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■大江健三郎略年譜

     
  
    
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新潮社文庫  
定価:552円(税別)
頁数:21頁(文庫版)
ISBN4-10-112608-9
カバー画:山下菊二 初出:1958年(昭和33年) 雑誌別冊文芸春秋2月号掲載
若き頃の作品 しかも傑作 圧倒的な描写力
 なんとなく胡散臭くはあるが仔牛肉の買付はうまく終わった。その肉を自転車二台に積んで運ぶ主人公。彼は肉を買取った男に雇われた学生アルバイトである。大江の作品らしく前半から緊張感にみちている。順調に仕事はすすむかと思われたが、前半最後はこう結ばれている。

「しかし挫折の最初のきざしは不意の発作のようにすばやく芽ぶき、たちまち逞しく根をはびこらせる。そしてそれを拒否することが絶望的に難しいこともあるのだ」

 後半になり男と雇われた主人公は小さなトラブルに巻き込まれてゆく。そして最後には大きなクライマックスが待ち構えている。
 短い作品だが構成力、描写力がすごい。初期の大江作品の傑作のひとつである。

 ただし、2018年9月に出版された大江健三郎全小説1では上記で引用した箇所にたった一字であるが印刷ミスがあった。「きざし」が「きぎし」になっている。増刷されるときには直っているかと思うのだが。
 もちろん作品の価値にはなんら関係はしません。
 
<冒頭>  

 皮を剥がれた仔牛のまわりで冷たい夜の空気が小さく赤らんでいた。コンクリートの床にぐったり横たわった仔牛は僕らの視線をうけてしだいに速度をましながら縮小してゆくようだった。僕らは仔牛の体のたてる厚ぼったく快楽的な匂いに胸腔をふくらませ、それから音をたてて白く凍る息をはいた。
  
<出版社のコピー>
<おすすめ度>
 ☆☆☆☆★

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