コギト工房 Cogito-Kobo
若い読者のための大江健三郎ワールド 作品紹介 

■大江健三郎トップページへ



■大江健三郎 まずはこれから


■大江健三郎作品一覧へ


■大江健三郎略年譜

   
  
怒りの大気に冷たい嬰児が立ちあがって
講談社文庫  
解説:鶴見俊輔
定価:533円(税別)
頁数:39頁(文庫)
ISBN4-06-183754-0
初出:1982年9月号 雑誌『新潮』
短編集「新しい人よ眼ざめよ」2番目の作品       
   
 短い作品ではあるが話は流れるように展開する。始めに大学時代に接したイギリスの詩人ブレイクの詩編について語られる。ブレイクの詩は図書館の席、その隣に開かれたままになっている本をのぞき込んだことから触れることとなる。偶然であった。そこから四国の谷間で過ごした子供の頃の記憶へ移る。川で岩にはさまれて死にかかったこと。その「僕」を水から引きずりだしてくれたのは母ではなかったのだろうか。連想はさらにつづく。脳に障がいのある息子イーヨーが19年前に受けた手術のことへ。そのイーヨーが死について理解を始めたことへ。生きることの重みがひしひしと伝わってくる。
印象的な作品題名はブレイクの詩よりとられている。
  
 
<冒頭>
   
  
《無垢は、知恵とともに住んでいるが、無知とは決して共生することがない》とブレイクは書いている。この格言のような言葉は、僕にとって十分に意味が明確なのではない、しかも魅きつけられる次の言葉、《組織をそなえていない無垢、それは不可能なことだ》という一句と組み合わせて、ひとつの長詩に書きそえられている。
 
<出版社のコピー>
障害を持つ長男イーヨーとの「共生」を、イギリスの神秘主義詩人ブレイクの誌詩を媒介にして描いた連作短編集。作品の背後に死の定義を沈め、家族とのなにげない日常を瑞々しい筆致で表出しながら、過去と未来を展望して危機の時代の人間の<再生>を希求する、誠実で柔らかな魂の小説。
大佛次郎賞受賞作。
<おすすめ度>
  ☆☆☆☆☆    自選短篇作品
oe oe
Copyright Since 2004  Cogito-Kobo  All rights reserved