならしい感じがする。その通訳の靴が泳いでるあいだになくなった。
いたずらをされた通訳は怒り、部落長である少年の父と犯人をさがすため部落の家を執拗に探索をする。しかし犯人は見つからない。
 見つからない靴に苛立った通訳は父親に協力を求めるが、父親は部落では誰も靴のことを知らないと言って、
協力を断り離れようとする。それを外国兵が後ろから銃で撃つ。父親は両腕をひろげて空へ飛びはねるように体をうかせて、地面に倒れ、死んだ。
 夜になり少年は外国兵のところに行き、ジープにいた通訳にところにあらわれる。「おれの靴のかくしてある場所を知っているのか?」といい、唖のように黙っている少年についてくる。
 土橋の暗がりで、ふいに腕がでて通訳の口をおさえる。数人の剛毛が生え筋肉が石のようにかたくもりあがっている数人の部落のおとなが裸のまま水の中に入ってゆく。通訳は深く沈みこまされた。呼吸の苦しくなった部落の者は通訳の体からはなれ一呼吸すると再びもくってゆき、通訳の体をだきしめる。
 翌朝、通訳は谷川の深みにうかんでいた。川から通訳をひろいあげるのに村人はだれも手を貸そうとはしない。
外国兵のひとりが川にはいり溺死体となった通訳をひきあげ、ジープに運び込む。
外国兵はまたもとの道を引き返していった。

 実に静かに物語られている。すぐれた短編小説の見本のような作品。何度でも読み返したくなる。
 
<冒頭>


 外国兵をのせた一台のジープが夜明けの霧のなかを走ってくる。罠にかかった小鳥の翼を針金につらぬいてまるめたものを肩にかけ、谷間のはずれの自分の猟場をまわっていた少年がそれを見つけ、しばらくは息をつめてそれを見まもっていた。

 

<出版社のコピー>
<おすすめ度>
  ☆☆☆☆  自選短篇作品

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