2021年 8月号back

 

夏休みも始まり、真夏日も増え、
オリンピックがガタガタしながらも始まり、
更にコロナ感染の拡大も続き…。
何があっても不思議はない日々、
心落ち着けるのは、そう、映画館で!!

 

 

 

今月の映画

 

6/26~7/25の大阪なおみの聖火台点火を含む30日間に出会った作品は43本。
邦/洋画は13/30、新/旧作は32/11と、私的にはいつもの数字に近くなってきた。
洋画の大作も少しずつ公開されるようで、ダニエル・クレイグの007最終作となる「007 ノー・タイム・トゥ・ダイ」も、日本の封切りはアメリカより早く10月1日と決まったようだ。



<日本映画>

   13本(新11本+旧2本)

【新作】
Arcアーク 
夏への扉―キミのいる未来へ― 
青葉家のテーブル 
いとみち 
アジアの天使 
リスタート 
竜とそばかすの姫 
東京リベンジャーズ 
東京クルド 
ねばぎば新世界 

犬部

 

 

【旧作】
<新珠三千代没後二十年記念 美貌の罪>
女殺し油地獄 
日本の青春

 

 

<外国映画>

   30本(新21本+旧9本)

【新作】
モータル・コンバット
  (Mortal Kombat) 
一秒先の彼女
  (消失的情人節 / My Missing Valentine) 
王の願い ハングルの始まり
  (The King’s Letter) 
Billie ビリー
  (Billie) 
ジャズ・ロフト
  (The Jazz Loft According to W. Eugen Smith) 
ゴジラVSコング
  (Godzilla VS. Kong) 
シンプルな情熱
  (Passion Simple) 
ビーチ・バム まじめに不真面目
  (The Beach Bum) 
プロミシング・ヤング・ウーマン
  (Promising Young Woman) 
唐人街探偵 東京ミッション
  (唐人街探案 3 / Detective Chinatown 3) 
幸せの答え合わせ
  (Hope Gap) 
ライトハウス
  (The Lighthouse) 
83歳のやさしいスパイ
  (El Agente Topo / The Mole Agent) 
シャイニー・シュリンプス!愉快で愛しい仲間たち
  (Les Crevettes Pailletees / The Shiny Shrimps) 
走れロム
  (Rom) 
ファイナル・プラン
  (Honest Thief)
17歳の瞳に映る世界
  (Never Rarely Sometimes Always) 
少年の君

  (Better Days) 
ブラック・ウィドウ
  (Black Widow) 
わたしはダフネ
  (Dafne) 
復讐者たち
  (Plan A)

 

 

【旧作】
<Peter Barakan’s Music Film Festival>
AMY エイミー
  (Amy) 
カマシ・ワシントン「Becoming」ライブ
  (Kamasi Washington’s Becoming

   for Michelle Obama) 
マイ・ジェネレーション ロンドンをぶっとばせ!
  (My Generation) 
ランブル 音楽界を揺るがしたインディアンたち
  (Rumble: The Indians Who Rocked The World) 
ノーザン・ソウル
  (Northern Soul) 
白い暴動
  (White Riot) 
Our Latin Thing
  (Our Latin Thing) 
サウンド・オブ・レボルーション グリーンランドの夜明け

  (Sume: Mumisitsinerup nippa)

 

<カリコレ>
ブロンクス物語/愛につつまれた街
  (A Bronx Tale)

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

  (新作だけを対象にしています)

 

①-1 唐人街探偵 東京ミッション
こんなに楽しめた中国映画は初めて。詳しくは今月のトピックス欄を参照。

 

①-2 少年の君
こんなに心揺さぶられた中国映画も久しぶり。詳しくは今月のトピックス欄で。

 

② 東京クルド
初めて知ることが多い。東京周辺には1500名のクルドの人たちが住んでいる、その多くが難民としてやってきた人々、そのほとんどがまだ難民として認められていない。最近、日本の入管法の問題が色々議論されている。早く良い方向に変えていかなければと思うが…。この映画の惹句は“夢みてしまった。絶望の国で―”なのだ。

 

③-1 プロミシング・ヤング・ウーマン
30歳になろうとしているキャシーは、バーで酔っ払ってソファーに掛けている、ほとんど男を誘うように。医大を中退、カフェの店員として働いているところに、かつての同級生だった男性がやってくる。今も親と同居している彼女は…。この映画が目指すものは?脚本・監督・製作のエメラルド・フェネルの初長編監督作。

 

③-2 竜とそばかす姫
この映像を見て魅了される人は多いだろう。架空の世界と現実の世界、細田守監督が再び二つの世界を巡る若者たちを描くアニメは、より個人的な結びつきを描きながら、その超高速で変化する世界をも見せる。

 

 

 

 

他にも映画館で楽しめる作品あり!(上映が終了しているものもあります。)


一秒先の彼女:台湾からやってきたこの映画、ラブコメ好きにはたまらない作品です。チェン・ユーシェンの脚本・監督によるこの作品、主人公は郵便局員、30歳お一人様の女性。何をするにもワンテンポ早い彼女の性質、バレンタインデーが消えてしまった謎、毎日郵便局にやってくるバス運転手・・・、いやー、面白いです。

 

王の願い ハングルの始まり:朝鮮第4代国王・世宗(在位1418~50年)は自分たちの言葉が必ずしも漢字で表せないと悩んでいた。言葉をそのまま表せる文字を作ることを決意、当時国は儒教によって殆どの事が決められていた中にあって、王は仏教の僧に相談する。文字があることが自分たちの文化を進化させるとの確信のもとに。

 

Billie ビリー:ビリー・ホリデイは案外のっぺりした女性だったんだという印象。1915年に生まれ44歳で亡くなるまで、彼女は差別、貧困と闘ってきた。そこから発せられる彼女の歌唱は、心に深く響いてくる。今月のトークショー参照。

 

ジャズ・ロフト:写真家ユージーン・スミスがどんな人であったのかの部分がとてつもなく面白い。ニューヨークの彼のロフトにジャズミュージシャンが自由に出入りし、セッションが行われる。写真を撮るだけではなく、ジャズの演奏、音をもすべて録っていたというのは驚きだ。今月のトークショー参照。

 

ゴジラVSコング:ゴジラが海からやってくるのは・・・。ゴジラ、コングの闘いがほとんど人間の殴り合いと同じというのが何とも面白い。笑うしかない。

 

アジアの天使:石井裕也監督が韓国に出向いて、95%以上のスタッフ・キャストが韓国チームという体制で作った作品。池松壮亮とオダギリジョーの兄弟があまりにいい加減な性格には驚くが、余り真面目に作りこまないことを目指したのだろうか?

 

幸せの答え合わせ:英仏海峡に面したイギリスの町シーフォード、白い断崖の下にはホープギャップ(これが原題)と呼ばれる入り江が広がっている。この町に暮らす結婚29年になる夫婦の別れ話は一人息子も巻き込みながら、ギャップは広がっていく。

 

ライトハウス:白黒で撮ればなんだか芸術的になってしまうこのごろ、今作品もその1本か。灯台にやってきた若い灯台守と、以前からいる年老いた灯台守の闘いが繰り広げられ、そこに鴎が割り込んだりする話だが、何を言いたかったのかつかみ取るのはかなり難しい。

 

走れロム:ベトナムには“デー”と呼ばれる闇くじがあるらしい(映画を見るだけではそのやり方は良く分からない)。主人公は14歳の少年ロム、闇くじの予想屋をしていて、その予想に掛ける人から金を集め取りまとめ役のような女性のところに間に合うように走るのだ。予想屋として同じ年くらいの少年と競う厳しい生活で彼はいつも走っている。

 

◎17歳の瞳に映る世界:なんだか昔のような、いや、新しいような印象を受けたのは、その悩みが決して新しいものでなく、こういう話は以前からあると思うのだが、こんなに詳しく今の対処方を描いているのは初めてなのだった。その初めての中に、女性の置かれている状況がきちんと描かれている。アメリカという国のきちんとした部分も良く分かった。

 

ブラック・ウィドウ:本当にアメコミ映画もそれなりの進化を遂げていて、この映画も主人公の人生が結構深く描かれる。勿論、アクションが主体ではあるが。

 

犬部:北里大学獣医学部に実在したサークル犬部について書かれた片野ゆか著のノンフィクションを原案とする映画。監督は篠原哲夫、脚本は山田あかね。どんな動物も助けるという意思のもと、獣医学部で実施されていた生体を使った外科実習をも拒否する主人公の生き方と彼が立ち上げた犬部について描く。

 

復讐者たち:ドイツとイスラエル合作の作品、ドイツ内の物語だが英語が基本的に使われている。イスラエル出身のドロン・パズとヨアヴ・パズの兄弟が監督している。内容は驚くべきものだ。ナチスのホロコーストはユダヤ人絶滅計画だが、この映画は終戦後のユダヤ人によるドイツ人に対する復讐計画を描く。しかもこれは実話だという。

 

 

 

 

 


Ⅱ 今月の旧作

 

<日本映画>
<新珠三千代没後二十年記念 美貌の罪>で2作品を見た。美貌の罪と言われる新珠三千代は幸せだ。「女殺し油地獄」が印象に残る。
女殺し油地獄:近松の人形浄瑠璃から、歌舞伎、映画、テレビドラマと形を変えて作られ続けてきた物語は、映画だけでも7回繰り返して作られてきた。今回見たのは1957年の東宝作品で、脚本:橋本忍、監督:堀川弘道、当時の中村扇雀、中村鴈次郎という実の親子が父・娘婿を演じ、新珠は殺されてしまう豊島屋お吉を演じている。
ペースを保った堀川監督の映画作りが成功して、橋本忍の脚本をうまく生かしている。そこに中村親子の演技が、特に扇雀の演技が素晴らしく、こんなに巧い人だったんだと認識した次第。

 

 

 

<外国映画>

<Peter Barakan’s Music Film Festival>下の今月のトークショー参照。
<カリコレ>(シネマカリテ・コレクション)で見た「ブロンクス物語/愛につつまれた街」は素晴らしい作品だった。ロバート・デ・ニーロの初の監督作品として1993年に作られた。ブロンクス生まれの俳優・脚本家であるチャズ・パルミンテリの戯曲を基に、彼自身の脚本によって映画化されている。彼の自伝的要素も強く、映画と同じように父親はバス運転手だったという。彼は街の顔役ソニー役で出演もしている。1960年、主人公は9歳のカロジェロ、彼が街で出会う人々を彼の眼を通して描く。カッコいいのは何といってもソニーだが、
運転手の父(ロバート・デ・ニーロが演じている)から近づくなと言われている。8年後17歳になったカロジェロは恋をし、友達の死にも遭う・・・。当時の黒人差別も描かれる。

 

 

 

 

 

 

Ⅲ 今月のトークショー

 

7月2日~15日 角川シネマ有楽町 Peter Barakan’s Music Film Festival
先月号でお伝えした「ピーター・バラカンの音楽映画祭」に数多く通った。14本上映されたうち、既に見たことのあった3本を除き、11本の内10本を見た。「Billie ビリー」と「ジャズ・ロフト」は新作に、残り8本は旧作に入れている。
映画祭ではバラカンさん及びゲストのトークイベントが11回開かれた。その内次の5回のトークを聞かせてもらった。


7月2日 「Billie ビリー」 ピーター・バラカン、小倉聖子
この映画祭の企画はバラカンさんと、配給会社の小倉さんが相談しつつ行ったという。候補に挙がったのは上映作品数の約3倍、そこから絞って14本になったという。この作品は今回の上映会で封切りとなり、19回上映された。
ビリー・ホリデイを知っていても、彼女が歌うのを見るのは初めてだった。しかも、カラーになっている。元の映像は総て白黒だったが、監督のジェイムス・エルスキンがその技術の第一人者に依頼してカラー化をしたという。これが素晴らしい出来で、いわれなければ白黒からのカラー化とは分からない。
10代前半で暴行された後、彼女自身が体を売ることになるが、当時彼女の周りではそれが普通であることが映画の中で描かれる。そうしなければ生きていけないほど貧しかったのだ。彼女が23歳の時に「奇妙な果実」を歌う。若い白人男性の学校教師が作詞作曲した曲だが、彼女の代表曲になった。1939年のことであり、初めての人種差別に対するプロテストソングと言えるだろう。


7月3日 「ジャズ・ロフト」 ピーター・バラカン、小倉聖子
この映画は9月にロードショー公開される。水俣でのユージーン・スミスを映画化したジョニー・デップ主演の「MINAMATA」に合わせての公開だという。写真家としては知っていたし、水俣の惨状を写真で世界に訴えたことも知っていたが、彼がニューヨークでジャズミュージシャンとの交流があったことは知らなかった。戦争写真家として沖縄戦の際日本にも来ていて、日本軍の砲弾により負傷している。顔面の口蓋が砕かれ、2年の療養生活を余儀なくされたが、完治することはなく後遺症に悩まされたという。


7月3日 「カマシ・ワシントン「Becoming」ライブ」 ピーター・バラカン、小倉聖子
「Becoming」とはミシェル・オバマを描いたドキュメンタリー映画、それに音楽をつけたのがカマシ・ワシントン。彼が一夜観客無しのハリウッドボウルで大編成のバンドで演奏したのを撮影した映画。台詞はなく、ライブ演奏そのもの。ライブが普通にできない今の時代にあって、これぞほぼライブというのが貴重ですとバラカンさん。


7月10日 「Our Latin Thing」 藤田正(音楽評論家)、ピーター・バラカン
1972年に作られたファニア・オール・スターズのコンサートの記録。お二人の会話は、あの当時の記録がこうして残っていることがどんなに素晴らしい事であるかを伝えてくれた。


7月14日 「サウンド・オブ・レボリューション グリーンランドの夜明け」
 野崎洋子(The Music Plant代表)、 ピーター・バラカン
1970年代、グリーンランド出身者がコペンハーゲンの大学に集まり結成したバンドSume(スミ)が初めてグリーンランド語でのロックを歌い、73年に1stアルバムを、74年に2ndアルバムを発表した。当時グリーンランドはデンマークに属していて、学校での教育はデンマーク語が使われていた。メンバーはグリーンランドに大学がないためコペンハーゲンの大学に留学していた大学生。グリーンランドの各地から来ていた彼らは卒業とともに各地に帰り、バンドは解散となった。グリーンランドは世界最大の島、グリーンランド以上は島ではなく大陸と呼ばれる、その基準になっているという。大きな島(面積は日本の6倍)に人口は56000人、メンバーが簡単に集まれる状況ではなく解散となったのだ。その後3rdアルバムが出たのは1977年、その後も時々再結成をしているという。
彼等のアルバムはどの家にも必ずあるほど人々に愛され、聞かれていたらしい。1978年には自治権を獲得、学校ではグリーンランド語での教育が行われるようになり、今でも人口の90%以上がグリーンランド語を話すという。
映画も、Sumeの音楽も素晴らしい。

最近増えている音楽関係のドキュメンタリーは、こうしてまとめてみるとその発信力の強さに驚かされる。これからも音楽ドキュメンタリーは増えてきそうだ。

 

 

 

 

 

 今月のつぶやき


●ゲームの世界は良く知らないので映画の公式サイトに書かれている“このゲームは残虐過ぎて日本に上陸していない”のが本当かどうか知らないが、「モータル・コンバット」は日本人の有名俳優が2人出演しているにもかかわらず、今一つ日本らしくないなあと思った。チャンバラが単に闘争の一つの形態として使われているのである。真田広之は頑張っているのだけれど。

 

●石川慶監督の3作目ということで、結構期待した「Arc アーク」だったが、話が今ひとつピンとこない。ケン・リュウの短編からの映画化だが、最愛の人を亡くした人のために遺体を生きていた姿のまま保存するというのが、人間の剥製化かと思い、更に不死に至る主人公というのも理解不能だった。

 

●最近Webドラマという形態があるらしい。「青葉家のテーブル」の公式サイトを見ると、ウェブドラマ版「青葉家のテーブル」は15~30分の1話完結のストーリーですとある。企画・製作は北欧、暮らしの道具店とあり、クラシコムという会社が運営しているネットショップであるらしい。そのネットショップのイメージづくりにウェブドラマがあるらしい。映画を見ていると、物語の初めとか、終わりという概念がないようにも感じたのはそのためだったのかと一面納得。

 

●ハーモニー・コリンという監督の名前だけは知っていたが、作品を見たことはなかった。初めて見るのが「ビーチ・バム まじめに不真面目」で良かったのか否か。こんなにハチャメチャな人物が主人公というのは、ついていくのが難しい。日本題名の“まじめに不真面目”という副題に本当ですか?と聞いてしまいそうだ。

 

●どうにも違和感のある物語は「リスタート」。品川ヒロシの監督5作目だ。リスタートするのが28歳、ということは10年間もかわいこちゃん路線を走ってきたというのが無理では?

 

●ヤンキーが飽きられてきたためか否かは知らないが、ヤンキーにタイムワープを組み合わせて物語を作ったのは原作となった漫画がそうだからだろう「東京リベンジャーズ」。闘いだけでは単調過ぎて飽きられるからだろうが、タイムワープの方法が結構いい加減、10年間の歴史がころころ変わっていく。

 

 

 

 

 

 

 



今月のトピックス:中国映画   

 

Ⅰ 中国映画


最近、なかなか見ることのできない中国映画を2本見ることができた。しかも、どちらも見る価値ありの作品だ。


①金の問題 「唐人街探偵 東京ミッション
中国映画が凄い事になっているというか、大変なお金をかけて作られていることを知ったのは札幌だった。札幌へは7月11日~13日の2泊3日で出かけた。
7月11日に見たのは「唐人街探偵 東京ミッション」だった。妻夫木聡が出ている東京を舞台にした探偵ものぐらいの事前情報で見てみたら、その面白さにびっくり。笑いだけでなく、物語も結構しっかり、更に日本のスターも沢山出ていて大満足。これは何なんだとホテルに帰って調べると、映画の公式サイトの他にWikipediaに既にこの作品の情報があり、その長い情報の中に、総製作費が日本円で約65億円、そのうち日本での製作費が31億円と出ていたのである。日本映画の大作製作費が10~30億円くらいと言われていて、日本での撮影部分のみで日本の大作映画製作費を上回っている。
この作品は唐人街探偵シリーズの3作目で、1作目がタイ、2作目がニューヨークを舞台にしたものでいずれもヒットしていて、3作目の大ヒットが予想されるのでそれなりの金額を投入したのだろう。ちなみに1、2作目は日本では公開されていないが、2作目が「唐人街探偵 NEW YORK MISSION」の題名で、今年中の公開が最近決定された。
「唐人街探偵 東京ミッション」の中国における封切りはコロナの影響で1年以上延期されて2021年2月12日に公開され、初日の興行収入が約170億円(!)になったという。ちなみに日本では、7月9日に初日となったが、残念ながらその週の興行収入10位以内には入らなかった。しかし、面白いのでどうぞ見てください。


②香港の問題 「少年の君
香港が中国に飲み込まれ一国二制度から、中国政府は一国一制度を目指して急いでいるように見える最近だが、かつて独自の魅力で日本にもファンが多かった香港映画は中国映画界に飲み込まれてしまったのだろうか?最近でもイップマンシリーズが日本でも公開されたりはするが、純粋に香港映画と思えるものは大きく減少している。
「少年の君」の監督はデレク・ツァンで、「インファナル・フェア」シリーズ等に出ていた俳優で監督、プロデューサーもしていたエリック・ツァンの息子だ。つまり香港映画人脈の監督による作品だ。作品の国籍が中国・香港とされている場合と、中国のみの場合がある。
この作品は娯楽作品というより、感動で人を引き込む作品だ。主人公は進学校の高校三年生の少女。今の貧しい生活から抜け出すため良い大学を目指して勉強し、成績は優秀だが、それ故に学校では孤立している。詐欺まがいの化粧品をセールスする母親との二人暮らし。その商売に対する非難が主人公の学校まで繰り広げられたりする。その学校でいじめられていた女生徒が自殺した時、遺体に自分の上着を掛けてあげた主人公は、今度は自分がいじめられるようになってしまう。ある時、下校途中に集団暴行にあっている少年を救う。ストリートで生きる不良少年で、1人で暮らしている。いじめの話を聞いた彼が主人公の少女を守ろうとして後を歩き、いじめる少女たちを追い払う。
具体的な都市名は出てこなかったが香港ではなく中国の都市を舞台に、行き過ぎた進学校の体制、そこから生まれるいじめ、さらに未成年者が追い詰められていく社会など、見ている途中から中国政府はよくこの作品の製作を許可したなと思いはじめた。
すると、最後に“こうした状態は過去のもので、現在は改善されています”といった字幕が現れる。中国政府、なんともはや。

今回は2つの作品から現在の中国映画を垣間見た。共に作品的には力のある映画で、娯楽としても十分楽しめる。
今やハリウッドの規模に迫ろうという中国の映画業界。13億人という巨大な市場を抱える中国は、経済の発展とともに人々が求める娯楽としての映画を提供して発展してきた。しかし、日本ではその真の姿がなかなか見えてこない。

 

 

 

 

 

 

Ⅱ ディズニー


最近は20世紀フォックスまでを傘下に収めたディズニー。その前には20世紀フォックスを通じてスターウォーズシリーズを公開していたルーカス・フィルムを、更にアメコミの映画化作品を送り出しているマーベル・スタジオを傘下に加えていて、今やハリウッドの王者として君臨している。
このコロナ禍、配信ビジネスがNetflixを中心に急伸してきて、その対抗策としてのディズニープラスに随分力を入れているディズニーは、そのために日本市場での従来の商売の仕方を変えてでもという作戦を取っている。
最近、“アベンジャーズが帰ってきた”の惹句で宣伝している「ブラック・ウィドウ」が公開された。こうした大作であれば、シネコンでもTOHOシネマズのようなメジャーと言ってよいチェーンで公開されてきていたのだが、昨年からあえてメジャーではないシネコンチェーンや単館ロードショーの映画館で公開している。それと同時にディズニープラスで配信を開始しているのだ(従来の配信開始は3~6か月後くらいから始められていた。)。ディズニープラスで楽しめますという作戦で、映画館に行かなくても見られますと言っているのだ。そのため週末興収成績ではベスト1になることがなくなった。つまり、映画館の成績を捨ててでも配信を拡大しようとしているのだ。
元々ビジネスには目ざとい感じのするディズニーは、世界最大の市場である中国に接近していて、日本では配信のみになってしまった「ムーラン」は題材が中国ということもあり、中国だけではスクリーン上映がされたのだ。ディズニー扱いのマーベル(マーベルは「スパイダーマン」のようにディズニー以外の会社に任せている作品もある)の作品で9月封切りの新ヒーロー「シャン・チー テン・リングスの伝説」のチラシを見た時、流石にディズニー、中国のヒーローかよと思ったのだが、元々シャン・チーはマーベルのアメコミに存在するヒーローだったことを知った。

 

 

 

 

 

 

 東京23区で封切りされない映画


札幌に行く前に、札幌の映画館と上映作品をチェックした。その時「幸せの答え合わせ」という作品を発見した。なんとなく予告編を見たような気はしたのだが、毎週チェックする東京23区内の映画館の上映作品にはなかった。アネット・ベニングとビル・ナイが夫婦役で共演している作品で、上映されていれば見に行く作品だ。
調べると、この映画は木下グループのキノシネマが配給していた(配給会社としてはキノフィルムズが木下グループのメイン。)。木下グループはキノシネマの本業を映画館経営としているはずで、現在立川、横浜、福岡の3か所に映画館を持っている。そして、「幸せの答え合わせ」は東京地区では立川のキノシネマで6月に封切りされていたと分かった。
これと同じような状況にある映画館に、吉祥寺アップリンクがある。アップリンクは従来のメイン映画館であった渋谷が閉館したので、関東地区では吉祥寺のみになった。アップリンクは配給業務もしていて、ここでのみの封切り作品が出てくる可能性がある。今のところ、吉祥寺アップリンクで封切りされる作品は、多くが23区内の映画館でも上映されている気がするが、漏れないように気をつけよう。

さて、札幌にはシアター・キノという映画館がある。紛らわしいが、ここは木下グループとは関係がない。それを証明するかのように「幸せの答え合わせ」は札幌のサツゲキで上映されていた。

 

 

 

 

 

今月はここまで。
次号はパラリンピックが始まったばかりの8月25日にお送りします。


                         - 神谷二三夫 -


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