2009年 12月号back

いつの間にか冬らしい寒さになってきました。
身が引き締まる思い。
新しい年まであと1カ月。
正月映画も始まりだして、
落ち着くのはやはり映画館。


 

今月の映画

10/26~11/25の間に出会った映画は24本、かなり充実した映画の秋でした。



<日本映画>

カイジ 
サイドウェイズ 
わたし出すわ 
おとうと(古)
大洗にも星は降るなり 
なくもんか 
ゼロの焦点
笑う警官
日本の夜と霧(古) 
日本春歌考(古)

 

<外国映画>

キャピタリズム マネーは踊る 
THIS IS IT 
母なる証明
パリ・オペラ座の総て 
ジェイン・オースティン 秘められた恋
動くな、死ね、甦れ! 
ひとりで生きる 
ぼくら、20世紀の子供たち
ジャック・メスリーヌPart1
ジャック・メスリーヌPart2 
2012
イングロリアス・バスターズ 
千年の祈り 
脳内ニューヨーク

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

 

①-1 母なる証明
 物事はいつとも知れず迫ってくる。世間の総てから息子を守ろうとする母の視線が、いつか耐えられない真実を導き出したとしても、それをも超えて母は行く。不思議な息子と共に。

 

①-2 動くな、死ね、甦れ!
 2次大戦終結後のソ連極東地区で暮らす子供たち。きびしい自然の中、社会的にも家族的にも恵まれない環境の中で、傷つけながら、傷つきながら、絶対的無垢の存在(という年代)である主人公達。彼らをいやすのは日本の叙情歌というのがなんとも不思議。

 

② イングロリアス・バスターズ
 「アラモ」の主題歌で始まり、ほぼ西部劇の乗りでナチとの戦いを描いていく。タランティーノ監督の映画を楽しむ気持ちが本物で、どんどん引き込まれていく不思議な映画。

 

③-1 なくもんか
 笑いの要素には貧乏がある。今や貧乏は現実の時代だが、かつて貧乏が懐かしく存在していた時代の感触をうまく描いている。(現代の映画だが)現代的な笑いに包みつつ、きっちり家族の在り方を描く脚本家宮藤官九郎の勝利、沖縄部分が弱いけど。

 

③-2 ジェイン・オースティン 秘められた恋
 ジェーン・オースティンの小説の映画化は多い。「高慢と偏見」(「プライドと偏見」)、「エマ」「いつか晴れた日に」、これらで描かれたことの多くが、彼女の生活そのものであったと納得させてくれる佳作。

 

③-3 千年の祈り
娘の住むアメリカの町(スポケーンで撮影)を訪ねてきた70歳くらいの父親。一人話す父親に言葉少ない娘。最後までわだかまりが解けたとは言えないが、それぞれの生き方を受け入れて中国に帰る父親。紅衛兵運動の影響が影を落とす厳しくやさしい映画。

 


 次の作品もお勧めです。


●サイドウェイズ:予告編では日本人には違和感ありで心配したが、
本編はそれを忘れさせてくれる。丁寧な脚本改訂を始め製作チームに拍手。


●THIS IS IT:巨大なプロモーションビデオですが、ここ10年くらいはスキャンダルだけだったマイケルが、十分に動いていたことには大いに感心。ショーみたいな映画でした。


●パリ・オペラ座の総て:どんなにミュージカルダンサーが優秀でも、どんなにマイケルが動けても、バレリーナにはかなわない。


●セロの焦点:昭和30年代前半、終戦後のまだ戦争の影を大きく引きずっていた日本を舞台に、女性3人の生き方を描く佳作。もう少しミステリー調を強く出しても良かったかもしれない。


●ジャック・メスリーヌ:70年代だろうか、世界的にも有名だったメスリーヌ、本当はメリーヌだったんですね。最後まで明るく、ハードなメスリーヌをヴァンサン・カッセルが熱演。


●2012:またハリウッドのCG映画かよ、しかもドイツ人エメリッヒ監督のドイツ人徹底性がまあ凄い。予告編から想像するよりはみられる映画ではありました。


●脳内ニューヨーク:ここまで行くと最後は笑うしかないほど、神経衰弱的な迷路に入り込んでいく映画。誰が誰を演じているか、性別を超えて進んでいく迷路は凄い。

 

 

 

 

Ⅱ 今月の懐かしい人

 

 今月の二人は、顔を見ていて気付いたのではなく配役を見ていて気付いた。

①ジョージ・シーガル
 「2012」のトニー・デルガト役のジョージ・シーガルは、かつて「バージニア・ウルフなんかこわくない」「ウィークエンド・ラブ」など、主演、助演作多数の俳優。あまりはっきりした個性がなく、それが反対に普通の人として新しいタイプのスターとなった。随分久しぶりの登場だと思うのだが、う~む、「2012」での顔が思い出せない。

 

②ロッド・テイラー
 「イングロリアス・バスターズ」でチャーチル(後ろで葉巻を吸ってます)を演じたロッド・テイラー、ヒッチコックの「鳥」で有名だ。この人もずいぶん久しぶり、多分40年ぶりくらい。で、この人も顔では分からなかった。




今月のトピックス:ア・ラ・カルト

 

1.キャピタリズム マネーは踊る(試写会で見ました)
 マイケル・ムーアの新作はリーマンショック以来の金融不況に焦点を当て、
アメリカの金融状況などを例によって話題性たっぷりに描くもの。昔のフィルももずいぶん使われてアテレコ(違う言葉を張り付ける)されるのなど、あまりにTV的と言えようか?

 

2.THIS IS IT
 世界同時公開、2週間限定として公開された。前売り段階から大ヒットが予想され、開けてみれば現実となって大ヒット。すぐに2週間延長が決定された。
初めの2週間限定とは何だったのか?単に見たい人を煽るためだとしたら、
ひどく言えば詐欺商法みたいなものでは?このヒットにあやかって、21年も前に公開された「ムーンウォーカー」が突如再公開された。


3.ジェイン・オースティン 秘められた恋
 彼女がお見合いをして、貧乏なオースティン家にとっては、願ってもない良縁(金持ち)と思われる田舎の貴族(マギー・スミス)の甥を演じていたのは、ローレンス・フォックスというイギリス俳優。最終的には見た目よりはいい人ということが分かるのだが、さえない人という印象で、ジェインからは拒否されてしまう。
 この俳優、映画のサイトで見るとジェームズ・フォックスの息子とある。
モダンミリ―や裸足のイサドラなどで活躍した人。息子は明るい父親のイメージとは全く違う人だった。


4.ジャック・メスリーヌ
 この作品、Part1、2が同時に公開された。合わせれば4時間を超えるので、分けたとしても不思議はない。しかし、その公開の仕方が、同じ映画館でPart1、Part2と続けて公開するというもの。時に、1回分の料金で両方見られると誤解している人もいたようだ。
 私が見たシャンテシネでは、両方の切符を初めにもぎっていたようだが、
必ずしも同じ席にはならないのをどのようにチェックしていたのだろう。私は、Part1と2の間の休憩時間25分を利用して、外に昼食に出たのでどのようにしていたのか分からないが、厳密に入れ替えをやろうとするとちょっと面倒くさい。これなら、いっそのこと一挙公開特別料金とかにして、2本で2500円とかにした方が良かったのでは?

 この映画、Part1だけだと初めのシーンは何だったのかと疑問が残る。結末はPart2を見ないと分からない。

 

5.イングロリアス・バスターズ

 この映画、調べていたら、サミュエル・L・ジャクソンがナレーターとして、
ハーベイ・カイテルがOSSの高官の声として配役表には出ずに出演していたらしい。さらに調べると、マギー・チャンとクロリス・リーチマンが出演したらしい。最終的にはその画面は使われなかったというが、特にクロリス・リーチマンの役はMrs.Himmelsteinとドイツ人らしいので、絶対見たかったなあ。
ヤングフランケンシュタインを見た人は思い出しますよね。馬がひひ~んと鳴くんです。タランティーノ監督の映画狂ぶりが良い形で発揮されたこの映画、
映画人も出演を希望したんでしょうねえ。嬉しそうに演じている。


6.2012

 地球が滅亡?をCGを駆使して描いた2012、確かに地球が内部から壊れるので高層ビルがぶっ倒れたり、大陸が動いて…など、これでもかの画面が繰り出される。その迫力には圧倒される。
 この映画を見ていたのは11/21(土)、ユナイテッドシネマ豊洲、2回目の13:15の回だった。始まって40分ほどだった、突然、“火事です、火事です”の館内放送と共に映写は止まった。画面の大参事にかぶさるように、火事とは!皆さん一瞬ポカーンとしていた。逃げ出す人はいなかったが、30秒後“間違いです”の訂正アナウンス。15分ほどの中断後、再び大参事は始まった。
大参事の前には火事くらいという感じか?終映後にはお詫びの意味で劇場招待券を渡され、ラッキー!!


7.今月の作法

 11/3「わたし出すわ」を見た時、珍しくも左右はどちらも男性の1人客だった。始まって15分ほど、右隣のご高齢者(70歳以上か)からいびきが聞こえ始めた。早すぎないかちょっと、これでは“わたし寝るわ”だ。この後も、起きては寝、寝ては起きてが繰り返された、いびき付きで。程なく、左隣の若者(20代前半か)がペットボトルの飲み物を飲んだ。これは別に構わなかったのだが、彼は余程のどが渇いていたのか、その後6回もペットボトルが開け締めされた。こちらは、“わたし飲むわ”かよ。しかも、飲み物受けに入れるのが下手というか、やたら音を立てながら。まあ、仕方ないか。
“わたし(映画館を)出るわ”にならないよう、我慢したのだった。

 


 今月はここまで。
次号はクリスマスにお届けします。


                         - 神谷二三夫 -


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