コギト工房 Cogito-Kobo
若い読者のための大江健三郎ワールド 作品紹介 

■大江健三郎トップページへ



■大江健三郎 まずはこれから


■大江健三郎作品一覧へ


■大江健三郎略年譜


  
    
走れ、走りつづけよ
新潮社文庫  
解説:渡辺広士
定価:552円(税別)
頁数:57頁(文庫版)
ISBN4-10-112609-7
カバー画:山下菊二 初出:1967年11月号 雑誌『新潮』掲載
従兄の部屋の壁には五箇国語で”走れ、走りつづけよ!”という格言が貼り付けられていた
 
 主人公の「僕」と従兄には30代から発狂したという祖父がいた。祖父は50年間狂気の中で生き続け、85歳の誕生日直前に正気に戻り、直後ダイナマイトで爆裂死をした。大江作品では狂気が多く扱われているがこの作品もそのひとつ。
 東大に入っていた従兄は「僕」が大学創作戯曲コンクールで入選した作品が自分達の家族係累に狂気の血が流れていることを知らしめる自伝となっていることから、作品の取り下げを言ってくる。留学するアメリカのビザが取得できなくなることを恐れてた。
 5年の留学を終え日本に戻った従兄に再会をする。「僕」はすでに新進作家となっていた。そして1年後にニューヨークのユネスコに就職することになっている従兄のため、それまでのつなぎとしての仕事を紹介する。それは来日したアメリカの女優のエスコートをする仕事であった。
 祖父の狂気はいつしか従兄にも及んでいた。大江作品でのグロテスクさも溢れている。
 
<冒頭>
  
 われわれが子供の時分から、優秀な従兄の評判は親戚じゅうで高かった。従兄は一族の子供たちの亀鑑とみなされていた。しかし僕ははじめてかれに会うとたちまち、短い論争の後、
ー よくもそんな卑劣なことがいえるなあ、とかれを罵って喧嘩をはじめ、もっともそれは不連続的な粗暴さをあらわした従兄の一方的な攻撃のみの喧嘩で、躰も大きく、力も強く、狡い戦術にもたけている従兄に、僕はまことに惨めなめにあわされた。
 
<出版社のコピー>
 
外部からおそいかかる時代の狂気、あるいは、自分の内部から暗い過去との血のつながりにおいて、自分ひとりの存在に根ざしてあらわれてくる狂気にとらわれながら、核時代を生き延びる人間の絶望感とそこからの解放の道を、豊かな詩的感覚と想像力で構築する。「万延元年のフットボール」から「洪水はわが魂に及び」への橋わたしをする、ひとつながりの充実した作品群である。

 
<おすすめ度>
☆☆☆★    

Copyright Since 2004 Cogito-Kobo  All rights reserved