2013年11月号back

毎週押し寄せる台風、
10月のこの時期に不思議な事でございます。
不思議な現象がよく起きる最近の天候ですが、
何時でも快適、安心して楽しめるのは映画館。
お出かけください。

 

今月の映画

 9/26~10/25の30日間、台風にもめげず出かけた映画は29本、
相変わらず洋高邦低となっていますが、日本映画もそれなりに頑張って、
案外バラエティに富んでいます。

<日本映画>

そして父になる
謝罪の王様 
地獄でなぜ悪い 
飛べ!ダコタ 
甘い鞭
今日子と修一の場合 
蠢動

 

<外国映画>

ビザンチウム 
タンゴリブレ君を想う 
ブッダ・マウンテン 
イップマン最終章
フローズン・グラウンド 
クロニクル
ルノワール 陽だまりの裸婦 
ランナウェイ 逃亡者 
パッション 
ファントム 開戦前夜 
トランス
天使の処刑人 バイオレット&デイジー 
マリリン・モンロー 瞳の奥の秘密 
椿姫のできるまで 
もうひとりの息子
ムード・インディゴ うたかたの日々
危険なプロット
(古)青ひげ 
グレイト・フラマリオン 
焼け石に水 
浜辺の女
女囚大脱走

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

①  そして父になる
 最近映画作りがうなくなったなあと感じる監督が結構いるが、是枝監督の新作も感心した。始まりのお受験面接場面から、もう一組の夫婦との接触、ラストの父になっていく場面まで、じっくり考え抜かれた場面が続く。


②-1 もうひとりの息子
 こちらも子供の取り違えがテーマだが、親子という以上にイスラエルとパレスチナという高い壁が立ちはだかる。「そして父になる」は6歳の子供だったが、こちらは18歳。自分自ら選んでいく生き方が描かれる。

 

②-2 危険なプロット
 いやー、これは面白いです。高校の国語の教師が課した作文の課題に、最後に“続く”と書かれた作文が提出され、教師は妻ともども引き込まれて読んでしまう。どんどん続いていく物語、これは見ている我々も引き込まれる。

 

③ 飛べ!ダコタ
 終戦から半年も経たない頃、佐渡の高千村にイギリスの飛行機が不時着する。飛行機を飛び立たせるまでのイギリス人と村人の交流を実話に基づいて映画化。純朴な村人と賢明な村人の姿に素直に感動できる。

 

 

 今月の平均値は結構高い、他にも面白い作品がわんさか。ご覧あれ。


ビザンチウム:吸血鬼ものの新作、自ら吸血鬼になりに行くあたりが新しい。母娘のバンパイアヤー物語を作ったのはニール・ジョーダン監督、久しぶりの作品です。

 

タンゴリブレ 君を想う:ダンスの中でもタンゴは特異な位置を占めるようで、情熱に火を付ける。刑務所での踊りは圧巻ですが、お話はちょっと不思議。

 

謝罪の王様:今や超人気の宮藤官九郎脚本作品、流石に旬の面白さでした。

 

ブッダ・マウンテン:中国の人たちの生活を描いた興味深い作品。ふわふわと自由に漂うがごとく流れ行く映画。

 

クロニクル:地面に開いた不思議な穴の奥にあったものは?不思議なものを発見するワクワク感 が3.人の若者を捉える。そして超人になり…、それぞれの道をいく3人のそれから。

 

ルノワール 陽だまりの裸婦:ルノワールの最晩年を描く本作には後の映画監督、次男のジャン・ルノワールと彼と結婚し後に女優カトリーヌ・エスランになるモデル(愛称デデ) が主要な役を占める。南仏の陽だまりの風景がなかなかにきれいだ。

 

ランナウェイ 逃亡者:40年前のアメリカの過激派“ウェザーマン”のその後を描く。ロバート・レッドフォードの監督・主演作。銀行強盗事件時のアリバイ問題に収れんするのは 残念。

 

パッション:女二人、いや3人の争いを大変面白く描いたブライアン・デ・パルマ監督の新作。それにしてもパルマ監督はあんな風に派手に音楽を使いましたっけ?

 

トランス:主人公が記憶喪失?これは危ない、だまされるぞ脚本家にと身構える。もう少しすっきり整理されているとなお良かったが。

 

今日子と修一の場合:奥田瑛二監督が、主演の娘安藤サクラ、婿の柄本佑の家族で作った新作は、東日本大震災に対するレクイエム。ふたたびその地を訪れる主人公たちの姿で終わる。

 

マリリン・モンロー 瞳の奥の秘密:マリリン・モンローの言葉を10人の女優が読むというアイディアはちょっとまどろっこしいが、久しぶりにモンローの話題に触れて楽しかった 。

 

 

 

Ⅱ 今月の懐かしい人

 

スーザン・ストラスバーグ
 「マリリン・モンロー 瞳の奥の秘密」を見ていたら、突然スーザン・ストラスバーグが出てきて驚いた。マリリンと友達づきあいがあったようで、思い出を語る一人としての登場。
 調べてみると1999年に61歳で亡くなっているので、多分90年代前半のインタビューだろう。
 マリリンが演技の勉強をしていたアクターズ・ステュディオは、彼女の父親リー・ストラスバーグが主宰していた。
 「ピクニック」にキム・ノヴァクの妹役で映画デビュー、有名なのは「女優志願」の新人女優役。初々しい女性が強くなっていくのが見所だった。

 

 

 

Ⅲ 今月のトークショー

 

 ソ連末期の潜水艦を舞台にしたアメリカ映画「ファントム 開戦前夜」、潜水艦ものの持つ緊迫感の中でソ連海軍・KGB過激派の戦いが描かれる。昔懐かしく、登場人物は全てソ連人なのに英語を話していたが、この映画上映の後トークショーが行われた。例によって私はそんなことは知らず、次の映画もあったので“終映時間は?”の問いに、チケット嬢が“トークショーが30分程ありますので…”と言われたので驚いた。このトークショー、5人も登壇された。
軍事に詳しい鈴木ナントカ氏、軍事漫画を書いている野上ナントカ氏、ファントムガールとやらの声優女性(名前失念)が二人に、映画の宣伝担当氏だった。これがほとんどオタクの乗りだったので驚いた。ファントムガールとやらもこの作品に合っている発想か?と思った。
 この映画を戦争オタクに売るという考えが分からない。ほんの一部、オタクも来場していたのでしょうが、壇上の(勝手な)盛り上がりに比べると静かな客席。客席は深く静かに潜行したのだった。

 

 

 

Ⅳ 今月のつぶやき


●福山雅治は好感度の高い人らしいが、「そして父になる」の役はいやな奴感が満載。エリートサラリーマンらしい振る舞いだが、今は亡き夏八木勲さん演じる父親の嫌なところをすべ て受け継いだような男だ。

 

●タンゴを通して人の結びつきを語る「タンゴリブレ」は驚きのラスト。あの後の四画関係を考えると、ちょっと頭が痛いというか面白いというか。

 

●空を飛ぶことができるようになる者たちの「クロニクル」は、正にスーパーヒーローの悩みに直結するお話。「マン・オブ・スティール」のケント氏を思い出す。

 

●久しぶりに見た18歳未満禁止映画は「甘い鞭」、SM話で、ということは暴力なので、私にはちょっときつかった。それにしても“甘い”のは“殺す”というところがちょっとね。

 

●エリッヒ・フォン・シュトロハイムという人は監督で、俳優で特異な人だったが、年代的にはず~っと上の人(1885~1957)なのでほとんど知らない。
「サンセット大通り」の運転手は見ているが、「グレイト・フラマリン」のピストル芸人も、その生き方がいかにもシュトロハイムらしい、その滅び方も。

 

●「ムード・インディゴ」の色彩に満ちた画面作りはまるで花火が爆発したようだ。そのためかほぼ満席の映画館は若い女性が多かった。ボリス・ヴィアンのファンではあるまいに。

 

 

 

 

今月のトピックス:新しい映画

Ⅰ 新しい映画

 

 最近映画を見ていて、これは今までの映画の作り方と違うかもと感じる作品に時々出会う。
 難しく作られていて分かりにくいとか、今までになかったアイディアをもとに作られているとか、などという新しさよりも作り方が新しいくなっていると思えるのである。

 一つは登場人物がビデオ(DVD)カメラを使い、その撮られた画面が映画の中で多く使われる場合。ビデオカメラや8ミリフィルムの画面が使われる場面は今までにもたくさんあった。ほとんど登場人物たちの過去の記録という形で使われてきた。昔撮った家族の思い出、亡くなった父親が残した記録など、こういう使われ方は昔から多く見られた。

 

 9月号で見た作品の中に入っていた「エンド・オブ・ウォッチ」は、ロサンゼルスの警官コンビの話だが、彼らは街をパトロールしながらビデオを撮りまくっていた。ビデオマニアなのである。その画面が映画に圧倒的に使われている。こういう風に使うと臨場感が増す。彼らがパトロールする町の様子が手に取るように分かる。

 ビデオ画面を使うということでは、「ブレア・ウィッチ・プロジェクト」(未見)という作品がかつてあった。多分資金的な問題からストーリー的にビデオが撮られていたことにして、そのビデオを多用するという作品だったよう。この辺りから影響を受けているのだろうが、「エンド・オブ・ウォッチ」はハリウッドスター(ジェイク・ギレンホール)を使った、普通の作品であったことが違う。

 

 もう一つはストーリー的に完結しないことがあるということ。多くの映画はストーリーを持っていて、何らかの結論に至る。我々もそれが当たり前だと思っている。「エンド・オブ・ウォッチ」は最終的な物語的結論はあるが、パトロールの途中で起こるいろいろな事件は解決しないものが多い。
 確かに多くの出来事がその日のうちに解決するとは限らない。しかし、映画という作りものの中でこれほど物事が置き去りにされたままというのは珍しい。

 今月見た「ブッダ・マウンテン」は元京劇女優と3人の若者が一緒に住むが、ここでも結論が語られないエピソードが多かった。女優と若者は初め敵対していて、若者たちは女優の食べ物を食べてしまったり、女優は若者のジーンズを切り刻んでしまう。それでも、そうされた方はどう反応したかは描かれない。
エピソードは描かれるが、そのエピソードが映画全体にどう影響したかが分からない。

 実際の日常では物事がすべて決着する訳ではないから、これは一つのあり方かもしれない。

 ストーリーから自由になっていると言えるのかもしれない。あるいは、単に脚本の失敗かもしれない。多分こうした作りの映画はたくさんあって、それらの中で、こちらの目に届くのはある程度の面白さを持ったものなんだろう。それらを新しいと見るか否かはよく分からない。

 

 

Ⅱ 写真家 石内都

 

 ロバート・レッドフォードの「ランナウェイ 逃亡者」は、かつての過激派活動家が昔の仲間を訪ね歩く物語だが、今は大学教授をしている仲間から情報をもらうとき、会う場所に選んだのがある美術館。そこで開催されていたのは写真家石内都の展覧会。 9月号で見た作品の中に入っていた「ひろしま~石内都・遺されたものたち~」。
 この作品で描かれていたのが石内都の作品展だった。
原爆によって形を変えられたドレスなどの写真が、美を主張して誇らしげに展示されている。

 原爆というイメージからかけ離れた被爆したドレスたち。その透明な美しさは、「ランナウェイ」に合っていた。

 

 

Ⅲ 園子温監督が心配だ

 

 衝撃的という言葉はこの監督の為にあると思えるほど、毎回新鮮な驚きを与えてくれるのが園子温監督の新作だった。「愛のむきだし」「冷たい熱帯魚」「恋の罪」「ヒミズ」など、作品の持つ力強さに強い感銘を受けた。思い立ったら際限なく追い詰めていくその姿勢に。

 

 「地獄でなぜ悪い」が新作だ。相変わらずあくの強い題名で目を引いている。しかし、今回はなかなか乗れない感じだった。引き込んでいく力が今一つ弱い。映画狂とやくざの合体は最後近くでやっと面白くはなったが。同じ頃発売された新刊「けもの道を笑って歩け」を読んでいたのが、良くなかったのだろうか?書き飛ばし感満載の本で、映画についても多く書かれているが、長年同じことをしていて飽きがきているとか、映画は簡単にできる的な記述も目に付く。本の書き方と映画の作り方がシンクロしているような気になってしまう。この本は読まない方が良かったなあ。

 

 

 

 今週の台風は、少なくとも東京に関しては予想外れになりそうですね。
次回は年末直前の11/25にお送りします。


                         - 神谷二三夫 -


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