2011年 10月号back

やっと、少し涼しくなり夏の終りを感じさせるこの頃です。
秋本番となれば、食欲、芸術、体育、空高、馬肥、恋愛、…
どれもが好調となるような。
もちろん映画はその中でも本命。
面白い映画満載の季節がこれからです。

 

今月の映画

 8/26~9/25の間に出会った映画は29本、少女の活躍(うさぎドロップ、ハンナ、モールス、アジョシ)目立つ中、バラエティのある作品群でした。

<日本映画>

うさぎドロップ 
神様のカルテ 
日輪の遺産 
朱花の月 
探偵はBARにいる
アンフェア The Answer 
モテキ 
一枚のハガキ

 

<外国映画>

レイン・オブ・アサシン 
ふたりのヌーヴェルヴァーグ
ハンナ 
モールス
あしたのパスタはアルデンテ 
ゴースト・ライター 
ハウスメイド
Life in a day、 
ミケランジェロの暗号 
ミラル 
アザー・ガイズ 
スリーデイズ
グリーン・ランタン 
ザ・ウォード 監禁病棟
アジョシ
世界侵略 ロサンゼルス決戦 
スマーフ
ライフ-いのちをつなぐ物語-
レジェント・オブ・フィスト 
カンパニー・メン
(古)ショウほど素敵な商売はない

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

 

①ゴースト・ライター
 出だしから会話のテンポの良さに感激する。無駄なものがない。その後も事件の展開は見る者をひきつけて離さない。ポランスキー監督の上手さに圧倒された。

 

②一枚のハガキ
 新藤兼人監督の最後の作品は、力強い直球の作り。簡潔で裏などなく言いたいことをそのまま画面に。予告編ではなんだかキャタピラーパターンを感じて引いていたが、そんなやわなものは微塵もなかった。

 

③探偵はBARにいる
 サッポロすすきのを舞台に、名無し探偵と北大農学部助手の相棒兼運転手の探偵もの、二人のコンビぶりが楽しく、謎解きも楽しめる。

 

次点:アザー・ガイズ
 コメディのキイの一つがルーティンをいかに上手く提示できるかということであれば、アメリカ喜劇で久しぶりにちょっとばかり上手くいった感じがした。ウィル・フェレルのキャラクターが上手くできている。中盤チョイと中だるみなのが残念ではあるが。

 


 次の作品も面白い、ご覧ください。

 

ハンナ:フィンランドの雪の原野から、モロッコ、スペイン、フランス、ドイツ・ベルリンへと、少女の自分探しの旅は続く。その悲しみはアンドロイド?

 

モールス:ハンナの行きつく先は、モールスの主人公アビ―なのかもしれない。自分一人では生きて行けない主人公の悲しみが描かれる。

 

あしたのパスタはアルデンテ:兄弟2人がゲイのてんやわんやを描いて、なかなか面白いイタリア喜劇。

それにしても、この何ともな題名がいいというか…。

 

ミケランジェロの暗号:ここ何年か続いたドイツ映画によるナチスについての新しい発見を描いた映画と違って、純然たる娯楽作品の題材としてナチスとユダヤ人の丁々発止、楽しめます。

 

ザ・ウォード 監禁病棟:精神病院の監禁病棟で次々に消えていく患者たちは?ジョン・カーペンターがサスペンスいっぱいに描きます

 

アジョシ:どこかで見たドラマの基本構造、それをかなりハードなアクションと突き詰めた人物造形で語られるおじさん(アジョシ)と少女の物語。いくら何でものスーパーマン。

 

●スリーデイズ:ラッセル・クロウが主人公を演じると、オリジナルとは違ってこの人が…という意外感が薄い。後半はそんなことを忘れさせるアクション一筋。

 

●カンパニーメン:30代でそんな豪邸に住んでポルシェを乗り回していたら、それは給料もらい過ぎと思うが、人員整理の厳しさも半端ではない。

 

 

 

Ⅱ 今月の懐かしい人

 

ティモシー・ハットン

 「ゴースト・ライター」で弁護士を演じていたティモシー・ハットン、のっぽで有名だったジム・ハットンの息子、ロバート・レッドフォードが監督した「普通の人々」で20歳にしてアカデミー賞助演男優賞を受賞。久しぶりに映画の表舞台に出てきた印象だ。

 

 

 

 

Ⅲ 今月のつぶやき

 

◎「レイン・オブ・アサシン」をみていると女流カンフー映画のワクワク感あり、ミッシェル・ヨーの姉御ぶりも心地よい。

 

◎これに比べると、「レジェンド・オブ・フィスト」は、かつて行われていた脚本なしに映画を作ってしまう香港映画の方法で作られたような感情過多、筋運びの突飛さに驚く。

 

◎堺雅人は出来る役柄が狭いのでは?彼が軍人に扮する「日輪の遺産」は、この人とユースケ・サンタマリアの先生役がどうにも気持ち悪い。

 

◎「ミケランジェロの暗号」はナチス映画の1本だろうが、ユダヤ人画商の息子が活躍するアクション・サスペンスで娯楽作品であるのが新しい。

 

◎ウィレム・デフォーってアメリカ俳優らしからぬ作品に多く出ているが、パレスチナ人を描いた「ミラル」に出てきたのにも驚いた。

 

◎ウィル・フェレルのキャラクターが生きた「アザー・ガイズ」、上手いコメディアンですね。

 

◎「ハウスメイド」「アジョシ」と今月見た2本の韓国映画、どちらもやり過ぎ感あり。プラスチックのような金持ち家族だし、スーパーマンのようなアジョシだし。

 

◎アメリカにおけるリストラの厳しさは、クビを申し渡されたその日に退社するという場面が出てくる「カンパニーメン」に描かれる。

 

 

 


今月のトピックス:ア・ラ・カルト

Ⅰ 3~5日

 

 9/23に封切られた「スリーデイズ」と「4デイズ」、表現の違いはあれ、3日と4日ですよ実は、10/1には「5デイズ」が封切りされることになっている。
3、4、5日と続いた訳で偶然とはいえ面白い。「スリーデイズ」以外は見ていないので、その後の2作が続きか否かは知りません(ありえないだろう!)が、まあ、考えられない。原題で言えば、「The Next Three Days」

「Unthinkable」「5 Days of War」となる。「4デイズ」の原題は“考えられない”となっている!“6デイズ”はいつの封切りだったっけか?

 

 

 

Ⅱ ハリウッド流リメイク

 

 「スリーデイズ」は昨年日本でも公開された「すべて彼女のために」のリメイクだ。2008年に製作されたフランス映画でその年の12/3にフランスで公開されている。先月号でベスト1とした「この愛のために撃て」のフレッド・カヴァイエ監督の前作である。「すべて彼女のために」もいい映画だったので、リメイクされるのも分からない訳ではない。それにしても、リメイクが早すぎはしないか?
 調べてみると、「スリーデイズ」はアメリカで2010/11/9に封切りされている。オリジナルがフランスで公開されてから2年もたっていない。更に調べてみると、オリジナルの「すべて彼女のために」はアメリカでは公開されていない。ハリウッド映画は全世界に向けて商売しているとはいえ、メインマーケットは勿論アメリカである。そのメインマーケットでオリジナルが公開されていないならば、どんなに速くても問題はない。

 

 似たような形でリメイクされたのが今月はもう1本、日本では2011/8/5に公開された「モールス」だ。オリジナルは、日本で2010/7/10に封切りされた「僕のエリ 200歳の彼女」だ。「僕のエリ …」はスウェーデン映画で、2008/1/26に映画祭で上映された後、一般封切りは2008/10/24にスウェーデンで行われた。アメリカでの公開は、2008/4/24に映画祭で上映後2008/10/24に限定公開されている。

 リメイクの「モールス」がアメリカで公開されたのは2010/10/1となっていて、これまた2年前後でのリメイクとなる。こうした状況はJホラーとして騒がれた「リング」や「呪怨」が、ハリウッドでリメイクされた時にも起きていて、1~3年後くらいの感覚でリメイクされていた。最近15年位はこのくらいの感覚でリメイクされていると言えるのだろう。これは、やはり早すぎるのではないだろうか?今後もこの傾向は続いていて、昨年日本でも公開された「ミレニアム3部作」が同じく3部作としてリメイクされ、今年12月には公開される。

 

 最近のリメイクは時間的に短縮された以外に、ほとんど同じ脚本によるものも目立つ。もちろん舞台はアメリカに移しているものが多いが、ストーリーは同じものが多い。早いタイミングで、ハリウッドの大スターを使いながら、同じストリーを作った方が商売としてはやりやすいと読んでいるからだろうか。確かに、話題になった記憶が残っている方が有利とみる見方もあるが、見る方としては近すぎるという感じの方が強い。それにしても、これほどハリウッドでのリメイクが多くなっているのは、やはりハリウッド脚本家の弱体化の表れだろうか。

 

 

 

Ⅲ 日本のTVドラマ映画化のあり方

 

 日本の脚本家はどうなっているだろうか?現在、日本映画の中で大きな部分を占めるTV局製作の映画、その中に自局TV番組を映画化する作品が多々ある中、決着は映画でという作り方の作品が時々見られる。
 この製作姿勢自体が大きな問題なのだが、その犯人像にも大きな問題があるように思われる。

 今月「アンフェア The Answer」が公開された。題名にある通り、TVで見ていた人々に向け最終回答として作られたらしい。ハードなふりをした作品のラストに向けては、いつもながらの逆転、逆転となるのだが、
例によって最終的悪は誰?というのに Answerされるのが・・・。
 この最終悪が、これまた例によってどこかで見慣れたものでかわされる。いくら日本人が個人ではなく団体行動が得意だと言っても、こんな風にあるかないのか分からない権力組織で回答されてもと思う。ここを悪にしておけば誰も文句を言わないというような安易さでもって書かれていないか?いずれにしても、久しく新鮮な驚きを感じていない。

 

 


Ⅳ 芸人タッチとマリリン・モンロー

 

 新鮮な驚きというか、久しぶりの感激と言えば、午前十時の映画祭赤で見た「ショウほど素敵な商売はない」。最近この手の芸人一家物語を見ていない。
エセル・マーマンとダン・デイリーの夫婦にミッツィ・ゲイナーとドナルド・オコナーの姉弟、途中から神の道に進む長男も含めての芸人一家のなんたるかが何んとも楽しい。

 この芸人一家に絡んでくる新人歌手がマリリン・モンローの役。彼女はこの作品の前にも「紳士は金髪がお好き」というミュージカルに出演している。

 それにしても、彼女の歌は下手。なのに、新人とはいえ歌手という役柄を、芸達者4人を相手に演じるとは、自分の才能に自信が持てず精神科医に通った人にしては勇気ある行動。後半、ブロードウェーの舞台で姉弟と共演の練習風景では、芸達者二人がすべてをカバーしていた。

 彼女の歌を聴いていて思い出したのは、最近ミュージカルづいている大竹しのぶ。演技は上手いし、歌うのが好きらしいんだけれど、歌が上手いとは言えないんだなあ。

 

 


Ⅴ 今月の映画館の作法

 

 「ショウほど素敵な商売はない」を見た時、隣に座ったのは50代後半かという男性だった。ビールを飲みながらの観賞はいいとして、映画が始まると歌い始めた。もちろん小さな声で、ほとんどハミングするように。ミッツィ・ゲイナーが登場すると拍手も。ハミングと拍手はその後も時々続いていた。分かるんですよその気持ち、ミュージカル好きな私としては。だから、注意できるはずがない。我慢しつつ、まさか一緒に唄うこともできず、困った状態だった。

 

 

 

Ⅵ 賃金格差というか

 

 困った状態といえば、アメリカの会社における平社員とCEOとかの賃金格差の広がり。「アザー・ガイズ」のラスト、クレジットが出てくる画面には突如様々な数値が延々と流される。如何にあくどい儲けをしているかとか、いかにもうけ過ぎているかとか。その中に、このCEOとの賃金差も出ていたように思うが、「カンパニーメン」にはセリフの中に“平社員の700倍”という言葉が出てくる。

 

 


 凄いね。

今月はここまで。



                         - 神谷二三夫 -


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