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■大江健三郎略年譜

  
その山羊を野に
文藝春秋  
定価:1300円(税別) 販売中止
頁数:35頁
ISBN4-16-308250-6
初出:1984年8月号 雑誌『新潮』
短編集『いかに木を殺すか』6番目の作品       
 
 大江作品は登場人物の名前がユニークでそれだけでも楽しい。よくぞこんな名前を考えるものだと感心するばかりである。この作品では「蜜枝アネサマ」。今であれば「壇蜜」という女優の名前で多少は慣れているかもしれないが、なにしろ1984年の話である。突拍子もない命名である。「蜜枝」もうそうだが「アネサマ」がついてしまえばもう笑うしかない。
 そのアネサマは30そこそこの女性である。戦争末期、疎開して谷間の村にやって来た蜜枝アネサマは魅力的である。小説の冒頭にでてくる贖罪山羊(スケープ・ゴート)としての配役である。日本の風土物語にでてくる女性のように若い男の相手を次々とした。しかし大勢の男を相手にしていてもそこには整然とした秩序がある。
 この蜜枝アネサマがある日豹変する。「元禄花見踊り」と呼ばれるほどの華美な服装に変わった。そこから物語は深くなってゆく。
  
<冒頭>
 
 イギリスの文化人類学者エドマンド・リーチの、啓蒙的な著作を、とくにその闊達な語り口が好きで続けて読んできた。ところがある時、新著の一節に、四十年も昔の、幼い自分がある出来事にまきこまれつつ、無用な役立たずであったと、思い出すたび自省した記憶に、新しい光をなげかける記述を発見した。そこで少年期にさかのぼる心の負荷を、自分にねぎらう動機にたって(それは僕にとって強い動機である!)アナクロニズムの匂いをたてるにちがいないが、当の出来事を詳しく書きたい。

<出版社のコピー>
 「現代的でかつ芸術的」という批評が、若くして出発した僕の短篇への励ましだった。いましめくくりの時のはじめに、八つの短篇を書いて、そこに映る自分を見る。切実な時代の影に、個の生の苦渋のあとは見まがいがたいが、ユーモアの微光もまんべんなくある。
 思いがけないのは、女性的なものの力の色濃さだった。遠い幼年時の自分と、それほど遠くないはずに死、また「再生」を思う自分を結んでいる。知的な経験と、森のなかの谷間の神話を、懐かしく媒介しているのも女性的なものだ。(大江健三郎)



     想像力の大翼を駆って構築
     する洵爛たる小説宇宙


   四国の森のなかの谷間を舞台に、神話的伝承に支えられて
   森を防衛する勇敢な女たち。グロテスクな性、滑稽な性の
   饗宴と笑いにはじまり、優しさの極みに至る大江文学の傑作!

<おすすめ度>
☆☆☆☆

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