2023年 10月号 アメコミ映画はお好き?back

 

最低気温が20度を下回り始めたこの頃、
秋を感じられるようになってきた。
しかし油断は禁物、まだ夏日がやってきそうだ。
そんな季節を感じながら、
ゆったり楽しむのは、そう映画館で!

 

 

 

今月の映画

 

8/26~9/25のやっと少しは涼しくなったかの31日間に出会った作品は

35本、北海道に出かけたりして、本数は少し減っています。
邦/洋画は7/28と外国映画の本数が多くなりました。
新/旧作は32/3と旧作が少なめ。
邦洋共に力のある映画が揃いました。



<日本映画>

   7本(新7本+旧0本)

【新作】
春に散る 
こんにちは,母さん
福田村事件 
バカ塗りの娘 
シティ・ハンター 天使の涙 
アリスとテレスのまぼろし工場 
ミステリーと言う勿れ

 

<外国映画>

   28本(新25本+旧3本)

【新作】
エリザベート1878
  (Corsage)
MEGザ・モンスター2
  (MEG 2: The Trench) 
キエフ裁判
  (The Kiev Trial) 
あしたの少女
  (Next Sohee) 
君は行く先を知らない
  (Jaddeh Khaki / Hit The Road) 
ファルコン・レイク
  (Falcon Lake) 
兎たちの暴走
  (兎子暴力 / The Old Town Girls) 
アステロイド・シティ
  (Asteroid City) 
ホーンテッドマンション
  (Haunted Mansion) 
ウェルカム・トゥ・ダリ
  (Daliland) 
ヒンターラント
  (Hinterland) 
6月0日 アイヒマンが処刑された日
  (June Zero) 
私たちの声
  (Tell It Like A Woman) 
グラン・ツーリスモ
  (Gran Tourismo) 
名探偵ポアロ ベネチアの亡霊
  (A Haunting in Venice) 
ダンサー イン Paris
  (En Corps / Rise) 
熊は,いない
  (No Bears) 
“敵”の子どもたち
  (Children of The Enemy) 
私の大嫌いな弟へ ブラザー&シスター
  (Frere et Soeur) 
ジョン・ウィック コンセクエンス
  (John Wick: Chapter 4) 
コンフィデンシャル 国際共助捜査
  (Confidential Assignment 2: International) 
クリーデンス・クリアウォーター・リヴァイヴァル トラヴェリン・バンド
  (Travelin’ Band Creedence Cleawater Revival
  at The Royal Albert Hall) 
ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト)
  (Godard Seul Le Cinema / Godard Cinema) 
バーナデット ママは行方不明
  (Where’d You Go, Bernadette)

 

【試写】
メドゥーサ・デラックス

  (Medusa Deluxe)(10月14日公開)

 

【旧作】
<日常と戦争そして旅 ウクライナ・ジョージア・ソ連映画>
新しいモスクワ
  (Novaya Moskva / The New Moscow) 
野獣たちのバラード
  (Ordinary Fascism)

 

<午前10時の映画祭13>
アルゴ探検隊の大冒険

  (Jason and The Argonaut

 

Ⅰ 今月のベストスリー

  (新作だけを対象にしています)

 

①-1 あしたの少女
韓国の女性監督チョン・ジュリの長編第2作。前作2014年の「わたしの少女」に引き続き繊細に女性の内面を描きながら、結構強い映画を見せてくれる。まるで2部作のように前編は少女が追い込まれて自殺するに至る過程を描き、後半は捜査に関わった女性刑事のハードボイルド的社会派ドラマ。共に見応え十分。

 

①—2 熊は、いない
今月「君は行く先を知らない」を見せてくれたパナー・パナヒ監督の父親ジャファル・パナヒの新作。政府から2010年に“イラン国家の安全を脅かした罪”として20年間の映画制作禁止と出国禁止を言い渡されたパナヒ監督。それでも2010年以降はこの作品も含め5本を総て極秘に撮影。この作品の後、2010年に言い渡された禁固刑に服するために収監されたという。

 

②-1 福田村事件
関東大震災があった1923年9月1日から6日目、千葉県福田村で起こった集団の殺人事件を描く。関東大震災で巻き起こった「朝鮮人が毒を井戸に入れている」と言った流言飛語が千葉の田舎の村にも影響し、高知県からやってきた15名ほどの薬の行商人グループが、言葉が分からないとして朝鮮人と間違われ殺されてしまうのだ。今や歴史から忘れ去られた福田村事件を森達也が映画化。

 

-2 バカ塗りの娘
漆の津軽塗職人の父親と娘の生活を描く。父と娘、伝統文化の継承、女性の職業などの問題を描きながら、登場人物のそれぞれを細かく描いていく。久しぶりにじっくり描かれた日本映画。監督は鶴岡慧子、34歳とは思えぬ落ち着きが感じられる。

 

③-1 君は行く先を知らない
題名通り我々は行く先を知りえない。足をギブスに包まれた父親、そのギブスに悪戯する幼い次男、運転席はどこかに行く大人の長男、助手席には時に運転もする母親の4人のロードムービー。始まりから終わりまで車で走りながらの映画は空前絶後。不思議な到着点は分かっている人でないと分からないというままだ。イラン映画の巨匠ジャファル・パナヒの長男パナー・パナヒ(1984年生)の長編デビュー作。

 

-2 ヒンターラント
第一次大戦後ロシアでの長い捕虜生活から帰国した元刑事のペーター。その彼の周辺で起きる猟奇的な殺人事件、悪夢のような展開になる。こうした物語を描く画面が強く印象に残る。脚本・監督はステファン・ルツォヴィツキー、以前の作品には「ヒトラーの贋札」がある。

 

 

 

 

映画館では沢山の映画を楽しめますよ!(上映が終了しているものもあります。)


◎エリザベート1878:愛称シシィと呼ばれ、その美貌と痩身(身長172㎝でウエスト51㎝、体重43~7㎏だったという)で名を馳せたオ—ストリア皇后エリザベート、彼女が40歳になった1年間を描く。ミュージカルにもなった彼女の生涯は有名でもあり、知っている人が多いということで、この映画には物語が殆ど描かれない。

 

◎春に散る:沢木幸太郎の原作小説を、瀬々敬久監督が脚本を書き監督した作品。ボクシングで頂点を目指す若者と、自身の死を意識しながら若者に闘うことを教える初老の元ボクサー。いかにもな世代の交代を描く、定番ともいえるボクシング映画。

 

◎キエフ裁判所:ウクライナのセルゲイ・ロズニツァ監督が昔のアーカイブ映像から作った映画のドキュメンタリーシリーズの1本。1946年にキエフで行われた当時のソ連領内で行われたユダヤ人虐殺事件の首謀者15名の裁判について描く。

 

◎ファルコン・レイク:監督・脚本のシャルロット・ル・ボンの初長編映画は、フランスのバンド・デシネ(フランス語圏の漫画)「年上のひと」として日本でも2019年に邦訳版が出たものを原作としている。バスティアン・ヴィヴェス作の原作が映画より随分先に日本上陸していたことが驚き。14歳の少年と16歳の少女という設定がこの微妙な物語を成立させている。正にこの年齢でなければできない関係が描かれる。

 

◎こんにちは、母さん:91歳の山田洋次監督の90本目の映画。このところの山田映画に感じていた堅苦しい笑いがあまりなく、気兼ねなく笑える映画でよかった。吉永小百合の演技はいつもの吉永節で、こちらは変わっていないのが引っかかるが、楽しめた。   

 

◎アステロイド・シティ:ウエス・アンダーソン監督は独特な絵を作り出す凄い監督だと思うが、その縛りがあまりに強くなり過ぎではという気がした作品。もう少し気軽に、作ってもらえるとありがたい。例によって多くのスターが出演しているが、これもあまりに定番化という感じだ。

 

◎ウェルカム・トゥ・ダリ:中学校の美術の時間でシュルレアリズムの画家として教えられたダリ。その時から天才画家として尊敬してきた、なんだか分からないことを描く人として。その人が、こんなにも分かりやすい変な人だったのかと目覚めさせてくれる映画。

 

◎6月0日 アイヒマンが処刑された日:アドルフ・アイヒマンは逃亡先のアルゼンチンに潜伏中、1960年にイスラエル秘密諜報機関(モサド)に見つけられイスラエルでの裁判の結果死刑判決が下される。1962年の5/31から6/01の真夜中(6月0日)に絞首刑となり、遺体は火葬され、遺灰は海にまかれたとされている。しかし、イスラエルは火葬が禁止され火葬設備が存在しない。では、どのように火葬したのかについての物語。

 

◎グラン・ツーリスモ:こういう実話があったんですねえ。グラン・ツーリスモというゲームが日本で作られ、世界的にそのリアルさが話題になり、各地でそのゲームにはまり、ゲームながら運転のエキスパートが何人も誕生した。彼らにゲームで競わせ、その優勝者に実際のレースを経験させようと考えた人がいた。

 

◎ダンサー イン Paris:クラシックバレエのバレリーナが足の怪我で挫折、アルバイトで出張料理人のアシスタントとしてブルターニュへ。そこで出会ったコンテンポラリーダンスのカンパニーに誘われ、踊る喜びを再発見する。ありがちな物語だが、ダンスシーンが充実していて物語が浮いていない。

 

◎コンフィデンシャル 国際共助捜査:面白い、驚いた。今の韓国映画の実力を否応なく見せつけてくれる。北朝鮮、韓国、アメリカが全く娯楽映画の中でいいように描かれる。ここまでやるのかと感心。129分とちょっとばかり長い映画ではあるが、その物語に引き回されて満足!

 

◎ジャン=リュック・ゴダール 反逆の映画作家(シネアスト):20世紀の映画人の一人として記憶されるゴダールについてのドキュメンタリー。ヌーベルバーグというフランスの新しい映画の波を起こした中心人物の一人。その後彼は1人独自の道を進んでいく。この映画を見て、彼が1人になっていくのは案外早く1970年代には孤独になっていく。色々な監督がそれぞれの道を行くのは当然とはいえ、彼の孤独ぶりは際立っていた。その頃以降の彼の映画を見ていなかった。最後まで映画を作っていたのは知っていたが。2022年9月13日スイスでの安楽死により自ら91歳の人生を閉じた。

 

 

 


Ⅱ 今月の旧作

 

<外国映画>
<日常と戦争そして旅 ウクライナ・ジョージア・ソ連映画>で見た2作品のうち、「野獣たちのバラード」が面白かった。
1965年のソ連映画で、ナチスを中心にファシズムの世界を俯瞰してみる映画。今やそうした映画が少なくなっている時代で、妙に新鮮に感じられた。

<午前10時の映画祭13>アルゴ探検隊の大冒険
1963年の映画。CGなどは当然ない時代、特撮はすべて手作業で行われた。有名な骸骨による戦いは最後に出てくるがやはりすごい。映画の監督ドン・チャフィという人は知らないが、特撮監督のレイ・ハリーハウゼンはその頃から記憶にある。やっと見ることができた。

 

 

 

 

Ⅲ 今月のつぶやき

 

●どこに行くのかわからずに続く家族4人の旅を描く「君は行く先を知らない」。ラストにいたっても、完全には分からず、結局国外に出る地点にいたったことを知るのだが、そこに同様に旅してきたであろう何台もの車がいるのが驚きだった。イランの現状を知る思い。

 

●ケネス・ブラナーの監督・主演によるエルキュール・ポアロ物の3作目が「名探偵ポアロ ベネチアの亡霊」。アガサ・クリスティ原作の「ハロウィーン・パーティ」を大胆に改変、舞台はベネチアでイギリスは全く出てこない。それでも引き込まれてしまうのは、ブラナーの映画作りのおかげか。UK Walkerには紹介済み。https://ukwalker.jp

 

●こういう悲劇もあるんだと思った「“敵”の子どもたち」。ISISメンバーと結婚し、シリアへ密航した娘が、ISIS掃討作戦で夫と共に殺され、残された1~8歳の7人の孫を救い出そうとする父(祖父)の姿を追ったドキュメンタリー。

 

●キアヌ・リーブスが殺し屋を演じるジョン・ウィックシリーズの4作目が「ジョン・ウィック コンセクエンス」。真田広之、ドニー・イェンなどアジア系アクションスターが出ているが、真田の娘役で出演したリナ・サワヤマは新潟生まれでロンドン育ちのシンガーソングライターで、これが映画のデビュー作。キアヌ・リーブスが非常にいい人だったと、次のように語っている。“彼はいかにもハリウッドスターという感じの派手な人ではなくて、みんなが安心して仕事できるように裏で色々と気を使ってくれる、親切な人でした。”
超スピードで繰り出される激しいアクション・殺しのシーンは、もはや笑いの領域のこの作品、更にドニー・イェンが盲目の殺し屋を演じるとなると…。

 

 

 

 

 



今月のトピックス:アメコミ映画はお好き?  

 

Ⅰ アメコミ映画はお好き?

 

今年の5月号の今月のトピックスで、映画の本について紹介した時、大高宏雄氏の「アメリカ映画に明日はあるか」という本について書いた。アメリカ映画がかつてのような力を失って、アメリカおよび世界で大ヒットしても、日本ではそこまで行かないという現象について考察していた。昨年の暮れから年明けを通して世界的に大ヒットしていた「アバター ウェイ・オブ・ウォーター」が日本では3位までしか行かなかった例を挙げて説明した。


今年の夏には「バービー」で同じ現象が起きた。今年公開された映画では「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」を抑えて世界一の興収を挙げている「バービー」だが、日本では最高位8位で終わっている。


映画は水物、この2本にしても同時期に日本では「アバター ウェイ・オブ・ウォーター」の時は「THE FIRST SLUM DUNK」が、「バービー」の時には「キングダム 運命の炎」が公開されていたのである。不運と言えば不運だったとは言える。


今年全米でNo.1になった作品で、日本でもNo.1になった作品には次のようなものがあった。国名の後ろの( )内の数字はNo.1になった回数。
「アントマン&ワスプ クアントマニア」: 全米(2) 日本(1)
「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」: 全米(4) 日本((6)
「リトル・マーメイド」: 全米(1)  日本(3)
「インディ・ジョーンズと運命のダイアル」: 全米(1) 日本(1)
「ミッション:インポッシブル デッドレコニングPART ONE」: 全米(1) 日本(1)
全米では1位にならなかったが、日本では1位になった作品には次の2作品(ともに1回づつ)があった。「MEG ザ・モンスターズ」「ホーンテッドマンション」

 

こうしてみると、とくにアメリカ映画の不人気の理由は分からない。
但し、反対に全米のみで1位だった作品には次の12作品があった。


「ノック 終末の訪問者」「マジック・マイク ラストダンス」「クリード 過去の逆襲」「スクリーム6」「シャザム 神々の怒り」「ジョン・ウィック コンセクエンス」「ダンジョンズ&ドラゴンズ アウトローたちの誇り」「ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー Volume3」「「ワイルドスピード ファイアブースト」「スパイダーマン アクロス・ザ・スパイダーバース」「ザ・フラッシュ」「インシディアス 赤い扉」


12作品の内4本がアメコミ作品だった。
アメコミの日本における人気が下がってきているのは間違いない。作品が増え過ぎたという印象。シリーズがどんどん拡大され、それぞれを追って見ていくにはかなりの努力が必要だ。作品自体を見れば、内容的には十分楽しめる作品が多いが、似たような印象になってしまうのだ。過ぎたるは及ばざるが如し?

 

 

 

 

今月はここまで。
次号は、過ごしやすい秋もそろそろ終わりかの10月25日にお送りします。

 

 


                         - 神谷二三夫 -


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