2014年 4月号back

やっと春らしい日が続くようになってきたこの頃、
やっぱり嬉しいですね、その暖かさが。
心の春を求めるなら、
いつでもそこにある。
そう、ほっとできる映画館。


 

今月の映画

 2/26~3/25までの28日間、1年で一番短い一月の間に出逢った作品は28本(短編1本含む)、いつものように外国映画が圧勝です。

 しかもかなりの充実度、アカデミー賞にもかかわりのある作品をはじめ、個性豊かな作品が揃いました。

<日本映画>

土竜の歌 潜入捜査官Reiji 
愛の渦 
家路

 

 

<外国映画>

大統領の執事の涙

   (The Butler)
ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅

   (Nebraska)
グロリアの青春

   (Gloria)
ダラス・バイヤーズクラブ

   (Dallas Buyers Club) 
キックアス ジャスティス・フォーエバー

   (Kick-Ass 2)
ホビット 竜に奪われた王国

   (The Hobbit:The Desolation of Smaug) 
北朝鮮強制収容所で生まれて

   (Camp 14-Total Control Zone)
パラダイス希望

   (Paradise:Hope)
パラダイス愛

   (Paradise:Love) 
家族の灯り

   (Gebo and The Shadow)
それでも夜は明ける

   (12 Years A Slave) 
グランドピアノ~狙われた黒鍵~

   (Grand Piano)
ロボコップ

   (Robocop) 
オール・イズ・ロスト

   (All is Lost) 
あなたを抱きしめる日まで

   (Philomena)
ドン・ジョン

   (Don Jon)
LIFE

   (The Secret Life of Walter Mitty) 
ミッキーのミニー救出大作戦(短編)

  (Get a Horse)
アナと雪の女王

   (Frozen) 
シネマ・パラダイス ピョンヤン

   (The Great NorthKorean Picture Show)
コーヒーをめぐる冒険

   (Oh Boy) 
ウォルト・ディズニーの約束

   (Saving Mr.Banks)
ローン・サバイバー

   (Lone Survivor)
ワンチャンス

   (One Chance)
フルートベール駅で

   (Fruitvale Station)

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー


①-1 ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅
 ボケ始めたような父とモンタナからネブラスカへの旅。巡り合う父、母の親戚、知り合いから知る父のかつての姿。表面に出てこないアメリカのローカルに暮らす人々の生活が浮かび上がる。


①-2 コーヒーをめぐる冒険
 ベルリンに住む主人公は、送金してくれる父親には内緒で2年前に大学を辞めている。彼のついていない1日を、いくつかのエピソードで描きながら、大人になっていく覚悟を自覚させられる過程を淡々と、しかしヴィヴィッドに描く。

 

②-1 それでも夜は明ける
 19世紀中ごろ、ニューヨークで自由黒人として暮らしていた主人公は、拉致され南部に奴隷として売り飛ばされる。スティーヴ・マックィーン監督が黒人としての自分のアイデンティティを、力強い画面で確認する。


②-2 あなたを抱きしめる日まで
 10代で未婚のまま妊娠した主人公フィロミナは修道院で出産したが…。3歳の息子と引き離され、その後50年近くそのことを秘密にしてきた彼女が、息子に会うために旅にでる。スティーヴン・フリアーズ監督の繊細な表現でこの実話を見せてくれる。


③-1 アナと雪の女王
 映画のミュージカルが舞台の大ヒット作の映画化(これも好きだが)ばかりになっている時、ディズニーのアニメーション作品は時に懐かしき映画オリジナルミュージカルを運んでくるが、この作品もその1本となった。

 

③-2 ウォルト・ディズニーの約束
 「メリー・ポピンズ」はアニメーション作品ではないがディズニーのオリジナルミュージカル。その製作にこぎつけるまでの戦い(!)を描いて素晴らしい。P.L.トラヴァース夫人の頑固さは理不尽に近く、それが実際にそうであったことに感心した。

 


他にもお勧め作品がいっぱい。


●大統領の執事の涙:実際にホワイトハウスの執事として長年勤めあげたセシル・ゲインズのお話。奴隷の子として育ち、そこを飛び出し、やがてホワイトハウスに入るというドラマ。アイゼンハワーからレーガンまで仕えた7代の大統領をスターが演じていたり、マライヤ・キャリーやレニー・クラヴィッツのミュージシャンまで出演。「それでも夜は明ける」より100年後、黒人差別が残っていた最後の時期から現在までの大ドラマ。


●グロリアの青春:熟年女性の活躍には「パラダイス愛」もありますが、グロリアの方が見やすい。
グロリアの元気に感心しますが、男はいくつになっても浮気好きというのがあまりに月並みか。

 

●ホビット 竜に奪われた王国:ホビット3部作の第2作はなかなか面白かった。
ただ、当然ながら完結はしていないので3作目を待たなければいけない。


●家路:福島原発から避難して人のいなくなった故郷に帰ってきた主人公。
高校生の時ある事情から家を出てしまった彼にとって、故郷を2度もなくしたくはない。母を連れて帰るのが切ない。静かな力作。


●オール・イズ・ロスト:スマトラ海峡から3150kmで、漂流してきたコンテナがヨットに穴をあける。そこから始まる生きるための戦いは一人で黙々と行われる。ロバート・レッドフォードしか出てこない。主人公は名無しのOur Man。セリフもほとんどない孤独な戦い。見てください。


●LIFE:ウォルター・ミティという名を知ったのは昔読んだ和田誠さんの本から。今もってダニー・ケイ版を見ていないのだが、いつか見たいと思っている。「虹を掴む男」という邦題も傑作。ベン・スティラー(監督・主演)版の今回の映画もなかなか良い。


●ローン・サバイバー:驚きますよ、あの転落ぶり。あまりにリアル、蒲田行進曲の階段落ちなど、軽く見えてしまうほど。本当にここまでリアルになった戦争ものはコワいですね。


●ワン・チャンス:昔、NHKかBSでショータイムという番組があり、そこで英国王室演芸会(?)のようなショーが放映され、その中に普通のお兄さんが出てきて突然オペラを歌い、それがあまりに上手いので感激したことを思い出す。この映画の主人公ポール・ポッツも素人のオペラの歌い手、あまりに障害が多く発生して、これって本当の実話?と思うほどだが、それらを乗り越えて夢を実現する様には感激。

 

 

 

Ⅱ 今月の懐かしい人


☆クラウディア・カルディナーレ

 現在105歳の監督、ポルトガルのマノエル・ド・オリヴェイラの新作「家族の灯り」で、主人公の妻ドロティアを演じていたのはイタリアのクラウディア・カルディナーレ。
 「鞄を持った女」「ブーベの恋人」などで土の匂いを感じさせる女性を演じ、フェリーニの「8 1/2」やヴィスコンティの「山猫」など巨匠の作品に出た後、ハリウッドでも「サーカスの世界」「プロフェッショナル」などにも出演した大女優。
 60年代初頭には、ブリジット・バルドーのBB、マリリン・モンローのMMと同様に、CCと2文字で呼ばれたりもしていました。骨太で土着的な役が多かったのは彼女の外見と共に、そのしゃがれ声も影響していたのでは。
 今回の新作でもあの懐かしい声を聞かせてくれます。

 

 

 

Ⅲ 今月のトークショー


 3/8新宿ピカデリーに「家路」を見に行ったら、映画の始まる前にトークショーがセットされていた。ジャーナリストの津田大介さんと監督の久保田直さんの対談である。久保田さんはずっとTVでドキュメンタリーを作ってきた人で、多くの賞も獲得しているらしい。その彼が作った初めての劇映画が「家路」、今の福島とそこに住む、住んだ人々をそのままに描いているブレのない静かなまなざしはドキュメンタリーで鍛えられたものだろう。
 二人の対談は実直な映画そのままに充実したものだった。中で、久保田監督がこの映画とは関係なく「インタビューを撮ったドキュメンタリーは面白くない」と発言されたことが耳に残り、翌日見た「北朝鮮強制収容所に生まれて」は実際つまらないなあと感じることになった。

 

 

 

Ⅳ 今月のつぶやき


●ホワイトハウスの執事はいまでも黒人が多いのだろうか?
「大統領の執事の涙」を見ていると晩さん会などで給仕をしているのは黒人男性ばかり。まるで「アンクルトムの小屋」の時代から変わっていないかのような印象。

 

●今月は2本のモノクロ映画を見た。どちらも好きな映画。
「ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅」と「コーヒーをめぐる冒険」だ。
新作でモノクロは珍しいし、今の時代、カラー映画よりお金がかかると言われる。それでもモノクロにしたかった製作者たちの心が感じられる2本の映画だった。


●1969年の「ジョンとメリー」は同じベッドで夜を過ごした二人が、ラストで初めて名前を伝えあうのだが同じように最後に名前を伝えた「愛の渦」は随分違うテイストでした。


●「グランドピアノ~狙われた黒鍵~」は久しぶりに謎解きミステリーの醍醐味を味あわせてくれるが、犯人の関係が私にはよく分からずそこが不満。どなたか教えてほしい。

 

●新しい「ロボコップ」では、ロボコップ工場(?)が中国にあるというのが、今の米中関係を表しているのでしょうか?


●The Secret Life of Walter Mitty は「LIFE」の原題で、原作者ジェームズ・サーバーの短編小説名である。同じ原題の「虹を掴む男」は同じ原作から作られた1947年版、ダニー・ケイの主演。残念ながら前作を見ていなので詳しく言えないが、テイストはちょっと違うような気もする。

 

●結構期待して見た北朝鮮に関する2本のドキュメンタリー映画、「北朝鮮強制収容所に生まれて」「シネマパラダイス ピョンヤン」は残念ながらあまり面白くなかった。

 



今月のトピックス:アカデミー賞の結果 & ETC 

 

Ⅰ アカデミー賞の結果


 3月号の約1週間後に発表されたアカデミー賞、そのためか予想結果についてメールを送ってくださった方もいました。ありがとうございました。


主要6部門の結果は次の通りでした。


●作品賞:それでも夜は明ける 

       → 予想通り


●監督賞:アルフォンソ・キュアロン 

       → 予想通り


●主演男優賞:ブルース・ダーン(ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅)
       → マシュー・マコノヒー(ダラス・バイヤーズクラブ)


●主演女優賞:ケイト・ブランシェット(ブルージャスミン)

       → 予想通り


●助演男優賞:ジャレッド・レト(ダラス・バイヤーズクラブ)

       → 予想通り


●助演女優賞:サリー・ホーキンス(ブルージャスミン)
       → ルピタ・ニョンゴ(それでも夜は明ける)


 予想結果は4/6で66.66%、先月号で変更した部門だけが的中しました。最多10部門のノミネーションを受けていた「アメリカン・ハッスル」は無冠に終わり、同じく10部門の「ゼロ・グラビティ」が最多7部門受賞となりました。

 

 

 

Ⅱ 日本橋に映画館

 

 日本橋は大学卒業後就職して東京に出てきて初めて勤務した場所。正確には日本橋三越内の交通公社で働いた。そのためか、日本橋は東京における故郷のような気がする。
 その後8年2ヶ月を三越・三井ビル周辺で過ごしたが、その間、三越本店には小さな新館ができ、その中に一時映画館があった気がするのだが、記憶はちょっとあやふやになっている。

 日本橋の再開発が何年にもわたって行われ、この3月にはCOREDO室町、2、3がオープン。そのCOREDO室町2の中にTOHOシネマズ日本橋が3/20に9スクリーンで開場した。
 日本橋で初の映画館と謳っていたが…。まあ、細かいことは気にしない。有楽町地区では上映されていない「ローン・サバイバー」を3/22にここで見た。
落ち着いた色合いの内装、かなり角度のある場内で見やすい。
 と言っても、他のシネコンとそれほど大きな違いがある訳ではありません。
場所柄からか、大人の雰囲気を持った映画館というところ。東京に映画館のある地区が一つ増えたことは喜ばしいことです。

 

 

 

Ⅲ さすがにイメージ・フォーラム


 3月の3連休の初日、3/21に渋谷のイメージ・フォーラム(2スクリーンあり)に出かけた。11:15からの「シネマパラダイス ピョンヤン」と15:00からの「コーヒーをめぐる冒険」を見ようと思ったのである。「シネマパラダイス」は上映時間93分の映画だから、11:15の回が終わるのは予告編が15分位と

して13:00近く。
 「コーヒー」の前の回は13:00なので、ランチとちょっと休憩時間を取って15:00の回をと思ったのである 。

 ところが、その旨2枚のチケットを頼むと、チケット売りのお姉さんが“2本は時間的に重なりませんから、続けて見たら?”と、13:00の回を勧められてしまった。
 そう言われては仕方がない。開始時間まで少し時間があったので、近くのセブンイレブンにサンドイッチとおにぎりを買いに行く。始まるまでに少し食べ、間の時間に残りを食べる計画。
 実際に「シネマパラダイス」が終わったのは12:57、地下の劇場に移動してすぐ食べ始めた。こんな忙しい時間割にしてくれたのは、さすがイメージ・フォーラム。

 

 

 

Ⅳ ウォルト・ディズニー


 特別にディズニーファンでもないのだが、今月はディズニーにいろいろ見せてもらった、特にミュージカルを。「アナと雪の女王」はディズニーアニメ久しぶりのミュージカル。主題歌の「Let It Go」は力強いメロディラインでアカデミー賞主題歌賞も当然。
女王とか、真実の愛とか、冒険とか、ひょうきん者とか、如何にもミュージカルにふさわしい題材ながら、主題歌の「Let It Go」ではそのまま行けとばかりの力強さ。人の心の内の飛躍する部分を音楽に託すというミュージカルの正しいあり方。素直に楽しめるミュージカルでした。

 ディズニーアニメには短編がよく併映されるが、今回は「ミッキーのミニー救出大作戦」。昔のタッチで作られたモノクロアニメから、ミッキーを始め飛び出してきた人々はカラーで描かれ、例によっての追っかけっこが始まる。さらに、ミッキーの声はアーカイブから取られたウォルト・ディズニー本人の声だという。

 「ウォルト・ディズニーの約束」は「メリー・ポピンズ」ができるまでを描いている。トラヴァース夫人の人格も凄いというか、素晴らしいというかなのだが、感心したのはシャーマン兄弟の歌作り。多くの名曲が生まれたのも納得できる入れ込みよう。ストーリーに沿いながら、1曲1曲独立して聞いても素晴らしい曲というのは、そう簡単にできるものではない。

 

 

 

今月はここまで。

次号はGW直前の4/25にお送りします。


                         - 神谷二三夫 -


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