2014年 8月号back

多くの地方で梅雨があけました。
真夏日、熱帯夜の夏本番はこれから。
暑い時は暑い方がいいと思いながらも熱中症にはご注意を。
熱中症の心配もなく、心まで潤してくれるのは、
そう、映画館!

 

今月の映画

 6/26~7/25、梅雨の時期の30日間に出会った映画は30本、邦画洋画比率はほぼ1:6と見せよう会通常比率より洋画比率が増えています。
 最近の邦画は子供向けのアニメ作品、若い女性向きの恋愛もの(漫画原作が多い)が多く、足を運ぶ機会が減っている。チョイとさみしい状況。

<日本映画>

渇き。
円卓 こっこ,ひと夏のイマジン 
The Next Generationパトレイバー/第3章
思い出のマーニー
太秦ライムライト

 

 

<外国映画>

パークランド ケネディ暗殺,真実の4日間
  (Parkland)
トランセンデンス
  (Transcendence)
オール・ユー・ニード・イズ・キル
  (Edge of Tomorrow)
人生はマラソンだ
  (De Marathon)
ビヨンド・ザ・エッジ 歴史を変えたエベレスト初登頂
  (Beyond The Edge) 
サード・パーソン
  (Third Person)
私の息子
  (Child’s Pose)
マレフィセント
  (Maleficent) 
her世界でひとつの彼女
  (her)
オールド・ボーイ
  (Oldboy)
収容病棟(後篇)
  (Till Madness Do Us Part)
マダム・イン・ニューヨーク
  (English Vinglish) 
パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト
  (The Devil’s Violinist)
ジゴロ・イン・ニューヨーク
  (Fading Gigolo) 
幸せのバランス
  (Gli Equilibristi / Balancing Act)
ダイバージェント
  (Divergent)
怪しい彼女
  (Miss Granny) 
複製された男
  (Enemy)
ママはレスリング・クイーン
  (Les Reines du Ring / Wrestling Queen)
マイ・ブラザー 哀しみの銃弾
  (Blood Ties)
リアリティのダンス
  (La Danza de La Realidad / The Dan se of Reality)
(古)果てなき航路
  (The Long Voyage Home)
武器よさらば
  (A Farewell to Arms)
黄金
  (The Treasure of Sierra Madre)
野人の勇
  (Just Pals)

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー


① オール・ユー・ニード・イズ・キル
 日本人作家桜坂洋氏の同名原作を映画化。(アメリカの映画題名はEdge of Tomorrow)コンセプトのはっきりした原作を、「ボーン・アイデンティティ」のダグ・ライマン監督が上手く映画化。変に深刻ぶらずにアクションでまとめたのが良かった。


②-1 her世界でひとつの彼女
 AIは人工知能だが、コンピューターがAIを持ち使用者に対応するという近未来。彼女はまるでホステスのように心地よく接するのだが…。総てが自分の投影になっていくという怖さも含めて、なかなかに大変な時代です。

 

②-2 ジゴロ・イン・ニューヨーク
 ウディ・アレンにこれほど似合う役はあまりないのでは?ジョン・タトゥーロというブルックリン出身の性格俳優の監督3作目。アレンもブルックリン出身で、映画の舞台も当然ブルックリンの笑える喜劇です。

 

③-1 幸せのバランス
 主人公は正直者の夫で彼の一度の過ちが奥さんに見つかり別居することに。
驚くのは、市の職員である彼がすぐ生活困窮者に落ちていくところ。今の日本も他人事ではない話だ。

 

③-2 私の息子
 第8回ルーマニア・アカデミー賞で主要8部門独占受賞もむべなるかな。子離れできない母親と自立できない息子の厳しい物語。ルーマニア社会のあり方も垣間見え、目が離せません。

 

 

 面白い作品は他にも!お楽しみください!!

 

●パークランド ケネディ暗殺,真実の4日間:50年前のケネディ暗殺を再度映画にしていて、まるでTVのドキュメンタリーのような感じもする。そこに新しさはあまりない。

 

●ビヨンド・ザ・エッジ 歴史を変えたエベレスト初登頂:先月のK2もそうでしたが、困難な山の初登頂には隠されたドラマがいろいろあるものです。

 

●マレフィセント:「眠れる森の美女」の魔女マレフィセントの物語。アンジェリーナ・ジョリーが、ほう骨をとがらせた特殊メイクで魔女の怖さと悲しみを熱演、チョー適役です。

 

●オールド・ボーイ:先に韓国で映画化された日本の漫画の再度の映画化。
ただし、この映画のクレジットには、韓国映画によると書かれていた。スパイク・リー監督によるこの映画は韓国映画よりすっきりした印象。

 

●マダム・イン・ニューヨーク:インド映画の変貌しつつある姿を教えてくれるこの映画は、40歳の女性監督の長編デビュー作。いかにもニューヨークという楽しげな描写です。

 

●円卓 こっこ,ひと夏のイマジン:西加奈子の小説の映画化。小学3年生のこっこが一緒に住む家族(祖父母、両親、3つ子の姉達)や隣の同級生らと過ごす夏休みの生活をヴィヴィッドに!

 

●怪しい彼女:最近の韓国映画はアイディア勝ちのものが多い。工夫している。この映画の勝因はおばあさんの物言いを維持したこと。まあ、そんなに変われる訳はないけどね。

 

●The Next Generationパトレイバー/第3章:今回はエピソード4と5でした。エピソード4は笑えます。見ている側の洗練度も含めて、かなり突っ込んだ笑いです。

 

●複製された男:緊張感が持続するサスペンス。原作はノーベル賞作家(ポルトガル)のミステリー。監督は今注目のカナダのドゥニ・ヴィルヌーヴ(「灼熱の魂」「プリズナーズ」)で今回も面白い。

 

●太秦ライムライト:“5万回斬られた男・福本清三初主演作”ということで、東映京都撮影所の専属演技者でトム・クルーズ主演の「ラスト・サムライ」にも出演した福本清三の初主演作。共演のベテラン俳優陣が暖かく演技で包んでいます。

 

●ママはレスリング・クイーン:フランス発の女プロレス映画。フランスでもプロレスは人気なんですね。なかなか面白く見ましたが、4人組の一人はナタリー・バイ(トリュフォー作品で有名)なのには驚いた。

 

●リアリティのダンス:アレハンドロ・ホドロフスキー監督の新作、ここに置いていいものか迷いました。超有名な「エル・トポ」(1970)も見ていませんので、ほとんど発言できませんが、久しぶりに過激で美しい映画を懐かしく見ました。体のどこかにその過激さが残っているような気がしています。

 

 

 

Ⅱ 今月の懐かしい人

 

☆ヘルムート・バーガー
 ヘルムート・バーガーといえば、ルキノ・ヴィスコンティ監督の「地獄に堕ちた勇者ども」とか、「ルードヴィッヒ」の俳優として有名だ。その彼が、「パガニーニ 愛と狂気のヴァイオリニスト」に出ていたことを知ったのは、
映画のラスト後に流れる配役表でのこと。
   Helmut Berger : Lord Burghersh
と出ていたのであるが、役がさっぱり思い出せない。顔も思い出せない。
 ヴィスコンティに可愛がられていた時から既に40年が経過、久しく名前を聞くことはなかったので、生きて、まだ俳優業を続けていたことに感動してしまった。

 

 

Ⅲ 今月のジブリ

 

 今年のジブリは米林宏昌監督の「想い出のマーニー」。米林監督は「借りぐらしのアリエッティ」で監督デビューをした人、今年41歳です。

予告編は何度も見ていましたが、ずっと疑問だったことはマーニーではない主人公の性別です、男の子か女の子か分からない。淡い恋の話だろうし、男の子かとほとんど勘違いをしていました。予告編の第2作を3週間くらい前に初めて見て、女の子だったんだと初めて知りました。では、どんな話なんだというのが正直な気持ち、それを確かめに見に行きました。


 家族の話だったんですね。
 この作品を見ても、児童文学だったというのがにわかには信じられません。
なんか初めからそうなるように、登場人物たちも決められているような、子供の突拍子もなさなどどこにもなく、静かに事が進んでいくような落ち着いた映画です。
 映画に関しては子供が見に来てもそれほど面白く感じないのではないか?では大人にとって面白いかといえば、そうでもありません。どんなお客さまに向けて作られたのかが今一つピンときませんでした。
 監督は何を伝えたかったのか?

 

 

Ⅳ 今月のつぶやき

 

●「パークランド」の製作者にはトム・ハンクスとビル・パクストンの2人の俳優が名前を連ねていた。共に出演はしていない。

 

●ヒラリー卿はイギリス人だとばかり思っていたが、ニュージーランド人だったと教えてくれた「ビヨンド・ザ・エッジ 歴史を変えたエベレスト初登頂」。さらに、彼とシェルパの一人が登頂の第2チームで、第1チームのリタイアにより運よく登頂できたこと、その相棒がシェルパだったことには驚いた。

 

●「渇き。」は先月号で旧作として紹介した「害虫」(塩田明彦監督、宮崎あおい主演)の現代版のような趣。子供の悪の力に大人が翻弄されている。中島監督の力の入った作品だが、どうも思いが空回りしているように感じられた。

 

●The Next Generationパトレイバーは50分の1エピソードを2エピソードくっつけて2週間上映という基本を忘れていて第2章を見逃してしまったが、第3章は2週間内に出かけた。第4、5エピソードだったが、第4の「野良犬たちの午後」は当然「狼たちの午後」のもじりだが、これまた脱力感、オタク感いっぱいの喜劇だった。

次回は8月30日から2週間です。




今月のトピックス:人生は映画だ

 

 

 今月は“人生は映画だ”、もちろん「人生はマラソンだ」からのいただきです。深い意味はありませんので、そこんとこよろしく。
オランダ映画「人生はマラソンだ」は、どちらかと言えばダサい作りの映画ですが、エジプト人に対する見下し発言とか、奥さんに牛耳割れているトルコ人とか、AV女優を妻にした男とか、なんだか妙なおかしみがあります。主人公ラストまでしっかり見届けてしまいます。


Ⅰ 近親相姦

 

 「渇き。」はほとんど近親相姦幻想に陥っている父親が出てくる。「サードパーソン」には父親との近親相姦関係が暴露される女性が出てくる。昔から、近親相姦は多くの文化で禁忌扱いされるとWikipediaに書かれていますが、その一方で、小説、演劇、映画などの分野で取り上げられることもあり、しかも作品にある種の力を与える道具(?)でもあったのです。日本の漫画から作られたハリウッド版「オールドボーイ」は漫画とは違った韓国映画の近親相姦を取り入れていましたし、先月紹介した日本映画の力作「私の男」(モスクワ映画祭・作品賞・主演男優賞受賞!)も、近親相姦の匂いを強くしていました。


 ここに挙げた4作はいずれも父親と娘という関係ですが、他にも様々な関係が考えられ、さらに多くの神話でもそうした関係が語られていたということから考えても、人間存在の深いところにそうした関係が存在しているとも言えそうです。勿論、往々にして大人と子供という関係から大人の力の横暴になってしまうこともあり、人間として厳に注意すべきことでしょう。


 語りにくいテーマですからここに書くこともないのですが、最近やたら目につくので書いてしまいました。

 

 

Ⅱ  AI

 

 スピルバーグの映画に「AI」という題名のものがあった。人工知能を持たせたロボットに感情をプログラムするというストーリーだった。「her世界でひとつの彼女」はコンピューターに人工知能を持たせ使用者に対応するという世界。使用者は好きな性別の好きな声を選ぶことができ、コンピューターと会話しながらコンピューターを使うことができる。主人公と会話する“彼女”は、その会話から学びつつ主人公の意向に合わせていく。これは言ってみればコンピューターに自分の嗜好を知らせ、それに合わせて反応してもらうということだ。極端にいえば、自分と会話しているようなもので、それに対して異を唱える者がいないという状況だ。使用者は自分好みのものに取り巻かれ気分がよくなるのは間違いない。映画では、何人もの使用者との交信を行うコンピューターに対し違和感を感じる主人公。しかし、自分の周りが自分と同じような人ばかりになり、常に自分の価値観しか存在しないという世の中の方が脅威だとは思いませんか?

 今月は「トランセンデス」という作品もあった。肉体的に死亡した科学者の脳をコンピューターの中に保存するという作品。AIとは少し違うが、これまた肉体を持たないコンピューターが暴走していく話。


 こうした話でも時代の随分先を行っていたのが「2001年宇宙の旅」ですよね。HALというコンピューターの反乱を描いて、その後のこうした作品の元となりました。今の時代、AIの進化はどんどん進行していくでしょう。それを止めることはできませんが、どのようにしたら人間の役に立つものになるかを考えなければならない…などと書いたら、人間の思い上がりでしょうか?



Ⅲ 真実の愛 (ちょっとネタばれ)

 

 先月も話題にした「アナと雪の女王」は日本で2000万人弱の人が見たという。興行収入も250億円を突破し、歴代2位の「タイタニック」に迫ろうとしている。7/5には同じディズニーから「マレフィセント」が封切りされた。「眠れる森の美女」を別の角度から見た作品だ。
 この2つの作品は王女が眠りにつき、“真実の愛”によって目覚めるという、
同じ構造を持っている。そして、どちらの真実の愛にも王子は必要ないということになった。これはかなり大きな変化ではなかろうか?
 確かに“真実の愛”は男女の間だけなどと定義されていた訳ではない。
しかし、童話の世界でお約束を続けて2度も破ったのは意図的と思われても仕方がない。どちらの作品にも王子は出演しているのだから、物理的にキスは可能だった。

 ディズニーさん、どういう方向転換なのでしょうか?日本での大ヒットの背後には、これが一つの要因になっていたのでしょうか?



Ⅳ 映画喫茶

 

 6月末に“Cine Mad Café”という喫茶店に出かけた。喫茶店と言ってもアルコールも大丈夫なお店だ。場所は東京スカイツリーのすぐ近く。東部のスカイツリー駅を挟んで反対側にある。

 中は、3カ月位の間隔で変えられるというテーマを決めた映画のポスターが貼られている。それ以外に昔の映画雑誌「スタア」の表紙や、スターのブロマイドなども貼られていて、映画好きにはたまらない魅力です。
 3年前にこの店を始めたという齋藤尚之さんは地元生まれの50代後半。子供時代から浅草の映画館に通っていたという映画好きで、店内に貼られたポスター、写真は自分でコツコツ集められてきたとのこと。

 年下なのに、私以上に映画に詳しい友人と出かけたのだが、この日お店はほとんど他のお客様がいず、3人で映画のこと話まくり、その中でもさすがに齋藤さんの知識は凄いものがありました。


齋藤さんは確かイタリア料理の落合務さんのところに長くいらっしゃったとかで、出される料理、飲み物も十分楽しめます。映画が好きでなくても大丈夫です。好きならなおいいですが。

 

   Cine Mad Café お店のサイト

 


Ⅴ ゴジラも還暦

 

 「ゴジラ」の第1作は1954年に公開された。2004年、50周年の節目に28作目の「ゴジラ FINAL WARS」を最後にすることがきめられた。日本の東宝が製作するゴジラはこの10年間作られていない。その間、1998年にハリウッド製の「GODZILLA」が作られたが、日本のゴリラとはイメージがかけ離れていて評価は低かった。


 今年はゴリラ誕生60周年、いわば還暦である。それを当て込んで(?)ハリウッドで再度「ゴジラ」が作られた。日本での公開は7/25(金)、本日である。日本誕生のゴジラが、還暦はハリウッド製で迎える。ちょっと残念という気持ちか。


 東宝はしっかりこの映画の日本公開権を持ち、東宝配給での公開となる。
この辺り東宝はいつも商売が上手いというか、シビアである。

 まあ、それにしても還暦を迎えられるのはめでたいのでお祝いをしよう。

 

 

 

 

今月はここまで。
熱帯夜の続くだろう8月、
健康に気を付けて乗り切りましょう。



                         - 神谷二三夫 -


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