2005年 10月号back

 東京にいるとなかなか実感できないシネマコンプレックス。1993年ワーナー・マイカルが日本で初めてシネマコンプレックスを開業してから、まだ12年しか経っていないというのに、日本の全スクリーン数の2/3以上を占めるようになってしまった。

 これだけになると良くも悪くも日本の映画状況を変えてしまう力をもち始めた。

 

良い影響:
①映画館が新しく、階段状の座席はスペースもゆったりして見やすい。
②古い体質の全興連(全国興行生活衛生同業組合連合会)に関係なく興行を行う。


悪い影響:
①経済原則に則り、基本はヒットする大きな映画のみを上映する。
②全国の上映番組は本社で決めてしまい各映画館の自主性がない。
③地方では特にシネコン以外の映画館がない所が増えつつあり、小さい映画は上映する場所がない。

 

 東京ではシネマコンプレックスがあまり目立たない。山の手線内にあるシネコンは六本木のヴァージンシネマだけである。確かに東京には映画館がある程度あるからシネコンが無くても困ることはないという状況と思われた。
 しかしこれは違うところから発生した事象だった。日本の映画会社は東宝、東映、松竹が自分の劇場を持ち、自社作品は各地区(新宿、渋谷・・・)1館しか上映させない状態が続いてきた。映画館がどんどんなくなった地方ではシネコンが東宝作品を上映しても、そこで1館だから問題がなかった。東京の例えば新宿にシネコンができると、新宿コマ東宝が困るからダメという訳。これを推し進め、シネコン反対の先頭に立っていたのが東宝だったが、元々鉄道(阪急)が出自の東宝は儲かると見れば姿勢を変えるのも早い。3年前にシネコン路線に転換、ヴァージンシネマも買収し、今では最大のスクリーン数を誇るTOHOシネマズというシネコンを持つことになってしまった。

 

 日本の文化・流行は東京から発信し地方に流れていく形が多かったが、シネコンはこれとは逆に地方から発し、東京に届きつつある状況になってきた。噂によれば2年以内くらいに新宿に2つのシネコンができるともいう。嬉しいことにというか、私の地元・豊洲に12スクリーンのユナイテッドシネマが来年オープンするという。有楽町に近く、木場には8スクリーンの109シネマがお台場には16スクリーンのシネマメディアージュがあるというのに・・・。

 

 ということで、今回はシネコンについての現状報告です。

主なシネコンチェーン:

 

①ワーナー・マイカル:日本初のシネコンチェーンにして、現在唯一の外資系


②ユナイテッドシネマ:アメリカの配給会社UIP(ユニバーサル、パラマウント作
品を配給するユナイテッド・インターナショナル・ピクチャーズ)系のシネコンだったが、現在は住友商事に買収された。


③AMC:イクスピアリに16スクリーン、外資系だったがこれも確か住友商事に・・・


④TOHOシネマ:ヴァージンシネマを傘下におさめた東宝系シネコン。


⑤MOVIX:こちらは松竹系シネコン


⑥109シネマズ:都内では木場にある、東急系シネコン。


⑦シネプレックス:邦人系配給会社、日本ヘラルド系のシネコン。日本ヘラルドは最近角川の傘下に入りました。角川は、旧大映を買収、角川映画にしましたが、日本ヘラルドも最新作「ルパン」ではKADOKAWA HERALDと表示されました。

 シネコンは東宝系、松竹系といっても、系列に関係なく松竹作品「亡国のイージス」はTOHOシネマでも上映されるし、東宝の「容疑者室井慎次]はMOVIXでも公開される。

 初めは全て外資系だったシネコンチェーンも、今はワーナー以外は全て日本資本になりました。商売にドライで儲からなければすぐ撤退する外資という観点からすれば、シネコンはまだ10年というのにもう儲からない商売になってきたのでしょうか?今なお、シネコンは増えつつありますが、既に飽和状態という意見もあります。特にこれから本格的に増えようとしている東京では、確実に供給超過になるのではないでしょうか?その時シネコンがどのように変身していくか、興味深いところです。

 

 日本映画会社の規制(この作品はいつまで上映しろ・・・)に関係なく、客が入らなければ上映期間を短くしたり、朝1回だけの上映にしたり、ヒットすれば2~3スクリーンで上映とフレキシブルに上映をしてきたのがシネコン。ヒット映画をこれだけ多くのシネコンが上映すれば、少なくとも観客にとっては混む状態が早く解消するという点ではいいことかも。しかし、息の長いヒット(昔「ウエストサイド物語」は1年以上ロングランしていました。)は殆ど望めなくなりました。わっと人が集まって、すぐに忘れられていくというサイクルに拍車をかけているのもシネコンですね。


 

今月のベスト3


8/26-9/25の間に見た18本は次の通り。


愛についてのキンゼイレポート
奥さまは魔女  
ハッカビーズ  
南極
日誌  
ビ・クール
十字路(映画美学校)  
サヨナラCOLOR  
輝ける青春  
理想の女
浪花悲歌(映画美学校)
メゾン・ド・ヒミコ  
容疑者室井慎次  
SHINOBI忍  
シンデレラマン
ファンタスティック・フォー
ルパン  
チャーリーとチョコレート工場  
クレールの刺繍



① 輝ける青春
 6時間を越える映画、残念ながら岩波ホールの公開は終了しました。1966~2003年に渡る家族を中心に描くグランドドラマ。私より2~3歳くらい年上の兄弟の話は、一々あの頃を思い出させる。イタリアの家族の絆の強さと、なおかつ一人一人独立した生き方、多くは登場しない父親の描き方にも、細かい気遣いがされている。じっくりペースと、省略の仕方が上手く、長さを感じさせない。観た後暫くは、あの家族から離れられませんでした。

 

 チャーリーとチョコレート工場
 ロアルド・ダール原作の映画化、もっと毒があってもいいかとも思いましたが、久しぶりに楽しみました、ミュージカル仕立てです。エスター・ウィリアムズ風とか、バスビー・バークレー風とか、ザッツ・エンタテインメントの世界に、ベンハーまで入ってきた。パイレーツ経由のジョニー・デップも奇妙な魅力。

 

③ 理想の女
 ヘレン・ハントはアカデミー賞を取ったとはいえ色気がない(!)。その人が男を手玉に取る役というので心配でしたが、いやー、久しぶりにせりふの色気に参りました。「ルパン」のカリオストロ伯爵夫人(クリスティン・スコット・トーマス)の悪女ぶりと双璧。

 

 10/1は久しぶりの土曜日、映画1000円です。「サヨナラCOLOR」の男のロマンチシズム一直線もなかなかです。

 「容疑者・・・」はお勧めしませんが。

 




                         - 神谷二三夫 -


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