2019年 新春特別号back

あけましておめでとうございます。
東の空の下の方に雲がかたまって、初日の出は少し遅れましたが、
あがってしまえば雲のない青空が続いた元旦になりました。
昨日までの冷たい風もほぼ静まりおだやかな一日です。
世界が平和で良い年になりますようにと祈ってみたくなりました。

平成時代も4月には終わりを迎えます。この30年間はバブルの末期に始まり、様々な事件、災害が続きました。中でも東日本大震災による福島原発の崩壊は日本のエネルギー政策の大きな転換点になるかと思ったのですが…。
映画的に言えば、映画館の大半がシネコン、つまりシネマコンプレックスに移行した時代でした。街の、地元の映画館がどんどん無くなり、人の集まる場所に複数のスクリーンを持つシネコンが取って代わりました。シネコンの多くは大きな資本によって経営され、ヒットする作品狙いで上映作品が決められる。経済原則が分かりやすい形で見られる映画館とも言えます。大ヒット映画とそうでない映画の線引きがされているような市場形態。しかし、人の嗜好はそんなに簡単に決められるものではない。それが徐々に分かり始めたという気もします。
平成が終わりに近づくころ配信という新しい形態が登場しました。しかも独自作品を自ら製作するNETFLIXが現れて、映画館主義者には厳しい時代が始まっています。

2018/01/01~12/31の1年間に見た映画の本数は534本となりました。そのうち旧作が174本でしたので、新作は360本になります。例年同様、映画祭や特集上映で上映された作品も含みます。その新作から2018年の私的ベスト10を選びました。

 

 

 


 

2018年間ベスト10

 


<日本映画>

 1.寝ても覚めても
 2.カメラを止めるな!
 3.空飛ぶタイヤ
 4.沖縄スパイ戦史
 5.リバーズ・エッジ
 6.万引き家族
 7.モリのいる場所
 8.菊とギロチン
 9.日日是好日
10.孤狼の血

 

 

 

 

映画が娯楽の王様としての地位を誇っていた映画の黄金時代から半世紀以上が経過した。黄金期から多くの映画会社がたちいかなくなっていくまでに20年を要しなかった。原因の最大要素はTVではあるが、娯楽と呼ばれるものの幅がどんどん広がったことが根本にあった。最近では携帯・スマホにまでお客様を奪われている。映像に触れる機会が増え、映画という媒体を通さなくても何らかの映像を見ることはできる状態になったのだ。
映画会社がなくなることによって従来映画会社が育てていた映画人の養成ができなくなった。それに代わるものとして専門学校や大学での映像関係講座が増えていったと思われる。同時に個人がそれほどお金を掛けずに映画を作ることができるようになってきた。デジタル映像の普及は個人で簡単に映画を作れるようにしてくれた。
こうした状況を象徴するのが流行語大賞候補にも選ばれた「カメラを止めるな!」だろう。34歳の上田慎一郎監督は中学時代から自主映画を作っていたという。映画は“映画と演劇の学校”というENBUゼミナールのシネマプロジェクトの1本として製作されたものだ。
ENBUゼミナールで講座を持ち、その卒業制作として学生たちと「親密さ」(2012年)という作品を作ったのが濱口竜介監督だ。彼の初めての商業作品が「寝ても覚めても」である。東大文学部在学中に映画研究会に所属、卒業後映画の助監督やTV番組のアシスタントディレクターとして働いた後、2006年に東京芸術大学大学院映像研究科に入学、その卒業制作で「PASSION」を作っている。
「寝ても覚めても」の素晴らしさはカメラの眼をきめ細かく設定し、登場人物の感情や人間関係など台詞以上に見る者に伝えてくることだ。ここまで画面が力を持って迫ってくることはそれ程はない。製作者が人物たちの思いをいかに伝えるかに心を砕いているかがよく分かる。雰囲気を伝えるための細かいカメラ割が行われているのだ。

 

34歳~58歳になる上記10本の作品の監督たちだが、中では「空飛ぶタイヤ」の本木監督(55歳)だけが珍しくも大学卒業後松竹に入社している。娯楽性と社会性を持った作品を久しぶりに見た気がした。嬉しくなりちょっと順位を上げすぎたかもしれない。かつて社会性を持った映画は多く作られていたが、今の日本映画界には社会性を持った娯楽作品はごく少なくなってしまった。幸福で安心していられる社会は製作者をも鈍感にするのかもしれない。

 

映画が映画館だけではなく、DVDや配信によって見ることができるようになったことが、映画を作る側にも影響しているのは間違いない。何度も見返すことができ、おかしな点はすぐ指摘されてしまう時代、製作者側もミスを犯さないように、丁寧に作ろうとしてしまう。そして長い映画が増えるのだ。半世紀以上前の、1940~50年代の映画を見ると1時間半未満の作品も多くある。省略し、観客の想像力に任せる勇気を多くの製作者が持っていた。


 

 

 

 

 

 

<外国映画>

 1.スリー・ビルボード(アメリカ)
 2.家へ帰ろう(アルゼンチン、スペイン)
 3.ペンタゴン・ペーパーズ 最高機密文書(アメリカ)
 4.犬ヶ島(アメリカ)
 5.タクシー運転手 約束は海を越えて(韓国)
 6.君の名前で僕を呼んで
   (イタリア、フランス、ブラジル、アメリカ)

 7.ラブレス(ロシア)
 8.判決、ふたつの希望(レバノン、フランス)
 9.アイ、トーニャ 史上最大のスキャンダル(アメリカ)
10.レディ・バード(アメリカ)

 

 


#Me Too運動が吹き荒れたのは、1昨年ワインスタイン氏のセクハラ問題が公表されてからだ。それ以来、Me Tooとツイートする人が増えて社会的話題になった。その一つのクライマックスとなったのが、アメリカの第90回アカデミー賞主演女優賞受賞のフランシス・マクドーマンドの舞台挨拶だった。要約すれば、女性主人公の映画が少ないという事だ。あるいは女性監督が少ないという事だ。
それが影響したわけではないが、10本の作品のうち4本の作品で女性が主人公だ、しかもすべてアメリカ映画である。「スリー・ビルボード」「ペンタゴン・ペーパーズ」「アイ、トーニャ」「レディ・バード」いずれの主人公も自分の心に忠実に生きている。そこに彼女たちの強さがある。その中で最も若い主人公が「レディ・バード」、10本の中で唯一の女性監督グレタ・ガーウィグの作品で、彼女の自伝的要素で作られている。

 

監督ではスティーヴン・スピルバーグが2本の作品を見せてくれた。特に「ペンタゴン・ペーパーズ」は彼らしく娯楽性と社会性を兼ね備えた快作、ワクワク感を味あわせてくれた。「レディ・プレイヤー1」では、これまた彼らしく最先端の部分を見せてくれた。
監督ではもう一人、ウェス・アンダーソンが嗜好をあらわにした。「犬ヶ島」は日本を舞台にした近未来の物語、アニメーションとして作られている。その美意識は前作「グランド・ブダペスト・ホテル」と併せ、今の映画界のトップではないか?

 

2019年はどんな映画が見られるだろう。5歳のチコちゃんと高齢者が違うのはワクワク感の違いにあるらしい。新しい出会いを求めて、ワクワクしながら映画を見たいと切望する。
ワクワク映画よ、出ておいで!

今年も良い映画の年になりますように!

 



                         - 神谷二三夫 -


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