2011年 4月号back

大変な災害にあわれた皆様、心よりお見舞い申し上げます。
生活の総てを奪われても、大きく気持ちを表に出すことなく、
静かに向き合っている皆様、一刻も早く普通の生活ができますように、
応援させていただきます。すべてが不自由で小さな生活しかできない中で、
時にはどうぞ心を休めてください。
もしも可能であれば映画館で。

 

今月の映画

 文字通り未曾有の震災に見舞われた2/26~3/25の28日間に巡り合えたのは27本、様々な困難にも出会いましたが、とりあえず私の生き方を持続して、
多くの作品を見せてもらいました。感謝いたします。


<日本映画>

洋菓子店コアンドル 
わさお 
SP革命編
死にゆく妻との旅路
漫才ギャング
(古)愛の渇き
赫い髪の女

 

<外国映画>

アンチクライスト 
イップマン序章 
英国王のスピーチ 
トスカーナの贋作
ナルニア国物語第3章アスラン王と魔法の島
アレクサンドリア
戦火の中へ
恋とニュースの作り方 
ツーリスト
唐山大地震(試写会)
神々と男たち
ショパン愛と哀しみの旋律 
アメイジング・グレイス 
台北の朝,僕は恋をする
再生の朝に―ある裁判官の選択― 
トゥルー・グリット 
シリアスマン 
塔の上のラプンツェル 
サラエボ 希望の街角 
ブンミおじさんの森

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

 

①英国王のスピーチ
 想像以上に細かいところまで丁寧に書きこまれ、ジョージ6世とローグというオーストラリア人との友情、英王室一家の在り方まで見事に描かれた作品。もちろん吃音者の苦労もコリン・ファースの名演技により表現されている。長女の現エリザベス女王が試写を見て「感動した」と述べられたというのも、納得できる名作。必見です。


②トゥルー・グリット
 今や1年に1本見られるか否かという西部劇、ジョン・ウェインがアカデミー賞を獲得した「勇気ある追跡」のリメイクがやってきた。荒野の中で生きることの厳しさ、生と死が常に身近にあること、大きな悲しみも笑いの陰に隠して気丈に前に進むアメリカ人の原点を見るような。心に残る西部劇です。


③-1 シリアスマン
 トゥルー・グリットを作ったコーエン兄弟がその前に作ったこの作品、ユダヤ人によるユダヤ人のためのユダヤ人についての映画の様相を呈しておりますが、この自己をも笑ってしまうのもユダヤ人。こてこてのユダヤ人でっせ。

 

③-2 塔の上のラプンツェル
 ディズニーの長編アニメーション50本目となる作品。流石の出来です。アニメらしいタイミングの良さ、歌を抑えて必要な時に最上な形で使うミュージカル的楽しさ、ラストにはナウシカ的感動を引き起こすしたたかさです。

 


 次の作品も面白いです。ご覧ください。

 

イップマン序章:やっと見られた1作目は続編より面白かった、たとえ日本人が悪役でも。

 

恋とニュースの作り方:細かい部分で結構笑いました。もっと快適に作ってほしかったのですが。

 

神々と男たち:アルジェリアの寒村にあるシトー派の修道院、イスラム武装集団に僧侶が誘拐されるという実話に基づき語られる静かで力強い作品。

 

アメイジング・グレイス:この歌の後ろにこんなお話があったとは驚き、アメリカより前に奴隷制度解放の運動があったイギリス、志を通す主人公の姿に感動です。

 

台北の朝、僕は恋をする:彼女がフランスに行ってしまった青年の新しい出会いが楽しい台北の一夜。

 

SP革命編:TVを見ていないので主人公の特殊能力だけは受け入れられないのですが、アクションとしてはすっきり、描写がシャープ、金城一紀の脚本は流石。

 

漫才ギャング:ほとんど漫才の会話で終始する品川ヒロシの2作目、予告編よりは確実に面白い。

 

 

 


Ⅱ 今月の懐かしい人

 

★ジェフ・ゴールドブラム
 「恋とニュースの作り方」でIBSテレビの上司を演じたジェフ・ゴールドブラム、「ジュラシック・パーク」などに出ていたちょっとあくの強い顔、「フライ」ではハエ男になっていた細身長身の男優だ。様々な作品にも出演している。その特異な顔は一度見たら忘れられない。舞台でも活躍している人なので最近見なかったのは舞台のためだったのだろうか?

 

 

 


Ⅲ 今月のつぶやき

 

◎先月見た「白夜行」と「洋菓子店コアンドル」は同じ深川栄洋監督、調べてみると35歳と若いのにかなりの作品実績が。2本で見る限り映像センス良し。

 

◎三島由紀夫の原作、「愛の渇き」の浅丘ルリ子はどう見ても若尾文子の役柄だなあ。

 

◎「アンチクライスト」はラース・フォン・トリアーの暗さに疲れを覚えるとともに、シャルロット・ゲンスブールの大胆さには驚く。

 

◎アッバス・キアロスタミの「トスカーナの贋作」は、大人の会話としては私には受け入れがたい。子供のセリフはあんなに自然に受け入れられたのに。

 

◎「再生の朝に―ある裁判官の選択―」を見ていると、14年前の中国では河原の空き地で銃による死刑が執行されていたことになるのは驚き。


◎「ショパン 愛と哀しみの旋律」でショパンとジョルジュ・サンドが描かれるが、サンドはまったく魅力的ではない。どちらかと言えば怖い。

 

◎「死にゆく妻との旅路」の石田ゆり子はミスキャストですよね?

好みの問題?


 


今月のトピックス:地震関連ニュース&ETC

 

Ⅰ 地震に関連して

 

1)公開延期
 今回の災害のため、公開延期された作品がある。
それぞれに理由はあるのだろうが、今回の災害を何らかの形で想起させるものがほとんどだ。公開予定(だった)順では次のようになっている。

 

3/19公開予定 「ザ・ライト エクソシストの真実」:

        悪魔払いが今の状況に合わないという判断

3/26公開予定 「唐山大地震―想い続けた32年―」:

        あまりにも直截に・・・

4/4公開予定 「世界侵略 ロサンゼルス決戦」:

        未知の生命体が引き起こす破壊的映像が現在の状況に不適切

4/16公開予定 「カウントダウンZERO」:

        核兵器のない世界を目指すドキュメンタリー

4/22公開予定 「サンクタム」:

        水中の洞窟内に閉じ込められるという内容が

5/21公開予定 「ゴーカイジャー ゴセイジャー スーパー戦隊199ヒーロー大決戦」:   製作遅れのため

6/4公開予定 「父の初七日」:

        故人をおくる内容がふさわしくない

 

このほかにもあるかもしれない。

この中で、「唐山大地震」は試写会で見ることができた。1976年、中国唐山市を襲った大地震を描いた映画だが、地震そのものより、それによって引き起こされた家族のつながりについての映画で、家族映画と言って間違いがない。感情に走ることのない一面スマートな作りの中国映画だった。これらの映画を安心してみることができる状況になることを願わずにいられない。


公開延期が公開中止にならないようお願いしたい。

 


2)上映中止
 公開中だった「ヒアアフター」は3/14(月)に上映終了となった。クリント・イーストウッド監督の最新作で、霊感者を主人公にしたヒューマンドラマ。
公開週には興行収入で2位にもなっているのでご覧になった方もいらっしゃるのでは。上映が急に打ち切られたのは、映画の中に津波に襲われて奇跡の生還をした女性が描かれているため。確かにスマトラ沖地震津波を思い出させる描写は怖いが、生きる勇気を与えてくれる映画でもあるので、
 いつかまた見られるようにしてほしい。


3)映画館の状況
 震災の翌日、3/12は多くの映画館が休館となった。
人が集まるための交通手段が満足でなく、地震による設備損壊があったのかもしれない。この日銀座、有楽町地区で営業していたのは銀座シネパトス、シネスイッチの2つの映画館のみ。
 3/13(日)には営業する映画館が増え通常に近くなったが、上映時間はかなり変更されていた。銀座テアトルではチケット購入時に“スクリーンが少し傷ついています”と言われたが、上映中に気付くほどのものではなかった。
 3/14(月)以降は計画停電も始まり、節電のため初回、最終回をカットする映画館も多くなった。
新聞やサイトの映画館一覧を見ても“上映時間は劇場にお問い合わせください”が多くなった。
 各映画館のサイトに入って時間を確認するしかない状態は今も続いている。
古い映画の特集上映の映画館、神保町シアターは3/25(金)までずっと休館とのこと。


4)地震警報
 3/20有楽座で3Dでの「塔の上のラプンツェル」を見ていたとき、突然、地震警報の携帯音がかなりの数なり始めた。携帯電話の電源は切っているはずなのにと思いながらも、地震が来るのかと思ったが誰も動かない、皆慣れてきて身構えてはいてもすぐに行動を起こすことはなくなっている。携帯を持っていない私は、地震当日の帰宅時運良く乗れたバスの中で、周りの人の携帯が突然なり始めたことで初めてこの音を知った。

*映画を安心して楽しめる状況に早くなりますよう!!

 

 

 

Ⅱ 映画館の入場料金1800円は高い?

 

 というアンケートの結果が3/12の朝日新聞に掲載されていた。
“はい”が92%、“いいえ”が8%という結果だった。
 “いいえ”と答えた奇特な人の理由は、「他の娯楽料金と比べ」「良い映画なら安い」がそれぞれ25%、24%となっている。

 “はい”の人たちはいくらなら妥当と思っているのかの問いに、1200円未満が50%、1000未満が17%、1200円が14%の結果が出ている。つまり1200円以下と答えた人が、800円以下と答えた5%も加え86%になっている。
 先日TOHOシネマズが1500円にしようとしていると発表したが、まだまだ差があるようだ。1500円なら映画を見るのが増えるかとの問いに「増える」と答えた人は20%のみだ。
 その裏には、今やいろいろな形での割引があり、既に多くの人が1800円より安く見ている実態があるようだ。

 まあ、想像通りの結果だったから大きな驚きはない。
 しかし、テレビが大型、鮮明になると、映画を映画館で見る必要がなくなる?との問いに、“いいえ”と答えた人が67%というのには安心というか、感動というか、心が温かくなった。
 映画館で見たい人が多いんだ、見捨てられてはいない。本当は映画館で見たいんだけど、なかなか行けないという人、
今すぐ出かけましょう。

 

 


 

Ⅲ アカデミー賞の結果

 

 今年のアカデミー賞は「ソーシャル・ネットワーク」と「英国王のスピーチ」の対決と言われていたが、開けてみると、作品、監督、脚本、主演男優の各賞を獲得した「英国王のスピーチ」が圧勝の印象。

 実際の受賞数は「英国王…」が4部門、「ソーシャル…」が3部門、
(ちなみに「インセプション」も4部門)とそれほどの違いはない。
確かに「英国王」は良い作品だったので文句はないが、昨年も「ベンジャミン・バトン 数奇な人生」が「スラムドック・ミリオネア」に敗れた「ソーシャル」のデヴィッド・フィンチャーにはせめて監督賞はあげたかったなあ。
 とりあえず「英国王…」は見る価値のある作品、見てください。日本での封切りは2/26(土)でアカデミー賞の1日前だった。有楽町ではシャンテシネの3つのスクリーンのうち2つを使って公開された。TOHOシネマズ劇場、少なくとも有楽町地区では1回目は自由席定員制、2回目~は指定席制のはずが、この作品は1回目から指定席制となっていた。

 ちょっと驚き、初めてでしたから。
 チケット売り場の人に根掘り葉掘り聞いている暇はなかったので理由は分からない。

 

 


Ⅳ リズ

 

 3/23の早朝エリザベス・テイラーが79年の人生に幕を閉じた。
 愛称はリズ。
 私が見た最後の作品は1980年の「クリスタル殺人事件」で、
その後少しの作品はあるがほぼ30年間はスクリーンに姿を見せていなかったので、“絶世の美女”と言われたその顔を知らない人も多いかもしれない。10歳で映画デビューしてから約40年、幾多の作品に主演し、アカデミー主演女優賞も2度受賞している。もっとも有名な作品は「クレオパトラ」ということになろうか?何せ、そのわがまま傲慢ぶりが話題となり、20世紀フォックスの屋台骨がぐらついたと噂され、そのことで1冊の本が書かれたほどである。

 18歳の時ホテル王の息子コンラッド・ヒルトン・ジュニアと最初の結婚をした後、生涯に7人の相手と8回の結婚をしている。(リチャード・バートンとは2回)3番目の夫マイケル・トッドが結婚後1年で飛行機事故により死亡したのが、彼女にとっては不幸であったと言われる。
 そのためか、友達であったデビー・レイノルズの夫エディー・フィッシャーを奪い取り、悪女イメージが定着してしまう。
 そして「クレオパトラ」撮影中にリチャード・バートンと恋に落ち、二人とも離婚してエリザベス・テイラーにとって5度目の結婚をする。全ての悪評、困難を乗り越えて生き抜いてきたエリザベス・テイラーは、エレガントではなくアロガント(高慢な)ビューティと言われる。作品にも面白いものは多いが、それ以上にゴシップで騒がれた大スターだった。あまりに、バターぽくって(バタ臭い以上に)日本人には十分には愛されなかった気がする。ハリウッドの黄金時代にハリウッドらしいスターの筆頭だった。

 

 ご冥福をお祈りします。

 


今月はここまで。

次回はGW直前の4/25です。

 


                         - 神谷二三夫 -


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