2014年 6月号back

五月晴だったり、雷の豪雨だったり、
今年の5月は乱調気味。
落ち着かない天候に比べて、
いつでも楽しめる場所がある、
そう、映画館。

 

今月の映画

 4/26~5/25、GWを挟んだ30日間に出会った映画は37本、旧作だけではなく新作も案外頑張った日本映画が外国映画を上回る本数になりました。幅も広さも尋常ではありません。
 今、映画はこんなにも豊かになっています。

<日本映画>

そこのみにて光り輝く 
テルマエ・ロマエⅡ 
相棒‐劇場版Ⅲ‐ 
はなればなれに 
神宮希林 私の神様 
朽ちた手押し車
WOOD JOB 神去なあなあ日常 
闇金ウシジマくんPart2
オー・ファーザー 
青天の霹靂

 

(古)
<美少女>
秀子の車掌さん
また逢う日まで
むかしの歌
破れ太鼓、ガラスの中の少女
娘と私  

 

<野村芳太郎>
東京湾、
白昼堂々、
暖流、
踊る摩天楼

 

 

<外国映画>

レイルウェイ 運命の旅路
  (The Railway Man) 
チョコレート・ドーナッツ
  (Any DayNow)
アメイジング・スパイダーマン2
  (The Amazing Spider-Man 2) 
ワレサ 連帯の男
  (Walesa, Man of Hope)
ダーク・ブラッド
  (Dark Blood) 
ある過去の行方
  (Le Pase/The Past)
アクト・オブ・キリング
  (The Act of Killing)
アメリカン・レガシー
  (Silent Tangue) 
ダブリンの時計職人
  (Parked) 
とらわれて夏
  (Labor Day)
プリズナーズ
  (Prisoners) 
バチカンで逢いましょう
  (Omamamia) 
ネイチャー
  (Enchanted Kingdam)
他人の手紙
  (Violated Letters) 
ブルー・ジャスミン
  (Blue Jasmine) 
シンプル・シモン
  (Simple Simon)
ニューヨーク 冬物語
  (Winter’s Tale)

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー


① レイルウェイ 運命の旅路
 第2次大戦を大人として経験した人がどんどん減りつつある今、そんなことはなかったと言いだす勢力がいるような世の中になりつつあるような気がします。日本兵がイギリス人捕虜にふるった虐待、そうした事実が冷静に語られます。その後長い月日をかけて、加害者、被害者の双方が理解していくところは救いです。

 

②-1 ある過去の行方
 イラン人監督アスガー・ファルハーディが「彼女が消えた浜辺」「別離」に続いて発表した新作は、それまでの作品同様に物事の真実が徐々に顔を見せてくるミステリーさながらの作り。フランスを舞台に夫婦、子供たちの不思議で厳しい関係を描きながら、安易な結論に結び付けないのも納得できます。

 

②-2 シンプル・シモン
 アスペルガー症候群といえば、特殊なこだわりがあり、特殊分野で特殊な能力を発揮するが、人との付き合いが苦手というか、できず、自分の決めた時間割を変えることができないなど、社会に適応できない印象が強い。その事実を過不足なく描き、ユーモアもあり、様々なことを考えさせてくれる侮れない映画です。

 

②-3 オー・ファーザー
 伊坂幸太郎の原作は随分映画化されている。いずれもアイディアが面白いが、今回の新作も、そうか、この手があったのかと思うほど。父と息子の物語、躾、教え、楽しみ、思い出、愛情などが豊かに描かれ、この作品で監督デビューの藤井道人(脚本も)や、出演者も皆素晴らしい、楽しみました。

 

③-1 そこのみにて光り輝く
 函館を舞台に社会の片隅で生きる人たちの姿を描く佐藤泰志原作の映画化第2弾。37歳の女性監督呉美保が描く負の部分を生きる人たち。思い通りにはいかないことが多い中で、密やかに生きる人たちの姿が印象深い。

 

③-2 ブルー・ジャスミン
 元セレブの姉とずっと貧乏の妹が繰り広げる嫉妬入り、妬み入り、上昇志向入り恋愛競争を描いたのは久方ぶりにアメリカに戻ったウディ・アレン。相変わらず皮肉の利いた人間観察で、笑わせてくれました。アカデミー賞主演女優賞受賞ケイト・ブランシェットの神経ぎりぎり演技も流石。

 

 

他にも面白い作品が沢山、ご覧ください。

 

●チョコレート・ドーナッツ:ゲイカップルとダウン症の男の子の3人疑似家族、社会的弱者が社会的常識(?)に破れる様子に訴えてくるものがあります。

 

●ダーク・ブラッド:まるでネイティヴ・アメリカンアートのテイスト。現代アメリカとは別社会の世界が荒野で繰り広げられているかのような印象。

 

●アクト・オブ・キリング:60年代インドネシアで共産主義者が100万人規模で虐殺されたという。その殺人者たちがどのように殺人を実行したかを再演するのが、ぞっとする怖い映画です。

 

●ダブリンの時計職人:海岸横の駐車場に停めた車で生活する主人公。何しろ原題は「Parked」。悲惨な状況なのに案外ゆったり、勿論悲しい部分もありますが。

 

●とらわれて夏:人は恋に落ちる、どんな場合でも。ふたりは互いに自分に合った相手だと認識した5日間だった…。ピーチパイがもたらす結末、良かったです。

 

●プリズナーズ:娘を誘拐された家族たち、父親は犯人を見つけるため自ら犯人探しに奔走する。サスペンスたっぷりに描かれる犯人探しのミステリー、手に汗握る迫力です。

 

●神宮希林 わたしの神様:昨年の式年遷宮を機に樹木希林が初めて伊勢神宮を訪れる様を追ったドキュメンタリー。彼女の特異な個性と生き方がうかがえる面白い映画。

 

●朽ちた手押し車:三國連太郎の出演作で唯一未公開であった1984年の作品が公開された。鬼気迫る彼の演技で認知症の真実を教えてくれる今日的な映画、見る価値あり。

 

●WOOD JOB 神去なあなあ日常:矢口監督が「ウォーターボーイズ」「スウィングガールズ」「ロボジー」などに続いて送りだした新作は林業がテーマ、“里山資本主義”ですね。ただ、3Kイメージだったのがちょっと残念。

 

●青天の霹靂:劇団ひとりが小説を書き、脚本・監督をし、出演もしている。
小説1作目「陰日向に咲く」は他の方の脚本、監督で2008年に映画化されている。自身の監督第1作もなかなかの出来だが、少し単調になっていてメリハリがないのが残念。

 

●ニューヨーク冬物語:キリスト教世界には常に悪魔と天使がいて、今までにも幾多の作品に登場してきた。主人公はCity of Justiceという名の帆船に乗ってニューヨークにたどり着き…。白馬、若い女性の死、泥棒、星などロマンチックなイメージと悪魔、ボスなどが拮抗する。

 

 

Ⅱ 今月の懐かしい人

 

☆ジャンカルロ・ジャンニ-ニ
 ドイツ映画ながらイタリアとカナダを舞台にした「バチカンで逢いましょう」で、法王をも騙してしまうイタリア男性を演じていたのは、イタリアの女流監督リナ・ウェルトミューラーが1974年に発表した「流されて」で、金持ちの人妻と孤島に流されて一緒に生活する使用人男を演じたジャンカルロ・ジャンニーニ。
 渋いマスクで人気に、その後ハリウッドにも進出、ダニエル・クレイグがボンドに扮した第1作「カジノ・ロワイヤル」にも出ていたりと、結構活躍が続いているが、今回のように愛嬌のあるイタリア人男性を演じるのは久しぶりの印象。昔でしたらマルチェロ・マストロヤンニの役どころで、この人がその線を狙っても不思議ではない。


☆カレン・ブラック
 リヴァー・フェニックスの遺作のために公開された「ダーク・ブラッド」は、1993年の作品だから出ていても不思議はないかもしれないカレン・ブラック。「ファイブ・イージー・ピーシズ」「エアポート75」「イナゴの日」など、
一時は破竹の勢いで主演作が目白押しだった彼女も、76年のピッチコック作品「ファミリー・プロット」以降は日本ではほとんど見られなくなった。
 これほど、本来の意味でのファニーフェイスの女優が活躍したのは稀有なことではと、当時も今も思うが、久しぶりにスクリーンに見ると、正に懐かしかった。2013年8月8日に74歳で亡くなっていた。遅くなりましたが、合掌。


☆エヴァ・マリー・セイント
 「ニューヨーク冬物語」で100歳以上のはずのリトル・ウィラを演じていたのは、1954年の「波止場」でアカデミー賞助演女優賞受賞、「北北西に進路を取れ」で寝台車上段に引き上げられたエヴァ・マリー・セイント。
 1924年7月4日生まれの89歳、2006年あまりヒットしなかった「スーパーマン リターンズ」でクラーク・ケントの母マーサを演じて以来の登場。元来少し地味な彼女にしては、今回のウィラ役はすごくいい役だ。

 

 

Ⅲ 今月の続編、2とかⅡとかⅢとか

 

テルマエ・ロマエⅡ:アイディアで引っ張るマンガの世界。その映画化Ⅱはちょっときつい感じ。Ⅲを作ることをもし考えると、余程違う形にしないと…杞憂でしょうか?

 

相棒‐劇場版Ⅲ‐:本当はこの後に「巨大密室!特命係 絶海の孤島へ」と説明的な題名が続く。このいかにもTV的な部分を削らないとね。

 

闇金ウシジマくんPart2:10日で5割の闇金、そこに群れる人たちが現在の日本のある面を表しているとは思うが、ちょっとマスコミが取り上げそうな状況ばかりのPart2.

 

アメイジング・スパイダーマン2:あまりに青春しすぎていないかと言うか、あまりに子供。マーベルの連続シリーズもの作戦に則って、3に向かって意欲見せすぎの感。

 

 

Ⅳ 今月のつぶやき

 

●鉄道オタクは全世界どこにもいます。開始と同時に、男女二人が出会うのは、イギリス鉄道の車内、そこでオタクぶりが明かされるのが「レイルウェイ 運命の旅路」。わくわくさせてくれる素晴らしい出だしです。

 

●リヴァー・フェニックスといえば「スタンド・バイ・ミー」の凛凛しい少年ぶりが懐かしい。23歳で亡くなってから20年、幻の遺作「ダークブラッド」が公開された。撮影がまだ終了していず、足りない部分は監督のナレーションで補いながら完成された。それほどまでしても公開したかった作品ということか。同時に公開された遺作ひとつ前の「アメリカン・レガシー」を見ても、たしかに、少し変わったテイストの貴重な役者になっただろうと思わせる。

 

●樹木希林という女優は、特異な雰囲気を持った女優だ。あのやぶにらみ的風貌には、独特なセンスが宿っているようだ。そんな人が神様の本拠地を訪ねる「神宮希林」は面白い。

 

●ポーランドが共産圏であった頃、年間数千万通の手紙が検閲されていたという。人々の手紙がその当時の映像と共に読まれていくだけの映画は「他人の手紙」。特にコメントはなく、静かに読まれる手紙と映像は、それゆえにあの頃の気持ちを伝えている。

 

●「闇金ウシジマくんPart2」ではホストクラブが主要舞台のひとつ。
高いお酒のボトル受注ごとに、全ホストが立ち上がって“~いただきました”と斉唱するのは、何なんでしょうか?お客さんはあれが嬉しいんでしょうか?



今月のトピックス:アラカルト 


Ⅰ 白鳥あかね

 

 映画ファン以外でこの人の名前を知っている人はほとんどいない。映画ファンでこの人の名前を知らない人はほとんどいない。
 白鳥あかねさんは有名なスクリプターだ。スクリプターとは、現代映画用語辞典(キネマ旬報社)によれば、


『撮影現場における記録を担当する人物。
映画の撮影は基本的に順撮りではないため、
同じシーンを全く別の日に撮影することが少なくない。
役者の衣装やメイク、美術や小道具、撮影尺、音声・台詞の変更など
撮影現場の状況を記録し、編集時に連続したシーンとして成立させるように
<スクリプト用紙>に詳細を記録するのが<スクリプター>の仕事。』


 和製英語で、英語ではScript Girlと言われることが多いとも。Girlと呼ばれるように、女性が勤める場合が多い。

 彼女へのインタビューが1冊の本になって出版された。
「スクリプターはストリッパーではありません」、
第37回(2014年)日本アカデミー賞協会特別賞受賞記念と本の帯にあります。1955年新藤兼人監督の近代映協作品「狼」で初めて映画の現場に参加したあと、同年に日活に入社、日活の最盛期からロマンポルノの時代まで多くの監督と一緒に仕事をしてきました。
 その後はフリーとなり、若い新人監督を初め幾多の監督につき、後半多くの作品で一緒に仕事をした根岸吉太郎監督の「透光の樹」を最後に、スクリプターの仕事からは引退、他の映画関係の仕事で今も活躍しています。
 その間一緒に働いた監督には、斎藤武市、神代辰巳、池田敏春などがいました。途中から、スクリプター以外に脚本も書くようになっていた彼女、
 映画製作の最後の作品は2010年の「脇役物語」で、脚本とキャスティングを担当。この映画の監督は緒方篤さん、自分で資金を集めこの作品でデビューしました。完成披露試写の時“息子が本当にお世話になりました”と挨拶されたのは緒方貞子さんだったとか。

 面白い本でした。白鳥あかねさんのまるで親分のようなきっぷの良さ、面倒見の良さが伝わります。

 

 

Ⅱ 美少女伝説

 

 神保町シアターでは5/10~6/6の間、「麗しき美少女伝説」特集だ。美少女が騒がれ出したのはいつ頃からだったろうかとWikipediaの記述を見て見れ
ば、「1980年代にに後藤久美子の登場をきっかけとして「国民的美少女コンテスト」が行われた。
 これ以降、芸能界等では特に女性アイドルの一要素として、或いは宣伝や売り出し文句として類型的に多用される言葉である。」とありました。
 ということは、30年位しかたっていません。もちろん、ゴクミの前にも美少女はいましたが、美少女が商売道具にはされていなかったということでしょうか?

 

 日本映画(古)<美少女>に入れた6本を見ました。
作品順に、高峰秀子、久我美子、花井蘭子、桂木洋子、吉永小百合、星由里子となります。作品に出演時の年齢は、17、19、21、19、15、19となります。
21歳ではいくらなんでも少女ではないでしょうし、「むかしの歌」の花井蘭子はほぼ女の魅力を見せる役でした。美しくはあったのですが。高峰秀子は良くできる子でしたが、美少女ではないでしょうとか、いろいろ問題はあったのですが、なかなか楽しめる企画でした。興味のある方は6/06までです、お急ぎください。5/26~6/6で見られるのは、鰐淵春子、三田寛子、星由里子、牧瀬理穂、内藤洋子、原田知世、後藤久美子、宮崎あおい です。

 


Ⅲ 野村芳太郎

 

 渋谷シネマヴェーラでは野村芳太郎監督特集。
 松竹の監督として1952~85年の間に、80本以上の映画を世に送りました。
もっとも有名なのは「砂の器」でしょうか。注目を集めたのは58年製作の「張込み」、九州に向かう夜行列車から始まる映画は緊迫感が持続、目を離せません。
 この2作を初め松本清張原作の作品を多く作っていますが、作品のバラエティは幅広く、時代劇、メロドラマ、社会派サスペンスから音楽劇、コント55号作品まで含まれます。「張込み」は少し前に見ましたが、今回見た作品も「東京湾」は社会派サスペンス、「白昼堂々」は渥美清を中心とした喜劇、「暖流」は映画化3度目のメロドラマ、「踊る摩天楼」はミュージカル・ラブコメと、幅広いことこの上なし。
 いずれも無駄のない語り口で、外した画面もありません。昔ある人から「好きな監督は野村芳太郎」と言われ、それ以来気になっている監督。確かにきっちりした映画らしい映画を見せてくれます。2005年85才で亡くなられています。

 

 

 今月はここまで。
 6/1は日曜日にあたります。毎月一日の映画料金は1000円→1100円になってしまいましたが、どうぞ上の情報を参考に映画をご覧ください。

 

 次回は、多分梅雨のど真ん中であろう6/25にお送りします。



                         - 神谷二三夫 -


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