2020年 11月号back

 

今日の天気は快晴、青い空が広がる。
今年の秋は順調、寒くなりつつある。
なのにコロナ感染だけは収まらない。
時には楽しむ時間で忍耐心。
勿論、楽しむのは映画館!

 

 

 

今月の映画

 

9/26~10/25のどんどん秋が深まる30日間に出会った作品は41本。
今月は日本映画が外国映画を圧倒したが、その要因は旧作の三船敏郎特集上映だ。それを除いた新作でも日本映画が1本差で勝利。驚きだ。
今もって外国映画の大作群は、アメリカでの公開状況から延期、再延期(「007」は11月から4月に再延期)が相次ぎ、作品が不足している。「ムーラン」など配信での公開に変更したものもある。新作の製作も含め様々な遅れが解消されない限り、元の状態に戻るのは難しいだろう。



<日本映画>

   28本(新14本+旧14本)

【新作】

甘いお酒でうがい 
ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩-Ballad、 
おかえり ただいま 
望み 
ミッドナイト・スワン 
生きちゃった 
セノーテ 
みをつくし料理帖 
浅田家! 
アイヌモシリ 
スパイの妻 
鬼滅の刃 無限列車編 
朝が来た 
ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ

 

【旧作】
<生誕100年 映画俳優 三船敏郎>
銀嶺の果て
婚約指輪 
蜘蛛巣城 
男ありて 
吹けよ春風 
ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐 
連合艦隊司令長官 山本五十六 
暗黒街の対決 
深い河
顔役無用 
五十万人の遺産 
大盗賊 
どぶろくの辰 
赤毛

 

 

<外国映画>

   13本(新13本+旧0本)

【新作】
アダムス・ファミリー
  (The Addams Family) 
鵞鳥湖の夜
  (南方車站的聚会 / The Wild Goose Lake) 
マティアス&マキシム
  (Matthias et Maxime / Mtthias & Maxime) 
フライト・キャプテン 高度1万メートル,奇跡の実話
  (中國機長 / The Captain) 
フェアウェル
  (The Farewell)
ある画家の数奇な運命
  (Werk Ohne Autor / Never Look Away) 
82年生まれ,キム・ジヨン
  (Kim Ji-young: Born 1982) 
異端の鳥
  (Nabarvene Ptace / The Painted Bird) 
わたしは金正男(キム・ジョンナム)を殺してない
  (Assassins) 
ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ
  (The Last Black Man in San Francisco) 
ライフ・イズ・カラフル! 未来をデザインする男 ピエール・カルダン
  (House of Cardin) 
博士と狂人
  (The Professor and The Madman) 
ストレイ・ドッグ
  (Destroyer)

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

  (新作だけを対象にしています)

 

 異端の鳥
東欧のどこかの国らしいがどこだろうか?まるで中世と言っても不思議はないような田舎の佇まいと貧しさを感じさせる衣類。白黒のシャープな画面で描かれるのは子供に対する暴力、虐待だ。後半、ナチスやソ連の権力が垣間見え一面寓話性が薄れるが、それでもこれだけ強いイメージを伝えてくるのは、作り手の思いの強さだろう。ポーランドのイェジー・コシンスキーの小説をチェコ人のヴァーツラフ・マルホウルが映画化。

 

②-1 博士と狂人
辞書の最高峰と言われるオックスフォード英語大辞典の誕生を追ったノンフィクション本を原作に、驚くべき真実が描かれた映画。学士号を持たない言語好きと、南北戦争での精神的障害からアメリカを逃れイギリスにやってきた男との邂逅によってこの辞書は出来上がったのだ。落ち着いた画面で面白い映画を作った(脚本・監督)のはP.B.シェムランというテヘラン生まれのイラン系アメリカ人で、これがデビュー作とは驚く。

 

②-2 ストレイ・ドッグ
いやー、やってくれました。ニコール・キッドマンがハードボイルドを演じるこの映画の原題はDestroyer破壊者だ。オリジナルでここまでしっかりした主人公を作り上げた脚本(フィル・ヘイ、マット・マンフレディ)もいいが、テンポよくハードに描き切った監督(カリン・クサマ)とシャープな映像で支えたカメラ(ジュリー・カークウッド)の女性二人の造り手の技量も賞賛に値する。

 

③-1 ある画家の数奇な運命
2006年に「善き人のためのソナタ」でデビューしたフロリアン・ヘンケル・フォン・ドナースマルク監督の新作は、ナチス政権の時代から、東ドイツ体制下、西ドイツに亡命した時代まで、体制に翻弄される主人公を描く。今回公式サイトを見て、この主人公のモデルが現代美術界の巨匠ベルハルト・リヒターということを知った。驚き!

 

③-2 アイヌモシリ
阿寒湖畔でアイヌ民芸品店を営む母と暮らす14歳のカントと周りのアイヌの人々を描く作品は、北海道出身38歳の福永壮志の長編第2作。2003年に渡米し映像制作を学んだという。米、英の映像会社に監督/脚本家として所属している。今作品は日米中の合作だ。変に騒がしくなく、落ち着いた映画作りに感心した。今月のトークショー参照。

 

 

 

 

他の昨品も映画館で楽しみしょう。(上映が終了しているものもあります。)


アダムス・ファミリー:元は雑誌「ニューヨーカー」に掲載の一コマ漫画、それがTVドラマ、TVアニメから実写映画、ミュージカルまでになったが、今回はアニメの映画。テンポよく、シニカルに快調な出来。

 

鵞鳥湖の夜:「薄氷の殺人」で鋭い切れ味を見せたディアオ・イーナン監督の新作中国映画。今回も斬新な画面で中国のチンピラ社会を描写、まるで鈴木清順のようなタッチ。台湾の「藍色夏恋」でデビューの台湾生まれグイ・ルンメイが魅力的。

 

◎ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩-Ballad:60年代流行っていたジャズ喫茶が今も全国に600軒もあるというのに驚いた。岩手県の一関市で50年続くベイシーを中心に、マスター菅原正二氏のインタビューや多くの有名人インタビュー、実演などが続きジャズ好きにはたまらない作品だろう。

 

おかえり ただいま:東海テレビのドキュメンタリー13作目は、名古屋闇サイト殺人事件をドラマ仕立て(斉藤由貴などを使い)で見せ、その後本人が登場する変わった構成。やはり本人の印象の方が強いのだが、それでもドラマ仕立てにしたのは事件の本質をきちんと見せたかったのだろう。

 

望み:雫井修介の小説からの映画化、脚本奥寺佐渡子、監督堤幸彦。息子が加害者なのか、被害者なのかという状況下での、マスコミの動き、知り合いの反応等を極リアルに描く。

 

ミッドナイト・スワン:草彅剛がトランスジェンダーを演じたことが話題となった作品は、流行り(?)のLBGT的要素よりも、バレエという芸術に力が入っていた。

 

わたしは金正男(キム・ジョンナム)を殺してない:2017年2月クアラルンプールの空港で北朝鮮の最高指導者の異母兄金正男(キム・ジョンナム)が殺された。犯人として逮捕されたのは二人の女性。彼女たちの真実、事件後北朝鮮に去った8人の男たちなど、実像に迫るアメリカ製作のドキュメンタリー。世界最速公開!とか。

 

ラストブラックマン・イン・サンフランシスコ:何とも不思議な雰囲気の映画だ。優雅な、あるいは絵画的な画面で描かれる。

セノーテ:メキシコ、ユカタン半島北部に点在するセノーテと呼ばれる洞窟内の泉を写すドキュメンタリー。美しさに感嘆する。作ったのは1987年大阪生まれの女性、小田香。今年創設された新しい才能に与えられる大島渚賞の第一回受賞者となった。

 

みをつくし料理帖:70年代後半出版業から映画界に進出した角川映画はその大作群が客を呼び、メディアミックスの成功例とされた。製作者として70作以上を手掛けた角川春樹が10年ぶりに8本目の監督作として作り上げた作品。

 

浅田家!:「湯を沸かすほどの熱い愛」の中野量太監督の新作。「浅田家!」という写真集で木村伊兵衛賞受賞の写真家浅田政志と家族を描く。この題材が面白く、元気印の面目躍如。

 

スパイの妻:ヴェネチア映画祭で銀獅子賞(監督賞)受賞はメディアでも多く報道された。黒沢清監督は東京芸術大学院映像研究科での教え子、濱口竜介、野原位と共同で脚本を書き監督をしている。それ故か、まがまがしさもなく、まるで泰西名画を見るような画が続く。

 

 

 

 

 


Ⅱ 今月の旧作

 

<日本映画>

国立映画アーカイブで行われた<生誕100年 映画俳優 三船敏郎>では27作品が上映された。未見作品を中心に14作品を見た。偉大な俳優の様々な顔に出会った。


銀嶺の果て:1947年のデビュー作。谷口千吉監督。黒澤明脚本。最後まで悪役を演じ死んでいき、強い印象を残す。山岳映画的な描写もあり楽しめる。


婚約指輪:1950年木下恵介の脚本・監督作品。田中絹代が日米親善使節として渡米後帰国、銀座のパレードで投げキッスをして顰蹙を買った後の帰国後第1作。木下の脚本は細かく書き込まれ、三船の快活で裏表のない若い医師が新鮮な印象。田中もあか抜けています。


蜘蛛巣:1957年の黒澤明監督作品はマクベスを戦国時代に翻案、能の様式を取り入れた必見作。三船に向かって無数の矢が放たれる有名シーンは流石の出来、後に三船は“この時は怖かった。『後でぶっ殺すぞ』と思ったよ。震えながら逃げ回ったけどね”と語ったらしいが、実際に弓が撃たれていたので、監督を殺したいと思ったのもうなずける。


男ありて:1955年の作品、主演は三船と多く共演している志村喬で彼の代表作とも言われる。志村が弱小野球チーム東京スパローズの監督、三船は主力選手で監督代行もする役。


吹けよ春風:1953年作品。三船演じるタクシー運転手が遭遇する様々な人生模様を描く。監督は谷口千吉、脚本は黒澤と谷口の共同でいかにもな話が続く。越路吹雪が歌手役。


ハワイ・ミッドウェイ大海空戦 太平洋の嵐:1960年作品。監督は元海軍士官で僧侶でもあった松林宗恵、単純な戦争ものにはしていない。円谷英二の特撮は当時としては流石の出来。


連合艦隊司令長官 山本五十六:1968年作品。8.15シリーズの第2弾。アメリカとの開戦に異を唱え、早期終結を目指しながら前線視察時に戦死した良識的指揮官を三船が演じた。 上の「太平洋の嵐」と同じ日に見たのだが、特撮場面が流用されていたと思われる。


暗黒街の対決:1960年岡本喜八監督作品。トレンチコートで刑事を演じる三船とヤクザから足を洗った鶴田浩二で見せるテンポのいいアックション作品。


深い河:1995年の熊井啓監督作品が三船の遺作となった。インド・ベナレスに向かうツアー参加者達のエピソードを描く。三船は参加者の一人のエピソードに現れる戦友役。


顔役無用:1955年山本嘉次郎監督作品。正義感にあふれた銀座の顔役・三船と女にもてるダフ屋の鶴田の共演作。


五十万人の遺産:1963年三船唯一の監督作品。戦争中に日本軍が隠した7億円相当の金貨を求めてフィリピンで繰り広げられる冒険活劇。黒澤明が編集に関わり黒澤組のスタッフが結集したとも言われる三船プロ第一回作品。


大盗賊:1963年の谷口千吉監督作品は、南のとある国に流れ着いた三船演じる豪商が、その国の姫を助けるファンタジーに富んだ冒険物語。


どぶろくの辰:1962年の稲垣浩監督作品は、新国劇及びその初映画化作品(1949年)の再映画化。飯場を渡り歩く肉体労働者の世界が2人の女を絡めて描かれる。


赤毛:1969年の岡本喜八監督作品。幕末、赤報隊に参加した農民出身の主人公、圧政に苦しむ民衆を救おうとするのだが、組織に裏切られる悲劇を描く。

 

 

 

 

Ⅲ 今月のトークショー

 

10月18日 ユーロスペース「アイヌモシリ」福永壮志監督、下倉幹人、下倉絵美
封切り2日目、舞台挨拶はないと思って出かけたら、初日に続きこの日も挨拶があった。38歳の福永監督と、少年カントを演じる下倉幹人、母親役エミを演じる下倉絵美の実の親子が出演。下倉絵美はミュージシャン、息子の幹人は演技は初めてらしいが、ドキュメンタリー作品で撮られたことはあるらしい。
福永監督自身が北海道出身なので、アイヌの知識はあったのだろうが、脚本も書いている。この作品ではそれぞれ個性のあるアイヌの人たちが出演しているが、主演の少年が一番重要なのでオーディションを重ねたが、最終的に紹介された下倉の息子になったという。それに合わせて登場人物の名前もカント、エミになったのだろう。幹人は目力の強い、秘めた思いが感じられる少年で、彼を得たこともこの作品が成功した要因の一つだろう。

 

 

10月24日 シネスイッチ「ムヒカ 世界でいちばん貧しい大統領から日本人へ」田部井一真監督
10月2日の封切りから3週間以上過ぎた土曜日にトークイベントがあるのは珍しい。それを知らずに出かけた。10月20日にムヒカ元大統領が政界から引退を発表したので、一つの契機にはなったのかもしれないが、監督のトークでは最後に少し触れられただけだった。この映画はフジテレビによって製作され、田部井監督もフジテレビの社員だ。このトークイベントには進行役の人がいて、舞台の下から舞台上の監督に問いを発していたが、彼は濱潤というプロデューサーで監督の上司だという。
確かに作品にも音楽の使い方(妙に盛り上げる)や、インタビューに行く監督の軽さ(下準備は大丈夫か?)などにフジテレビ的なテイストがあった。それが悪いという訳ではないが、従来のドキュメンタリーのテイストとは少し違っていて、テレビ番組のように感じられた。
映画は監督の息子が始めと終わりに話題になる。ほせ(漢字失念)と、ムヒカと同じ名前が付けられていた。監督自身は出したくなかったようだが、押し切られたのだろう。
写真は撮っていただいて大丈夫です。むしろ撮っていただいて、SNS等で情報を流してくださいとのことだった。

 

 

 

 

 

Ⅳ 今月のつぶやき


●お笑い番組を見ないのでシソンヌ じろうはよく知らないのだが、彼が自身の小説から脚本を書いているのが「甘いお酒でうがい」だ。監督は大九明子監督。主人公や女性の社員の描写にちょっとした違和感があった。女性はどう見たのだろうか?

 

●小澤征爾もインタビューに登場した「ジャズ喫茶ベイシー Swiftyの譚詩-Ballad」はなかなか渋い内容。“ジャズとクラシックは似ている”との小澤の言葉は、中学生の頃からそう感じていたのでうなずく。だから、どちらでもないポピュラーばかり聞いていた。

 

●あか抜けた人と感じたことがなかった田中絹代だったが、「婚約指輪」には驚いた。正にあか抜けていたからだ、特に開始5分の彼女は別人のようだった。アメリカから帰国後初めての作品だったと後で知って、うなずいてしまった。

 

●ドレスデンからはじまり、ベルリン(東→西)、デュッセルドルフと移り住む「ある画家の数奇な運命」の主人公。芸術に親しむ素地を与えてくれた叔母さんをガス室に送り込んだナチス政権の所業と、東ドイツ政権下での息苦しさが主人公を苦しめる。

 

●チョ・ナムジュの原作は日本でも話題になった「82年生まれ、キム・ジヨン」、原作を読んでいないので映画が原作通りか分からないが、映画で見る限りここに描かれていた女性の問題は日本でも問題になっていたと思うが、それは50年近くも前のことではなかったか?日本でそれが解決されたとは思わないし、残っている部分も多いのだが、その頃からの変遷を書こうと思う人はいないだろうか?

 

●土屋嘉男がフィリピン残留兵として現れた時、その腰布だけの姿に少し笑い声が聞こえた「五十万人の遺産」。現地の山岳部族の娘と結ばれていたのだ。戦中はフィリピン人に嫌われ、戦後は報復を恐れて隠れるように暮らすしかなかった日本兵と、その孤児たちに思いが行ってしまうのは、9月号でお伝えした「日本人の忘れもの」を見ていたからだ。

 

●原作者の国ポーランドか、監督の国チェコか?舞台となった国はどこだろうとずっと考えた「異端の鳥」は、インタースラヴィックという人造言語を使って作られたと後で知った。具体性を排除することで誰にも起こりうるというメッセージを送っていたのだ。

 

●数年前香山リカさんとネトウヨの間でアイヌ論争があった。信じられないことにアイヌはいる/いないの論争だったのだ。トランプ大統領が出てきたことでフェイクニュースが認められてしまう風潮になっていた。それもあって、近くの文化センターで「アイヌ文化・歴史を学ぶ」という講座に参加してみた。1回目の講座で千葉大教授の中川裕さんの話を聞いて驚いた。今アイヌ文化は多くの人に興味を持たれているというのだ。時代は変わった。フェイクは負けた!「アイヌモシリ」にはかなりの人が駆けつけていた。

 

●辞書誕生までの秘話を描く「博士と狂人」を見ていると、狂人は統合失調症と診断される。一つのことに入れ込む、いわばオタクのような人がいないとこうした偉業は成し遂げられなかったことを実感する。

 

 

 

 



今月のトピックス:映画の話題   

Ⅰ 映画の話題


10月21日のNHK朝6時のニュースを見ていたら、映画の話題が2つも取り上げられていた。一般のニュースの時間に映画の話題が取り上げられることはあまりない。一番多いのは、何らかの賞関係で、最近で言えば「スパイの妻」がヴェネチア映画祭の銀獅子賞受賞の話題だった。
このニュースで取り上げられていたのは次の事柄。他からの情報も含めて紹介したい。


変わる映画界
3年前の#MeToo運動以来、映画界における男女比率を変えていこうという動きだ。50/50by2020と呼ばれるこの運動はスウェーデン映画協会などの呼びかけにより、世界中の映画祭での作品の監督や映画祭の審査員の男女の割合を平等にしようというもの。こうした呼びかけに世界中の映画祭のうち、119の映画祭が署名をしたというものだ。今月31日からの東京国際映画祭は署名はまだだが、昨年から各部門における男女比率は発表しているとニュースでは伝えていた、どこに発表されているかは探しても分からなかったが。
50/50by2020ということは、今年中に男女半々比率にしたいというのだろうが、現状の女性監督比率はそこ迄にはなっていないので当然作品数も少ないはず。これから暫くは映画祭では女性監督作品の方が有利になるということになるのだろうか?
男女比率問題は色々な分野でも問題になっている。今まで多くの分野で男性の方が中心になってきたということなのだろう。映画界においても状況は同じだ。特に監督では女性比率が少ないように思われる。
性別を区別しないという方向では、ベルリン映画祭が2021年から男女優賞を廃止して、最優秀主演賞、最優秀助演賞にすると発表している。監督賞や脚本賞では性別区分はなく、それと同じようにするというものだ。
更に多様性という方向では、アメリカのアカデミー賞が2024年から作品賞の対象となる条件として“出演者やスタッフに、女性、少数派の人種、LBGT+(性的少数者)、障害者が一定数いることを必要とする”を新たに付け加えている。

 

 

「鬼滅の刃 無限列車編」
10月16日に封切りされた「鬼滅の刃 無限列車編」が大ヒットを記録している。10月16日(金)~18日(日)の週末3日間の集客は342万493人、興行収入は46億2311万7450円となっている。16日の観客数と興収が平日の歴代1位、17~18日は同じく土日の歴代1位となる記録的な封切りとなった。
「鬼滅の刃」は週刊少年ジャンプに連載されていた人気漫画。作者は吾峠呼世晴(ごとうげこよはる)で、超人気だったにもかかわらず連載は今年5月で終了している。この漫画が始めはTV用アニメとして製作されMXテレビで放映、更にフジテレビでも放映され人気に。今回の映画はテレビ放映分の続編として製作された。作品の内容も知らず、テレビも見ていない人には分かり難い映画のはず。製作者はそれを差し置いても、テレビ鑑賞者を映画館に呼び込みたくこの方法を取ったのだろう。
コロナ禍のために、特に外国映画、主にハリウッド製の大作が公開延期となり映画館は作品不足になっていたのも幸いした。いずこのシネコンも可能な限りの上映回数で番組編成をした。最高回数はTOHOシネマズ新宿での初日で42回となり、メディアでも話題になった。映画館が久しぶりに人で混み合ったという状況になった。

 

 

 

 

Ⅱ 映画祭


10月、11月は東京では映画祭の季節となる。まず東京国際映画祭が、その少し後に東京フィルメックスが開催されるのだ。が、今年は少し様子が違う。10月、11月という時期は同じだが。
従来との相違点は2つ、開催時期と内容だ。説明しよう。


①開催時期:両映画祭が同時期に開催される。
今年の開催時期と開催場所は次の通り。
第33回東京国際映画祭:10月31日~11月9日 六本木(TOHOシネマズ、EXシアター)+東京ミッドタウン日比谷 
第21回東京フィルメックス:10月30日~11月7日 有楽町(TOHOシネマズシャンテ、朝日ホール、ヒューマントラストシネマ)
今年10月に東京国際映画祭のチェアマンに就任した安藤裕康氏が朝日新聞のインタビューに答えて、同時期開催が実現したのはコロナ禍のおかげと次のように語っている。“フィルメックスという独自色のある専門店が、『東京』という総合デパートに入ることで埋没するとの反対も根強くありますが、コロナ禍による『映画界も一つになろう』という機運が後押ししてくれました”という。東京フィルメックスはアジアを中心に気鋭監督の作品を集めた映画祭だ。今年は同時期に開催されることで、海外からの映画関係者が多くの映画に接することができるというメリットもあるという。

 

②内容の変更。
変更されるのは東京国際映画祭。この映画祭のメインは世界から集めてきた作品のコンペティションだった。海外から審査員として監督や俳優などを招聘し作品賞などを決定する。コロナ禍で海外から人を呼ぶのが難しくなったのだ。そのため今年はコンペがないことになった。従来「コンペティション」とよばれていた部門は「TOKYOプレミア2020」と名称変更され、観客賞だけが決められる。映画祭の予告映像で最後に“今年の主役はあなたです”と呼び掛けるのは、このことを意味しているのだろう。

 

 

 

 

今月はここまで。
次号はあと6日で師走に突入という11月25日にお送りします。


                         - 神谷二三夫 -


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