2012年 4月号back

遅い春にもやっと終点が見えてきて、
と思ったのもつかの間、
今もって冬に戻ったりしている今年の気候、
落ち着きのない、しかも寒いのが基調の天候の中、
安定した環境はやはり映画館の中!

 

今月の映画

 2/26~3/25、うるう年の29日間に見た映画は29本、先月の「ニーチェの馬」のように飛び抜けた作品はなかったものの、バラエティ豊かな作品がそろいました。


<日本映画>

鬼に訊け 
生きてるものはいないのか
おかえり,ハヤブサ
しあわせのパン 
3・11 
RIVER
僕達急行A列車で行こう
(古)A 
A2 
あらくれ 
女性操縦法

 

<外国映画>

汽車はふたたび故郷へ 
TIMEタイム 
ヒューゴの不思議な発明
顔のないスパイ
ピナ・バウシュ夢の教室 
戦火の馬
世界最古の洞窟壁画3D忘れられた夢の記憶 
父の初七日
シェイム 
アリラン
マーガレット・サッチャー鉄の女の涙
長靴をはいた猫 
シャーロック・ホームズ シャドウ・ゲーム
青い塩 
第九軍団のワシ 
フラメンコ・フラメンコ
(古)セコーカス・セブン 
素晴らしき哉,人生

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

 

① ヒューゴの不思議な発明
 1930年代のパリ、父親を失った少年ヒューゴの冒険が、美しい映像で描かれるマーティン・スコセッシ監督作品。映画の創成期、フランスでイマジネーションあふれた作品を作った、元マジシャンにして監督のジョルジュ・メリエスに捧げた作品。アカデミー賞の技術部門を複数受賞、見ていて楽しい作品です

 

② 戦火の馬
 スピルバーグ作品には珍しく控えめな感情描写、イングランドの村に暮らす人々の生活が、まるでかつてのジョン・フォード作品のように描かれる。馬が主人公の美しい作品。

 

③-1 RIVER

 秋葉原の街を主人公の女性が動き回り、カメラと共に見ている我々も風景の中で彼女と共に動く。甘いところのない廣木隆一監督の新作は、何んとも新鮮な印象だ。

 

③-2 マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙
 サッチャー元首相が認知症で苦しんでいるとは知らなかった。そのことを、昔彼女が活躍した時代と交互に語りながら、彼女の負の部分も正直に描いているところが成功している。彼女も父の子だったんですねえ。

 


 次の作品もお勧めです。お楽しみください。

 

鬼に訊け:宮大工西岡常一の姿を追ったドキュメンタリーは、樹と共に生きる彼の姿、弟子を育てていくその姿勢に感銘を受ける。

 

生きてるものはいないのか:どの方向を向いて作られた作品なのか、見るものを魅了して何だか知らない不思議な空間に連れて行ってくれるような新鮮
な映画です。

 

顔のないスパイ:古くは「影なき狙撃者」、最近では「ソルト」など、旧ソ連、ロシアに洗脳された休眠スパイが目覚めて動き出すスパイ物を久しぶりに楽しみました。

 

ピナ・バウシュ 夢の教室:高校生だけでピナの作品を上演しようと1年をかけて高校生を指導するプロジェクト、指導に当たるピナの弟子ベネディクトとジョーの2人が素晴らしい、ピナの踊りの神髄もよく分かる。

 

父の初七日:初七日といっていいのか否か、亡くなってからお葬式までの7日間を描く台湾映画、ユーモアとおとぼけと文化の違いが面白い。伊丹十三の「お葬式」以来、お葬式はコメディになることが多い?

 

3・11:震災地を訪ね歩くドキュメンタリー映画。今月のトピックス参照。

 

シェイム:ここまで赤裸々に描かれると結構見入ってしまうセックス依存症の男の私生活、兄妹の関係もかなり異様で、シェイムは“恥”+“罪”というのを感じさせる内容。

 

長靴をはいた猫:「シュレック」から派生した猫プスのアニメ作品、ジャックと豆の木からマザーグースのハンプティ・ダンプティまで登場の面白い作品です。

 

僕達急行A列車で行こう:森田芳光監督の遺作となってしまったこの作品、何とも不思議な味わいの小粒で、ほんわか面白い作品です。

 

第九軍団のワシ:ローマ帝国が現イギリスのイングランドまでをその支配下におさめていた頃、スコットランド地域で姿を消した第九軍団についてのローズマリー・サトクリフの有名な冒険少年小説の映画化。国境線及び防衛線として作られたハドリアヌスの長城が見られたのがちょっと嬉しい。

 

 

 

Ⅱ 今月のミレニアム

 

 「ドラゴン・タトゥーの女」は勿論ミレニアムのハリウッドリメイクの第1作。ミレニアムとはスウェーデンの作家スティーグ・ラーソンの世界的ベストセラーのミステリー小説。Ⅰ~Ⅲまでの全3部作、各部2冊の長編ミステリーシリーズだ。
 スティーグ・ラーソンは処女作第一部の出版前に心臓発作で亡くなってしまう。2005年にスウェーデンで発行されたミレニアムシリーズは処女作にして遺作、しかも大ベストセラー。近年これほど話題になった作品も珍しいのでは。
日本では2008年12月に発行された。ミレニアムは主人公ミカエル・ブルムクヴィストが発行する雑誌の名前。ドラゴン・タトゥーの女は強烈な個性のもう一人の主人公リスベット・サランデル。彼女の特異な生き方が見る我々をぐいぐい引き込んでいく。様々な要素を取り込んでミステリーは進んでいく。

 スウェーデンで映画が作られ、公開されたのは2009年2月27日。2009年の末までに2部、3部作も公開され、大ヒット、日本でも2010年に公開された。

このスウェーデン映画でリスベットを演じたノオミ・ラパスが、公開中の「シャーロック・ホームズ シャドウゲーム」に出演、ジプシー(この映画ではロマではなく、ジプシーと呼ばれていた)の占い女を演じている。正月に公開された「ミッション・インポッシブル ゴースト・プロトコル」には、スウェーデン映画でミカエルを演じたミカエル・ニクヴィストがイーサン・ハント(トム・クルーズ)の敵役で出演していた。ミカエルは他の映画でもときどき見ていたが、ノオミ・ラパスは「ミレニアム」以外では初めて。ミレニアムの力は強い。

 

 

Ⅲ 今月の新鮮な日本映画

 

 「生きてるものはいないのか」は石井聰互改め石井岳龍監督の新作で、主人公のいない集団劇だが、その映像のふらふらした様がなぜか非常に新鮮。薄く生きている若者たちと世界の接点が縦横無尽、ポップに描かれる。「RIVER」は秋葉原通り魔事件で恋人を亡くした女性が、彼の不在と折り合いをつける物語だが、町を歩く彼女の姿がほとんどドキュメンタリーのように臨場感を持って描かれる。町を歩き、走りながら彼女の心の変容も感じさせながら、今までにない映画体験をさせてくれる。

 「僕達急行A列車で行こう」はそののんびり度が今では非常に新鮮に感じるような、昔のテイストを味あわせてくれる森田監督の遺作。今月見た日本映画の中には、3本の新鮮な映画があったのです。

 


Ⅳ 今月のつぶやき

 

◎はやぶさはそれだけ大きなインパクトを日本人に与えたんだなあと、はやぶさものの3作目「おかえり、はやぶさ」を見ながら考えた。3本も映画が作られるなんて!今作は春休みの子供狙いの、まるで少年科学図鑑のような映画だった。私のはやぶさベストスリー(3本しかないんだよ)は次の通り。
①「はやぶさ 遥かなる帰還」 ②「はやぶさ」 ③「おかえり、はやぶさ」

 

◎ピナ・バウシュの2本のドキュメンタリー「踊り続けるいのち」「夢の教室」で印象に残るのは、踊りの次にはあのモノレール、調べてみると彼女の舞踊団があるヴッパータールという、デュッセルドルフから少し東にある街を走る世界最古のモノレールということが分かった。1901年に運転開始、1世紀以上走り続けているらしい。

 

◎「しあわせのパン」はゆったりした映画で、特に女性には受ける内容かと思うけれど、私にはちょっと気恥ずかしく思われた、あまりに定型的な良い話の連続で。

 

◎60年代に学生だった者たちが集まって…と書くと、思い出すのは「再会の時」だが アメリカン・インディペンデンス映画の旗手ジョン・セイルズの「セコーカス・セブン」は初めて見て驚いた、あの当時の感じをあまりにそのままに描いていたので。製作年度は1980年と「再会の時」の1983年より前なので影響を与えていたんですね。

 

◎1957年の成瀬巳喜男監督の作品「あらくれ」は、大正から昭和にかけて生きた一人の女性を描いているが、この主人公が超強力で自立心が凄い。高峰秀子がふてぶてしくも演じていて素晴らしい。

 

◎ガイ・リッチーの映画はテンポが命のようなところがあるが、「シャーロック・ホームズ シャドウゲーム」の前半は、いくらなんでも速すぎでしょう。謎解きを考えている余裕なんてない。

 

◎フラメンコでは踊りよりも歌(カンテ)が重要なんだなあと感じさせてくれる「フラメンコ・フラメンコ」、もちろん素晴らしい踊り、ギター(パコ・デ・ルシアも出演)、手拍子に多くの絵画が画面を飾る。


 

 

 

今月のトピックス:震災から一年

 

Ⅰ 映画界の一年

 

 震災直後、いくつかの映画館が被害にあい物理的に上映場所が少なくなったり、交通機関の運休や節電などにより、映画館の上映回数が削減されるという状況もあり、映画を見に来る観客は大きく減少していった。物理的に上映できないという状況以上に、映画を見ている気分ではないという人々の気持ちの問題が大きかったのだろう。
 映画を見ている時に地震にあったらどうしようとの気持ちもあったのだろう。震災後半年くらいは“地震等で上映を途中で中止する場合があります。”と放送していた映画館も多かった。震災直後は、災害を想起させる映画などが上映中止や、封切り時期の延期なども行われ、作品によっては既に宣伝等も行われていたりして、興行的影響はかなりのものがあった。

 2~3カ月後にはほぼ通常の上映に戻っていたが、戻らなかったのは観客の数だった。

 2011年の年間入場者数は1億4472万6千人となり、前年比83%と17%も減ってしまった。2001年以降、年によりでこぼこがあるとはいえ、1億6000万~7000万をキープしていたのだが、10年ぶりに1億5000万人を割ってしまった。公開された映画の本数は邦洋画合わせて799本と、前年の716本より随分増えている。観客が大きく減ったため、1作品のロードショー期間が短くなり、
作品の回転が速くなったために作品数が増えたものと思われる。映画は興行であり、興行は水もの、当たり外れが出るのは当たり前、この1年はヒット作が少なかったんだなあと思うとともに、娯楽である映画は大きな災害にはやはり最初に影響を受けるんだなあと、改めて考えさせられている。

 

 

 

Ⅱ 3・11関連の映像

 

 1周年前後にTVで多くの映像が流された。あまりTVを見ないので多くを言える立場にないが、災害にあった人たちが写した映像が多く流されたようだ。映像関係者も多くの人が作品を送りだしている。

 そんな中、4人の映像作家等が震災2週間後に現地を訪れた時を記録した「3・11」というドキュメンタリー映画が劇場公開されている。森達也、綿井健陽、松林要樹、安岡卓治の4人が、福島、宮城、岩手と災害地を訪ねていく姿を追ったものである。前半、福島に向かう際、車の前に置いた放射能探知機の指す放射線濃度が、臨場感を産む。
 あの当時、こうした映像は見ていなかったので、妙に緊張して見ていた。森監督の話によると、作品に対するきちんとした考えはなく出かけ、色々な場で先に歩いていた監督自身が被写体になることが多かったが、特に主人公を決めることもできず、こうした形になったとのこと。
 映画を作っている監督たち自身の姿や、被災者たちに話を聞く森監督の自信無げな姿など、格好悪い部分も正直に映し出している。この製作姿勢で見ている我々にも参加意識を引き起こす。

 

 

 

Ⅲ ドキュメンタリー

 

 今月は次のドキュメンタリー作品を見た。

・鬼に訊け  
・ピナ・バウシュ夢の教室   
・世界最古の洞窟壁画3D忘れられた夢の記憶
・A  
・A2  
・3.11

 森達也監督のA、A2をやっと見ることができた。
Aの後は監督のトークショーつき。オウム真理教についてのドキュメンタリー、Aは思っていた以上に素晴らしい映画だった。荒木広報部長という主人公を得られたことが作品に命を吹き込むことができた大きな要因でしょう。6本の作品、それぞれに面白い作品だった。
 ドキュメンタリーは、事実をそのまま映したものと思われがちだが、作り手がいる限り、そこに作り手の意思が入るのは当然。事実の羅列にも、どんな順番にするかに作り手の意思は入っている。勿論、取り上げる素材によっても作品は大きく左右される。更に、主人公に魅力的な人物を得ることができるか否かも重要だ。ドキュメンタリーは色々なことを教えてくれる。

 

 

Ⅳ おじさんの帽子(今月の映画館の作法)

 

 宮大工のドキュメンタリー「鬼に訊け」は不思議にヒットした作品だ。
 ユーロスペースで朝1回のモーニングショー、1週間限定で始まったのだと思うが、ふたを開けてみるとかなりのヒット。回数が増やされ、期間も延長され、他の映画館でも上映されることになった。職人さん達が多く見に来ていたように思う。普通の客層と明らかに違うのだった。私の隣の席には初老の職人さん風の人が座っていたのだが、上映中も帽子を冠りっぱなしだった。かなりお洒落な人という感じだが、ソフト帽だったので頭よりは高くなっていて、後ろの人には迷惑だったろう。私には影響がなかったので、驚きながらも注意はしなかった。映画館の作法にうるさくしている私としては注意すべきだったかなあ。

 

 

 

Ⅴ 3Dメガネ

 

 ついに出ました。
 3Dメガネに、クリップ型のものが。元々メガネをかけている人の多い日本。
その上から3Dメガネをかけるのは非常に難しい、わずらわしいもの。私も、この二重メガネが嫌いでした。3Dメガネの中には、自分のメガネをすっぽり囲ってしまうゴーグル型のものもあっ
 て、これが一番使いやすい3Dメガネだった。そこに初めてクリップオン型の3Dメガネが出てきた。TOHOシネマズ日劇で普通の3Dメガネが100円、クリップオン型が300円と案内され迷わずクリップオン型を選びました。勿論自分専用に買った訳ですから、その後使いまわすことができます。初めて3D映画を快適に見ることができました。

 

 

 今月はここまで。

 次号はGWに入る直前にお送りします。挨拶は忘れずに!






                         - 神谷二三夫 -


感想はこちらへ 

back                                                                         

copyright