2010年 10月号back

今年は多くの地で真夏日の日数が新記録をするがごとく、
暑い日が続きましたが、
この数日来やっと涼しくなり始めました。
風も心地よい秋がやってきます。
芸術の秋でもあるこの季節、
総合芸術ともいわれる映画を楽しみましょう!


 

今月の映画

 8/26~9/25の31日間に出会った映画は25本、本数はそこそこですが、
日本映画、外国映画に2本ずつ、計4本の古い映画が入っています。
 最近作品不足感があるのです。(トピックス参照)
 今月はそんな中、日本映画が頑張りました。

<日本映画>

東京島 
トイレット 
ハナミズキ 
オカンの嫁入り
女が階段を上る時(古) 
花影(古) 
悪人 
BECK
The Last Message 海猿 
君が踊る,夏 
桜田門外ノ変(試写会) 
十三人の刺客

 

<外国映画>

小さな村の小さなダンサー 
ミックマック 
トラブル・イン・ハリウッド
スイングホテル(古) 
東への道(古) 
ミレニアム2 火と戯れる女
終着駅 トルストイ最後の旅 
彼女が消えた浜辺 
バイオハザードⅣ アフターライフ
食べて,祈って,恋をして
ナイト・トーキョー・デイ
ベンダ・ビリリ もう一つのキンシャサの奇跡

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

 

①悪人
 どの登場人物の心にも、人との接触を求める気持ちがあるのに、車の中がその運転手の小世界を形作ってしまうように、壁を作って自ら孤独の中に逃げ込んでしまう現代、その中で愛を求める主人公たちのささやきが聞こえる。日本映画、今年随一の傑作。

 

②オカンの嫁入り
 現代の家族はいろいろな形をしている。主人公は母との二人暮らしの若い女性、彼女の周りにいる、大家のおばさん、オカンの再婚相手、医院の先生の織りなす人間関係は温かい。呉監督が見せてくれる新しい家族劇は素晴らしい。

 

③彼女が消えた浜辺
 先月の「ペルシャ猫を誰も知らない」に続き、新しいイラン映画はこれまた何とも普通の、現代に生きる家族たちを描いていて、その違和感のなさに驚かされる。さらに、巧妙に仕掛けられた語りの上手さに引っ張られて、最後まで目が離せない。

 

 

 次の作品も楽しめます

 

トイレット:前作「めがね」は今一つ残らないお話だったが、同じペースながら今回のお話はメリハリがあり、しゃべらないもたいまさこ位がちょうどよいのかとも思ってしまった位に快適、上手い。

 

小さな村の小さなダンサー:原題は「毛沢東の最後のダンサー」とあるごとく、紅衛兵運動のころにダンサー候補として選ばれ世界的ダンサーとなった実話の映画化だが、あの時代にバレエにあれほど力を入れていた中国という国にもいたく驚いた。

 

ミックマック:「エイリアン4」や「アメリ」を作ったフランス人監督ジャン・ピエール=ジュネの本領発揮、子供の心を持った大人の遊びが爆発する。あの手話みたいな言語は笑えます。

 

ミレニアム2 火と戯れる女:現代の幾多の特性を詰め込んで、各部上下2巻本となった原作のごとく、1作目に続く2作目も内容ぎっしりの映画になった。原作を読んだ人にはすべての要素が思い当たる、読んでない人はまるでジェットコースターのような話運びを楽しめる作品。第3作も早く見よう。

 

終着駅 トルストイ最後の旅:駅は本当に終着駅だったんだあという思い、1910年代にロシアのあんな僻地に世界のジャーナリストが集まって来るというのも驚いた。共産主義の前のトルストイ主義のようでこれも驚くが、共主義者はやはり怪しいとも思うのである。様々に心揺らぐトルストイ映画だ。

 

BECK:原作の漫画を読んでいないので書かれているのか知らないが、ギターの話とは知っていて、当然イギリスのギタリスト、ジェッフ・べックのことと思っていたのだが…犬の名前に使われていた。
何でも作る器用な堤監督の最近作ではおもしろい、誰をも魅了しきってしまう歌声を聴かせないのは正しい。

 

The Last Massage 海猿:いかにもTV局が作りそうな、だれが見ても分かりやすく、ハラハラドキドキもあり感情に訴え、さらに最後はご安心の海猿です。

 

ベンダ・ビリリ もう一つのキンシャサの奇跡:何ともいい加減な作りで、これで大丈夫かいなと、バンドをしている人たちにも映画を作っている人たちにも不安を抱いてしまうが、彼らのリズム感には確かにノックアウトされる。

 

十三人の刺客:今年は多くの時代劇が作られ、この作品もその1本、43年ぶりのリメイクだ。三池監督は黒基調の画面で骨太の映画に仕上げている。出てくる役者が皆うれしそうだ。

 

 

 

Ⅱ 今月の懐かしい人

 

カイル・マクラクラン

 「小さな村の小さなダンサー」で主人公がアメリカに亡命するのを助ける弁護士を演じたカイル・マクラクラン、昔「砂の惑星」でデビュー、デヴィッド・リンチの「ブルー・ベルベット」の不思議な世界を支えた俳優だ。端正で清潔感があるのに、妙になまめかしい不思議な感覚の男優だ。TV「ツイン・ピークス」の主役でも知られる。

 

サチ・パーカー

 「トイレット」でもたいまさこがバスを待つベンチに、同じように座る謎の女性を演じたのは、2年ほど前「西の魔女が死んだ」に主演したサチ・パーカー。シャーリー・マックレーンとスティーヴ・パーカーの娘で、確か12歳まで日本に住んでいた日本語ぺらぺらの女優。「西の魔女・・・」に出演するまでは少なくとも日本では全く有名ではなかった彼女、日本映画2作目はセリフなしでもたいの向こうを張った(?)。

 

バリー・レヴィンソン

 ロバート・デ・ニーロがハリウッドのやり手プロデューサーを演じ、ブルース・ウィリス(本人役で出演)のわがままに苦しめられる「トラブル・イン・ハリウッド」を監督したのはバリー・レヴィンソン。1982年、「ダイナー」で監督デビュー、1990年までに「ナチュラル」「グッドモーニング、ベトナム」「レインマン」「わが心のボルチモア」を送りだし、80年代を代表する監督の一人であったことは間違いない。普通の人たちを清新な画面で描いて、隣にいるような人たちを生き生きと見せてくれた。
 変に肩肘張らず、アメリカの開かれた良さを感じさせてくれる監督だった。調べてみると、それほど途切れることなく作品を作っていたようだが、日本では公開されず、随分久しぶりに監督作品を見せてくれた。映画界の内部を描いた今回の作品、真面目に、おかしく、楽しい作品でした。



 


今月のトピックス:作品不足 & ETC

 

Ⅰ 今月の作品不足の状況

 

 日本は世界でも有数の映画公開本数の国、ここ数年は1年間に新しく公開される作品は、日本映画、外国映画を合わせ800本前後になっている。
具体的な数字は次の通り。

 

       2005年  2006年  2007年  2008年  2009年

日本映画    356   417    407    418    448

外国映画    375   404    403    388    314

合計      731   821    810    806    762

 

 日本映画の本数がどんどん増えてきたのに、外国映画が2008、2009と続けて本数を減らしている。その傾向は今年も続いているようだ。その結果、今年の本数は700を割り込むのではといわれている。

 

 それでも、毎日2本見続けられる位の本数が封切られているわけで、何も嘆くことはないのではと思われることだろう。はいはい、嘆くことはないのですがそれでも、時に見たい作品がなくなるなんてことがあるのです。
 これは困ります。
 禁断症状みたいなもので、落ち着かなくなるのです。
そんな時は、まあ、暇だったら見るかと思っていた作品まで手を伸ばすことになる。と、前置きが長くなりましたが、そんなこんなで手を出した今月の作品は次の通り。

 

◇ハナミズキ:甘いだけのロマンスでは真実味がないと分かった上で作られた10年を超えるお話、案外上品に作られている。

 

◇バイオハザードⅣ アウターライフ: ゲーム好きの人には申し訳ありません。楽しめませんでした。あまりにゲーム的なアクションにも乗れませんでした。

 

◇君が踊る、夏:いかにもの筋立て、若い二人のロマンスに小児がんの妹、よさこい踊りを絡めた友情、見せ場としてのよさこい踊りと普通の要素がいっぱい。

 

 学生時代(約40年前)、名古屋でのロードショーは2本立てが普通だった。
正確にいえば、東京、大阪での封切り館以外は2本立てだったと思われる。今やシネコンの時代、2本立てとは何のことと言われそうだが、2本立ては、それほど見たくない作品も見せてくれる。それが思いのほか良かったりすると大きくもうけた気分になる。上の作品では、ハナミズキは拾いもの、君が踊るも昔のプログラムピクチャーのようで気軽に楽しめた。

 

 もちろん、作品数が多ければ良いというものではない。観たい作品が十分あればうれしいが、それ程簡単ではない。何事もバランスが大事。充実した作品が続いた後は、ほっとできる作品や吹っ切れる作品もほしいもの。

 

 様々な要素があって外国映画の本数が減ってきたのだが、世界の映画が幅広く楽しめる状況が少しでも長続きするよう願わずにいられない。

 

 

 

Ⅱ 最近の3D

 

 今年のヒット映画の興行収入ベストスリーは次のようになっている。

 

  1.アバター(昨年分含む)  

  2.アリス・イン・ワンダーランド  

  3.トイストーリー3


 この3作いずれもが3D上映が多く行われた。3D上映は特別料金が必要で、映画1本当たりの単価を上げている。映画業界にとっては良いことのようにも見えるのだが。

 

 1ヶ月くらい前だろうか朝日新聞の土曜版にジェフリー・カッツェンバーグのことが大きく取り上げられていた。スピルバーグらと立ち上げた映画会社ドリームワークス、そこからさらに分社化したドリームワークス・アニメーションの最高責任者だ。「ヒックとドラゴン」の公開に合わせ来日した時に“3D映画の旗振り役”として紹介されていて3Dの可能性について熱っぽく語っていた。これからの作品はすべて3Dにするとも言っていた。


 「The Last Message 海猿」を日本映画として初めて3Dで見てみた。が、別に3Dだからという感慨はなかった。
実はその前にも「トイストーリー3」を3Dで見ていたのだが、同じように感じていたのだ。アバターの画面に感じた驚きはあの場限りのものだったのか?

 

 それでも、これらの作品を3Dで見る人は多いようだ。3Dで見ることが一つのイベントのようになっているのでは?年に数回しか映画を見ない人にとってはイベントなのかも。しかし、何度もイベントに出かけると飽きが来るがごとく、今のままでは3Dも飽きられるのでは?しかも料金が高く、メガネでちょっと見にくいというハンデがあるのだ。

 

 映画業界が力を入れている3Dに水を差すようではあるが、これが映画の未来を拓くとは思えない。

 

 

 

 

Ⅲ 本編の前に同じ作品の予告編

 

 9/11待ちに待ったミレニアムの続編ミレニアム2が封切られた。全6冊の原作本はばっちり読んで、封切りの日を待っていた。本編が始まる前に何本か予告編が流された。その中に、ミレニアム2の予告編が含まれていた。


 通常、予告編は作品のいいとこだけを見せようとするもの、言わば見せ場総集編なのである。本編の前に見せ場だけを見せられるのはいかがなものかと思った。通常これは起こり得ない。実はこの予告編、ミレニアム2と3が一緒に作られているのだ。この映画館では、ミレニアム2の封切りと同時に、最終回の1回だけミレニアム3を封切っていたので、多分ミレミアム3を宣伝するために予告編が流されたと思われる。


 でもなあ、どう考えたっておかしいよ。2つの作品の予告編を1本で作ってしまう配給会社もどうかと思う。これをミレニアム3の予告編として流すのはひどすぎる。映画館側も本編前の同じ作品の予告編なんて絶対に流すべきではない。

 

 今月はここまでです。
皆様には作品不足にめげず、映画館に出かけられますように。


                         - 神谷二三夫 -


感想はこちらへ 

back                                                                         

copyright