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■大江健三郎略年譜

  
魂が星のように降って、跗(あし)骨のところへ
講談社文庫  
解説:鶴見俊輔
定価:533円(税別)
頁数:40頁(文庫)
ISBN4-06-183754-0
初出:1983年3月号 雑誌『群像』
短編集「新しい人よ眼ざめよ」5番目の作品       
 
 この作品でも題名はブレイクの詩句よりとられている。
 魂(霊)が星のように降って足骨のところから入ってくるというイメージ。これは痛風の発作で苦しんでいる「僕」を見ていた息子イーヨーからのものである。
 障害ある息子を育てて行く中で実際に起こったと思われることを、かなりの部分で忠実に描いているのではないかと想像される。勿論小説としてのフィクション性も多分にあるのだろうが。これはエッセイなのかと、あるいはノンフィクション作品なのかと勘違いをしてしまいそうになる。
 ブレイクの詩句とどこかで接点をもちながら、イーヨーが19歳になるまでのいくつかのエピソードが出てくる。野鳥そのもののことは実際にはほとんどわかっていないが、その鳴き声には的確に理解を示すイーヨー。テレビをみているなかでコマーシャルから作り出す言葉遊びに才能が垣間見え、ほほえましい。イーヨーは小学三年生になるとピアノを習い始めるが、演奏技術よりも作曲手法の獲得に能力は向かって行く。
 物語は心身障害児施設15周年記念としてクリスマス用の音楽劇を作ることを父子ともに依頼されるという展開になってゆく。イーヨーは作曲家として音楽を担当して見事に成功させる。全編に不可思議な神秘性が溢れていて、読後感がとてもよい。   

 
<冒頭>
   
  
ブレイクの自然に流露した発想の、グロテスクな奇態さと、それに矛盾せぬ懐かしさ。それを僕はしばしば感じとってきた。しかも自分と息子との生活の細部と、ことのありようとして照しあうものはいくつもあるが、そのひとつは預言詩(プロフェシー)『ミルトン』の、すでに天上に昇った詩人ミルトンが、墜(お)ちた世界としての地上にくだり、・・・・
 
<出版社のコピー>
 
障害を持つ長男イーヨーとの「共生」を、イギリスの神秘主義詩人ブレイクの誌詩を媒介にして描いた連作短編集。作品の背後に死の定義を沈め、家族とのなにげない日常を瑞々しい筆致で表出しながら、過去と未来を展望して危機の時代の人間の<再生>を希求する、誠実で柔らかな魂の小説。
大佛次郎賞受賞作。
 
<おすすめ度>
  ☆☆☆☆☆
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