2014年 2月号back

年が明けてから早1カ月、
ただいま冬の真っ最中、流石に寒い日が続きます。
空気が澄んで富士山がきれいに見える外の風景もいいですが、
やはり、体も心も温まる映画館に勝るもの無し。


 

今月の映画

 12/26~1/25のお正月を挟んだ31日間に出逢った作品は38本、年末年始の長いお休みがあり、本数は多くなりましたが、その4割くらいが昔の作品になりました。
 うち5本はサイレント映画でしたが、「浮草物語」や「第七天国」のように瑞々しい感動を与えてくれました。

<日本映画>

麦子さんと 
夢と狂気の王国
ルパン三世vs名探偵コナン 
ある精肉店のはなし
(古)その夜の妻 
浮草物語 
母を恋わずや 
おかる勘平 
・ふ・た・り・ぼ・っ・ち・ 
夜の終り

 

 

<外国映画>

  (今回から原題または英語題名を付けています。)

遥ルードヴィッヒ

   (Ludwig II) 
皇帝と侯爵

   (Linhas de Wellington) 
ウォーキングwithダイナソー

   (Walking with Dinosaurs 3D)
パリ,ただよう花

   (Love and Bruises) 
ハンガーゲーム2

   (The HungerGames:Catching Fire)
バックコーラスの歌姫(ディーバ)たち

   (Twenty Feet from Stardom) 
プレーンズ

   (Planes) 
フォンターナ広場 イタリアの陰謀

   (Romanzo di UnaStrage/Piazza Fontana, Yhe Italian Conspiracy)
マイヤーリング

   (Mayerling) 
ファイアbyルブタン

   (Feu:Crazy Horse Paris) 
危険な関係

   (Dangerous Liasons) 
大脱出

   (Escape Plan)
旅人は夢を奏でる

   (Tie Pohjoiseen/Road North) 
さよなら,アドルフ

   (Lore/The Dark Room)
キューティ&ボクサー

   (Cutie & The Boxer) 
NEW YORK結婚狂騒曲

   (The AccidentalHusband)
ドラッグウォー 毒戦

   (Drug War) 
鉄くず拾いの物語

   (An Episode in The Life ofAn Iron Picker) 
ポール・ヴァーホーヴェン/トリック

   (Steekspel/Tricked)
(古)でっかく生きる

   (Living in a Big Way) 
牡蠣の女王

   (DieAusternprinzessin)
パンドラ

   (Pandora and The Flying Dutchman)
襤褸と宝石

   (My Man Godfrey) 
底抜けモロッコ騒動

   (My Favorite Spy)
ヒズ・ガール・フライデー

   (His Girl Friday)
第七天国

   (Seventh Heaven) 
そして誰もいなくなった

   (And Then There wereNone)
青髭八人目の妻

   (Bluebeard’s Eighth Wife) 

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー


① ある精肉店のはなし
 大阪、貝塚市の北出精肉店を見守るドキュメンタリー。街中なのに、牛を育て、屠殺して精肉までを行う北出一家。命をいただくことの大切さだけではなく、この地に住むことの意味まで伝えてくれ、嬉しくさせてくれる映画です。

 

②-1 フォンターナ広場 イタリアの陰謀
 1960年代の後半は世界各地でいろいろな変革があった時代。69年12月、ミラノのフォンターナ広場にあった全国農業銀行が爆破された。その犯人を巡る様々な組織、権力、メディアなどなどの動きを描く。イタリア映画がかつて得意としていた社会派ドラマが復活したよう。

 

②-2 さよなら、アドルフ
 ナチスに関連する映画は様々に作られてきたが、ナチス幹部の子供たちに焦点を当てた作品は珍しい。黒い森からハンブルクまでの約900キロを兄弟5人で移動していくストーリー。日本の戦犯の子供たちはどうだったろうと思いが至るが、この映画に関連して、そうした人の話を聞く会を大学生が企画したという話が新聞に出ていました。

 

③ 麦子さんと

 幼児の頃家を出ていった母と瓜二つだったことが、母の田舎に帰った時周りのだれからも声をかけられることで、麦子は母のありようを実感する。この辺りの楽しさはまるで「あまちゃん」と同じアイドル路線、笑ってしまう。

 

 

 次の作品もお勧めです。お楽しみください。

 

ルードヴィッヒ:南ドイツのノイシュバンシュタイン城を建てたルードヴィッヒ2世の生涯を描くドイツ映画。王が心酔したワーグナーが厄介者だったことなど忠実に描かれる。

 

バックコーラスの歌姫(ディーバ)たち:ロックに欠かせないバックコーラスの女性たち、ローリングストーンズやスティングなど、イギリスのロック歌手がゴスペル的なリズム、のりを求めて彼女たちをコーラスを希望したというのが興味深い。

 

NEW YORK 結婚狂騒曲:恋愛相談で人気の女性が、何故か既に籍を入れられていたことから始まる恋愛喜劇。昔、この手の恋愛ものはけっこうたくさんあった。最近は下ネタが勝ち過ぎている気がするが、この作品はそちらに走ることもなく面白い。

 

旅人は夢を奏でる:35年ぶりに突然再会した父と息子がヘルシンキから北のラップランド地方へと旅する映画。そのとぼけた味わいと裏に隠された真実を見せてくれたのは、ミカ・カウリスマキ監督。弟のアキ・カウリスマキはフィンランドを代表する監督だが、兄のミカにも良く似た部分がある。アキの方がより無常感が漂うが。

 

ドラッグウォー 毒戦:毒戦という題名が凄いジョニー・トー監督の新作。麻薬の製造に聾唖者を使っているなどなかなかにえぐい作り、大団円に向けてアクションが加速する。

 

鉄くず拾いの物語:ボスニアに住むロマの一家の物語。その貧乏度と生活の不安定さでは、日本のそれをはるかに上回る。差別により定職にも付けず、保険にもかかれない彼らに、妻の病気が襲いかかる。薬代や電気代のため、自分の車を解体し鉄くずを売る。平日の昼間に見たのにほぼ満席の状況は、今の日本人には他人事ではないと映るということか?

 

ポール・ヴァーホーヴェン/トリック:「ロボコップ」「氷の微笑」とハリウッドで活躍したオランダ人監督ヴァーホーヴェン、2006年にオランダに帰ってから日本で公開される2本目の作品。派手さが適度に中和され、元々あった整理の良さが上手く発揮されていた。

 

 

Ⅱ 今月の“昔の作品”

 

 14本見た昔の作品(古)の内訳は、日本映画6本、外国映画9本となった。日本映画は初めの5本は神保町シアターで、前の3本は「小津安二郎特集」、後ろの2本は「ふたりぼっち特集」、最後の1本は渋谷シネマヴェーラで「谷口千吉特集」で、外国映画は全て渋谷シネマヴェーラにて「世界の名作9」で上映された作品。

 

そのベストスリーは次の通り。

①-1 ヒズ・ガール・フライデー:また見てしまいました。ケイリー・グラントとロザリンド・ラッセルのマシンガントークが魅力。後に、ジャック・レモンとウォルター・マッソーで「フロント・ページ」として再映画化。

 

①-2 浮草物語:小津安二郎のサイレント映画。旅芸人一座の座長を巡る家族と旅の物語。後年中村鴈二郎主演で自らの手でリメイクされたがこちらの伸びやかさの方が好きかもしれない。

 

②-1 襤褸と宝石:ぼろと宝石とは、ニューヨークの廃品置き場、つまりごみ捨て場と、上流階級の話だから。スクリューボールコメディの傑作との紹介につられて見たが、さすがの出来。男主人公が納得していない結末はすごい。

 

②-2 第七天国:パリを舞台に、地下水道から地上の清掃員になる青年と、姉にいじめられていた女性が出会い結婚するが…。第一回アカデミー賞で監督、女優、脚本賞を撮った瑞々しい傑作。

 

③-1 おかる勘平:榎本健一と越路吹雪が役名、羽根本健一、山路吹雪になって、かつてのオペレッタの楽しさを味あわせてくれる。

 

③-2 青髭八人目の妻;デパートにパジャマを買いに来た客、男は上だけを欲しいと言い、女は下だけを欲しいという…という超有名な作品、特に前半は超快調。

 

 

 

Ⅲ 今月のトークショー

 

 1/18(土)やっと「ある精肉店のはなし」を見ることができた。11/29(イイニクの日)からスタートしていた東中野ポレポレでの上映は、好評につきどんどん長くなっている。
 予告編を見て、街中を牛をつれて飼育場から屠畜場に連れていく風景が、何んとも興味深く強く惹かれていた。上映がスタートしてから約50日目の土曜日の14:20の回は、ほぼ満席でした。そしてうれしいことに上映後にトークショーがあったのです。しかも、監督の纐纈あやさんとプロデューサーの本橋成一さんのトークショーです。本橋さんはカメラマンで映画(ナージャの村)も作る人という認識でしたが、インターネットで調べるとポレポレ東中野のオーナーでもあることが分かりました。
 それにしては物凄く控えめな印象でした。30年位前から屠場には出入りし写真を撮るなどしてきたそうですが、そこで働く人たちの明るさが印象的で、何んとか映画に撮りたいとも思っていたそうです。
 監督の纐纈さんは5年ほど前に本橋さんに連れられて初めて屠場を訪れたようです。それ以来屠場に関わる人たちにひかれ通い続けるうちに、今回の映画の主人公北出さん一家に出逢います。この映画の成功はこの時決まったと言っても過言ではないでしょう。

 などなど、この映画にまつわる貴重な話を聞けたトークショーでした。

 

 

 

Ⅳ 今月のつぶやき

 

●ジーン・ケリー主演の「でっかく生きる」とウィリアム・パウエル主演の「襤褸と宝石」は同じ監督グレゴリー・ラ・カヴァの作品。どちらも話にメリハリがあり印象に残る。口当たりがいいだけの作品とは一味違う。

 

●ディズニーアニメの「プレーンズ」はあくまで「カーズ」の番外編のようですが、それにしてはこの夏には続編も来るとか。車以上に話が難しい飛行機ですが、どこまで続けるんでしょうかね、この路線。

 

●いくらオードリーファンである私でもつらいものがあった「マイヤーリング」、元々TV番組ですから仕方が無いとは言え、画面の粗さはちょっとひどい。

 

●クレージーホースのショーを靴デザイナーのルブタンが手掛けた「ファイアーbyルブタン」、最後のクレジットを見ると、ルブタンが実際に手がけたのは3つのショーだったよう。

 

●篠原有司男と妻ののり子に追ったドキュメンタリー「キューティ&ボクサー」で、80歳の篠原が今もボクシングペインティングをしていることにある種感動した。アメリカでは芸術ではないとも評されたと映画でも紹介されているが、思想なく(これも映画の中でそう評される)今もエネルギッシュにペインティングしていた。

 

 



今月のトピックス:アカデミー賞予想  

 

Ⅰ アカデミー賞予想

 

 1/16(金)、第86回アカデミー賞のノミネーションが発表されました。
今年のアカデミー賞授賞式は現地時間3/2(日)の夜、ハリウッドのドルビーシアター(かつてのコダックシアター)で行われます。あれ?…ということは、発表まで45日もあります。今までの私の常識では、ノミネーション発表から授賞式までは約1カ月というものでした。きっちり30日間とかいうのではなく日数は微妙に違ったのですが、ほぼ1カ月でした。
 それが突如1.5倍の一ヶ月半ということになりました。何年もアカデミー賞予想を発表した次の号でその結果を検証していました。ところが、今年は結果検証ができるのは2ヶ月先の4月号となります。
 ということは、来月号で予想を再検討することができるということになります。45日間が来年以降も続くのかはっきりしませんが、折角のチャンスですから今年は次のようにいたします。

 

2月号:アカデミー賞第一次予想
3月号:アカデミー賞最終予想

 

 つまり、今回の予想を来月号で変える場合もありということです。下に挙げたノミネート作品の中で今までに日本で公開されたのは2本のみです。来月までにはもう少し見ることができそうです。

 

ノミネート作品とアカデミー賞第一次予想(◎太字で表示)は次の通りです。

 

●作品賞 *今年は9本でした。今見ておくしかないゼロ・グラビティに。

    アメリカン・ハッスル(1/31 公開)
    キャプテン・フィリップス(公開済)
    ダラス・バイヤーズクラブ(2/22 公開)
   ◎ゼロ・グラビティ(公開済)
    Her世界でひとつの彼女(6/28 公開)
    ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅(2/28 公開)
    あなたを抱きしめる日まで(3/15 公開)
    それでも夜は明ける(3/7 公開)
    ウルフ・オブ・ウォールストリート(1/31 公開)

 

 

●監督賞 *アレクサンダー・ペインにもあげたいのですが。

   ◎デヴィッド・O・ラッセル (アメリカン・ハッスル)
    アルフォンソ・キュアロン (ゼロ・グラビティ)
    アレクサンダー・ペイン (ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅)
    スティーヴ・マックィーン (それでも夜は明ける)
    マーティン・スコセッシ (ウルフ・オブ・ウォールストリート)

 

 

●主演男優賞 *カンヌ映画祭で賞をとるとアカデミーはもらえないと言われますが。

    クリスチャン・ベール (アメリカン・ハッスル)
   ◎ブルース・ダーン (ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅)
    レオナルド・ディカプリオ(ウルフ・オブ・ウォールストリート)
    キウェテル・イジョフォー (それでも夜は明ける)
    マシュー・マコノヒー (ダラス・バイヤーズクラブ)

 

 

●主演女優賞 *他の4人は受賞済みということだからではなく。

   ◎エイミー・アダムス (アメリカン・ハッスル)
    ケイト・ブランシェット (ブルージャスミン 5/10 公開)
    サンドラ・ブロック (ゼロ・グラビティ)
    ジュディ・デンチ (あなたを抱きしめる日まで)
    メリル・ストリープ (8月の家族たち 4/18 公開)

 

 

●助演男優賞 *「それでも夜は明ける」にも何かあげたいので。

    バーカッド・アブディ (キャプティン・フィリップス)
    ブラッドリー・クーパー (アメリカン・ハッスル)
   ◎マイケル・ファスベンダー (それでも夜は明ける)
    ジョナ・ヒル (ウルフ・オブ・ウォールストリート)
    ジャレッド・レト (ダラス・バイヤーズクラブ)

 

 

●助演女優賞 *う~む、なんとなく。知らない人ですが。

   ◎サリー・ホーキンス (ブルージャスミン)
    ジェニファー・ローレンス (アメリカン・ハッスル)
    ルピタ・ニョンゴ (それでも夜は明ける)
    ジュリア・ロバーツ (8月の家族たち)
    ジューン・スキップ (ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅)

 

 

 

Ⅱ 三船敏郎

 

 三船敏郎といえば黒澤明監督とのコンビで多くの名作を残し、強い男のイメージを我々に与えてきた。ただ、人生後半の離婚騒動などでぐっとイメージを落とし、最近では愛人だった北川美佳との間の子、三船美佳くらいしか表に出てこない。最近出た「サムライ 評伝三船敏郎」(松田美智子著)は三船を再度評価しようと呼びかける。確かに、三船ほど海外で有名な俳優はいない。
侍のイメージは彼の映画によるところが大きい。私生活のごたごたで忘れるのではなく、彼が残した実績を今一度見直したい。

 いろいろな映画の本を読んでいると、イメージとは違って三船は細かい神経で気配りをする人だったという記述が多い。サッポロビールの“男は黙って”のイメージが印象付けられてしまっているが、実は気働きのできる人だったらしいのだ。

 さらに、黒澤組で鍛えられたためか台本は完ぺきに記憶し、撮影現場には脚本を持ってくることが無かったとか、映画俳優は待つことが仕事とどんな状況でも文句ひとつ言わず待っていたとか、運動神経が素晴らしく、その動きは他の人がまねできないとか、俳優という職業意識に徹底していたことをこの本で教えてもらった。

 2年くらい前だったか「静かなる決闘」の写真を見て、その美丈夫ぶりに感嘆したが、基本的に美しさを求められたかつてのスターたちのありようにも思いをはせた。

 

 

 今月はここまで。
次号は2/25にふたたびアカデミー賞で。



                         - 神谷二三夫 -


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