2020年 10月号back

 

コロナウイルスの感染が日本で始まって8カ月以上が経った。
いまだ終焉は見えてこない。
共存していくしかない状況だ。
どんな状況の時も閉まっていない限り受け入れてくれるのは、
そう、映画館!

 

 

 

今月の映画

 

8/26~9/25の順調に秋になろうとしている31日間に出会った作品は38本。
久しぶりに新作が多くなり、新旧比は邦洋合わせ32/6となった。
外国映画の新作が多くなったのだが、それでも作品は不足しているという印象。



<日本映画>

   11本(新7本+旧4本)

【新作】

もったいないキッチン 
れいこいるか 
事故物件 怖い間取り 
Challengedチャレンジド
宇宙でいちばんあかるい屋根 
喜劇 愛妻物語 
窮鼠はチーズの夢を見る

 

【旧作】
武士道無残
歌う弥次喜多黄金道中 
風雲金比羅山 
ふんどし医者 

 

 

<外国映画>

   27本(新25本+旧2本)

【新作】
オフィシャル・シークレット
  (Official Secrets)
2分の1の魔法
  (Onward) 
シリアにて
  (Insyriated / In Syria) 
シチリアーノ 裏切りの美学
  (Il Traditore / The Traitor) 
ようこそ映画音響の世界へ
  (Making Waves: The Art of Cinematic Sound) 
この世の果て,数多の終焉
  (Les Confins du Monde / To The Ends of The World) 
行き止まりの世界に生まれて
  (Minding The Gap) 
mid90sミッドナインティーズ
  (Mid90s) 
パヴァロッティ 太陽のテノール
  (Pavarotti) 
グッドバイ,リチャード!
  (The Professor) 
ミッドウェイ
  (Midway) 
スペシャルズ! 政府が潰そうとした自閉症のケア施設を守った男たちの実話
  (Hors Normes / The Specials) 
マイ・バッハ 不屈のピアニスト
  (Joao, O Maestro) 
ソニア ナチスの女スパイ
  (Spionen / The Spy) 
ファナティック ハリウッドの狂愛者
  (The Fanatic)
チィファの手紙
  (你好,之華 / Last Letter) 
テネット
  (Tenet) 
マーティン・エデン
  (Martin Eden) 
プリズン・エスケープ 脱出への10の鍵
  (Escape from Pretoria) 
ヴィタリナ
  (Vitalina Varela) 
新しい街 ヴィル・ヌーヴ
  (Ville Neuve / New Town) 
メイキング・オブ・モータウン
  (Hitsville: The Making of Motown)、
ブリング・ミー・ホーム 尋ね人
  ( Bring Me Home) 
ブルータル・ジャスティス
  (Dragged Across Concrete) 
ウルフズ・コール
  (Le Chant du Loup / The Wolf’s Call)

 

【旧作】
真夏の夜のジャズ
  (Jazz On A Summer’s Day) 
思い出
  (The Student Prince in Old Heidelberg) 

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

  (新作だけを対象にしています)

 

① テネット
クリストファー・ノーラン監督はフィルム(デジタルではなく)にこだわり、CGも極力避け(ジャンボ機も買ったとか、突っ込むために)、配信ではなく映画館の上映にこだわったという。彼の映画ほど1回観ただけではその総てを理解することは難しく、複数回見ることで分かってくることがある作品は他にない。今回はさらに時間が逆行するという内容で、力強い映像で納得させられてしまうのだが、完全な理解には至っていない。DVD等で何度も、しかも画面を止めながらでも見ることができる鑑賞方法の時代向けの映画ではある。

 

② オフィシャル・シークレット
イラク戦争を開戦するために米国の諜報機関NSA(国家安全保障局)から英国の諜報機関GCHQ(政府通信本部)に送られてきた驚くべきメール。GCHQに勤務するキャサリン・ガンの勇気と、彼女を支えるイギリスの人たち、忖度などしない心からの声を中心に実話を描く必見作。

 

③ シリアにて
ダマスカスのアパートのある家族の家で繰り広げられるドラマは、まるで舞台劇のようにその屋内だけで進行するが、現在のシリアの厳しい状況を伝えている。監督・脚本でこの映画を作り上げたのはベルギー人のフィリップ・ヴァン・レウ。

 

 

 

 

映画館で楽しめる作品は他にも。(上映が終了しているものもあります。)


れいこいるか:1995年は大きな事件・災害があった。阪神大震災で娘を失くした夫婦のその後をほぼ5年ごとに振り返りながら描いていく。それぞれの人生を歩む二人は、それでもいつもの地区で出会う。ふらふらと自由さと哀しみが入り混じった映画になった。

 

事故物件 怖い間取り:中田秀夫監督(「リング」「スマホを落としただけなのに」等)が芸人松原タニシの原作を映画化。Jホラーのおどろおどろしさが内容のためか軽減、その軽さが一般受けして大ヒット、楽しめます。

 

シチリアーノ 裏切りの美学:81歳のマルコ・ベロッキオ監督が描くのは、1980年代に起こったシチリアでのマフィアの全面戦争から始まり、その後“血の掟”破り、さらにその後証人保護下でのアメリカ迄。イタリアでは良く知られた出来事だろう。

 

ようこそ映画音響の世界へ:1927年10月「ジャズシンガー」の公開でハリウッドのトーキー時代が始まった。この時はヴィクタフォン方式という別のレコード盤を使って音を出していたのだが、翌年にはサウンド・オン・フィルム方式(サウンドトラック方式)がディズニーの短編アニメ「蒸気船ウィリー」で採用され、それ以来この方式が主流になり現在に至る。90年以上経つ映画音響の発展、特に1960年代~に焦点を合わせ教えてくれる。

 

行き止まりの世界に生まれて:アメリカ、イリノイ州にあるロックフォードはラストベルトにある町、閉塞感のある町で育った3人の若者を追ったドキュメンタリー。3人の一人ビン・リューが趣味で始めていたスケートボードとそのビデオ撮りから、12年に渡って撮りためたものから作った作品。スケートボードの疾走感を捉えたカメラが見事。

 

この世の果て、数多の終焉:1945年3月のベトナム、以前からフランスが支配していた国に日本軍が侵攻し、初めは両軍が協力関係を結んでいたのだが。日本軍がフランス軍を攻撃し虐殺をしている場面から映画は始まる。兄夫婦を殺された復讐を目指すフランス兵が、ヴォー・ビン・イェン中尉を探して45年12月まで彷徨う様はほとんど地獄の黙示録だ。

 

パヴァロッティ 太陽のテノール:3大テノールの一人パヴァロッティはそのあけっぴろげな人柄で多くの人々を魅了してきた。ロン・ハワードが監督したドキュメンタリーは彼の魅力を拾い上げ、見ている我々を明るくしてくれる。

 

宇宙でいちばんあかるい屋根:昨年「新聞記者」で多くの賞を獲得した藤井道人監督の新作は、野中ともその同名小説を映画化したもの。14歳の少女大石つばめを演じる清原果耶と不思議な星ばあを演じる桃井かおりが頑張っている。

 

喜劇 愛妻物語:「百円の恋」等の脚本家足立紳が自らの生活を脚本化、監督した新作。徹底的に夫をいびる妻と、うじうじといびられる夫のドラマは実際に足立宅で撮影されたとか。殆ど夫婦漫才のような面白さ。

 

スペシャルズ! 政府が潰そうとした自閉症のケア施設を守った男たちの実話:この長い副題が告げているように実話の映画化。重度自閉症の子供たちを受け入れる<正義の声>を運営するブリュノと、ドロップアウトした若者を社会復帰させる<寄港>を運営するマリクの物語。惹句は“愛はどうだ!”!

 

マイ・バッハ 不屈のピアニスト:ジョアン・カルロス・マルティンは20歳でカーネギーホールデビューの天才だったが、怪我により右手3本の指に障害が、更に頭を殴られて話か演奏かとなり、左手だけの演奏を続けたがそれも不可となり、指揮者に転身。正に不屈。驚いた。リオのパラリンピック開会式でハンディキャップの両手で国家を演奏したとか。

 

チィファの手紙:今年の1月に公開された「ラストレター」は、実はこの作品のリメイク(?)だった。中国では2018年11月に公開されている。共に岩井俊二の原作、脚本、監督、編集と同じ役割を果たし、物語はほぼ同じだ。派手(?)でない分、こちらの方がすんなり受け入れられた。

 

マーティン・エデン:ジャック・ロンドンの自伝的小説をイタリアに舞台を変え映画化。脚本も書いたピエトロ・マルチェッロはナポリの青年の話にしている。労働者から作家を目指すのだが、後半突然高慢な売れっ子作家になっていたのには驚いた。

 

プリズン・エスケープ 脱出への10の鍵:1978年、アパルトヘイト下の南アフリカで反アパルトヘイト運動をしていた二人の白人青年、逮捕収監された彼らがプレトリア刑務所から脱獄するのを描く実話の映画化。

 

ヴィタリナ:ペドロ・コスタ監督の深い陰影をたたえる画面の力強さに圧倒される。彼が描き続けるリスボンの移民が住む貧民街フォンタイーニャスにやってきた女性ヴィタリナの物語。ドキュメンタリーとフィクションの境界線を飛び越えて描かれる。

 

新しい街 ヴィル・ヌーヴ:フェリックス・デュフール=ラペリエールというフランス系カナダ人監督のアニメーションは非常にユニークだ。手書き墨絵のような画、詩が読まれ、海辺の風景が打ち寄せる波になり、魚が泳ぐ。ただ、途中で眠りに誘われた。監督はタルコフスキーに憑りつかれていたらしい。そうであれば幸福な眠りに誘われても不思議はない。

 

メイキング・オブ・モータウン:モータウンの創設者ベリー・ゴーディはデトロイトのフォード工場で働いていて、ベルトコンベア方式の製作方をヒントにモータウンを作り上げたという。60年代ビートルズに対抗できたモータウンサウンドについてのドキュメンタリーは見所満載。あの頃若かったポピュラーファン必見です。

 

ブリング・ミー・ホーム 尋ね人:7歳の息子が失踪してから6年、一緒に捜し歩いていた夫が事故死した後、ある情報が寄せられる。息子を探し続ける母親の物語。アメリカでも多いと聞く子供の失踪、韓国にもあるのだろうか?リアリティを持って描かれるこの映画は、1980年生まれのキム・ウンスという監督が自ら脚本を書き監督デビューした作品。

 

ブルータル・ジャスティス:コンビを組む刑事の映画、今までに何本見てきただろう。定年間近のベテランと、40歳くらいだろうかのこの映画の二人は…。2時間39分は長すぎだが、まるで小説で読んでいるような細部の作り込みが上手く、つい引きずられてしまう。監督・脚本・音楽と一人三役のS・クレイグ・ザラーは初めて聞く名前だ。

 

 

 

 


Ⅱ 今月の旧作

 

<日本映画>4本見た旧作の内、印象に残ったのは次の1本。
歌う弥次喜多黄金道中:1957年といえば映画の黄金時代、日本で最多の集客を集めた年の1年前、松竹の正月作品として作られた。オールスターキャストと言っても、高田浩吉と伴淳三郎が弥次喜多を務め、アチャコ、広沢虎造、トニー谷、島倉千代子、こまどり姉妹、ミス・ワカサと島ひろし、ミヤコ蝶々/南都雄二、玉川一郎、東富士と芸人がわんさかだ。
美貌、美声とスター性充分な高田浩吉と、思いのほか美男子の伴淳のコンビは快調なのだが、杓子定規な笑いが現在の我々にはなかなか響かない。一時の山田洋次監督作品を見ているようだった。

 

 

<外国映画>2本の内、印象に残ったのは次の1本。
真夏の夜のジャズ:1958年の夏、アメリカ東北部のニューポートで行われたジャズフェスティバル+ヨットレースを追ったドキュメンタリー。写真家のバート・スターンが監督している。最近は音楽に関してのドキュメンタリーは数多いが当時ではまだ珍しい。写真家の選んだ風景は美しく、まるでビデオクリップのよう。出演者の中にロックンロールの創始者と言われるチャック・ベリーがいて、スウィート・リトル・シックスティーンを歌っている。

 

 

 

Ⅲ 今月のトークショー

 

8月27日 新宿K’sシネマ「れいこいるか」いまおかしんじ監督、中野太(脚本家)、荻野友里(俳優)
「れいこいるか」の上映中毎日、監督中心のトークショーが行われていたようで、この日も上映後に二人のゲストと共に対談が行われた。二人はこの作品に関係している訳ではない。監督の知人のようで、このトークショーは殆ど友人会話のようになっていた。どこで泣けたとか、そうねとかの話で心地は良かったが、残念ながら覚えていない。監督の人となりはよく分かったし、作品理解にも役立った。

 

 

 

Ⅳ 今月のつぶやき


●それまでに何度も見ていた予告編が間違えて映写されたのかと思ったのは「もったいないキッチン」が始まった時だ。そんなあほなことはあり得ないという思いながら、少し経つと違う場面が出てきたのでほっと安心した。流石に“もったいない”精神が発揮され、始まりは本編と同じ予告編で感心した。

 

●今までドキュメンタリーという形で我々に届けられてきたシリア内戦、「アレッポ最後の男たち」「娘は戦場で生まれた」等の作品と同様にその悲惨さを伝えてくれた「シリアにて」は、完全にフィクションとしての作品であることに驚く。

 

●映画に音がなかったらどんなに違うものになってしまうかを教えてくれる「ようこそ映画音響の世界へ」は、様々な音に慣れきった現代人に芸術としての映画に音響がいかに貢献しているか、更にいかに作られているかも含めて教えてくれる。

 

●スケートボードがいかにアメリカの若者、特に脱出先のない若者に愛されているかを教えてくれる映画が2本、「行き止まりの世界に生まれて」と「mid90sミッドナインティーズ」だ。驚くのは、彼等が一般道路で滑っている場面が結構あること。こうした場面がないと「行き止まり」の爽快感は得られないが。前者で見られるくらいに空いた道路ばかりであればよいが、後者ではまだ下手な主人公が結構交通量のあるところを滑るので驚く。

 

●映画のサイトに“クリント・イーストウッドが興味を持ちジョアン・カルロス・マルティンに直接接触しようとしていた”とあった「マイ・バッハ 不屈のピアニスト」はその後ブラジルで作られることになり、ブラジル人のマウロ・リマが監督した。

 

●ジョン・トラボルタが主演し製作にも加わっていた「ファナティック ハリウッドの狂愛者」は主人公の設定が、どう見ても知的障害のある人のように感じられる。色々な意味で偏見に満ちた避けたい映画。

 

●ニール・ヤングが出てきて驚いたのが「メイキング・オブ・モータウン」だ。画面の説明で“モータウンと契約していた”と出てくるが、えっホント?という感じ。本当ですかねえ?違和感があったのがスプリームスの名前、当時はシュプリームス(または、シュープリームス)と表記されていた。更に一番好きだった「ストップ・イン・ザ・ネイム・オブ・ラブ」が聞けなかったのは残念。

 

●自分の車の後ろに失踪した息子の写真を掲げ捜索をお願いしている主人公夫婦を見ると、こうしたことが韓国では行われているのだろうかと想像した「ブリング・ミー・ホーム 尋ね人」。そういえばアメリカでは牛乳パックの箱に子供の写真を印刷して捜索をしているとの情報を、かなり前にテレビで見たことを思い出した。

 

●潜水艦ものはハズレがないという信念に基づき初日に見た「ウルフズ・コール」はどこと闘うのだろうと思ったが、そうかこういう方法があったのかと納得。今の時代での潜水艦ものの宿命か。

 

 



今月のトピックス:日常に戻る?   

Ⅰ 8日常に戻る?


2カ月近く閉館された映画館は6月にオープンした。次の条件のもとにだ。
座席は半分に減らす。上映中はマスクを着用する。映画館の換気はいつも通りに。
この4か月近くこの状況下で映画を見続け、それに慣れてきた。なんだか、この形での映画館も悪くないな、特に座席が1つおきに空席というのが、映画館の経営を考えなければ心地良い。個人的には左膝を痛めたこの2か月余は、心地良い以上に左足を伸ばせるのがありがたかった。
9月19日から映画館等の人が集まる場所の規制緩和が行われた。映画館は座席の一つ置きという規制は無くなった。これに対する映画館の対応方は映画館によって異なっている。東京のかなりの映画館は9月19日から全席販売に変更しているが、次の映画館は違う対応をしている。(9月24日、主に東京調べ)
現在も1席おき空け、全席の50%での販売:TOHOシネマズ、ユナイテッドシネマズ、シネプレックス、109シネマズ、角川シネマズ、岩波ホール、丸の内TOEI、シネマート
2席ずつ空け、全席の約33%で販売:早稲田松竹
全席の約80%を販売:シネスイッチ
9月末までは50%を、10月からは全席販売:ポレポレ東中野
10月2日までは50%、10月3日からは約70%を販売:ギンレイホール

 

同じ系列の映画館でも場所によって全席発売だったり、50%販売だったりすることがあり、また現在50%販売の映画館でもいつ100%販売に変えられるかははっきりしていない。
気になる方は出かける前に映画館のサイトで確認するか、或いは直接電話して確認してください。

 

個人的には左足を痛めているので、左が通路に面している席を選ばなくてはならず、1席空け座席は良かったなあと思うこの頃。

 

 

 

Ⅱ 最近気になったチラシ


映画館で新しいチラシを見ると持ってきてしまう。収集している訳ではなく、情報があればという気持ちで。最近のチラシで気になったものは次の通り。

 

生誕100年 映画俳優 三船敏郎:国立映画アーカイブで10月2日~22日に開催上映される三船の特集。デビューの「銀嶺の果て」と最後の「深い河」を含め27作品が上映される。現在国立映画アーカイブは総て前売りのみになっていて、既にかなり混んでいる。

 

向こう見ずの美学 ジャン=ポール・ベルモンド傑作選:60~70年代フランスではアラン・ドロンをしのぐ人気を誇ったベルモンドの8作品が特集上映。アクション、コメディ作品中心で10月30日から新宿武蔵野館で。

 

NETFLIX世界征服の野望:コロナ禍の巣ごもりという追い風があり、今や飛ぶ鳥を落とす勢いのNetflixについてのドキュメンタリー。“弱肉強食のビジネスで勝つための極意がぎっしり詰まったベンチャー起業家のための最新教科書”と書かれています。12月11日より。

 

 

 

 

 

今月はここまで。
次号は個人的には左ひざが少しでも良くなっていてほしい10月25日にお送りします。


                         - 神谷二三夫 -


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