2010年 2月号back

毎年のことではありますが、
早くも2月、年間で最も短い月がやってきます。
寒い日もある冬の真っただ中、
暖かい映画館でゆっくりしながら、
体も心も温めましょう。


 

今月の映画

 12/26~1/25、年を越して出会えた映画は24本、お正月映画、新春第一弾映画の花ざかりのはずですが、今年はちょっと寂しかったかなあ。



<日本映画>

蘇りの血 
パチャママの贈り物 
のだめカンタービレ 最終楽章 前篇 
釣りバカ日誌20 ファイナル 
うるるの森の物語
剣岳 撮影の記 
今度は愛妻家
板尾創路の脱獄王

 

<外国映画>

ヴィクトリア女王 世紀の愛 
ずっとあなたを愛している
アバター(通常版と3D版) 
海角七号 君想う国境の南 
倫敦から来た男
ティンカーベルと月の石 
フォースカインド 
赤と黒
500日のサマー
ミレニアム ドラゴンタトゥーの女
サロゲート 
シャネル&ストラヴンスキー 
Dr.パルナサスの鏡
かいじゅうたちのいるところ 
ユキとニナ

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

 

① ずっとあなたを愛している
 姉妹や家族、周りの人たちとの微妙な関係、長い不在の後に社会に帰ってきた女性の心の動きに繊細に寄り添いながら静かに見守る作り手の誠実さが感じられる。

 

② アバター
 少数民族や、エコロジーに関連した筋立てという見せかけさえ古げに見えるにもかかわらず、この映像だけは新しい力を持つ。素直に酔ってみた方が楽。

 

③ 剣岳 撮影の記
 剣岳 点の記のメイキング映像は、大変な撮影をしていたんだなあと改めて感心させてくれる。監督、カメラマン木村大作のポリシーのもと、総ての人が等しく映画作りに励んだ。本編のラストで携わった人たちの名前だけが流れたことに納得。

 

 

次点:ミレニアム ドラゴンタトゥーの女
昨年のミステリー賞を総なめにしたスウェーデンの傑作ミステリーの映画化。
原作と同じように、3部作の第1作で、すでに2、3部作も完成している。さらに、ハリウッドが再映画化するとも言われている。今回のスウェーデン映画は地味目な俳優でよりリアルな印象だ。

 


 次の作品も面白いです。

 

ヴィクトリア女王 世紀の愛:女王としての在任期間が60年と長いヴィクトリア女王、地味な印象だったがなかなかしっかりした人という印象を持たせてくれる。


倫敦から来た男:ジョルジュ・シムノンはメグレ警部でおなじみのフランスのミステリー作家だが、その原作を映画にしたのはハンガリーの監督、独特の表現方法で見せてくれる。


今度は愛妻家:舞台劇を一面舞台劇のままに映画化しているのは、リアルだけでは描けないものがあるからだろう。主役2人が年相応にいい味。


500日のサマー:通常のボーイ・ミーツ・ガールにひとひねり、愛を信じない女の子を恋した男の子の物語は、男になる成長物語でもある。


板尾創路の脱獄王:まるで忍者のように脱獄のみを目指す主人公を、ほとんど台詞なしで演じ、監督もした板尾の意欲作。


サロゲート:いかにもSFという未来社会という題材を1時間半弱の時間で見せてくれる。“人間はどこにいる?”という惹句も決まっていて、気楽に突っ込みも入れられるSF娯楽作。


シャネルとストラヴィンスキー:恋人ボーイが亡くなった後のシャネルの物語は、ストラヴィンスキーとの関係も含め強い女の孤独も見せる。


ユキとニナ:大人の勝手に振り回される子供たちの子供らしい傷つきやすさと、乗り越えていく強さを繊細に見せてくれる。

 

 

 

 

Ⅱ 今月の旧作

 

 「赤と黒」はジェラール・フィリップの回顧ミニ映画祭のようなかたちで公開された。1959年に36歳で亡くなったジェラール・フィリップは、フランスの有名な2枚目スター、その後に登場のアラン・ドロンのようなワルの影を持つこともない、優雅な佇まいの美男子として信奉者が多かった。舞台出身であり演技力にも定評があった。映画館では見たことがなかったが、彼が朗読した「星の王子さま」のレコードを持っている。いままでにも何度も特集上映が開かれているが見たことはなかった。今回も、今年のお正月映画が少なくて見てしまったという感じだ。

 「赤と黒」はスタンダールの名作小説の映画化だ。身分の低い青年ジュリアン・ソレルが出世の手段として聖職者になる、その間に貴族の女性との恋愛が絡んでくる。軍(赤)と宗教(黒)を渡り歩きながら出世という野望に燃えるソレルは、時代を超えた青年の一つの像ともいえる。映画化されたのは1954年、監督は文芸もので有名なクロード・オータン=ララ。文芸もの、その言葉通りにオータン=ララの作り方は、文芸者(スタンダール以外も含めて)の言葉を画面に文字として出している。まるで文芸書を読むように。
 確かに50年以上も前の映画ではあるが、このスタイルの古さには驚いた。ジェラール・フィリップの没後10年後に37歳で亡くなったのが市川雷蔵。稀代の二枚目なのにあくどい華やかさはない2人のスター。いつまでも信奉者が多いのも似ているようで、大雷蔵祭も現在上映中だ。

 

*話は全然違うが、「赤と黒」の中で蝋燭のシャンデリアに火をつける場面があるが、あれはどうやっていたのでしょうか?知っている人がいたら教えてください。




今月のトピックス:映画界の話題

 

Ⅰ 3D映画

 

 アメリカは日本で想像する以上に3D映画に力を入れているという話はよく聞く。日本でも徐々に増えつつあるが、印象的にはアニメが中心で通常ドラマではキワモノ感も漂う。そんな中、今年のお正月映画で「アバター」がぶっちぎりの大ヒット。この映画は、3D版と通常版が上映された。年末に通常版で見てその画面の凄さには圧倒されていた。物語的には西部劇だ、ベトナムものだといろいろな声があがりそうだが、作り込まれた画面の美しさ、スピード感、ダイナミズムにはほとんど文句がない。
 2154年の想定にしては、あまりに現代的なストーリー展開といえるが。Iさんからは3D版の素晴らしさについてメールまで来た。あまりに凄いのでIMAX版まで追いかけて2回も見たという。ということで、昨日3D版を見に行った。確かに、立体感は素晴らしいものだった。カプセルの一つから無重力状態の中に出ていく開始直後のシーンにはゾクッとした。近くの映画館で観察する限り3D版の方が人気があったようである。このヒットでやっと3Dが認識されたようにも思える。

 「アバター」で3Dに人は来たが、この後どうなるだろうか?アメリカのように3D上映が増えていくのだろうか?3D上映は通常料金より高くなる。それまで払って見に来るにはよほどの吸引力が必要になる。「アバター」ほどの集客力を持つものがそれほど簡単に出てくるとは思えない。
 日本マーケットで“3D"が大きな力を持つとすれば、「アバター」の力がそれほど凄かったということになるだろう。

 

 

 

Ⅱ シャネル映画

 

 2009年はシャネルの映画が3本も公開された。「ココ・シャネル」「ココ・アヴァン・シャネル」「シャネル&ストラヴィンスキー」だ。
偶然か否か、描かれた時代順に公開された。19世紀末に貧しい家庭に生まれたという環境によって、多くの制約を受け、生き方にも大きな影響を受けていたシャネル。
 女性が一人で生きていくことが難しかった時代に、自分の感覚を守るためにそれなりの方法で切り抜けてきたシャネル。映画作品が変わるにつれシャネルの自立ぶりがどんどん強固になっていく。
 3作とも、平たく言えば自立した女性というのがテーマになるだろうか。
自分の感性をはっきり意識していたとはいえ、自信の揺らぐことのあった若いころから、成功した後は世間の声など意識せずわが道を行く。いずれにしても、若いころから男性に囲われるという生き方をしてきたのは、生まれた時代のゆえだろう。
 どんな人間も生まれた時代から逃れることはできない。3本の映画を見て、彼女の人生のかなりの部分が分かった。

 

 

 

 

Ⅲ 釣りバカ日誌

 

 今年の正月は映画が不足していた。仕方なく釣りバカ日誌まで見てしまった。それくらいに軽くとらえられていた、自分の中で、釣りバカ日誌は。気楽に見たのだが、映画は気楽に応えてくれた。いままで見たことはないのに、いつもの調子で気楽に作られていて楽しみやすいのだ。
 いわゆる“プログラムピクチャー”の親しみやすさがある。こうしたプログラムピクチャーはTVとの戦いに敗れほとんど姿を消した。シリーズで作られるプログラムピクチャーは、この釣りバカ日誌が最後になった。今や日本映画でシリーズとして作らるのはアニメのみになってしまった。基本的には子供向けのアニメである。子供は世代交代が早く常に新しい観客に交代していくが、大人はそれほど速くは交代しない。
 気楽な作品はTVで気楽に楽しめばいいと思う人が多いのだろう。1800円払ってこの程度かという気持ちもあろう。釣りバカ日誌は前売り券を1000円にしていたが、それくらいが作品に見合った値段となろうか?

 映画は常に社会を写す鏡である。気楽に存在できる映画がなくなるということは、それだけ映画を取り巻く環境が窮屈になっているということだろう。

 

 

 

 

Ⅳ ティンカー・ベル

 

 ディズニーがティンカー・ベルを日本公開したのは2年前の年末だった。本国アメリカでは劇場公開せず、DVDのみの発売と聞いている。その2作目が昨年末に公開された。
 「ティンカー・ベルと月の石」である。ディズニーは毎年この時期にティンカー・ベルシリーズを封切る予定らしい。それほど大きく話題にはなっていない。なぜ日本では劇場公開にしたのかは知らない。劇場公開した方がDVDの売り上げがいいのだろうか?ティンカー・ベルはピーター・パンに出てくる妖精だ。原作者バリーがティンカー・ベルを主人公に小説を書いているわけではない。アニメはあくまでオリジナルストーリーだ。妖精すなわち可愛いというイメージだが、いままでの2作を見て驚くのはティンカー・ベルが可愛くは描かれていないところだ。

 2作とも、自信過剰で嫌味な女の子という印象だ。それだけ現代っ子ぽい描写とはいえるが。Wikipediaによれば、バリーはピーターパンに子供の長所と短所を描いていて、純粋な半面、善悪やけじめの見境がなく身勝手というが、
アニメのティンカー・ベルは身勝手そのもの。こんなに可愛げのないヒロインでいいのだろうか?
 今回見たのも少しは改心して可愛くなったんだろうかという老婆心からだった。2作を見て、ディズニーは身勝手なティンカー・ベルを描きたいのだと確信した。

 

 

 

Ⅴ 映画館のつくり方

 

 という本が出版された。
 雑誌「映画芸術」に連載されたものが1冊の本になった。全国のミニシアター16館の奮闘ぶりがつづられている。いまの時代に映画館を運営することの大変さが切実だ。今や日本の全スクリーンの80%以上を占めるシネコンが、単館系の映画にまで手を広げ始め、ミニシアターにかけられる映画、話題作が減っているという悲鳴が聞こえる。

 多くの映画館が、その県唯一のミニシアターとなっている。東京にいる限り、潤沢な映画におぼれそうなのだが、地方にいれば見たい映画に出会うのも大変なことになる。そうした人たちに1本でも多くの映画を届けたいと頑張って映画館を続けている人たちがいる。頭が下がります。

 映画館を作りたいと考える人(自分だけだろうか?)、必読です。

 いま読みつつある「天才 勝新太郎」(文春新書)も面白いですよ。

 

 

 今月はここまで。
来月はアカデミー賞直前の予想をする予定です。


 


                         - 神谷二三夫 -


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