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■大江健三郎略年譜

  
鎖につながれたる魂をして
講談社文庫  
解説:鶴見俊輔
定価:533円(税別)
頁数:50頁(文庫)
ISBN4-06-183754-0
初出:1983年4月号 雑誌『文学界』
短編集「新しい人よ眼ざめよ」6番目の作品       
   
 この作品の題名はブレイクの詩句よりとられている。
 年月を経て、成長したイーヨーは福祉作業所で職業訓練を受けることになった。始めは「月餅」用の箱を組み立てる仕事からだ。イーヨーは丁寧な物腰であったが、仕事では家庭で行わなければならない能力訓練が欠けているのではないかと気付かされる。
 あるとき「僕」が作業所にイーヨーを迎えにいったことがあった。ちょうど、新しい作業所建設についての反対運動をやったいる主婦たちが作業所に見学に来ていて、イーヨーを質問ぜめにするということがおきあがった。「僕」は道路越しにイーヨーの姿をみているだけであったが、ある主婦がイーヨーを救出してくれた。しかしその母親は自身も障害児を抱えながらも、他の障害児が死んだときに「おめでたいこと」と言ったひとであった。
その間に、四国にいたころ、戦時中の父に起きたエピソードを思い出す。県知事それと圧制的、暴力的な警察署長からの叱責に沈黙を守った父、しかし腰には鉈をくくりつけていた。
 イーヨーが10歳だったとき東京駅においてある人物に連れ去られるという事件が起きた。この事件は新聞に報道されることを恐れて警察には届けなかった。
 それはあるとき大学生から自分が文壇にでるための媒介役になって欲しいとの執拗な要求がつきつけられたことから始まった。障害児を大切にするのに健全なものの要求には拒否的であることへの批判をこめてである。それは「僕」の家族へむけて攻撃的になってきた。
 このエピソードは「ピンチランナー調書」にも描かれていたがが、より詳しく描かれる。この話の締めくくりは感動的にやってくる。
 作家という社会的な仕事をしながら、他方障がい児を抱えて生きている市井のひと。厳しい生き方を求められている作者の一面を知ることができる。
     
<冒頭>
   
 
イーヨーが世田谷区でやっている障害者のための福祉作業所へ、職業訓練を受けに通うことになった。養護学校に在籍しながら、二週間、実際に仕事をしに行くのである。それに先だって自宅で練習しておくために、割り箸を紙袋にいれる宿題があたえられた。
 
<出版社のコピー>
 
障害を持つ長男イーヨーとの「共生」を、イギリスの神秘主義詩人ブレイクの誌詩を媒介にして描いた連作短編集。作品の背後に死の定義を沈め、家族とのなにげない日常を瑞々しい筆致で表出しながら、過去と未来を展望して危機の時代の人間の<再生>を希求する、誠実で柔らかな魂の小説。
大佛次郎賞受賞作。
 
<おすすめ度>
  ☆☆☆☆☆
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