2015年 4月号back

今年は少し早目に春がやってきました。
桜も既に開花したところもあり、
新年度開始と共に満開というところも少なくないでしょう。
映画満開は勿論映画館です!!

 

今月の映画

 2/26~3/25の冬から春への28日間に出会えた作品は31本、邦洋画比率は1:2と通常の比率、もっとも邦の半分は旧作ですが。日本映画では学園ものが、外国映画では恋愛映画が目立ったといえるでしょうか。アカデミー賞に絡んだ作品も公開され、ヴァラエティに富んだ作品群でした。



<日本映画>

花とアリス殺人事件 
ソロモンの偽証 前篇・事件 
味園ユニバース 
みんなの学校
さいはてにて~やさしい香りと待ちながら~
酒中日記 
風に立つライオン
(古)侍 
八つ墓村
悪魔の手毬歌 
人形佐七捕物帖 めくら狼 
黒蜥蜴
七つの顔の男

 

 

<外国映画>

あと1センチの恋
  (Love, Rosie) 
パーフェクト・プラン
  (Good People)
ラブストーリーズ コナーの涙
  (The Disappearance of Eleanor Rigby:Him) 
ラブストーリーズ エリナ―の愛情
  (The Disappearance of Eleanor Rigby:Her) 
シェフ 三ツ星フードトラック始めました

  (Chef) 
女神は二度微笑む
  (Kahaani)
パリよ,永遠に
  (Diplomatie / Diplomacy) 
きっと,星のせいじゃない。
  (The Fault in Our Stars)
イミテーション・ゲ-ム/エニグマと天才数学者の秘密
  (The Imitation Game)
愛して飲んで歌って
  (Aimer,Boire et Chanter / Life of Riley)
博士と彼女のセオリー
  (The Theory ofEverything)
ヴァチカン美術館3D 天国への入口
  (The Vatican Museums 3D) 
イントゥ・ザ・ウッズ
  (Into The Woods)
陽だまりハウスでマラソンを
  (Sein Letztes Rennen / Back on Truck) 
妻への家路
  (Coming Home)
ナイトミュージアム/エジプト王の秘密
  (Night at The Museum: Secret of The Tomb)
(古)女は女である
  (Une femme est une Femme) 
恐怖分子
  (Terrorizers) 

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー



① イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密
 イギリスがナチスの暗号を読み解くため集めた人々の中にアラン・チューリングがいて、彼がついに読み解いた史実に基づいた作品。後のコンピューターにつながる考え方だった。2009年になってイギリス政府は謝罪をしたというその真実には驚くが、それでも間違いを正す姿勢には感心もした。

 

② シェフ 三ツ星フードトラック始めました
 料理やレストランを主題にした映画も様々ありますが、この映画くらい美味しそうに見えたのはまれです。始まりのホットサンドから、レストランの新しいメニュー、キューバサンドウィッチまで、どれも美味そうです。それだけでも見る価値あり。

 

③-1 ソロモンの偽証 前篇・事件
 宮部みゆきの原作は読んでいないが、書き込みが深いだろうなと想像できる。彼女がいじめに取り組んだと何かで読んでいた。映画も、丁寧に中学生たちを描いています。後篇・裁判への期待が高まります。

 

③-2 博士と彼女のセオリー
 ホーキンス博士は我々の前には初めから車いすの人として現れた。大学院で勉強している時、筋萎縮性側索硬化症(ALS)を発症したと初めて知った。ケンブリッジで知り合ったジェーンとの二人の関係の単純な恋愛ものにはなっていない。

 

 

他にもお勧めしたい作品がわんさか、ご覧下さい。


●花とアリス殺人事件:「花とアリス」は岩井俊二の瑞々しい傑作でしたが、その続きというか、別編というかを彼自身がアニメーションにした作品。声の出演を同じ俳優がしています。平泉成の声だけがこの10年の間に老け込んでいるため(59→70才ですから当然ですが)違和感あり。

 

●パーフェクト・プラン:アメリカで上手くいかず、イギリスで経済的に成功するのを狙ってやってきたアメリカ人夫婦が、偶然見つけた大金を横取りすることから始まるサスペンス。面白い。

 

●きっと、星のせいじゃない。:18歳の女の子の恋愛…と書けば、女子高生の…とかで甘い感じだが、この作品、甘さより苦みを持ったところが素晴らしい。小児がんの話だからね。

 

●味園ユニバース:寄り道をしてきた男の人生、あることで自分の天分に気づかされる話。渋谷すばるも悪くないが、二階堂ふみが役柄にぴったり。

 

●愛して飲んで歌って:「去年マリエンバードで」のアラン・レネといえば難解映画の代表だったが、昨年亡くなる前の15年間くらいは軟弱題材を手掛けて全く違った印象だった。いかにも舞台劇という作品を、いかにも舞台劇風に演出して、面白い遺作だった。

 

●みんなの学校:関西TVが製作した大阪南住吉の大空小学校についてのドキュメンタリー。地域のどんな児童も受け入れるというポリシーのもと、先生と児童が正面から向き合う。

 

◎妻への家路:文化大革命で引き起こされた様々な悲劇が映画化されることも多くなった。終結後すでに38年が経とうとしている。大中国を一つにまとめるための大手術だったのかもしれないが、そのために個人がこうむった対価は大きなものがあった。丁寧に描かれる力作。

 

●イントゥ・ザ・ウッズ:森に出かけるおとぎ話を集約して再出発の話をミュージカルにしたのは、スティーヴン・ソンドハイム、作詞・作曲を手掛ける。ニューヨーク出身のユダヤ人で現在85歳。一筋縄ではいかないストーリー、単純なではない曲想など難しく通好みの作品が多い。映画版の監督はロブ・マーシャル。

 

●さいはてにて~やさしい香りと待ちながら~:台湾の監督姜秀瓊(チアン・ショウチョン)は、エドワード・ヤン監督の「?嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」(91)で女優としてデビューしたという。45歳の彼女が監督した新作は能登を舞台にした純然たる日本映画。その静かで深い描写には感動した。

 

 

 

Ⅱ 今月のエドワード・ヤン

 

 1947年生まれの台湾の映画監督エドワード・ヤンは2007年に59才で亡くなってしまった。監督作品は8本しかない。私は3本しか見ていないが、好きな監督だった。「エドワード・ヤンの恋愛時代」が何とも好きな作品だった。一般的には「?嶺街(クーリンチェ)少年殺人事件」「ヤンヤンの夏休み」が有名。
 彼の旧作「恐怖分子」が再公開され、初めて見た。作品は1986年に出来上がっていたが、日本初公開は1996年と10年後だった。こんなに繊細なカット割りの作品が30年前に作られていたことに驚いた。感情の高まりを声高には語らないクールな画面ながら、人間的な肌合いを感じさせる映画になっている。

 

 

 

 

Ⅲ 今月の懐かしい人


中村メイコ

 このコーナーに中村メイコを登場させることに違和感を感じる方もいることだろう。TVをあまり見ない私は、彼女が現在どの程度TVに出ているか知らない。かつてはかなり出ていた印象だったが、ここ10年はほとんど見ることはなかった。
 「さいはてにて~やさしい香りと待ちながら~」を見ていたら、突然彼女が出てきた。あまりにも懐かしく登場願った次第。調べてみれば彼女は80歳。表に出てくることが少なくなっても不思議はない年齢だ。彼女の特徴といえば、あのしゃべくりだろう。この作品でも元気なおばあさんの役柄だった。

 

 

 

 

Ⅳ 今月のインド映画

 

 「女神は二度微笑む」は“ハリウッドも認めた インド初、極上のサスペンスエンターテインメント!”というのが売り文句である。
 最近のインド映画の新しい特徴、歌わない、踊らないインド映画の1本なのだ。しかし、その代替といえばいいか、突如、ムード歌謡のカラオケに使われるような映像が現れたりする。先月の「ミルカ」でも同様な雰囲気があった。最近2時間前後の映画は珍しくない。この映画も123分、2時間3分である。それなのに、途中でIntermissionの案内が入るというのがインド映画。例によって、案内は入るが休憩せず上映が続くという日本式上映が決行された。

 

Ⅴ 今月のつぶやき

 

●花が引きこもってしまったというのが、彼女のその後の行動から考えるとありえなくはないか?と感じた「花とアリス殺人事件」だった。

 

●6才からの幼馴染で、ほぼ家族のように付き合ってきた男女が、互いに別の人と結ばれたりしてもなおかつ連絡を取り合う「あと1センチの恋」は、そりゃールール違反だろうがと思うが、今なお女性を集めて息が長いヒット(今月のトピックス参照)。私もやっと見ました。

  

●男女二人の関係を男、女それぞれの立場から2本の映画にしたというのが、「ラブストーリーズ コナーの涙」、「同 エリナ―の愛情」だが、どうも見ていて面白くなかった。無理に2本にする必要もなく、別々にするメリットもあまり感じられなかった。

 

●ホテルムーリスがナチスのパリ本部になり、司令官の部屋には秘密の裏階段があったというのがドラマの起点となっている「パリよ、永遠に」だ。ヒットラーが命じたパリ破壊をどのように阻止するかという題材は、1966に公開された「パリは燃えているか」と同じ。今回アンドレ・デュソリエが演じたノルドリンクはオーソン・ウェルズが、ニエル・アレストリュプが演じたコルティッツ将軍をゲルト・フレーベが演じていた。

 

●ジャン・リュック・ゴダールもこんなにかわいい作品を作っていたんだと楽しんだのが「女は女である」である。飛び跳ねていて、まるで恋する男の子の映画となっている。

 

●われら団塊世代が小学校の頃は50人学級だった。どんな人も学校に来ていた。面白かった。「みんなの学校」はあの頃の雰囲気を思い出させてくれる。違うのはクラスの人数が少なく、学校の先生全部が見てくれているところ。こんなに過保護で良いのだろうかと思いながらも、こんなに厳しい状況にいるんだと今の子供たちを思う。こんな学校が存在すること自体が珍しいという現代は不幸だ。

 

●「ヴァチカン美術館 天国への入口」は期待した割には面白くなかった3D4Kが売りの一つだったけど、いま一つっていうか。66分という短さのためか、3Dにもかかわらずメガネ持参者シニアは1100円だった!

 

●これってチャン・イーモウの作りすぎ?とさえ思った「妻への家路」には原作があったと、本屋さんで原作を見て知った。イーモウ監督が念には念を入れて作りこんだとばかり思ってた。映画的には納得の上手さで感動保証といったところ。コン・リーも入魂の演技!

 

●ディズニー信仰は今やジブリ信仰に近くなってしまった。昨年の「アナ雪」の大ヒット以来、その後公開されたディズニー作品は予想を上回るヒットになっている。通好みの「イントゥ・ザ・ウッズ」を小学生が見に来てどうする。

 

●好きな中野翠が出ているので見に行った「酒中日記」は想像より面白くなかった。私が酒飲みではないからかなあ?いろんな人のイメージがどうも悪い方に変わったのは、酔っぱらいの喋りだから?

 

 




今月のトピックス:日本語題名の最新流行? 


Ⅰ 最近の日本語題名

 

 今月のおすすめの1本は「きっと、星のせいじゃない。」だ。
「きっと、星のせいじゃない」ではありません。
この日本題名パターン、他にも見ましたよね。
そう、「6才のボクが、大人になるまで。」です。
題名に句読点が入るパターンです。
句点だけとか、読点だけという題名は今までにもあった。
今月も「パリよ、永遠に」という、読点のみあり題名がありました。

 

 「6才の…」は、6才のボクが題名を書いたイメージだったのだろう。
確かに子供が書いた題名だなと字体を見たとき思ったのだが、まさか句読点ありとは思わず、あるところで「6才のボクが、大人になるまで」と書いてしまった。申し訳ありません、関係者の方には。

 

 句読点の使い方といえば、映画の惹句でもかなり細かく使われる。
“運命がくれた、今日が愛おしい。”という惹句が使われたのは、「きっと、星のせいじゃない。」でした。
“~がくれた”の後の「、」には宣伝担当者の思いが込められているのでしょう。こんな風に、一瞬の間を取る惹句はものすごく多い。

 

 句読点ありということは、題名が普通の文章になっているということだ。
その分長くなるのは仕方がないが、映画のなんらかを伝える題名であってほしい。
句読点付、今後の新しい流行にでもなるのだろうか?

 

 長い題名も多い。正確には説明的な題名だ。副題付ともいえる。
「シェフ 三ツ星フードトラック始めました」がその例、原題は「Chef」のみ。
「イミテーション・ゲーム/エニグマと天才数学者の秘密」も同じ、「Imitation Game」のみ。
新聞のTV番組欄も最近はすべて説明つき、似てます。
イメージを膨らまそうとしていろいろ付けてしまうのだろうが、時にはすっきりとしてほしいと思うことも。


 

 

 

 

Ⅱ 息の長い上映

 

 最近の息が長い上映といえば、これまた「6歳のボクが、大人になるまで。」だ。封切りされたのは11/14で、東京では現在もどこかで上映中。
4か月を超えてもまだロードショー館で上映されている。

 

もう1本が「あと1センチの恋」だ。
こちらは12/13の封切り、東京では今週4つの映画館で上映中。
3か月を超えての上映だ。

 

 どちらの場合も、初めにロードショーされた映画館での上映ではない。
今のロードショーは初めからロードショーの期間が決められていることが多い。後ろの作品の日付が決まっているからだ。
そのため、別のロードショー館に移されて上映が続けられる。
その後も様々なロードショー館を渡り歩く。
1日1回など、終日の上映でもない。

 

 今はアップリンクで上映されている「アバウト・タイム 愛おしい時間について」は、9/27に封切りされているから既に半年になろうとしている。
こうした作品の走りといえようか。
しかし、アップリンクはいつもこうしたロードショー継続作を上映しているから、今の上映はちょっと別かもしれないが、それでも最近の最長だ。

 

 こうした形の息の長い上映は、今の速すぎるロードショーの回転が、
多分お客様に情報が届く前に上映が終了してしまう事態を生んでいるからだろう。終了間際になってやっとお客様に評判が届き始める。
インターネット等で調べるとまだ上映している映画館があると分かる。
そうして見た人たちの口コミ評判が次のお客様を生み出すという循環。
何事もスピードが求められる現代、情報も瞬時に伝わるインターネットの時代に、こうしたゆっくり情報が届いていくのを見るのはなんだか嬉しい。
こうした息の長いヒット作品、次はどの作品がなるんでしょうか?





Ⅲ 最近の悲劇

 中国映画「妻への旅路」を見たのは階段状ではない平面床の映画館だった。前には1組の夫婦が座っていた、ご主人が私の前で。このご主人の座高が高かった。日本語のスーパーインポーズは80%ほどが見えなかった。中国でこの映画を見てしまったと想像しながら、内容も想像しながら見たのである。
 この劇場、席の前後が狭いということは全くなく、足を前に投げ出すのは悠々出来る状態だった。12月号で座り方のついて書いたのだが、その悲劇を自ら体験してしまうとは。平面床の映画館には特に座り方講座を流してもらう運動を行おうかと思ったのだった。






Ⅳ もぎり嬢

 映画館の入口には、もぎり、または、もぎり嬢がいる。こちらが出すチケットの半券をもぎりとり、残りの半券を返してくれる。これが正当なというか、普通のもぎり、または、もぎり嬢の行動だ。しかし、最近のTOHOシネマズの映画館ではもぎってくれなくなってしまった。チケットには切りやすいようにミシン目が入っているにもかかわらず、もぎり、または、もぎり嬢は見て確かめるのみなのだ。どうしてこうするように変わったのか、理由は確認していない。

 

 半券をとってもその整理・廃棄が大変であるとかだろうか。入場者数とか、入場料金とかの集計は今やCPUで簡単にできるし、だったら手間を省こうということだろうか。

 

 

 

 

 


今月はここまで。

GWの直前、次号をお届けします。


 

 



                         - 神谷二三夫 -


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