2014年 10月号back

今年は素直に秋になった。
雨の多かった夏も過ぎ、過ごしやすい季節になりました。
これから気を付けるのは台風だけ。
明日(9/26)は伊勢湾台風(経験者です。自慢してどうする!)の日で今年は55周年。
台風明けには、そう、映画館!

 

今月の映画

 8/26~9/25の31日間に出会った映画は36本、9月に取った遅い夏休みの1週間を映画三昧(と言ってもいつもと同じですが)に過ごしたので、本数が多くなりました。
 新作、旧作共にバラエティに富んでいて楽しめました。

<日本映画>

ホットロード 
The New Generationパトレイバー第4章
TOKYO TRIBE 
イン・ザ・ヒーロー
るろうに剣心 伝説の最期編 
舞妓はレディ 
柘榴坂の仇討 
(古)牡丹灯籠
我が家は楽し 
河口
越前竹人形
越後つついし親不知
非情都市

 

 

<外国映画>

NOノー
  (No)  
イントゥ・ザ・ストーム
  (Into The Storm) 
LUCYルーシー
  (Lucy)
ケープタウン
  (Zulu)
フライト・ゲーム
  (Non-Stop) 
わたしは生きていける
  (How I Live Now) 
テロ,ライブ
  (The Terror, Live)
ローマの教室で~我らの佳き日々~
  (Il Rosso e Il Blu / The Red and The Blue)
物語る私たち
  (Stories We Tell)
猿の惑星 新世紀ライジング
  (Dawn of The Planet of The Apes) 
イヴ・サンローラン
  (Yves Saint Laurant)
アイ・フランケンシュタイン
  (I, Frankenstein) 
マルティニークからの祈り
  (Way Back Home)
ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー
  (Guardians of Galaxy)
リスボンに誘われて
  (night Train to Lisbon)、 
NY心霊捜査官
  (Deliver Us from Evil) 
郊遊(ピクニック)
  (Stray Dogs) 
ウィークエンドはパリで
  (Le Week-End)
(古)推手
  (Pushing Hands) 
ウエディング・バンケット
  (The Wedding Banquet)
恋人たちの食卓飲食男女)、ヤンヤン 夏の思い出
  (Yi Yi:A One & a Two) 
あなただけ今晩は

  (Irma La Douce) 

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー



①-1 猿の惑星 新世紀ライジング
 猿の社会と人間の社会が交わることなく存在していたサンフランシスコ周辺、ある時、人間が猿の居住区で猿に見つかってしまう…。そこから始まる物語は、現代の社会を映して我々に迫る。ラストのシーザーの無念も痛いほどだ。

 

①-2 郊遊(ピクニック)
 本作で監督からの引退を表明している台湾のツァイ・ミンリャン監督。残念ながら今までの作品を見ていないので何とも言えないが、カメラを据えたままの長回しが異様な迫力を出している。ストーリーの説明は一切なく、それでも見る者に訴えてくる力の強さに驚いた。

 

②-1 ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー
 80年代と言えば私は既に30代で自分の時代の文化という感覚は少し薄いが、この作品の胆は80年代、「スターウォーズ」が1977年に製作された後の時代。あの無軌道ぶりが懐かしく、上手く作られていることに感心。あっけらかんと楽しみましょう!

 

②-2 リスボンに誘われて
 ポルトガルも1970代半ばまではファシスト的な独裁政権だったんですね。世界各地に類似した政治体制の国がありました、東西対立の陰に隠れていましたが。考えてみれば40年位前のこと、今の日本では想像もできないが。坂が多く、路面電車が走る懐かしい街の風景を楽しみながら、物語にも感動しました。

 

③-1 柘榴坂の仇討
 桜田門外の変を軸に、時代の変わる節目に運命的な出会いをする男二人。折り目正しい画面、落ち着いた語り口で時代に翻弄されながらも、それぞれの生き方を貫いていく人たちを描いている。広末涼子の台詞回しが残念ながら合っていないが。


③-2 ローマの教室で~我らの佳き日々~
 ローマの高校の教室は日本と同じようでもある、いろんな生徒と様々な先生で。生きる希望もなくしたような美術史の老教師がシニカルなトーンでつけるナレーションが面白い。それでもラストはハッピーか?なんてところがイタリアだ。

 

 

 

 他にもお勧めしたい作品がたくさんあります。

 

●NOノー:チリの独裁政権に如何にしてNOと言えるようにしたかを描いている。1988年、あの当時こうした手法がまだ単純に信じられたのだというのが感慨深い。

 

●LUCYルーシー:人間の能力は10%しか覚醒していないというキャッチコピー、その線に沿って進められたストーリーは、100%覚醒していくルーシーが分かりやすい表現。

 

●ケープタウン:原題はZulu。主人公の一人がズールー人の刑事、相棒の白人刑事とともに、ケープタウンで起きる事件を追求していく。その先には大きな悲劇が待っていた。

 

●イン・ザ・ヒーロー:映画の中で裏方的に活躍する人たちの中で、ヒーローものに必須のスーツアクターに光を当てた作品。唐沢寿明がかつてスーツアクターだったとは知らなかった。

 

●イヴ・サンローラン:実在の人物を極力似た俳優に演じさせ成功している。主役の二人はともにコメディ・フランセーズ所属(配役表に表示される)。久しぶりにこの名前を聞いた気がするが、言ってみればイギリスのロイヤル・シェークスピア劇団のような存在。ジャンヌ・モローもここの出身のはず。今作の成功は二人の主演者によっているところも多い。ピエール・ニネとギョーム・ガリエンヌ、覚えておいて損はない二人です。

 

●物語る私たち:サラ・ポーリーはカナダの俳優兼監督。彼女が自分の出生の秘密を追求する今作、面白いです。興味津々。トロントとモントリオールの違いも判ったりして。

 

●アイ・フランケンシュタイン:怪物フランケンのオリジナルも誕生して約200年、こんな作品も出てくるんですねえと感心。トピックスのⅢ悪魔との戦いも参照。

 

●舞妓はレディ:「マイ・フェア・レディ」を換骨奪胎、和風ミュージカルにしたのは、周防正行監督。音楽は監督の従兄弟の周防義和。草刈民代はやっぱり上手いです、演技も。

 

●NY心霊捜査官:元刑事が書いた実話を映画化。サスペンスたっぷりだが、これはエクソシストもので、その趣味の人にはお勧め。トピックスのⅢ悪魔との戦いも参照。


 

 

 

Ⅱ 今月の旧作

 

①台湾巨匠傑作選
 K’s cinemaでホウ・シャオシェン、エドワード・ヤン、アン・リー、ウェイ・ジョーダンの作品を特集上映。(9/15に終了しています)今回は大好きなエドワード・ヤンの遺作「ヤンヤン 夏の思い出」を再見(流石!)し、アン・リーの父親三部作「推手」「ウェディング・バンケット」「恋人たちの食卓」を見た。


 アン・リーは「グリーン・デスティニー」以降、ハリウッド監督のようになっているが、この3部作は、1、2作の舞台はニューヨーク、3作目もアメリカ帰りのおばさんが出てくるも、基本線は台湾だ。台湾の文化に沿ってのストーリー展開だ。感心したのは、ストーリーの構成力。単純な物語なんてありません。細かい配慮がされたものばかり。どんどん面白くなっていきます。3作目の3姉妹の扱いなど、うーむ、ほれぼれ、特に次女ね。


 勿論、3作ともに父親を演じたラン・シャンの何とも言えない味も素晴らしい。こうした実力があったからこそ、「ブロークバック・マウンテン」や「ライフ・オブ・パイ」が生まれたのでしょう。ウェイ・ダーションは「セデック・バレ」ですが、台湾で歴史的大ヒットとなり日本公開は2015/1/24と決まっている「KANO カノ 1931海の向こうの甲子園」の製作、脚本を担当している。いずれにしても、台湾の映画人の力を再認識させてくれた企画だった。

 

 

②スマートな日本映画
 「河口」は中村登監督の作品で、原作は井上靖。しかし、この作品をモダンたらしめているのは山村聰なのだ。彼が演じたのは、主人公の元妾岡田茉利子を助ける美術オタク館林。作品が作られたのは1961年でオタクなどという言葉はまだないころだったのである。しかし、山村が演じたのはまさしくオタク。主人公の男関係も全然気にせずバッサリ、ズケズケなのに、自分の恋愛(?)になるとタジタジとなるのも、オタクそのもの。現代的に笑えるスマートな喜劇です。

 

 「非情都市」は鈴木英夫監督の1960年の作品。敏腕新聞記者(三橋達也)の活躍を描く。今の新聞記者もここまでのことをするのだろうかと感じるほど、記者の真実を追求する姿勢は強烈だ。彼女を演じる司葉子のさっぱりぶりも現代的。

 

 

Ⅲ 今月の懐かしい人


☆クリストファー・リー

 「リスボンに誘われて」は40年前と現在を行き来しながら語られるため、ほとんどの人物が若いころと現在の人として登場する。現在の、つまり年取った人物に扮するのは、トム・コートネイ、ブルーノ・ガンツ、シャーロット・ランプリング、レナ・オリンなど、そうそうたる名優が出演しているが、その一人が神父になるクリストファー・リーだ。

 1922年生まれの92歳の彼は、今も多くの作品に登場しているので、このコーナーに登場いただくのは合わない気もするのだが、50~70年代にかけてのイギリスのホラー映画、2000年に入っての「ロード・オブ・ザ・リング」シリーズ以外での登場に懐かしさを感じたのだ。
 196㎝の長身、高齢になってからの白髪などで凛とした姿が印象的だ280本以上の映画に出演し、ギネス記録にもなっているという。「ロード・オブ・ザ・リング」で登場したとき、この人はいくつになったんだろうと思い、今後大丈夫だろうかと思ったものだが、今も「ホビット」シリーズに登場している。
 今回のように、普通の作品でもまだまだ大丈夫。末永くご活躍ください。

 

 

 

Ⅳ 今月のつぶやき


●能年玲奈と言えば朝ドラ「あまちゃん」で大ブレイク、その映画主演第1作が「ホットロード」でかなりヒットもしているようだ。先日朝日新聞の読書欄に、紡木たくの原作漫画が再び売れていると紹介されていた。

そこには、漫画は少女と母親の関係がテーマだと書かれていた。
残念ながら映画では変な母親としか印象に残らない。
暴走族との恋愛に焦点を当てすぎたのが映画だろうか?
でも、主人公は14歳の中学生。その恋愛と言われてもねえ…。


●「The Next Generationパトレイバ-第4章」は例によって2エピソードで2週間の上映。相変わらず楽しんでいます。第5章は10/18からの2週間です。


●「牡丹灯籠」は名前しか知らずに見たのだが、こういう話だったんですね。Wikipediaで調べたら、今回見た1968年の映画は必ずしもオリジナル通りではないらしいが、いずれにしろ恨みとか呪いといった要素は少なく、むしろ恋愛の要素が強いとあり、もともとの話が中国から来ているためとあった。
「四谷怪談」「皿屋敷」と合わせ三大怪談と呼ばれているが、怨念要素は少ない。

 

●園子音監督の「TOKYO TRIBE」は残念でした。情念の濃さがない。
“超弩級のバトル・ラップ・ミュージカル”と宣伝されていたが、ラップの音楽は下手をするとすごく平板に聞こえる、メリハリがなくて。
その悪い面ばかりが気になり、ミュージカルなどとはとても呼べず、ドラマとしてもつまらなかった。

 

●特撮ヒーローものに必須のスーツアクター(中に入って演じる人)の「イン・ザ・ヒーロー」は、8月号で紹介した斬られ役に焦点を当てた「太秦ライムライト」と同じように、映画の中で裏方的に活躍する人を主人公として描く。映画界・撮影所の大スターという役で松方弘樹がどちらにも登場、いかにもに演じている。そういえば、「太秦ライムライト」の主演者、福本清三さんがモントリオールのファンタジア映画祭で、主演男優賞を受賞しましたよね。おめでとうございます。

 

●ドキュドラマ(ドキュメンタリー+ドラマ)といえば、真実に基づく物語が増えている中、多く見られるが、その真骨頂というべき映画が「物語る私たち」だろう。自身の出生の秘密を描くサラ・ポーリーの家族史だが、どこまでが過去のフィルムで、どこが俳優を使ってのドラマかがはっきりしないくらいである。

 

●「舞妓はレディ」は完全にミュージカルだが、主題歌以外の歌が今一つパンチがないのが残念。あるいは、もっと和の音楽を取り入れてもよかったのでは?「マイフェアレディ」のような話でもあるし、題名だってここから来たんだろうし、周防監督にはもう少し遊んでもらいたかったなあ。

 

●「ウィークエンドはパリで」という甘い題名に騙されてはいけない。ロマンチックでもないし、面白くない。夫婦の口げんか的なせりふばかり聞かされてもねえ。

 




今月のトピックス:映画館の作法 & ETC 


Ⅰ 映画館の作法(久しぶりに)

 

 「リスボンに誘われて」を見たのは9/20 渋谷のル・シネマでだった。座席の前から1/3以降は、低いとはいえ段差がある劇場で、座席の位置も1列ごとに座席半分分がずれるように配置されている。段差が始まるE列で席をとったので座高の高い人が前に来ても大丈夫だろうと思った。前には夫婦が座っていた。

 

 私の前は奥さんで妙にしっかり、ぴんと座っている。左にご主人が頭を背もたれに乗せるくらいにリラックスしている開始前の時間だった。映画が始まると、奥さんは頭を預けた(超ラッキー!)のに、ご主人は前に身を乗り出している。私からはほとんど影響がなかったのだが、私の左の人はかわいそうだと思った。この前への乗り出しはかなり続いていた。40~50分経ったところで左の男性がご主人に声をかけ、やっと乗り出しはなくなった。前に身を乗り出すと、たとえ段差のある席でも後ろの人は見えにくくなる。

 

 「非情都市」を見たのは9/21、神保町シアターだった。それほど混んでいず、私の左右は空席、左に一つ開けて女性2人が座っていた。2人は知り合いではないが、上映前に映画について会話をしていた。上映が始まって半分以上過ぎた頃、突然私からより離れた女性が携帯画面を開いたのだ。

 

 明るい画面が場内に明るい筋を作った。携帯は電源を切るということをいまだに守れない人がいる。

 

 

Ⅱ  ディズニーとインド

 

 先月号でインドの映画会社の一つがディズニー系列になったと書いた。偶然なのかもしれないが、ディズニー映画からインド関連の映画が2本公開される。

 

10/4封切り ミリオンダラーアーム:“インド初メジャーリーガー”誕生の実話

 

11/1封切り マダム・マロリーと魔法のスパイス:南フランスの名門レストランVSインド料理店

 

 映画の惹句に書かれているように、いずれもインド人が物語に絡んでくる。

インドという巨大市場をディズニーが取り込もうとしているのか、あるいは本当の偶然か?



Ⅲ 悪魔との戦い

 

 キリスト教には天使と悪魔がいる。2つの勢力が現代の町を舞台に闘うという映画も多い。

 

 フランケンシュタインと言えばメアリー・シェリーが1818年に書いた小説で誕生した。人間の生命の謎に挑み、死体を切り貼りして作り上げた体に命を吹き込んだ博士の名前が、そのまま怪物の名前となってしまった。今も生きるフランケンシュタインが現代の町を舞台に悪魔グループと戦うのが「アイ・フランケンシュタイン」。教会の雨どいの1部分として機能する怪物をかたどったガーゴイルが、実は悪と戦う天使軍団ということで、善悪の壮絶な戦いがフランケンシュタインを巻き込みながら展開される。

 

 イラク戦争が映画の題材に使われることも多くなった。
かつてベトナム戦争が兵士に与える心の傷が映画のテーマになったが、「NY心霊捜査官」もイラク戦争から始まる。しかし、これは悪魔つきの映画であった。後半は悪魔との戦いのエクソシストの映画となる。

 

 キリスト教は1神教で他の神は認めないというところから、悪との戦いが出てくるのだろうが、映画とかドラマのテーマにもなっている。



Ⅳ 久しぶりの満員

 

 今月の旧作に書いた「台湾巨匠傑作選」は1本だけ新作を含んでいた。
「セデック・バレの真実」だ。
「セデック・バレ」に大感激した身にとっては、
絶対に見たい作品だったが、なかなか都合がつかず、出かけられたのは9/15の最終日になってしまった。
この日は朝10:30からの回のみの上映だ。
ひょっとしてと思い、10時より前に着いたのだが…満員だった。
すぐあきらめて別の映画に行ったのだが…悔しい。
朗報は10/25~11/07にアンコール上映が決定したこと!!

 


Ⅴ なぜ時代劇は滅びるのか

 

 春日太一著「なぜ時代劇は滅びるのか」(新潮新書)が面白い。36歳と若いが時代劇を中心にすでに何冊かの著書がある。時代劇を愛してやまないところから、時代劇が衰退してきたさまを、映画、TV、撮影所などを通して検証している歯に衣着せぬとは正にこのこと、役者、監督、プロデューサーから大河ドラマの、実名を挙げての悪い点の指摘には感動したくらい。はっきり、きっぱり書いておられます。これくらいの愛情がなければ物事は良くならない。

 

 


Ⅵ 4DX


 ご存知ですか4DX?映画館の座席を上映に合わせて動かしたり、場内に雨を降らせたりする体感型映画上映システム。現在、名古屋と小倉にありますが、12月にユナイテッド・シネマ豊洲に誕生するようです。
 次のような効果があるといいます。雨、香り、フラッシュ、バブル、煙、風、エアー、モーション、ミスト映画館をアトラクションに変えると謳っています。シネコンも過剰になり、次の道を探してのトライアルでしょう。3Dも日本では今一つなのに、4DXは成功するのでしょうか?

 

 

 


今月はここまで。

芸術の秋、楽しんでください。



                         - 神谷二三夫 -


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