2015年 12月号back

 早くも師走、と聞いただけで忙しくなりそう。
 毎年恒例のことですが、この時期はやるべきことが多く、追い立てられる感じです。
 そんな時、ホッとできるのはそう、映画館!

 

 

 

今月の映画

 

 10/26~11/25、芸術の秋ど真ん中の31日間に出会った作品は31本、バラエティ豊かな作品を楽しめました。
 年の瀬に向かってまるでバーゲンセールのように多くの作品が封切り、或いは処分されていた昔に比べると、作品の充実ぶりは今の方が上かも。

 



<日本映画>

徘徊 ママリン87才の夏 
犬に名前をつける日 
ギャラクシー街道 
俺物語 
劇場版MOZU 
グラスホッパー 
起終点駅 ターミナル
FOUJITA
恋人たち
(古)般若坂の決闘
真剣勝負 
野獣の復活 
警察日記 

 

 

<外国映画>

アクトレス~女たちの舞台~

  (Sils Maria / Clouds of Sils Maria)
ヴィジット

  (The Visit)
マルガリータで乾杯を!

  (Margarita with a Straw) 
裁かれるは善人のみ

  (Leviathan)
カミール,恋はふたたび

  (Camille Redouble / Camille Rewinds)
ジョン・ウィック

  (John Wick)
ミケランジェロ・プロジェクト

  (The Monuments Men) 
エベレスト3D

  (Everest)
エール!

  (La Famille Belier / The Belier Family) 
サヨナラの代わりに

  (You’re not You)
パリ3区の遺産相続人

  (My Old Lady)
クライムスピード

  (American Heist)
ラストナイツ

  (Last Knights)
PANネバーランド 夢のはじまり

  (Pan)
ローマに消えた男

  (Viva La Liberta / Long Live Freedom)
ホワイト・ゴッド 少女と犬の狂詩曲

  (Feher Isten / White God)
Re:LIFE~リライフ~

  (The Rewrite) 
コードネームU.N.C.L.E.

  (The Man from U.N.C.L.E.)

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー



① 裁かれるは善人のみ
 アメリカで実際にあった再開発を巡り無実の罪で財産を奪われた男の話を基に作られた。
 ロシアの監督アンドレイ・ズビャギンツェフ、「父、帰る」でデビューした彼の4作目だ。
 今回も彼の冷徹な目が怖いほど。旧約聖書の海の怪物Leviathan(レビヤタンまたはリヴァイアサン)を原題に持つ物語。

 

② ローマに消えた男
 イタリアで最大野党の党首が突然の雲隠れ、病気療養と発表する部下にさえ行方は分からない。
 影武者の登場が政界を超えて社会にも大きなインパクトを与えることに。
彼のかつての恋人との関係が…という映画を監督したのはイタリアのロベルト・アンド―。
 主演は「グレート・ビューティー/追憶のローマ」のトニ・セルヴィッロ、今やローマの顔か?

 

③ マルガリータで乾杯を
 主人公ライラは脳性麻痺による身体障碍者、車いすを使っている。
さらにニューヨークの大学に通っていた時、パキスタン人の女性と同性愛に。恋人は目が見えない。という映画が、インドで歌も踊りもなく作られ、しかも明るいというのには驚いた。

 


 他にも楽しめる作品があります。ご覧ください。

 

●徘徊 ママリン87才の夏:まるで母娘の認知症漫才のようなやり取りが、明るい映画を作り出している。何度徘徊しても徘徊を繰り返すエネルギーには感心。

 

●犬に名前をつける日:ドキュメンタリーで、監督の分身を俳優が演じるというのがよいかどうかはわからないが、犬が体現する日本の現状がかなり描かれている。

 

●アクトレス~女たちの舞台~:いかにも舞台劇の作りは、新人女優の20年後に、演じる役が…、さらに女優の私的秘書の立場がという2重構造が面白い。

 

●カミール、恋はふたたび:主人公がタイムスリップする映画は結構あるが、この映画の面白さはおばさんが高校時代にまんまスリップ…という新手にある。

 

●ジョン・ウィック:キアヌ・リーヴスが復活とかで騒がれた本作、確かに、殺し屋世界のクールさが、おとぎ話のように語られるのがクール。

 

●俺物語:少女漫画の世界で男子高校生の主人公は珍しいだろうが、ありえない設定を映画で上手く持っていくのに、これくらいのデフォルメは必須ですね。面白い。

 

●ミケランジェロ・プロジェクト:こういうことが行われたんですねえと感心、楽しめました。芸術作品を守るための美術が分かる人ばかりで固められた部隊。余裕があればああいう設定も許されるんですね。

 

●グラスホッパー:伊坂幸太郎原作の映画化は今までも多く行われているが、今作も上手く作られている。常に工夫のある物語が、映画的にもうまく生かされて良い結果に結びつくのだろう。

 

●エール!:長女以外の家族3人が聾唖という設定は、なんだかその先に心温まるお話しが待っていますと言われているようであるが、そんな簡単にはいかないのが、いかにもフランス。音楽の先生の曲者ぶりが面白い。

 

●エベレスト3D:1996年に実際に起こった悲劇を基に作られた登山映画は、確かに盛り上げた登頂の感動もなく、空気が薄く総てが凍り付く寒さの中でひたすら登頂、下山を目指す隊員たちの厳しい現状がリアルさの中に描かれる。

 

●パリ3区の遺産相続人:フランスに200年前からある不動産売買の方法「ヴィアジェ」、それを巡る喜劇は舞台のために書かれ、76才のその脚本家が自ら初映画監督を務めた。

 

●クライムスピード:一番近くで育つ兄弟という関係は、そのために離れられない部分がある。情けない兄に迷惑をかけられる弟、身を持って弟を守ろうとする兄。エイドリアン・ブロディのだめ兄ぶりが後を引く。

 

●ラストナイツ:紀里谷監督作は、ラストサムライに対するラストナイツ(LastKnights)か。ほとんど忠臣蔵の脚本は二人のカナダ人が書いたという。モノクロ的印象の画面は墨絵風か?

 

●PANネバーランド 夢のはじまり:ピーターパンはどうして誕生したかのビギンもの。思ったよりは楽しめました。

 

●ホワイトゴッド 少女と犬の狂詩曲:ブダペストを駆ける犬たちの姿が力強い。人間の思惑と犬の動物性が対立する場に少女が立ち、犬の目線で対峙する。

 

●Re:LIFE~リライフ~:誰もが覚えている映画の脚本家が、その後のヒット作がなく、東部の田舎町ビンガムトンの大学で脚本について教えることになる喜劇。台詞が面白い。

 

 

Ⅱ 今月のワン

 

2本の犬映画に出会った。

 

 日本のそれは「犬に名前をつける日」基本はドキュメンタリー映画である。初日の2回目に見にいったら監督、出演者のあいさつ、トークショーがあった。日本の犬の現状を2つのグループ「ちばわん」、「犬猫みなしご救援隊」を取り上げて描く。
 監督・脚本・プロデューサーを務めた山田あかねの分身を俳優の小林聡美が演じて、ふたつのグループの活動を取材しながら、様々な問題を描く。ブリーダーの問題、福島に残された動物たちの問題などいろいろ教えてもらえたが、印象に残ったのは、日本的なペットショップの存在についてだ。ペットをものとして売る店で、命あるものがものとして売られるがため、気に入らなくなれば気軽に捨てられたりするというのだ。
 トークショーでも元気な言動で圧倒的印象の「犬猫みなしご救援隊」代表の中谷百合さん。歯に衣着せぬ発言と、エネルギッシュな活動は映画の中でも光っていた。

 

 ハンガリーのそれは「ホワイトゴッド 少女と犬の狂詩曲(ラプソディー)」だ。ブダペストを舞台にしたフィクション作品。
 ハンガリーでは雑種には税金がかかることになり、払わなければ収容されるという設定。さらに、裏の世界で犬の武闘リングがあり、殺し合いを繰り広げるということに。収容された犬たちが集団脱走して凶暴化するという物語が、すっきり描かれる。驚いたのは雑種に課税という設定だ。純血種ブームの日本と同じように、純血種がもてはやされているのだろうか?ブダペストの街をわが物顔に走る犬たち、そこには日本で見る小型犬はいなかった。

 人間の近くにいる犬だからこそ、人間の生き方に影響される。そんな気にさせてくれる2本の映画だった。

 

 

Ⅲ 今月のつぶやき

 

●先日NHKの認知症特集で認知症予防のためには週に3回1時間の速足歩きが良いと言っていた。認知症の行動の一つが徘徊だが、なってしまえば歩くのも予防にならないのか?認知症の母との追っかけごっこを面白く見せてくれるのが「徘徊 ママリン87才の夏」。番組では、さらに認知症の人が書いた作文から、認知症の人たちが色々感じていることを教えてくれていた。 他人ごとではない問題です。

 

●Sils Mariaが原題の「アクトレス~女たちの舞台~」。シルスマリアはスイス・サンモリッツからマローヤ峠方向に少し行ったところ。有名なヴァルトハウスというホテルも出てくる。主人公は若い時の舞台デビュー作が「マローヤの蛇」という作品。マローヤ峠の谷間に雲が張り出していく現象が「マローヤの蛇」と呼ばれる。

 

●60年代前半までくらいのハリウッド喜劇の面白さを狙ったのかと思った「ギャラクシー街道」のタイトルで使われたアニメーションだが、内容はそれほどスマートではなく結構ダサい。三谷幸喜監督・脚本が意図的にダサくしたとも思えるが笑えないのが致命傷。

 

●初めに話題になるのがベルギー・ゲントの祭壇画「神秘の子羊」であるにもかかわらず、「ミケランジェロ・プロジェクト」の字幕では“ヘント”と呼ばれていた。一瞬どこのことと思い、そうかゲントか、英語の台詞ではゲントと呼ばれているしね。日本ではゲントと呼ばれることが90%以上だろう。何度も出てくるがずっと“ヘント”だった。

 

●「MOZU」には劇場版という文字が前に付いている。この手の題名は結構ある。TVドラマやアニメが映画化されるときには、劇場版とかつけるのだ。
「MOZU」はTVを見ていないとよく分からないところが結構ある。
主人公の家族がどういう状態で殺されたのかとか、ダルマって何だとか。だったら劇場版ではなく「TV続き版MOZU」とかにしてほしい。劇場版だったら、劇場だけで独立していてほしい。

 

●音楽の先生が面白く魅せられたのが「エール!」。部員たちへの言葉に遠慮がない。こんな先生に出会いたかった。上手いか下手かしかない。当たり前ですよね。ほんとのことをどんどん指摘。しかも上手くなるための指南も。ありがたい。

 

●久しぶりのヒラリー・スワンクの「サヨナラの代わりに」、アカデミー賞受賞2回なのに、何故久しぶり?と思って調べたら、あまり作品が多くない上に結構日本に来ていない。まあ、あまり人気がないタイプの人かな。

 

●つまらなさに途中で出たくなったのが「FOUJITA」、小栗康平監督10年ぶりの新作だ。藤田嗣治に私が興味を持っていないこともあるが、彼の何を描きたかったのかがよく分からない。動きのない画面の中で、なんだかちまちまと物語が進行する。

 

●パリ3区はマレ地区のあるところ。そこにある古いアパルトマンを舞台に人間関係喜劇を目指したのが「パリ3区の遺産相続人」。マギー・スミスもケヴィン・クラインも大好きなので、期待大でしたが、もう少し軽快に描かれても良かったかなと。

 

●期待が大きかっただけに、或いは今年のベストに挙げる人も多いのに、少しがっかりしたのは「恋人たち」、橋口亮輔監督の7年ぶりの新作だ。前作「ぐるりのこと」は核としたものがない状態のままで物語が進み、それでも人物たちの息遣いが聞こえるような稀有な作品だった。
今作は有名ではない新人の俳優たちを使い、それが今までにない感情を感じさせるということで評価している人が多い。確かに、橋梁チェック人篠原アツシを演じる篠原篤は、自然な演技というか反応がうまく引き出されている。
3人の主人公たちの生き方に入り込めなかったのが好きになれなかった原因だろうか。

 

●二木てるみで有名な(と言っていいのか?)「警察日記」をやっと見ることができた。当時5歳くらいの彼女の名演にも感心したが、戦後10年目の1955年の作品で、当時の日本の貧しいエピソード(捨て子、万引き、人買いなど)が満載の映画だった。調べたら二木さんは1949年生まれで私と同じ。早生まれの私よりは若い人でした。

 

●アメリカ東部のビンガムトンはTV「トワイライトゾーン」で有名な脚本家ロッド・サーリングの出身地、「Re:LIFE~リライフ~」の出てくるメリーゴーランドの前の彼の言葉は本物だろうか?アメリカ映画の面白さは台詞のやり取りにあるとは先人から教わった。確かに。脚本家の話だけに台詞を楽しめる作品だった。

 

 

 



今月のトピックス:12/18 18:30  


Ⅰ 12/18 18:30


 これは何の日時かがすぐ分かる人は、それなりに映画に興味を持っているか、或いは何に関しても情報通の人かもしれない。正解は「スター・ウォーズ フォースの覚醒」の日本全国一斉公開の月日と時間だ。
 封切りの日にちは同じ日が原則だが、全国同じ時間というのは、わたしの記憶する限り初めてだ。しかも、夜の回からの封切りというのもなかったのではないか。こんなことに興奮するのは映画ファンだけかもしれないが、初めてのことは、後々歴史になるわけだから興奮する。

 
 「スターウォーズ」の初作が日本で公開されたのは1978年7月1日、1977年5月25日に封切られたアメリカでの評判が十分すぎるほど届いていたので、気持ちをワクワクさせながら見に行き、スピード感あふれる画面と、奇妙な登場人物(?)など、おもちゃ箱をひっくり返したような楽しさを満喫した。
 初作の大ヒットの後、全部で9部作の構想とかが発表され、初めの3部作は全体の中では真ん中のエピソード群となり、1999年から公開が始まった初めの話の3部作が終わったのが2005年ですから、10年ぶりに最後の3部作の第1作が公開されることになりました。

 初めの頃のワクワク感を感じさせてくれることを祈りながら、覚醒の時を待ちましょう。

 

 

 

 

Ⅱ シネマライズ


 11/24の朝日新聞夕刊一面には、「銀幕の街 盛衰 渋谷から新宿へ」が掲載された。“ミニシアター衰退 渋谷”と“シネコン3館 新宿”が比較された記事になっている。
 かつて、渋谷はミニシアターのメッカだった。いや、今も渋谷にはミニシアターが多くあり、東京では一番集中しているといえるのではないか。

 それが、最近の新宿のシネコンの混み具合と比較され、30年の営業で幕を閉じる渋谷のシネマライズを取り上げながら、ミニシアターの衰退とシネコンの繁栄が対比されている。
 新宿の3つのシネコンは、新宿バルト9(9スクリーン)、新宿ピカデリー(10スクリーン)、TOHOシネマズ新宿(12スクリーン)と、合わせて31スクリーンになる。

 同じ作品が上映されていることがほとんどだが、各シネコンが特色を出すためにそこでしか上映されていない作品も少し含まれる。確かに、新宿のシネコンは土・日曜日などに行くとかなりの混み具合だ。新宿には他に、新宿武蔵野館、シネマカリテ、テアトル新宿、K’sシネマ、シネマート新宿、角川シネマ新宿があり、シネコンのスクリーン数と合わせれば都内で一番だろう。

 渋谷にはシネコンがない。TOHOシネマズ渋谷が一番スクリーン数が多いが、それでも6スクリーンだ。基本的に単館と呼ばれる独立した映画館ばかりだ。そのためスクリーン数では新宿に及ばないが、上映される作品数では上回っているだろう。

 若い人で映画を見る人が減っているのではないか?若い人が集まる渋谷では映画館が少なくなる。渋谷の映画館が少なくなると、上映される映画作品の種類の幅が狭まってしまう。多様な、バラエティに富んだ映画が上映されなくなるという循環だろうか?シネコンの隆盛は作品の幅を狭めることは以前から言われていた。どんな文化も、同じような作品ばかりになれば衰退するしかない。新しいものが出てこなければ、ジャンルの幅が広がらない。感受性の鋭い若い人たちが作品から刺激を受けなければ、新しいものが出てこない。

 ということで、町としてはなかなか好きになれないが、渋谷の映画館たちよ、頑張ってほしい。

 

 

 


今月はここまで。
次号は今年最後の通信として、12/25クリスマスにお送りします。

                                                       

 


                         - 神谷二三夫 -


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