2014年 3月号back

週末2回続けての大雪、東京で27cmは45年ぶりとか。
私にとっては東京で最大(?)の雪となりました。
雪には美しさ、楽しさもありますが、
大変さも結構多い。
雪に疲れた心は映画館で癒しましょう。


 

今月の映画

 1/26~2/25の31日間に巡り合えた映画は27本、正月第2弾と言われる作品が多く封切られ、しかも見どころも一定のレベル以上の作品が揃い、かなり充実していた印象。
 今年の正月作品には大作が無かったという声もあるなか、ひょっとして今月の方が充実していたかも。ただし、日本映画の新作は1本のみになりました。

<日本映画>

ペコロスの母に会いに行く(再見) 
小さいおうち
(古)Histeric 
3号車応答せず 
国際秘密警察 絶体絶命 
独立機関銃隊 未だ射撃中
黒帯三国志 
王将 
紀子の食卓
Love Song 
桂春団治

 

 

<外国映画>

ゲノムハザード ある天才科学者の5日間

   (Genome Hazard, 日韓合作) 
ビフォー・ミッドナイト

   (Before Midnight)
アメリカン・ハッスル

   (American Hustle) 
ラッシュ プライドと友情

   (Rush) 
エレニの帰郷

   (The Dust of Time)
ウルフ・オブ・ウォールストリート

   (The Wolf of Wall Street) 
オンリー・ゴッド

   (Only God Forgives)
アイム・ソー・エキサイテッド

   (I’m so Excited) 
マイティ・ソー ダーク・ワールド

   (Thor: The Dark World)
新しい世界

   (New World) 
MUD-マッドー

   (Mud) 
メイジーの瞳

   (What MaisieKnew) 
スノー・ピアサー

   (Snowpiercer)
エヴァの告白

   (The Immigrant) 
17歳

   (Jeune et Jolie) 
エージェント・ライアン

   (Jack Ryan:Shadow Recruit)

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー



① 小さいおうち
 昭和10~20年、戦争が続いていた時代、東京郊外に住む一家は、おもちゃ会社に勤める夫と専業主婦の妻、小学校に入ろうとしている一人息子と、東北出の女中だった。そこで繰り広げられる平穏な生活と秘密。セットで撮影されたこじんまりと、しかし艶やかなあの時代を、交互に描かれる60年後の現代が俯瞰させてくれる。


② ラッシュ プライドと友情
 1976年のF1レース、性格の違う二人の天才が争っていた。ジェームズ・ハントとニキ・ラウダ、6年前に出会ってから最終決戦まで、白熱のレースが展開する。久しぶりにレースに興奮。最終決戦は富士スピードウェー、どうなったのでしょうか?!


③-1 アメリカン・ハッスル
 実話をもとにしている騙し合い劇は、驚くことにFBIが詐欺師カップルを脅して協力させてのおとり捜査。主要人物5人が天然も含めての騙し合い。70年代のアメリカンポップス・ロックにのって分厚いビフテキの味。

 

③-2 MUD-マッド-
 まるで津波の後のように木の上に取り残されたボートから始まる映画は、14歳の少年たちが大人になっていく夏を描いて不足ない。
離婚しようとしている両親、友達には両親がなく叔父と住んでいる。14歳という年ゆえに、プラトニックな恋愛をも信奉する。


お勧め作品は他にも。


●ウルフ・オブ・ウォールストリート:笑っちゃうほど正直に下品、
金融業界でその驀進力でのし上がった男は、いくらなんでもモラルが低い。


●オンリー・ゴッド:前作「ドライヴ」の思いっきりのいい話の運び同様、
今回はバンコックを舞台にエキゾチックな描写と静寂の中でスタイリッシュ全開。


●マイティ・ソー ダーク・ワールド:アメコミの映画化ではバットマンのダークナイト以来、ダークが大流行。アメコミの馬鹿さ加減が、ちょっと中和され案外見どころが多い。


●メイジーの瞳:離婚両親の間で正にたらいまわしにされる子供の悲劇?
結末にはついにそうかという思い。

 

●エヴァの告白:ポーランドからの移民エヴァが経験した様々な出来事。
1920年代初頭のニューヨークを舞台に、移民の悲劇が真摯に描かれる。

 

●エージェント・ライアン:案外すっきりした組み立ての話で、
昔のスパイスリラーのようでしたが、CIAがあそこまでロシアで活動できるものでしょうか?

 

 

 

Ⅱ 今月の懐かしい人 ジョー・ドン・ベイカー


 「マッド」で恐れられる実力者キングを演じていたのは、ジョー・ドン・ベイカー、骨太がっちり体型の悪役が多く、「突破口」の殺し屋なんかが印象にある。
 76歳の時に出演した「マッド」(2012年作品)でも、不敵で不死身に見える街の実力者。随分久しぶりのご対面だったが、体系はほとんど昔のままのがっちり型。昔に比べて太ったという印象はなかった。

 

 

 

Ⅲ 今月の懐かしい名前


 「ラッシュ」を見ていたら二人の懐かしいスターの名前(だけです)が出てきた。1人は、ニキ・ラウダが後に妻になる女性と初めて出会った時に出てくるクルト・ユルゲンス。「眼下の敵」が有名で、他にも軍人役でよく出ていた印象。

 ドイツ人といえばクルト・ユルゲンスという時期があった。もう1人は、ジェームズ・ハントの結婚相手が噂される相手として出てくるリチャード・バートン。勿論エリザベス・テイラーと2度結婚したあのバートンです。この噂は本当になり、ハントの妻スージー・ミラーは離婚後バートン夫人になりました。(その後離婚)

 思わぬところに名前が出てきた二人のスター、二人とも5度も結婚していたことが分かりました。さすがに、女性関係で名前が出てくるスターの実力(?)を見た思い。

 

 

 

Ⅳ 今月のつぶやき

 

◎谷口千吉監督の「32号車応答せず」は池部良と志村喬の警察官コンビがパトカーで巡る1日を追ったもの。昨年日本公開された「エンド・オブ・ウォッチ」はLAの警官コンビのパトロールを追ったもので、作りがもろ同じ。もちろん、50年以上の時間的隔たりはあるが。


◎「ビフォー・ミッドナイト」は9年ずつ間隔で作られた“ビフォー”シリーズの3作目。それにしても、こんなに会話が続く、しかも夫婦の危機的時期の会話が多いのは珍しいのでは?見ていた人の会話「次はないよね、発展する話がないもん」。


◎「エレニの帰郷」は次回作撮影中に交通事故で亡くなったテオ・アンゲロプロスの遺作。「旅芸人の記憶」の衝撃依頼、常に歴史という時に流され、あがらう人々を描いてきた人の作品。それにしても、前作「エレニの旅」の続きなんだから、もう少し早く公開してほしかった。


◎三船敏郎主演の谷口監督作品「黒帯三国志」のストーリが凄い。九州から世界に柔道を教えに行くという目標、さらに北海道でのタコ部屋労働、しかもそれを経験してもまだ純粋さを見せる主人公。素晴らしいです。


◎警察官の潜入捜査といえば香港の「インファナル・アフェア」だが、韓国映画「新しい世界」も同じ世界。ちょっと行きすぎかいなとも思う部分も。


◎最近の貧富格差対決の流行と、人間ノアの箱舟を列車に乗せたような「スノー・ピアサー」。好きなポン・ジュノ監督作品ではありますがあまりの設定にちょっと引きます。


◎前作「危険なプロット」が素晴らしかったフランソワ・オゾン監督の「17歳」はお金のためでもないという彼女の動機があまりに不鮮明ではないですか?


◎「桂春団治」は森繁久弥、淡島千影、高峰三枝子、八千草薫などの演技も素晴らしいが、性格破綻的芸人の生き方を描いた脚本が素晴らしい。妥協せずに、繊細。監督木村恵吾と共同で脚本を書いたのは渋谷天外(2代目)、流石ですね。



今月のトピックス:アカデミー賞再予想など  

 

Ⅰ アカデミー賞再予想


 先月号以来、ノミネート作品を、新に2本見ました。「アメリカン・ハッスル」と「ウルフ・オブ・ウォールストリート」です。そのことによってだけではないですが、予想を次のように変えました。偶然にも「アメリカン・ハッスル」をすべて外してしまいましたが、作品が悪いということではありません。
ちょっとばちが当たって、詐欺師カップルに騙されるかも。


●作品賞:ゼロ・グラビティ → ◎それでも夜は明ける(3/7 公開)

●監督賞:デヴィッド・O・ラッセル(アメリカン・ハッスル)→ ◎アルフォンソ・キュアロン (ゼロ・グラビティ)

●主演男優賞:◎ブルース・ダーン(ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅)(変更無し)

●主演女優賞:エイミー・アダムス(アメリカン・ハッスル)→ ◎ケイト・ブランシェット(ブルージャスミン)

●助演男優賞:マイケル・ファスベンダー (それでも夜は明ける)→ ◎ジャレッド・レト(ダラス・バイヤーズクラブ)

●助演女優賞:◎サリー・ホーキンス(ブルージャスミン)(変更無し)

授賞式は現地時間3/2の夜、日本時間3/3の午前中です。

 

 

 

Ⅱ 2013年の映画状況に驚き


 キネマ旬報2月下旬号「2013年の映画界大総括」号を見ていて驚い2013年、日本で公開された映画が1000本を超えたのだ。ただし、よくよく見ると昨年すでに983本と、あと一歩のところに来ていたのだった。

 

公開本数は次の通り。

 

   2011年 2012年 2013年

邦画  441   554   591

洋画  358   429   526

合計  799   983   1117

 

 見せよう会通信や他の場面で、日本での公開本数は800本前後と長らく伝えてきた。確かに2006年以降の実績(合計数)は次のようだった。

 

   2006年:821 
   2007年:810 
   2008年:806 
   2009年:762 
   2010年:716

 

 800本でも日本は映画を見るには非常に恵まれている国と思ってきたが、2013年は1100本をも超えてきているという。毎日3本の映画を見ても見きれないのである。

 興行成績や興行収入は、しかし昨年より下がっている。これをシビアに見ると、ヒットする映画が少ないから何本もの映画が公開されたとなる。自転車操業的悪循環かもしれないのである。

 このパターンは良くある。出版業界はヒット本が出ないから、出版点数を増やし、旅行業界はヒットツアーがないから、新ツアーを季節に関係なく作る。

まあ、この業界的数値は横目で見て、多くの映画を見られることの喜びを享受した方が良さそうだ。

 

 

Ⅲ フィリップ・シーモア・ホフマンの死

 

 2月2日フィリップ・シーモア・ホフマンが薬物の過剰摂取で亡くなった。
享年46歳。
 あの風貌、体格で初めの頃はどちらかといえばオタクでひきこもりのような、内向き性格の役が多かった、しかし、どんどんその役柄を広げていき、悪役や権力者までをも演じてきた。勿論、あの柔らかそうな外見そのままに、善人を演じることも多かったが、どこかに必ず違う面も併せ持つ人物という印象を残してくれた。
 どんな役を演じても、彼流の人物にしてしまうのが凄い。こちらの想像とは異なるが、それでもその人物の面をより強力に見せてくれる。不思議な名優の若すぎる死。冥福をお祈りします。

 

 

 

Ⅳ キネマ旬報ベストテン授賞式


2/8(土)に行なわれた授賞式に昨年同様行ってきました。

2013年の結果は次の通り。

 

作品賞:日本映画「ペコロスの母に会いに行く」 
    外国映画「愛、アムール」 

    文化映画「標的の村」

 

監督賞:日本映画 石井裕也(「舟を編む」) 
    外国映画 アルフォンソ・キュアロン(「ゼロ・グラビティ」)

 

脚本賞:荒井晴彦(「共喰い」)

 

主演賞:女優 真木よう子(「さよなら渓谷」「すーちゃん、

              まいちゃん、さわ子さん」

             「そして父になる」)
男優 松田龍平(「舟を編む」)

 

助演賞:女優 田中裕子(「共喰い」「はじまりのみち」)
    男優 リリー・フランキー(「凶悪」「そして父になる」)

 

新人賞:女優 黒木華(「舟を編む」「シャニダールの花」

           「草原の椅子」「くじけないで」

           「まほろ駅前番外地」)
男優 吉岡竜輝(「少年H」)

 

 

「ペコロスの母に会いに行く」を見た後、受賞式。
印象に残った挨拶や紹介は次の通り。

 

荒井晴彦:原作ものは“他人のふんどしで”のようになるが、私の場合は“パンツを選択してでもはいてしまう感じ”

 

松田龍平:彼のコメントではないが、新人賞受賞者(16年前)で主演賞受賞は初めてとか。

 

田中裕子:「天城越え」で主演賞を取った時、男優賞は「家族ゲーム」の松田優作だったと紹介されていた。

 

黒木華:どんな役をやりたいですかの問いに“ぬいぐるみとか…”。(この後ベルリン映画祭に出かけ女優賞受賞です。)

 

吉岡竜輝:歌舞伎役者の家系ではないのに歌舞伎役者を目指していているという。現在13歳。

 

 

 

Ⅴ 東京の大雪


 キネマ旬報授賞式の2/8(土)は45年ぶりの大雪の日。

 午前中に1本目の映画を見た後出てきた時はまだそれほど積もってはいなかったが、降り続いていた。
 授賞式に出かけた15:00頃も細かい雪、終わって出てきた19:20頃はかなりの雪が積もっていた。地下鉄駅まで普通であれば徒歩1分だが、ゆっくり歩いて5分近くかかった。15~20cmくらい積もっていたような。


 翌週金曜日の夜に再びの大雪。
 2/15(土)、午前「王将」を見に出かけた時は雨が降っていたが、道路には前夜からの雪が残りそこに雨が降っている状況だった。問題は、交差点である。通常は流れるべき水が雪のためにせき止められ深い水たまりになっていた。

迂回している時間はない、早めに出たのだが映画に間に合わない。意を決して水たまりの中に、防水とはいえスニーカー(長靴はない)で足を入れた。当然、靴の中に水が入ってきた、印象的にはかなり多く。

 駅のトイレに駆け込んで靴を脱ぎ状況をチェック、予想よりは少ないがしっかり靴下は濡れている。トイレットペーパーで応急処置、ふたたび靴を履いて神保町の映画館へ。映画館の中では、靴を脱いで濡れた靴下、足を乾かすようにしたが床が冷たくって参った。

 阪妻の坂田三吉を楽しんだ後、12:40頃外に出たら、雨はほぼ止み、雪かきもある程度はされていた。次の映画館では靴を脱ぐこともなく、ほぼ通常状態で楽しんだ。

 

 

Ⅵ 65歳

 

 「ウォルト・ディズニーの約束」は映画「メリー・ポピンズ」製作秘話に基ずく映画。その予告編を見ていたら、ウォルト・ディズニーは65歳で亡くなっていることを知った。
 今の私の年である。
 ・・・
 まあ、それだけのことなのだが。

 

 

今月はここまで
次号は3/25、同じく火曜日です。



                         - 神谷二三夫 -


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