2015年 7月号back

夏至も過ぎ雨の季節も後半に入ったこの頃、
じとじとだったり、ざぁーざぁーだったりする雨にも飽きが来た。
気分だけでもからりとしたい、
そんな時は、当然、映画館!!

 

 

 

今月の映画

 

 5/26~6/25、雨の季節を迎えている31日間に出会った映画は28本、今月も例により邦洋画比率はほぼ1:4でした。
 ヴィゴ・モーテンセンとリーアム・ニーソンの主演作が2本ずつあるのが、ちょっと異色、しかもいい出来の作品です。



<日本映画>

騒音
あん 
新宿スワン 
海街diary 
(古)お引越
夏の庭 

 

 

<外国映画>

メイズ・ランナー
  (The Maze Runner)
真夜中のゆりかご
  (En Chance Til / A Second Chance)
追憶と,踊りながら
  (Lilting)
涙するまで,生きる
  (Loin des Hommes / Far FromMen)
リピーティッド
  (Before I Go to Sleep)
ラン・オールナイト
  (Run All Night)
奇跡の人 マリーとマルグリット
  (Marie Heurtin / Marie’s Story) 
靴職人と魔法のミシン
  (The Cobbler)
誘拐の掟
  (A Walk Along The Tombstones) 
ピッチ・パーフェクト
  (PitchPerfect)
しあわせはどこにある
  (Hector and The Search for Happiness)
約束の地
  (Jauja) 
ジェームズ・ブラウン 最高の魂を持つ男
  (Get On Up)
グローリー 明日への行進
  (Selma)
ハイネケン誘拐の代償
  (Kidnapping Mr.Heineken)
ターナー 光に愛を求めて
  (Mr. Turner) 
アドバンスト・スタイル そのファッションが人生
  (Advanced Style)
(古)ミスター・ノーボディ
  (Il Mio Nome e Nessuno)
続荒野の用心棒
  (Django)
熊座の淡き星影
  (Vaghe Stelle dell’Orsa) 
ライアンの娘
  (Ryan’s Daughter)

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー



① 海街diary
 吉田秋生の漫画を原作に是枝監督が作った新作は4人姉妹の物語。3人姉妹に、母違いの妹がやってきて鎌倉での生活を一緒にする。何ともない日常生活を細やかに静かに描いて心に残る。姉妹を演じる4人の女優も、もちろん樹木希林、大竹しのぶもいいですよ。

 

② ピッチ・パーフェクト
 アメリカのショウビジネスの根幹を見るような思い。大学生のアカペラグループの大会を題材に、なんだかオタクと普通の人の闘いのようで。始まりの男子オタクグループの上手さに乗せられて、最後のビッチ(?トピックス参照)グループのワクワクステージまで一気に楽しみました。

 

③ あん
 ドリアン助川の原作を河瀬監督が映画にしました。自分の想いばかりが先走ってしまう河瀬監督自身の原案作より、原作物の方が彼女には向いているかも。そして、樹木希林と永瀬正敏という何事にも動じないふたりのおかげで、普通に感動できる映画になりました。

 

 

 


見るに値する作品は他にも!!


 

●真夜中のゆりかご:スザンネ・ビア監督の新作は、警官がそんなことするかと思うが、登場人物の感情を細かく描いて納得させるのは流石の力量。

  

●追憶と、踊りながら:カンボジア人監督ホン・カウ(イギリス在住)のデビュー作は、事故で亡くなった恋人を失ったゲイの青年と、恋人のカンボジア人の母との交流を繊細に描く。

  

●涙するまで、生きる:「異邦人」のアルベール・カミュの短編を映画化。1954年のアルジェリア、独立運動が起こっていた状況下でのアルジェリア生まれのフランス人とアルジェリア人囚人の物語。

  

●ラン・オールナイト:決定的に自己否定的な、自分は好かれていないとする中年主人公をリーアム・ニーソンが好演。プロの力を見せて、息子家族を守ろうと闘いに挑む。

  

●奇跡の人 マリーとマルグリット:ヘレン・ケラーと同じ三重苦の少女の物語。19世紀末、フランスに実在した題材を映画化、その題材の力強さに感動。

  

●誘拐の掟:リーアム・ニーソンの今月2本目は、ローレンス・ブロックのマット・スカダーものの映画化。スマート過ぎるくらいにすっきりした映画で楽しめる。

  

●しあわせはどこにある:イギリスの精神科医が、幸せとは何かを探るため旅に出る。上海、チベット、アフリカ、ロサンゼルスと世界一周してまるで007。

  

●約束の地:パタゴニアに何故デンマークの大尉がいるかなんて疑問は回答されず、四隅が丸い不思議な画面で描かれるパタゴニアの荒野を娘を探して彷徨う神秘的な物語。

  

●ジェームス・ブラウン 最高の魂を持つ男:1933年生まれのジェームス・ブラウン(JB)、歌い踊る教会でゴスペルに出会い、その後ソウルの神様へ。波乱万丈の物語、濃いです。JBを演じるチャドウィック・ボーズマン(42~世界を変えた男~)の上手さも特筆モノ。

  

●グローリー 明日への行進:キング牧師がアラバマ州セルマで行進したのは1965年、50年前に過ぎない。黒人差別は最近まで行われていた。最近の映画でもよく描かれる。

  

●ハイネケン 誘拐の代償:オランダのビール会社ハイネケンの経営者が誘拐されたのは1983年、実際の事件に基づいた映画化。普通の若者たちが誘拐を計画実行、破綻するのは素人ゆえか?

  

●ターナー 光に愛を求めて:イギリスの画家ターナーの後半生を描いたのはマイク・リー監督、珍しく美しい画面も見られるが、ターナーの下世話な人間らしさを出したところは彼らしい。

 

 

 

 

 

Ⅱ 今月の旧作

 

① 相米監督の傑作「お引越」「夏の庭」
先月から相米監督の旧作をある程度見てきた。作り手の想いが画面の上で主張することなく、物語を語ることに専念するという意味では、今月の2本は流石の出来、静かに心に入ってくる。どちらも子供を主人公にしたものだが、作り手に操作された感じはほとんどない。子供が子供として生きている。特に「お引越」の田畑智子は素晴らしい。

  

 

② 「ライアンの娘」
44年ぶりに見た「ライアンの娘」、画面の雄大さに驚いた。その美しさは流石。「アラビアのロレンス」「ドクトル・ジバゴ」に続く、監督デヴィッド・リーン、脚本ロバート・ボルト、撮影フレディ・ヤングのトリオの3作目。前2作に比べれば地理的大きさが今一つ、物語の大きさも今一つと思っていたのだが、今の日本の状況とも共鳴するようなテーマもあり、感動した。アイルランド西部の海に面した小さな村、イギリスからの独立運動が密かに進む中、イギリス軍将校との不倫に走るロージーに対する村人の迫害は怖い。知ろうとする努力を怠り、感情だけに走ってしまう気のある今の日本の状況と酷似。

  

 

③ 「続荒野の用心棒」
「荒野の用心棒」とは物語も、主人公も、俳優も、監督も違うのだが、“続”と名付けられたのは、単にマカロニウエスタンであったため。後年、この作品が再映画化されたり、カルト的人気を博すことが分かっていたら、原題「Django」のジャンゴをそのまま日本語題名にした方が良かったと思っただろう。強い映像、主題歌を持った作品だ。フランコ・ネロが主演しジャンゴを演じ

た。


 

 

 

Ⅲ 今月のつぶやき


●いくらヒットしても好きになれない作品に「ハンガーゲーム」があるが、同じ趣向で作られた「メイズ・ランナー」もヒットして続編が作られるらしい。ゲーム感覚、しかも人間を使っての、が共通テイスト。

  

●このところの園子温監督作品にはかつての熱さがみじんも感じられないが、「新宿スワン」も例外ではない。こんなチンピラ話がうれしいのだろうか?

  

●中年アクションスターとしてのリーアム・ニーソンはこのところマンネリ化が進んでいた。「96時間」でブレイクした後、同じようなスーパーマンアクションが続いた。コマ抜きのアクションにも飽きが来る。しかし、今月の「ラン・オールナイト」「誘拐の掟」はスーパーマンでないところが上手く出て、2本とも非常に面白い作品になった。

  

●ヴィゴ・モーテンセンも「涙するまで、生きる」「約束の地」の2本が公開された。「ロード・オブ・ザ・リング」のアラゴルン役で注目されたモーテンセンの持ち味は神秘性。その後の作品でもこの特徴を生かしてきたが、この2作でもますます目立つようになってきた。製作、音楽まで担当した「約束の地」はパタゴニアの荒野が印象に残る。「涙する…」のアルジェリアの風景、そこで生きる一人の人間の姿が鮮烈だ。

  

●ジェームス・ブラウンといえばソウルの神様、「ジェームス・ブラウン最高の魂を持つ男」は彼の伝記映画。驚いたのは彼の歌う姿、というか彼の踊りだ。マイケル・ジャクソンのムーンウォークまでほんの半歩というところ。昨年の「ジャージー・ボーイズ」のフォーシーズンズもあんな風に踊っていたのかという驚きがあったが、こういうのは見てみないと分からない。

  

●“ウォルト・ディズニー最大の謎にして最高のプロジェクト”が「トゥモローランド」の惹句。 “すべてが可能になるという理想の世界の謎がついに明かされる”ともある。本当ですか?これって何?というのが私の正直な感想。

  

●素人の発想の故か、身代金の支払いまで3週間近くもかかった実際の事件の映画化が「ハイネケン 誘拐の代償」だ。5人の幼馴染はそれぞれ逮捕されてしまうが、メインのふたりは出所後、悪の帝王になったというラストのコメントは衝撃。

  

●ニューヨークの元気なお年寄りを見ようと「アドバンスト・スタイル」を見に行ったのだが、あまり楽しめなかったのは、基本的に彼女たちのおしゃれが過剰だったから。少数の人を除いて、ごちゃごちゃの人が多すぎる。

 

 

 

 



今月のトピックス:思い込みは禁物 


Ⅰ 思い込みは禁物

 

 年を取っての影響なのか、元来注意力が散漫なのか、時に思い込みに裏切られる。
 今月はそんなことが2度あった。

 


その①
 上にも書いたように、最近のリーアム・ニーソン主演作はマンネリ感が強かった。まあ、確かに56才で「96時間」のアクションスターとして再出発というのは大変だったと思うが、その後に続々作られた同様のスーパーマン的アクション作品には流石に飽きが来る。
 「ラン・オールナイト」を見た時、主人公はその道のプロで、プロらしい動きを見せているが、痛みもきっちり抱え込んだ人間的な面がきちんと描かれていて面白いと感じた。

 しかし、「誘拐の掟」となると、そうそういい作品が続くわけないよと見放していたのだが、仕方なく見てみると、タイトルの後にローレンス・ブロック原作と出てくるではないか?

 すぐ、主人公が“マット”と知り合いから呼ばれるのである。
えーっと思う間もなく、“マット・スカダー”と再度呼ばれるのだ。
これだけでも驚きだった。好きな探偵の一人だったから。「八百万の死にざま」以来の映画化か。

 さらに、かなりスマート感のある作りとはいえ、原作の風味もある。
そう、思い込みで脇によけてしまうことの大きな損失を思うとぞっとする。

  

  

その②
 自動販売機で映画のチケットを買う時、はじめて気が付いた。
 「ビッチ・パーフェクト」じゃなくて「ピッチ・パーフェクト」だったのかと。チラシを見ると、サングラスをかけた7人のビッチ(風)がこっちを見ている。また、ビッチもの(そんなジャンルがあったか?)かと思い込んでいたのだ。完全な悪女って何なんだ?

 しかし、時間の関係で突如見ることになり、切符を買うことになった。えーっ、「ピッチ」だったの!内容など何も知らず、ましてアカペラグループの話だなどと知るわけもなく見たこの映画、あ~あ、出会えてよかった。

 アメリカでも大ヒットしたこの映画、「ピッチ・パーフェクト2」も全米1位に、その結果から、「3」の製作も最近決定したとか。

 

 思い込みは本当に怖い。気を付けましょう。

 

 

 

 

Ⅱ 初日プレゼント

 

 映画が封切られる時、その初日にはプレゼントをもらえる映画が時々ある。例えば、先週金曜日の夕刊の広告から拾ってみると次のようになる。

ターナー 光に愛を求めて:初日抽選プレゼント各回抽選で15名様に「サンハーブ グラスキャンドル」をプレゼント。

アリスのままで:先着来場者プレゼント “Fujicocco”(ソフトカプセル型ココナッツオイル)

 初日に多くの人に見に来てもらい、興行に弾みをつけるのが目的だ。最近は初めから終了日を決めていることが多いが、ロードショーの本来は客の入り方によって、その興行をいつまで続けるかを決めるのだ。その検討資料となるのが封切り日週末の成績ということになる。

 

 もらうことを目的に行ったことはないが、初日に見ることは時々あり、プレゼントをもらうことも時々ある。

 

 ちっちゃいおっさん オールインワンフェイスマスク:「騒音」のプレゼント関根勤100周年(生誕60年+芸能生活40周年)記念映画の「騒音」は、関根監督がおじさん(温水洋一、村松利史、飯尾和樹、酒井敏也など)を主人公に作った喜劇。おじさんがその特性(その内容は秘す)を活かして地底人と戦うというお話。そこでのプレゼントが“ちっちゃいおっさん”という訳だ。日本酒、プラセンタ、黒豆、3種のコラーゲン配合のフェイスパック、その袋では禿げ頭のおっさんが“めっちゃうるおっとるやないかい!!”と言っている。もらって嬉しかったかはちょっと微妙、ちなみにまだ使っていません。希望者には、女性も含め、お譲りします。お知らせください。

 ドレスミーアップ フレグランスボディーミスト:「しあわせはどこにある」のプレゼントこれは女性用でしょう。おっさん希望者にはこれも一緒にプレゼントします。
 7/10までに、遠慮なくお申し込みください。送り先も忘れずに。希望者多数の場合、勝手に抽選します。

 

 

 

 

 

Ⅲ 予告編

 

 予告編は本篇からのいいとこだけを取り出して、劇場用には2~3分、TVスポット用には15~30秒位で作られることが多い。いろんなもののパンフレットと同じように、見せ場を強調するのがその特性。その結果、予告編の方が良かったなんてことも。さらに、予告編を何度も見る(これは私だけかも)ことによる刷り込み度が高いため、特定の画面が印象に残りすぎ、本編を見ていてもその画面が出てくると安心するとか。

 

 しかし、時には予告編でしか見られない画面があったりする。特に日本映画では先に予告編を作るので、本編ではカットされた場面などが使われたりすることがあるんです。
 また、予告編で圧倒的に使われた音楽がそれほどは使われていなかったりすることも。

 短い時間でどんな映画かを伝え、見る気を起させるのが目的なので、その映画の言いたいことを要約していたりして便利だったり、時には勘違いではと思われるテーマに誘導してしまったりするのです。
 
 ということで、予告編には功罪相半ばするところがあるのですが、新しい映画のお知らせですからワクワクしないはずはありませんし、ワクワクしない予告編なんて…とも言えますね。

 ユナイテッドシネマ豊洲では最近、熊川哲也 Kバレエカンパニーの「海賊inCinema」の予告編をよく流している。設立15周年記念公演「海賊」の舞台を撮影して映画にしたものだ。

 この予告編、熊川の一人語りで始まるのだが、この日本語が限りなく恥ずかしい。なんでこんな話し方をしたのだろうか?“じゃん”言葉で内容のないことを話しかけられてもうれしくない。バレエは知性を上回るとでも言いたいのだろうか?

 

 すみません、最後は個人批判になってしまいました。

 

 

 


 今月はここまでです。
 次は夏休みも始まっている7/25にお送りします。

 

 


 



                         - 神谷二三夫 -


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