2008年 9月号back

中国の金メダル主義に圧倒されたオリンピックも終わり、
これからは映画館シーズンの始まりです。
秋といえば芸術、芸術(ちなみに7番目)といえば映画、
ということで映画館でお会いする季節です。


 

今月の映画

 7/26~8/25 オリンピックの熱戦は捨て置き出会えた映画は23本、充実した、中身の濃い作品が多かった今年の夏。
 まだ、ぎりぎり間に合います。

<日本映画>

百万円と苦虫女
火垂るの墓 
スカイクロラ 
闇の子供たち
きみの友だち 
ラストゲーム 最後の早慶戦

 

<外国映画>

あの日の指輪を待つ君へ 
カンフーパンダ 
ドラゴンキングダム
ハプニング 
インクレディブル・ハルク 
白い馬 
赤い風船
敵こそわが友~戦犯クラウス・バルビーの3つの人生~ 
ダークナイト
テネイシャスD 運命のピックを探せ 
コレラの時代の愛 
アクロス・ザ・ユニバース 
帰らない日々
ハムナプトラ3呪われた皇帝の秘宝
シティ・オブ・ゴッド
この自由の世界で
SEX AND THE CITY

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

 

きみの友だち
 何度も画面が止まったように感じるほど、カメラは主人公たちをじっと見つめる。モコちゃん先生が写した写真の人物の一人一人の生きているさまが、じっくり描かれる。誰とも真摯に向き合う、心やさしき映画。

 

ダークナイト
 映画表現的には完璧とも言いたくなるバットマン最新作。前作に引き続きクリストファー・ノーランが監督している。アメコミのゴッサムシティの裏側にはこんなにも深いドラマがあったのかと引き込まれる。暗くはない、重い、リアルに重い。

 

闇の子供たち
 タイで行われている幼児の生体移植と幼児性愛の現実を阪本監督の冷徹な目が見つめる。主人公の挫折でドラマは別の様相を見せてしまうが、それさえも確かに現実だと映画は教えてくれる。


次点


① アクロス・ザ・ユニバース
 60年代後半から70年前半にかけて時代はビートルズを持つことができた。
ここで流れるビートルズの曲はオリジナルより深い意味を感じさせる。

 

② この自由な世界で
 外人労働者の斡旋業を自ら始める主人公、離婚子持ちの33歳の彼女は厳しい道に踏み込んでいく。加害者側から描きながら被害者側の状況をも考えさせる秀作。

 


 今月は見るべき、見て損しない作品多し。


百万円と苦虫女:最近はいろんな生き方をする女性主人公が見られるが、これもなかなか。SEX AND THE CITYの対極。

 

スカイクロラ:死ぬことができない子供たちの、死へのフライト。

 

カンフーパンダ:ちょっとスムースすぎる展開とはいえ、スピード感はかなりのもの。

 

インクレディブル・ハルク:エドワード・ノートンのハルクは意外にも良かった。

 

帰らない日々:この作品も、被害者、加害者の両面に向き合う。

 

ラストゲーム:柄本明、石坂浩二が妙に名演技、今年唯一の反戦映画か。

 

 

 

 

Ⅱ 今月の惜しい人

 

●ヒース・レジャー
 ダークナイトのジョーカーは、白塗りに裂けた赤いデカ口というおなじみのメイクだが、かつてのジョーカー役ジャック・ニコルソンのキチンと塗られた顔面に比べると、なんと破滅的な塗り方。
 粘着的なジョーカー像が今回のバットマンをさらに重いものにしている。
今年1月に睡眠薬等の薬物接取過多にて亡くなったヒース・レジャーの、この迫真の演技がダークナイトの大ヒット(アメリカでは歴代1位のタイタニックを追って現在2位)の要因と言われている。
 28歳での死はあまりに早い。惜しい。
 撮影中だった新作は、彼の役をジェニー・デップ、コリン・ファレル、ジュード・ロウが演じ、ヒース・レジャーを加え4人で一つの役という作り方で来年公開されるという。

 

 

 

 

Ⅲ 今月の懐かしい人

 

◎キャンディス・バーゲン
 SEX AND THE CITYのVogue編集長を演じていたのはあのキャンディス・バーゲン。「グループ」での初々しいデビュー、その正統的美貌から大物、未来の大器と言われながら何故か満足な成功は手にできなかった女優。その後TVで大きな成功をおさめてはいるのだが。

 

 

 

 

Ⅳ 今月の”今頃見せていただきました”

 

○シティ・オブ・ゴッド
 アメコミの映画化もまさにいろいろなパターンがみられる昨今、ハルクの再映画化インクレディブル・ハルクは巻頭のブラジルの場面を見ているとリアルさのシャープな描写が素晴らしい。ここを見ながら、まだ未見だったシティ・オブ・ゴッドのことを考えた。なぜか見逃したままだったこの作品、ブラジルの貧民街を描いた衝撃作と評判になったのは5年前。今、同じ製作チームによる第2弾シティ・オブ・メン公開に合わせて、レイトショー公開され、やっと巡り合えた。評判にたがわぬヴィヴィッドな傑作だった。仁義なき戦いを初めてみた時と同じ衝撃。


 



今月のトピックス:オリンピック映画 

 

 北京オリンピックの開会式・閉会式アトラクションは張芸謀(チャン・イーモウ)監督によるものであるのは既にご存じの通り。あの人海戦術や色彩感覚を見ていると、HERO、LOVERS、王妃の紋章の3作品は、この開・閉会式の予行演習だったのかと、しっかり感違いいたしました。

 というわけで今月はオリンピックと映画について考えてみました。


Ⅰ.オリンピック映画

 

 オリンピック大会そのものを撮った映画としては、もちろん「東京オリンピック」が有名。最近TVでも放映されていたので見た方も多いのでは。私は43年前に見たきりですが、選手たちの表情や筋肉の動きがクローズアップ、スローモーションで捉えられていたのが印象深い、市川崑監督作品。

 これより前のオリンピック映画といえばナチ時代のベルリンオリンピックを記録した「民族の祭典」「美の祭典」の2部作が有名。ナチズム礼讃映画とか、肉体賛歌・ゲルマン民族賛歌とか言われる以上に、プロパガンダのツールとしての有効性を印象付けた。女性監督レニ・リ-フェンシュタールの強烈な美意識で描かれたといわれる作品ですが、残念ながら見ていません。
(レニは70年代にはヌバ族の写真集など出しました。)

 

 東京の後は確か次のメキシコオリンピックの記録映画も公開されたような気もしますが、これは見ていません。メキシコの次のミュンヘン大会は、「時よとまれ 君は美しい」という映画になりました。市川崑も参加していましたが、世界の8人の監督が撮ったオムニバス映画。ミロシュ・フォアマン、クロード・ルルーシュ、アーサー・ペン、ジョン・シュレシンジャーなど、当時の一流監督が参加しました。

 

 「男と女」の流麗な画面が思い出されるクロード・ルルーシュが、グルノーブルの冬季オリンピックを撮ったのが「白い恋人たち」。原題は単純にフランスの13日間なのに、この日本題名で大ヒット、コンビのフランシス・レイのテーマ曲も素晴らしかった。ルルーシュ独特の手持ちカメラで雪上を走る選手たちを追っていたのが凄い。

 

 ミュンヘン大会(1972)以降の映画はつくられていないのではないでしょうか?少なくとも日本では公開されていません。TVでの中継がぐんと増え、総集編も含め何度もTV画面で流されるオリンピック映像。今や映画の時代ではないのかもしれません。

 

 しかし、上記のオリンピック映画の数々がその後の映像文化に与えた影響も大きく、単純に見るTVとは違う作品の可能性もあると思うのですが。北京大会の映画は作られるのでしょうか、というか作られているのでしょうか?
張芸謀(チャン・イーモウ)ということはないよね。

 

 

 

 

Ⅱ.オリンピックを舞台にした劇映画

 

 思い出すのはイギリス映画「炎のランナー」、1924年のパリオリンピックに参加する二人のイギリス選手、
ユダヤ人とスコットランド人という人種問題も絡んで描かれる感動作。
走る喜びが描かれ、それにかぶる主題歌は大ヒット。
ギリシャ人作曲家ヴァンゲリスのシンセサイザーによる素晴らしい曲でした。

ヘミングウェーの孫の一人、マリエル・ヘミングウェーが陸上選手を演じた「マイ・ライバル」。
モスクワオリンピックを目指す話だったと思うが、アメリカもこのオリンピックをボイコットした・・・。
その頃ルックのモスクワオリンピックツアーを手配していた私は、日本のボイコットにより、ツアーがなくなったことだけが印象にある。

クール・ランニングはカルガリーの冬季オリンピックに参加した、雪のない国ジャマイカの選手たちの実話を映画化したもの。
種目はボブスレー、南国ジャマイカでいかに訓練するのか…の楽しい作品。

スピルバーグ監督がミュンヘンオリンピックのテロ事件を追ったのが「ミュンヘン」。
ただ、この作品はミュンヘンオリンピック時のイスラエル選手暗殺テロに対する、イスラエル側の報復作戦を描いているので、オリンピック映画とはいえないかもしれない。

 

 

 

 

Ⅲ.オリンピック出身のスター

 

ジョニー・ワイズミューラー
 調べてみると24年のパリと次のアムステルダム大会で金メダルを獲得した水泳チャンピオン。その後ウォーターショーから映画界入りしたとある。団塊世代にはTVのジャングルジムが懐かしい。もちろん彼はターザン役者としては最も有名な人。
 ターザンのイメージはほとんど彼によってつくられた。同じく水中ショーからミュージカルスターに転じたエスター・ウィリアムズは調べてみると40年の東京オリンピックを目指していたとか。戦争で中止になりましたが。

 

ソニア・ヘニー
 14歳で世界フィギュアスケート選手権に優勝、その後10年間トップを守り、サンモリッツ、レークプラシッド、ガルミッシュパルテンキルヘンの3連続オリンピックを制覇。その後、ハリウッド映画に女優デビュー、ノルウェーからアメリカに国籍も移しました。


トニー・ザイラー
 56年のコルチナ・ダンペッツォ冬季五輪のスキーで、回転・大回転・滑降の3冠を達成。その後映画にも出演、甘いマスクで日本でも大人気となり、日本映画にも出演している。「アルプスの若大将」では加山雄三と共演している。

いずれも古い人たちばかりですね。最近のオリンピックメダリストは映画界には来ない模様。


 上記以外にもいそうな気もします。ご存じの方いたら教えてください。

 

 では、また来月。



                         - 神谷二三夫 -


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