2013年 9月号back

まだまだ残暑、
局地的短時間大雨が頻発なのに、水不足。
不安定な天候が続く今年の気候、
こんな時は夏の大作が上映中の映画館へ!

 

今月の映画

 7/26~8/25の31日間に出逢った映画は28本、下のリストを見直してみて、邦洋の差のいつにも増しての大きさに唖然。
 かつて日本映画の8月といえば東宝の戦争シリーズなど、終戦記念日に合わせ大人向けの作品も多かったが、今やポケモン、仮面ライダー、アンパンマンなどの世界。現在は熟年世代が観客の多くを占めているはずなのに、映画業界の戦略はどうなっているのでしょう?
 作品から見るに、終戦にあてこんだ作品群は、今年は海外作品の方が圧倒していました。

<日本映画>

SHORT PEACE 
少年H
(古)暖春 
氷点

 

<外国映画>

ニューヨーク 恋人たちの2日間 
終戦のエンペラー 
クロワッサンで朝食を
ペーパーボーイ 
ローン・レンジャー
31年目の夫婦げんか 
ヒロシマ・ナガサキ
ひろしま~石内都・遺されたものたち~ 
アイアン・フィスト 
ワールドウォーZ
マジックマイク 
素敵な相棒フランクじいさんとロボットヘルパー 
エンド・オブ・ウォッチ
パシフィック・リム 
ホワイトハウス・ダウン 
スマイル・アゲイン
トゥ・ザ・ワンダー
タイピスト 
スタートレック イントゥ・ダークネス
(古)シャーロック・ホームズ 緑の女 
第十七捕虜収容所 
処女の泉
第七の封印 
野いちご

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

①少年H
 日本映画の戦争関連映画の1本は妹尾河童のベストセラー小説の映画化。
昭和30年代までを知っている人には思い当たることの多い街のあり方、戦争に対する庶民の生き方。降旗監督は肩肘張らず描いています。


②終戦のエンペラー
 ハリウッド映画ではありますが、終戦後の日本を描いて、
違和感がないのは、製作者に奈良橋陽子が加わっているからだろう。
マッカーサーの到着から、有名な天皇陛下との写真撮影に至る1ヶ月間、目を離せない作品です。


③パシフィック・リム
 「パンスラビリンス」などで独自の世界を描いてきたギレルモ・デル・トロ監督、日本の怪獣映画が好きな監督が作った作品は、しっかりした描写のもと怪獣と巨大ロボットの戦いを描いて、見ごたえ十分です。

 

 

 他にも面白い作品があります。お楽しみください。

 

ニューヨーク 恋人たちの2日間:フランスの女優ジュリー・デルピーはすで何作かを監督しているが、今作はほとんどウディ・アレンのタッチ、自虐的下ネタギャグで笑いとばすあたりが。

今回は実の父親が父親役で、これまた凄い。

 

クロワッサンで朝食を:クロワッサンは人気です、特に女性に。まさか、雑誌クロワッサンの読者が押し掛けているのではあるまいに。

 

ペーパーボーイ:アメリカ南部の湖沼地帯は人間の欲望が燃えたぎる。そのむき出しにされたものをそのままに、濃い人間模様が描かれる。ニコール・キッドマンも「誘う女」以来の怪演。

 

31年目の夫婦げんか:メリル・ストリープは本当に上手いなあと感心、微妙な部分がこれほど的確に表現されると恐れ入りますの感。トミー・リー・ジョーンズもスティーヴ・カレルも上手いです。

 

ホワイトハウス・ダウン:「エンド・オブ・ホワイトハウス」は北朝鮮がらみでしたが、こちらは最近流行りの内部の敵。それにしても、あんな警備で大丈夫なのか?

 

タイピスト:田舎娘が成長していくというので「あまちゃん」と関連付けたものも読みましたが、むしろ50年代のアメリカ映画を想起させる、チャーミングで楽しい、楽しめる映 画です。

 

スタートレック イントゥ・ダークネス:ぎっちり書きこまれたドラマ、迫力ある描写、強い悪役などSFアクションドラマ必須のアイテム取り揃え、さらに、ベネディクト・カンバーバッチも人気のスタートレックの新作。


 

 

Ⅱ 今月の懐かしい人

 

 今年85歳のジャンヌ・モローが主演した「クロワッサンで朝食を」。
 1950年頭から映画出演をしている彼女が花開いたのは1957年の「死刑台のエレベーター」だろうか。その後60年代にかけて、「恋人たち」「突然炎のごとく」「鬼火」など、フランスのヌーベルヴァーグの監督たちの作品の多くに出演。しかし、それだけではなく、「雨のしのび逢い」「エヴァの匂い」「小間使の日記」「マドモアゼル」「ジブラルタルの追想」など、世界の多くの監督作品に出演してきた。
 芸術的な作品には彼女の存在が合っていた。あくまで自分の意思を維持し、常に愛というものを自分のものにしてきた。その彼女が、いかにも彼女らしい年の取り方をした女性を演じた新作。重力に逆らわず、への字に両端が下にさがった唇は今も健在。その強い意志を感じさせるものでした。

 

 

Ⅲ 今月の旧作

 

 イングマール・ベルイマンといえばスウェーデンの世界的な映画監督、50年代にその地位を確立し、難解で力強い映画を多く発表した。私が映画を好きになり始めた頃にはすでに高いところにいる人だった。中学生には難しすぎて、キネマ旬報でともに1位だった1961年の「処女の泉」、1962年の「野いちご」は見ていない。
 これに、1963年の6位「第七の封印」を加えた3本が、デジタルリマスター版として再公開された。今から50年前ころ、難しすぎて分からないだろうと思い見ていない映画を、今になって見ることができる。自分のレベルより少し上のものを見てみたいという気持ちは、その頃に養われた気がする。
 そんな気持ちの人が多かったのか、今回の再公開はかなり団塊の人も来ていたような気がする。

 いずれも白黒のすっきりした画面に、くっきりした筋立てで話が語られる。
明確な主題があり、描きたい形で作られた映画は、雑事が多く盛り込まれがちな最近の映画とは大きく違う。まるで、舞台のために作られたのかと思えるほど、抽象的な描写が続く「第七の封印」や、人の出入りが舞台を想起させる「処女の泉」も素晴らしいが、3作で最も驚いたのは「野いちご」だった。

 老人が過去の自分を回想するような作品など見たくないというのが、中学生の頃の感想だったろう。しかし、見て驚いたのは映画の力強さだった。これほどクリアで、しかも面白い人間関係を描いていたのか。その後、より抽象的で難解な映画も多く作られたが、こんな傑作を作っていたのなら何でも許すという気にさせてくれるベルイマンだった。


 

Ⅳ 今月のつぶやき

 

●4人のアニメ作家が短編を持ちよった「Short Peace」は、やはり日本のアニメ力を感じさせるが、多くのアニメ(この作品以外)が扱う“未来”というものが、今や古さを感じさ せるものになってきた。多くのSF等で語られる未来に新しいものが無いということだろうか?あるいは、SFに常に新しいものを求めるのが間違いであるのだろうか?

 

●スーパーで売っているクロワッサンはプラスチックみたいなものとジャンヌ・モローは言っていた。でも、日本ではスーパーの努力も大したもので、ひょっとしてスーパーの方 がおいしいなんてなってしまいそうな気もする。フランスではそんなことはないとも思う。

 

●かつてのTV番組の多くが映画化されてきたが、「ローン・レンジャー」も加わった。それにしても2時間30分は長すぎる。TVはCMを入れて30分番組だったから、6話分くらいにな る。すっきり軽く行けたらもっと良かった。

 

●マジックマイクを見ていると、さすがショービジネスの国アメリカというか、男性ストリップでもあそこまで練習するのかと感心。それにしても次作で引退するというスティーヴン・ソダーバーグは何を考えているのだろうか?

 

●画面の美しさが、却って虚しさを感じさせた「トゥ・ザ・ワンダー」。あまりの内容の無さ、ドラマの無さに絶句。例によって、向こうに進む人物を後ろから取った画面が多用されるテレンス・マリックの新作。昔はこんな風な映画が好きだったような気もするが…。

 

 

 

 

 

今月のトピックス:
この人気は何故?/最近のフランス


Ⅰ この人気は何故?

 

 週休3日労働で毎週水曜日は休みをいただいている。水曜日という平日の昼間に映画を見ることができる。平日の昼間に満員になる映画館は超珍しいことだが、最近立て続けにこうした状況に出逢った。勿論週末も満員である。

 7/20(土)に封切りされた「クロワッサンで朝食を」を見に行ったのは、2週目の7/27(土)だった。2回目を見ようかと、1回目の始まる30分前に映画館に行ったのだが、1回目は5分後に満席、列が長くこの作品の前に見ようと思っていた映画のため、2回目のチケットを買うことはできなかった。代りに「ペーパーボーイ」でも見るかと行ったのだが、この日封切りのこちらも完璧に満席だった。

 最終的に「クロワッサン」を見たのは7/31(水)の3回目、チケットを買いに行ったのは開始時間の1時間30分前、やっと手に入れることができた。1、2回目とも満席、3回目も満席での上映だった。ちなみにこの映画館シネスイッチのレディースデイは異例なことに金曜日、水曜日は女性も1800円である。その後、この映画館近くに日曜日8/11に行ったので見てみると、この日もかなり長い列ができていた。列の整理にあたっていたお兄さんに“まだ混んでいるんですね”と声をかけると、“そうなんです、4週目に入ってもまだ満席です”と汗ふきふき。「ペーパーボーイ」は最近オンライン予約が可能になったヒューマントラストシネマ有楽町で、2週目の8/3(土)の3回目を前日にオンライン予約。上映時には満席だった。

 最近、この満席状態に参戦してきたのが「タイピスト」。8/17に封切り、8/21(水)の4回目に行ったのだが、20分前だったためか満席、勿論1~3回目も満席だった。この映画館ヒューマントラストシネマ有楽町では水曜日は男女ともに1000円なので、それが影響していたかもしれないが、平日の昼間がすべて満席ですよ。
 オンライン予約で前日に予約して見たのは8/24(土)の2回目、当然のごとく満席でした。この3本、いずれも見所のある映画でした。しかし、この3本がこれほど人気になったのは何故?という疑問が解消しません。
 特に、3本の中でも異常人気の「クロワッサン」はどうしてなのか?
 “ジャンヌ・モローですか?”お兄さんに聞いても“そうですかねえ?”と頼りない返事。「ティファニーで朝食を」をもじった題名ですかねえ?原題は「パリの一人のエストニア人女性」ですから、それよりは良いですけどね。多分、どこかでの口コミだろうと思うのですが、どこかにそんな口コミサイトがあったでしょう か?

 

 


Ⅱ 最近のフランス

 

 元々フランスには一筋縄ではいかないところがあった。正確には、フランス人以外の人達とは観点が違うのである。それは、独自の文化を生み出すことになるが、他の国の人たちには受け入れられない可能性がある。上に書いた最近満席映画の2本はフランス映画である。この2本に「ニューヨーク 恋人たちの2日間」を加えた3本が今月見たフランス映画だ。
 いずれも小粒だが、ピリリと辛味の効いた作品で、人間味あふれるもの。昨年、2本のフランス映画が日本でもかなりヒットした。「アーティスト」と「最強のふたり」である。今月の3本もこの流れを引いているようだ。
 「アーティスト」は30年代のアメリカ映画を再生させていたが、「タイピスト」は設定時代と同 じ50年代のアメリカ映画のようでもある。これらの作品をアメリカで映画化した場合、CG技術などを駆使したり、或いは完全に現在のもの にしてしまう気がする。
 フランスの2作には手作り感が適度に残っている。それが見ている我々に安心感を与える。まさに、スーパーのクロワッサンではない、パン屋さんのクロワサンという感覚。

 昔から愛を描かせたらフランス映画と言われていた。アムールの国である。その下世話感を出したのが「ニューヨーク 恋人たちの2日間」。フランスからやってきた父+妹+その彼たちの行動は凄い。フランス人って、こんなんだったのと驚く。アメリカ人(クリス・ロック)にもあきれられている。彼らに順応して徐々にフランス人になる主人公。そして、老人が主役の「クロワッサンで朝食を」でさえ、その艶やかさにはいたく感心した。

 日本市場でのフランス映画はかつての栄光を失って久しい。50~60年前半の黄金期は名作+大作が多く見られたし、華のあるスターも多かった。今映画ファンではない日本の普通の人たちが思い浮かべる現代のフランススターは誰だろう。マリオン・コティヤールやオドレイ・トトゥなど女優の方が知られているだろうか?
 男優は、今やトップともいえるロマン・デュリスはどれほど知られているか?
「タイピスト」を見て、もう少しまともな顔の男優はいなかったのかと思ったほど。ジェラール・フィリップやアラン・ドロンの国ですからねえ。ずっとトップだったジェラルド・ドパルデューもひどかった。しかし、フランス人は気にしなかったのだ。こうしてフランスは(多分)自信を持って独自の道を歩んできたのだが、最近のフランス映画は やっと日本で(再び)認められてきたということだろうか?

 

 

 

Ⅲ スバル座

 

 有楽町駅前にあるスバル座は、昭和21年に日本で初めてのロードショー館としてオープンしたと いう。一度火災で焼失、13年後の1966年に現在の場所で再オープンし、それ以来ロードショー館 として営業している。「イージー・ライダー」が公開されたことでも有名。
 東宝との関係が強いようだが、基本的には単独のロードショー館。しかも1スクリーンのみでの営業。今や珍しい映画館の一つといえるだろう。スバル座で、予告編が終わり本編に移るため、画面のサイズをビスタからシネスコに変えている 時、“スクリーンのサイズを変えています”という言葉が画面に写された。これには驚いた。初めての経験です。丁寧な態度に感心しました。

 

 

 

今月はここまで。

次号は秋の気配が感じられるであろう9/25です。

 


                         - 神谷二三夫 -


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