2014年 12月号back

今年は秋、冬と順調(?)な季節の展開、
いよいよ冬の始まり、師走でもあります。
せわしない時が続きますが、
ホッとしたい時は、
勿論、映画館!

 

今月の映画

 10/26〜11/25の30日間に出会えた作品は30本、後半になるほど充実した作品が多くなりました。
 日本の歌謡曲映画に気持ちゆったり。

<日本映画>

New Generationパトレイバー 第5章
小野寺の弟,小野寺の姉 
ルパン三世
0.5ミリ 
紙の月 
イラク チグリスに浮かぶ平和
(古)人生劇場 
高校三年生 
下町の太陽 
有楽町で逢いましょう

 

 

<外国映画>

セデック・バレの真実
   (餘生) 
トム・アット・ザ・ファーム
   (Tom a La Ferme /Tom at The Farm)
シャトー・ブリアンからの手紙
   (La Mer a L’Aube / Calmat Sea) 
やさしい人
   (Tonnerre) 
イコライザー
   (The Equalizer)
ドラキュラZero
   (Dracula Untold) 
マルタのことづけ
   (Los Insolitos Peces Gato/ The Amazing Catfish)
100歳の華麗なる冒険
   (The 100-Year - Old Man Who Climbed Out of

    The Window andDisappeared)
エクスペンダブルズ3 ワールドミッション
   (Expendables 3)
ニンフォマニアックVol.2
   (Nymphomaniac:Vol.2)
マダム・マロリーと魔法のスパイス
   (The Hundred-Foot Journey) 
泣く男
   (No Tears for The Dead)
天才スピヴェット
   (L’Extravagant Voyage du Jeune et Prodigieux

   T.S.Spivet /

   The Young and Prodigious T.S. Spivet)
6才のボクが,大人になるまで
   (Boyhood)
美女と野獣
   (La Belle et La Bete /Beauty and The Beast)
インタ−ステラー
   (Interstellar) 
パワーゲーム
   (Paranoia) 
デビルズ・ノット
   (Devil’s Knot)
ランナーランナー
   (Runner Runner) 
オオカミは嘘をつく
   (Bid Bad Wolves)

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー



①インターステラー
 クリストファー・ノーランはやはり当代随一の監督だなあと感心した。
画面の深さが違う。見せることに徹している。住めなくなった地球から次に目指すべき星を求めての旅。宇宙の果てに見つけていくものは・・・。どこかで見た気もしますが、涙しました。


②6才のボクが、大人になるまで
 リチャード・リンクレーター監督で好きなのはスクール・オブ・ロックだが、有名なのはビフォア3部作だろう、イーサン・ホークとジュリー・デルピー主演の。3部作は18年間に3本で、ウィーンでの二人の出会いから倦怠期の夫婦までを描いているが、この「6才…」は1本の映画を12年間にわたって撮り、主人公一家が変化する様を同じ俳優で描く。この方法が傑作を生み出したといってもいい。

 

③天才スピヴェット
 「アメリ」のジャン=ピエール・ジュネ監督の新作は10歳の天才少年の話100年遅れのカウボーイの父、昆虫学者の母、アイドルを目指す姉と自分と双子の弟との5人家族で、モンタナのド田舎の牧場で暮らす。天才であることをだれにも告げず、むしろバカにされながらもワシントンへの一人冒険旅。ワクワク、ドキドキ、楽しさ満載です。

 

 

 

 他にも楽しめる作品がたっぷり、ご覧下さい。

 

●New Generationパトレイバー 第5章:どんどん佳境に入ってきたパトレイバー。入場料はスペシャルでシニアも関係なく1500円。私はオタクでもなく、この手の作品に特に思い入れはないが、今は落語を聞くかのように通っている。11/29からは第6章だ。


●小野寺の弟、小野寺の姉:片桐はいりはすごいインパクトですね。そのキャラクターでこの映画は出来上がっている。個性という点では現在の日本では抜きんでているかも。


●ルパン三世:心配していた、漫画のちゃちな実写版になっていないかと。杞憂に終わった。北村龍平監督は今の日本に珍しいアクション得意監督。映画の世界がちゃんとしている。

 

●セデック・バレの真実:「セデック・バレ第一部、二部」で描かれた“霧社事件”を追ったドキュメンタリー。先の劇映画がいかに真実に近く描かれていたかがよく分かった。

 

●トム・アット・ザ・ファーム:ゲイのパートナーが亡くなって、彼の故郷にやってきたトム。そこで出会う様々な迫害はマイノリティに対する恐怖か?

 

●シャトーブリアンからの手紙:フランスがナチスによって支配されていた時代、ドイツ人将校が暗殺されたことからヒトラー命による150名の報復虐殺があった歴史に基づく映画。


●やさしい人:中編「女っ気なし」のギヨーム・ブラック監督の長編第一作。パリでそれなりに成功したミュージシャンが故郷トネールに戻り父との二人暮らし。若くはなくなった彼に訪れる出来事。今回もしょぼくれ男のやるせなさ満開。

 

●ドラキュラZero:ドラキュラが如何にしてドラキュラになったかを描く創世記、オスマントルコとの戦いが一つの要因だったんですねえ…結構納得できる創作です。

 

●イコライザー:監督はアントワン・フークワ、「トレーニング・デイ」でデンゼル・ワシントンにアカデミー主演男優賞を取らせた人だ。この映画でも、テンポ良く、無駄なく、細かい描写が的確。


●100歳の華麗なる冒険:スウェーデン発の老人による奇想天外な冒険の小説を映画化。まるで行き当たりばったり大冒険なのが面白い。

 

●エクスペンダブルズ3 ワールド・ミッション:拡大を続ける高齢者大冒険アクション。今回は大物4人がジョイン、ハリソン・フォード、メル・ギブソン、アントニオ・バンデラス、ウエズリー・スナイプスで、それぞれに見せ場を作ったスタローンもえらい。

 

●マダム・マロリーと魔法のスパイス:インドの進撃はとどまるところを知らず、ディズニーの手でついにフランスまでインド料理が進出した。これが良くできた話で、面白い。

 

●0.5ミリ:介護士として働いていた時、ある家で事故にあい街をぶらぶらすることになった主人公。安藤サクラの個性で、老人に取り入っては生活をしていく様の軽さが面白い。ちょっと長いけど。

 

●紙の月:角田光代の原作からどの程度脚色されたか知らないが、人物の配置が的確、うまい。仕事の達成感、心のときめきなど主人公の高揚に合わせ多用されるスローモーション。彼女の犯罪はその一つでもあった。吉田大八監督の描写はクローズアップの使用と共にうまい。 

 

●デビルズ・ノット:1993年ウエスト・メンフィスで3人の少年が殺される。その犯人として知的障害のある少年も含む16〜18歳の男児が逮捕される。冤罪を強く匂わせながら、死刑を含む刑が確定するまでを描く実話の映画化。映画的な解決はない。

 

●オオカミは嘘をつく:犯人だと決めきった刑事と、徹底的に痛めつける被害者の親と、無実を訴える教師と…。イスラエル映画も結構乱暴です。

 

●イラク チグリスに浮かぶ平和:ジャーナリスト綿井健陽のドキュメンタリーは2003年のイラク戦争開始以来バグダッドに何度も出かけ、現地の人の生活を細かくとらえている。


 

 

 

Ⅱ 今月の旧作

 

 神保町シアターでは歌謡映画の特集を上映していた。(11/28まで)
そこで見た3本は、いずれも大ヒットした歌謡曲にちなんで製作されたもの。

 

*高校三年生:舟木一夫の出身地尾張一宮の高校を舞台に、織物問屋の姉妹の生き方を、結構真面目に描いている。舟木一夫はちょっとオタク的な三年生役で助演。


*下町の太陽:倍賞千恵子の大ヒット曲に基づき映画化。監督は山田洋次(第2作品目)でまじめなつくり。驚いたのは、下町のお菓子工場(と思っていたのですが、石鹸工場らしい)で働く人たちが、本社の正社員になるための試験を受けるという点。今は派遣から社員というところでしょうか?

 

*有楽町で逢いましょう:今はない有楽町そごうをの宣伝映画のようであるが、案外洒落た作品。デザイナーの京マチ子と建築技師の菅原謙ニの男女関係が、よき頃のハリウッド映画のようで感心。ラストまでうまく作られています。フランク永井は映画の初めにストーリーとは関係なく歌うだけ。

 

 

Ⅲ 今月の懐かしい人


 「インターステラー」で101歳くらいのマーフィーを演じていたのは、「アリスの恋」でアカデミー賞主演女優賞を受賞したエレン・バーステイン。前年の1973年には「エクソシスト」でリンダ・ブレアの母親役をしていたし、「アリスの恋」と同じ年には「ハリーとトント」でアート・カーニーの相手役をしていた。

 あの頃彼女はおばさん俳優として輝いていた。Wikipediaを見たら、“現在はアクターズ・スタジオの学長をアル・パチーノ、ハーヴェイ・カイテルと共に務めている“とあった。
 映画では久しく見なかったけれど、頑張っているんですね。その実質的な感じがいかにも彼女らしい。マーフィの最後はものすごく幸せそうでした。

 

 

 

Ⅳ 今月のつぶやき


●「人生劇場」を初めて見た。何回も映画化されているのにね。今回は監督主演が佐分利信である。「飛車角と吉良常」とかも作られ、渡世人の世界を描いているが、主人公は大学生で、今回の特に前半(先月号で見ています)は変なたとえだけれど若大将シリーズみたい。


●封切り後なかなか見られなかった「ルパン三世」をやっと見た。
9月だったかに「映画監督という生き様」という北村監督の自著が新書として発売され、面白く読んだので、早く見たいと思っていたのだ。今までの作品では「あずみ」を見ているが、派手なアクションの印象はあった。子供の頃からの憧れだったハリウッドをベースに、仕事をしていてなかなか頼もしい。

 

●中学生のころ日本でも大いに人気があったコニー・フランシスの歌をよく聞いていた。こぶしのある歌い方で、よく“泣き節”と呼ばれていた。前作「女っ気なし」と同じ監督—俳優コンビで作られた「やさしい人」の主演者ヴァンサン・マケーニュは、泣き節ならぬ“泣き顔”だ。彼の表情があって映画は成立している。


●北欧映画は一種独特のゆっくりテンポで、時々面白いコメディを送ってくる。スウェーデンからやってきた「100歳の華麗なる冒険」は原作があるとはいえ、話がとんでもない方向に行くのが面白い。最後はバリ島ですよ。

 

●安藤サクラを主演に、彼女の姉、安藤桃子が監督した「0.5ミリ」は面白い。特にサクラの個性から主人公の行動に暗い重さがない。しかし、3時間16分は長すぎ、エピソードの一つくらいはなくてよい。最近の若い監督の日本映画、スローペースが目だつような気がしますが、どうなんでしょう。

 

●17歳の高校生に死刑判決が言い渡される「デビルズ・ノット」、驚いたのは判決の中で、〜ミリの〜薬を注入されて息絶えると、随分具体的に言及されること。これが文明国アメリカの現実?


●IT産業内の新製品開発競争を描いた「パワーゲーム」や、インターネットカジノの内幕を描いた「ランナーランナー」を見ていると、アメリカ企業の裏にあるハードさを感じるが、9月号で紹介した「プロミストランド」でも、そこまでやるのかと思ったのと同じだ。

 




今月のトピックス:年末だよのアラカルト 


Ⅰ 映画館での坐り方

 

 シネコンが多くなり、階段状の映画館も増えたが、平面の映画館もまだある。そんな時心配なのは、前に座高の高い人が来はしないかということ。画面のかなりの部分が見えにくくなる。見るためには自分も座高高の人になるしかないが、その連鎖はできれば断ち切りたい。

 

 最近の映画館の多くでは映画館のマナーについて本編の前に注意を促している。携帯電話は切ってくださいとか、前の席はけらないで下さいとかですね。
他店のものは持ち込まないでくださいなんてのもあるが、その代わりに座席の坐り方についても流してはどうか?

 

“あなたの席の後ろにもお客様はいらっしゃいます。
きちんと行儀よくは坐らず、足を前に出し、腰を浅くかけてください。
頭を背もたれの上に載るくらいにゆったりおかけください。
そうすれば、後ろの方も画面をすべて見ることができます。
総ての人が楽しく映画をご覧いただけますように!“

 

 こんなふうな案内を流せないものか。あるいは「ノーモア映画泥棒」(最近3代目になりました)の代わりに、映画館での座り方講座を流してもらいたい。何せ、あのカメラ男を流しているのは、「映画館へ行こう!」実行委員会なんだから!

 

 

 

Ⅱ 高倉健

 

 高倉健さんが亡くなった。
 11月10日、享年83歳。

 

 亡くなった後、すべてのTV局で特集番組が放送されたような状況だった。
まったくチェックはしていないが。それだけの価値のある映画スターだったということだ。

 

 今の時代、映画だけで勝負している人は少ない高倉健にしてもTVに出たことはある。しかしごく少なかったのではないか。少なくとも私の記憶には残っていない。もっともほとんどTVを見ない私ではあるが。

 

 舞台の出演は全くなかっただろう。

 

 NHKが、今や遺作になってしまった「あなたへ」のロケに密着した番組を再放送していたが、イメージとは違ってかなり話し好きだったという。寡黙の方が男らしいという一般的なイメージに合わせ、また、そうしたイメージの作品に多く出演していたことが、スター高倉健のイメージを作ったのだろう。

 

 よく言われるように、最後の映画スターだったのかもしれない。最後まで主演一筋だったのが凄い。

 

 安らかにお休みください。


 


Ⅲ 太田莉菜

 

 エカテリーナ・クラウチェヴナ:カヌカエヴァの名刺をもらったのは、「New Generationパトレイバー第5章」を見に行った時だった。この映画シリーズ、入場時には何かしらのカードをくれることになっている。これがいかにもオタクっぽいが、名刺でも貰わなければこの名前は覚えられない。

 

 ロシア連邦保安庁より研修目的で警視庁警備部特科車両二課第二小隊に派遣されている。第5章は通称カーシャが主役の「エピソード8遠距離狙撃2000」が含まれている。このカーシャが全くネコ科、わがままで我が道を行き、何をしだすか分からない。

 

 時々発せられるロシア語がまたかっこいい。

 

 演じているのは太田莉菜、知らない人だったので例によってWikipediaを見てみた。千葉県四街道出身と、妙に日本人的イメージだが、父は日本人、母がロシア人のハーフ、母との会話は今もロシア語とある。
 納得。松田龍平と結婚ともある。そうだったか。ともあれ、第二小隊では一番気に入っている。

 

 

 

Ⅳ チグリス

 

 メソポタミア文明が栄えたチグリス川、ユーフラテス川流域。
 綿井監督の「イラク チグリスに浮かぶ平和」の中で、バグダッドに住む人々が唯一安心してゆっくりできるのが、チグリス川の上という話が出てくる。
 綿井監督が2013年に訪れた時、チグリス川の上(と言っても限られた範囲だが)だけは、テロが行われることもなく、安心してゆっくり過ごすことができると、一家そろって船の遊覧を楽しむ風景があった。

 その頃、まだイスラム国という話は出ていなかったらしいが、何度もイラクを訪れている監督によれば、現地では今までの状況から、イスラム国と言っても他と同じようなものという捉え方だという。

 

 10年にわたってある家族との交流が描かれる。2003年米軍によって家を誤爆され、3人の子供を失った41歳のアリ・サクハンの家族。一人残った娘と妻、そして両親と一緒に暮らす。その後、2006年にアリの弟が殺され、2008年にはアリ自身も殺されてしまう。こうした状況下でも人々の生活は続いていく。平和はいつ訪れるのだろうか?

 

 

 

 

Ⅴ ドリンクホルダーの位置

 

 「オオカミは嘘をつく」を見るために行ったヒューマントラストシネマ有楽町。本編上映の少し前にアナウンスが始まった。


“この映画館は全席指定になっています。
座席の左側に座席番号が書かれています。
矢印で示している椅子におかけください。

カップホルダーはご自分の座席番号の書かれたものをお使いください。”

 

 アナウンスでカップホルダーに触れたのを聞いたのは初めてでした。この映画館でも以前は触れていませんでした。これは多分“どっちだかわかりにくい”という苦情があったからでは。
 問題は、このアナウンスによってこの映画館では左側と指定されたこと。
以前、東宝系で流している「鷹の爪マナー」では右側と言っていた。こうして、どっちなんだよー的気分が蔓延する(大げさ)。
 困ったもんだ!!

 

 

 


今月はここまで。
次号はクリスマスにお届けします。

 



                         - 神谷二三夫 -


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