2012年 7月号back

やっと夏に近づいていると実感する蒸し暑い日もあるこの頃、
いつもの年より気温の低い日が続き、
上着を着ている人も多いようです。
台風まで上陸するかなり不安定な気候の中、
いつもと変わらぬ環境は、
そう、映画館。

 

今月の映画

 5/26~6/25、梅雨真只中の30日間に出会った映画は30本、バラエティに富んだ作品がそろいました。

 例によって洋高邦低になりました。

<日本映画>

隣る人 
歌旅
11・25自決の日 三島由紀夫と若者たち
道 白磁の人 
ホタルノヒカリ 
愛と誠
(古)あにいもうと 

 

<外国映画>

私が,生きる肌
メン・イン・ブラック3 
ミッドナイト・イン・パリ
さあ帰ろう,ペダルをこいで
星の旅人たち 
ファウスト 
ヴィダル・サスーン
ミッシングID 
ジェーン・エア 
バッド・ティーチャー
君への誓い
幸せへのキセキ 
ソウル・サーファー 
ネイビーシールズ(試写会) 
1枚のめぐり逢い
スノーホワイト
キリマンジャロの雪 
プレイ獲物(試写会) 
ワン・デイ 23年のラブストーリー
ブラック・ブレッド、
それでも,愛している
(古)ブラック・サンデー

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

 

①ミッドナイト・イン・パリ
 始まりは現在のパリの美しい写真が3分くらい続く。これだけでも幸福な気分。アメリカが発見したというモネの睡蓮に敬意を表してかジベルニーから始まる、最近のウディ・アレンでは最も幸福感に満ちた傑作。

 

②-1 さあ帰ろう、ペダルをこいで
 バックギャモンという名前だけは知っていたけど、おじさん達がまるで将棋さすように酒場に集まる。共産主義時代の人を苦しめる体制に個人で立ち向かっていた祖父と、記憶を失った孫との2人乗り自転車でのブルガリアへの帰還。
あの時代を思い起こさせ、現在の幸せも思い起こさせてくれる。

 

②-2 ファウスト
 悪魔に魂を売ってしまうファウストの物語は、ブロードウェイでミュージカル「くたばれヤンキース」にまでなった。ソクーロフ監督が作った今度のファウストは、何んと表現していいのか…何んとも気味の悪い、不快感満載の作品だった。

 

③-1 キリマンジャロの雪
 組合活動は今の日本でどの程度の力を持っているのだろうか?普通の人が普通に生きていけるようにを目標に労働者が起こした運動。主人公は組合の委員長なのに、リストラの際自ら引いたくじで解雇されるメンバーになる初老の男性。1960年代に流行ったシャンソン「キリマンジャロの雪」(ヘミングウェーではありません)を好きな夫婦が、キリマンジャロへの旅をあきらめてもしたかったことは…。

 

③-2 ジェーン・エア
 シャーロット・ブロンテの原作は何度も映画化されている。今回の監督はキャリー・ジョージ・フクナガ、アメリカ生まれの日系4世の34歳。デビュー作「闇の列車、光の旅」は鮮烈な印象を残したが、ジェーン・エアは静かに落ち着いた作りで作品世界に合っている。美人とは言えないミア・ワシコウスカを使ったのも正解。

 

 

 他にも面白い作品がどっさり、お勧めです。

 

メン・イン・ブラック3:最近はやりの随分経ってからの続編のMIB、飛んだ話はそのままに、最後は感動作風にうまく着地して楽しめました。

 

星の旅人たち:フランスから北スペインを通りサンチャゴ・デ・コンポステーラへ至る800KMの巡礼の道、父と息子の物語、アメリカ、オランダ、カナダ、アイルランドの4人が見せるドラマ。巡礼の道がよく分かり楽しめました。

 

道、白磁の人:勿論こう云う人がいたんですよね。今月の偉人伝参照。

 

幸せへのキセキ:今月のアメリカン・トゥルー・ストーリー参照。

 

ソウル・サーファー:こちらもです。

 

ネイビ-シールズ:CGが発達して戦争映画は随分リアルになった。兵士の痛みが実感される。米国海軍が全面協力のこの作品、まるでドキュメンタリーのような肌触りでした。

 

スノーホワイト:最後にはジャンヌ・ダルクのような白雪姫、確かに7人の小人がいてリンゴも出てくる物語だが、キスで蘇生は王子ではない。楽しめる。

 

ワン・デイ 23年のラブストーリー:毎年7月15日の2人のそれぞれを23年に渡って描くラブ・ストーリー、如何にもありそうなと思っていたが、見てみるとすんなり引き込まれた。

 

ブラック・ブレッド:内戦後のスペイン、人々は何を感じていたのだろうか?少年の中に影を落とし、その将来までも決めてしまうような状況が怖い。

 

 

 

 

Ⅱ 今月の偉人伝

 

①ヴィダル・サスーン
 美容業界には疎いので、ヴィダル・サスーンという名前は知っていたが、髪用品のメーカー名かぐらいの認識しかなかった。ヴィダル・サスーンは美容界の革命児で女性の髪をカットで変革した人だと分かった。面白かったのは、健康肉体作りにも熱心で、アメリカ人の奥さんと共に、アメリカのTV健康番組でエクササイズの講師としてレギュラー出演していたこと。今年の5月9日に亡くなったが、最後まで体は柔軟だったみたい。

 ミニスカートのマリー・クワントが出てきたり、「ローズマリーの赤ちゃん」のミア・ファーローの髪を作ったとか、まあ、それなりに楽しめたが、でも、やはり見に来ていたのは美容関係の方が多そうだった。映画の上映開始時間に遅れてくる、その感じが美容界の人々の雰囲気でした。


道、白磁の人
 浅川巧という人は知らなかった。日本統治下の朝鮮に渡り、林業技師として働きながら、朝鮮文化、朝鮮人を理解しようと朝鮮人の中に入り込む。多くの日本人が、自分の母親も含め朝鮮人を一段低く見ていた時代、朝鮮文化を残そうと当時二束三文で売られていた白磁を集め、民族美術館まで作ってしまう。
1931年41歳で亡くなった時、朝鮮の人たちが集まり葬式を行い、墓を作る。

 

 


Ⅲ 今月のアメリカン・トゥルー・ストーリー

 

 アメリカは本当に面白い国だと思う時がある。それは、アメリカの有名でもなんでもない、そして偉人でもない人を題材に、実話に基づいた物語という映画を見たりする時。有名人でももちろん面白いことが多い。去年の実在のボクサーを描いた「ファイター」でもあの家族、母親には驚いた。

 今月はそんなアメリカの実録ものを3作続けて見た。

 

その①君への誓い
 交通事故で記憶を失った彼女は、ある事件以降の記憶のみが戻らない。その間に結婚した夫でさえ思いだせない。二人は別れてしまうが、再び結ばれて…。ラスト、実際の2人の写真が出てきて、記憶の戻らないまま今は二人の子持ち夫婦として…と出てきたのには、ちょっと感動。

 

その②幸せへのキセキ
 妻を亡くし二人の子持ちやもめとなったコラムニストが、心機一転との気持ちで買った新しい家は動物園付きだった。これが実話かと驚く。売る方も売る方だし、買う方も買う方だ。ベンジャミン・ミーが主人公の名前、彼が書いた「We Bought a Zoo」が原作で、映画の原題も同じ。しかし、こんなことがおこるなんて、なんて楽しい国かと思う。

 

その③ソウル・サーファー
 サーフィンを楽しんでいた時サメに襲われて左腕を失ったベサニー・ハミルトン、彼女はその後もサーフィンを続けプロになり現在も活躍中、この映画のキャンペーンで最近来日もした。そんな事故にあった後、すぐに復帰するがやはり良い成績を上げられず一時サーフィンから離れ、その後あることをきっかけに再びサーフィンに戻るという、強い生き方だ。その生き方をきっちり描く映画。

 

 


Ⅳ 今月の残念

 

★愛と誠
 予告編を見る限り、70年代の妙なもり上がりをアナクロ的にあの当時の歌に託して、ひょっとして傑作?と思わせた。愛と誠が持つ、あの当時でさえ古いと感じさせる題材を使い、もろアナクロの面白線を狙ったのではと考えたのである。確かに、いろんな場面でアナクロ的な古さがそのままに投げ出されているが、その後、全く現代的な笑いを呼ぶつぶやきが入ることが多い。だから笑えるといえるが、反面それが我々を引き留める、あの当時に入り込むのを。 10曲ほど当時のヒット曲が使われ、それに合わせて主人公たちは歌い、踊る。昔のミュージカルのように一人の人物が歌う、ということはその人の心を表現しようとしている。使われたヒット曲の成功/不成功は、それが合っているかどうかだが、半々という印象だ。
 これがいかにも残念。

 

 


Ⅴ 今月のつぶやき

 

●5月に訪れたパリはきれいになっていた。
一番驚いたのはノートルダム寺院が白いイメージになっていたこと。更にコンコルド広場のオベリスクの先端が金色になっていて、それと気づいてみると、いろんなところで金がきれいになっている、オペラ座とか。

そうした美しいパリの姿を見せてくれてうれしくなってしまうのが「ミッドナイト・イン・パリ」。

 

●パリついでにもう1本、「ワン・デイ 23年のラブストーリー」。エディンバラで始まり、ほとんどはロンドンが舞台の映画だけど、一度だけ二人がパリで会う。そこで歩くのがサンマルタン運河に沿う道。

 

●珍しいブルガリアが舞台の映画「さあ帰ろう、ペダルをこいで」。お菓子作り命の祖母が砂糖を求めて歩いていると、キューバ産の砂糖があると耳にし、列を無視して強引に手に入れてくるのが凄い。娘一家が亡命した後、当然のように官憲に連れて行かれた祖父というのもありふれた風景か。

 

●B級映画の匂いふんぷんの「バッド・ティーチャー」、残念なのはキャメロン・ディアスの魅力がかなり薄れていたこと。

 

●午前十時の映画祭で見た「ブラック・サンデー」は傑作だった。製作された1977年、夏に日本でも公開予定だったものが爆破予告で公開中止。日本での公開はこの映画祭が初めてということで2011年になった。今回入場時にかつてのポスターの絵葉書が配られたのは、公開中止の無念を晴らすためだろうか。
懐かしや、CIC配給となっていました。


 

 

 

今月のトピックス:アラカルト

Ⅰ 映画館で映画以外を

 

 サッカーワールドカップのアジア最終予選をパブリックビューイングとして上映したのは新宿バルト9。映画とは全く関係のないスポーツ中継だ。かなり前、ユナイテッドシネマ豊洲でカンヌ映画祭パブリックビューイングを見たこ
とはあるが、まあ、あれは映画のイベントだったことを考えるとまだ映画館の関係であるが、今回は全く無関係。

 暫く前から松竹がシネマ歌舞伎と称して舞台を写したものを何作も上映している。そのほかメトロポリタンオペラの上映も行われている。その場に行って生で見ることができない場合の代替として生中継または録画中継を見る感覚。
 TV画面ではなく映画館の大きなスクリーンでより臨場感を感じながらみんなで見る。既にだぶつき気味のシネコンの利用方として出るべくして出たものだろう。

 舞台の「オペラ座の怪人」25周年記念公演をアメリカのユニバーサル映画が映画化、日本でも公開された。上手く映画になっていて感心したが特別料金で一律2000円だった。中島みゆきの2007年の公演の記録映画がスクリーンで公開されたのが「歌旅」。公演のDVD自体は随分前に売り出されていたが、
何の契機か知らないが、映画独自のもとして作られ、特定映画館で今年上映された。

 ファンとしては十分楽しめたし、見ることのできなかったあの年の公演は素晴らしかったんだなあと確かめられたので良かった。これも特別料金で一律2000円だった。今後こうした分野が拡大していく気がするが、料金だけはもう少し考えてほしいという気持ちもあるなあ。

 

 

 

 

Ⅱ レ・ミゼラブル

 

 年末に公開されるらしいけれど、レ・ミゼラブルの予告編を見た。オペラ座の怪人より少し先に25周年を迎え、今なおロンドンで上演されているミュージカル。あの当時、キャメロン・マッキントッシュの製作するミュージカルは、ロンドンのウエスト・エンドだけでなくニューヨークのブロードウェーをも席巻していた。スターライト・エクスプレス、キャッツやミス・サイゴンなど、など。その彼が今回の映画化に製作者としてかんでいるらしい。
 監督は「英国王のスピーチ」のトム・フーパー。主演はヒュー・ジャックマンにラッセル・クロウというオーストラリア人俳優。ジャックマンはブロードウェーのミュージカル「ザ・ボーイ・フロム・オズ}に主演、トニー賞主演男優賞を受賞している。ということで、まだかなり先なのだけれど、期待大のミュージカル映画です。

 

 

 


Ⅲ やってしまった

 

 同じ本を買うことは時々していた。ひどい時は3冊買ったことがある。映画はよほどのものでないと再見することはないので、意識して2回目以上を見た作品以外、2回目を見たことはなかったのだが。今回、旧作の「鍵」で初めて2回目を見てしまった。
 前から見たいと思っていて1年少し前に見ていたのだ。始まってすぐに気が付いた。まあ、2回目も面白く見ましたが。

 

 

 

 

Ⅳ おじさんはラブストーリーが好き?

 

 ニコラス・スパークス原作のラブストーリー「一枚のめぐり逢い」を見に行ったら、おじさんが一人で見に来ているのが目についた。年齢的には団塊世代以上か。おまえと同じじゃないかという声が飛んできそうだ。

 戦場で見つけたある女性の写真、当然ながら運命の女性と結ばれるまでの話。いってしまえば、いつも通りのストーリーだが、子持の離婚女性が、子供のために元夫の近くにいるのがちょっと微妙な設定。23年に渡って2人の7/15を描く「ワン・デイ 23年のラブストーリー」にも、案外おじさんは来ていた。
 勿論、女性もカップルも来ていたが。プラトニックな関係の方が想いは長続きする。何年にもわたって付いて、離れた2人の関係が何だか見ていて心地よい。運命の人と長く付き合って、結ばれたら…ちょっと悲しいのもうれしい。“恋は遠い日の花火ではない”昔のサントリーの宣伝文句ではないが、おじさんもいつまでも、いつでも夢見ていたいのだよね。

 

 


 今月はここまで。
次号は暑い真夏の真ん中に。




                         - 神谷二三夫 -


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