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犬の世界
新潮社文庫  
定価:476円(税別)
頁数:33頁(文庫版)
ISBN4-10-112607-0
カバー画:山下菊二 初出:1964年8月号 『文学界』掲載
   大江作品のひとつのテーマ”兄と弟”を描く 
 北海道の少数民族を取材旅行している小説家のところに妻から電報が届いた。そこには14年間行方不明になっている弟がみつかったと書かれている。弟を見つけたのは郷里で変わり者で通っている大伯母であった。旅行を途中で切り上げて小説家は弟に会った。小説家と妻は弟を「にせ弟」とあだ名で呼ぶことにした。本当の弟といっていいのかどうか懐疑的であったからだ。「にせ弟」は19歳で小柄な体躯ではあったが全体に暴力的な雰囲気がただよっている。指も2本が詰められている。
 小説家になった兄と暴力団のなかでももっとも身分の低い成員だった弟との間には大きなギャップが生まれている。
大江の小説では様々な作品で兄と弟が一緒に登場する。この作品もそのひとつ。
タイトルになっている「犬の世界」は映画好きになった妻の説明で「残酷な暴力にみちた世界」とのこと。
作品の背景には暴力が隠れている。

 <冒頭>
 
 かれは酸のように鋭く、容赦せず、傷つきやすい、とフィリップ・ロスという若い小説家の短編集にアメリカの批評家が広告を書いていた。《しかしなによりも、かれは若いのだ。かれは人生をフレッシュでファニイな眼で眺める》
 洋書店の雑誌売場の棚にそなえつけられているカタログで走り読みしたこの一節が、いまもぼくの相当に粗くなった記憶力の網目を漏れおちないで印象深くとどまっているのは、それがぼくに、あるひとりの若者の思い出を喚起するからである。

 <出版社のコピー>
  
 <お勧め度>
☆☆☆   

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