2007年 12月号back


 12/1は本当の「映画の日」で映画は1000円。
しかも今年は土曜日、今年最後の1000円日、見まくりましょう。

 

 

今月の映画

 10/26~11/25に出会った映画は21本、今月も外国映画が圧勝です。

<日本映画>

クワイエットルームにようこそ 
自虐の詩
ALWAYS続三丁目の夕日
オリヲン座からの招待状 
犯人に告ぐ 
転々

 

<外国映画>

僕のいない場所 
白い馬の季節 
スターダスト 
ヴィーナス
タロットカード殺人事件 
ブレイブワン 
onceダブリンの街角で
ボーン・アルティメイタム 
アフター・ウエディング 
レディ・チャタレー
花蓮の夏
僕のピアノコンチェルト 
4分間のピアニスト
呉清源 極みの棋譜 
ナンバー23

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

 

 ※今月は、実はどれも5点満天の4点クラス。

  オススメ作品ともあまり差はなし。


僕のピアノコンチェルト
 今月のトピックス参照。

 

onceダブリンの街角で
 音楽を大事にしていて多くの曲がフルコーラス。本当のミュージシャンが演じているので音楽自体の持つ力が素晴らしい。街角も、人の生き方もどこか素朴感の残るダブリンで、つづられる二人の出会い。ラストの妥協の無さも却って真実味が感じられる。


ボーン・アルティメイタム
 モスクワ、トリノ、パリ、ロンドン、マドリード、タンジール、ニューヨーク、舞台は移る。緊張感の途切れない描写の連続はボーンの生活そのもの。久しぶりに楽しめるサスペンス・アクション。

 


次点 犯人に告ぐ
 原作がしっかりしているのか、きっちり描かれた警察ミステリー。豊川悦司も今年一番。

 

 

 このほか、次の作品もオススメです。


自虐の詩:卓袱台ひっくり返しの連続技は見る価値あり。


ALWAYS続三丁目の夕日:個人的に日本橋は最初の勤務地で懐かしい。


僕のいない場所:子供の優しさと残酷さ。


スターダスト:今月何故かピーター・オトゥールが2本のうちの1本、ちょっと出のこの作品は、大人の童話として面白い。


タロットカード殺人事件:U・アレンとS・ヨハンセンがまるで親子のような台詞回し。


ブレイブワン:不思議な女優になったJ・フォスターの緊迫感溢れるアクション。


転々:基本的にはコントのつながりだが、脱力感の奇妙な味。

 

 

 

 

Ⅱ 今月のちょっと出た人

 

●ダニエル・ブリュール:ボーン・アルティメイタム
 ダニエル・ブリュールといえば、ドイツの誇る若手男優、ヨーロッパ映画で活躍が続く。今年も、スペイン映画「サルバドールの朝」に主演していました。モスクワでの追撃を逃れてパリの恋人の家にやって来たボーンが出会うのが彼女の兄。その後、物語に絡んでくるでもないこの一瞬の兄を演じていたのがダニエル・ブリュール。ヨーロッパの主役スターをちょい役で使うハリウッドのやり方は、かつてドパルデューなんかでも行われていました。

 

 

 

Ⅲ 最近続けて出た人

 

●ミッシェル・ファイファー
 先月公開の「ヘアスプレー」と今月公開の「スターダスト」、どちらも夢のある楽しい作品ですが、どちらの作品でも、う~む、おばさんの底力を見せていたのがファイファーさん。自分の娘だけえこひいきする地方TV局のやり手おばさんディレクターと、何百年も生きてきた3姉妹魔女の一番下、とはいえ何百歳のお肌。美人女優の栄光など捨てるのへ一チャラという感じのミッシェルさん、イメチェン成功です!?


 

 


今月のトピックス 


Ⅰ 天才のあり方

 

 天才は天から溢れる才能を与えられた人。古くはビンチ村のレオナルドさんから、赤塚さんちのバカボン君まで、いろいろな時代、様々な場所に存在してきた。レオナルドさんのように、絵画、建築、天文、解剖などありとあらゆる分野に通じた万能の方から、絵のみ、音楽のみ、料理のみ、碁のみと1分野のスペシャリストの方々まで幅広くいらっしゃる。今年の映画のピアノ合戦も、努力の人はいたとしても基本的には、天才、神童の世界。今年前半、題名も「神童」の日本映画があったが、神童うた(主人公の名前)の父親との関係に物語りは収束していた。この秋3本の天才映画が公開されている。「僕のピアノコンチェルト」「4分間のピアニスト」「呉清源 極みの棋譜」

 

 天才は他の人と違う資質を持っている。そのために常に人と離れ、一人になることが多い。神童と呼ばれる子供の頃は、そのことに悩むこともなく、自分の分野でやりたいことができる喜びに浸っていられる。しかし、思春期の時期あたりから人との関係に悩み始め、神童は天才になりきらずに終わってしまうことも多い。

 

 「4分間のピアニスト」は10才の時に国際コンクールに優勝、入賞をしていた神童、家族との関係から曲がらざるを得なかった人生の果て受刑者の主人公。弾かずにいられない彼女に道を与えようとする老女教師。あまりにも負の要素が多すぎ、きびしい話が続く。最後、自分の思い通りに演奏するのは喜びではあるが、劇場の観客と違って僕には天才になりきれずと思われた。

 

 「呉清源 極みの寄付」は、碁の天才ぶりは殆ど描かれず、彼の精神を少しでも描こうとする映画になっている。天才ではない普通の人として生きようとする彼の思想に迫っている。

 

 これらに引換え、「僕のピアノコンチェルト」は天才であることの苦痛を自らの策略によって乗り切り、神童から天才に成長していく主人公を描いている。しかし、映画のラストでも彼はまだ12歳。主人公ヴィトスを描くこの映画は子供を子供らしく描いている。どんな天才であっても、一人で生きていくことはできない。12歳とは思えない策略を自ら考え、実行してしまう強さを持つヴィトスには、彼の総てを受け入れてくれた祖父の存在がある。一人で好きなことを黙々と実行している祖父、成長するためには何かを捨てなければならない時もあると帽子を投げる祖父、ついには軽飛行機で大空を舞う祖父、その総てがヴィトスの心に入ってくる。

 

 天才は人と違うために社会から阻害されがち。しかし考えてみれば、天才は私たちにいろんな意味で幸せを与えてくれる。普通の人である我々は、少なくとも天才の邪魔はしたくないと思いつつ、ヴィトスが演奏した最後のコンサートには感動した。

 

 

 

 

Ⅱ 女優のあり方

 

 ジョディ・フォスターは確かに「告発の行方」「羊たちの沈黙」でアカデミー賞を取っている。どちらもきびしい女性の映画だった。「告発の行方」1988年だから20年も昔のことだ。それ以来幾多の作品に出てきた。ロマンチックなものもあったが、基本的に自立した強い女性が多い。最近でも、「パニックルーム」、「フライトプラン」と殆どアクション女優といっても間違いない。

 今回の「ブレイブワン」もその系列だ。この作品に他の女優が主演することは想像しがたい。例えば、アンジェリーナ・ジョリーが演じたとすれば、もっと殺しを楽しみそうだし、ミラ・ジョヴォヴィッチなんかだと、感情無しで殺しそう。
 J・フォスターだからこそ、主人公のぎりぎりの感情が感じ取られ、話を単なるアクションで終わらせないところに持って来る。知性に裏打ちされたアクションみたいな鋭さがある。
 実に不思議な女優になった。


                         - 神谷二三夫 -


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