2020年 新年特別号back

今年も晴天の元旦を迎えた。
昨年と同様朝方は下の方に雲が集まり初日の出は少し遅れたのだが、令和になって初のお正月を祝うかのようにその後は晴天に恵まれた。

昨年古希を迎え、大台を超えたのだが最近2つのミスをしてしまった。
12月にハノイをグループで訪れた時、機内で「翔んで埼玉」がプログラムにあり何人かが見て、盛り上がっていた。何しろ帰ってきてから集まった時もまだ盛り上がっていたくらいだから、よほど感銘深かったのだろう。話の中で“2年くらい前の作品ですよ”と言ったのだが、今回ベスト10を選ぶ際調べていたら、なんと昨年2月28に見ていたのだった。1年も経っていない作品だったのだ。
もう一つは、前号で次は“1月25日にお送りします”としたのだが、正確にはこの新年特別号の1月1日にしなければならなかったのだ。
人間の記憶は元来あやふやなものがあるうえに、認知症かもという恐怖が増すこの頃、更に常日頃“忘れるために映画を見る”的な気持ちを持ち合わせている身なので、最近は戦々恐々としつつ楽しんでいるという状況なのだ。

最近の新聞でも報道されている通り、2019年の映画の興収は新記録になるのが確実という。しかし、その実体はディズニー1社の好成績によるものらしい。「アラジン」「トイストーリー4」「アナと雪の女王2」「アベンジャーズ エンドゲーム」「スターウォーズ:スカイウォーカーの夜明け」等の大ヒット作を抱え、前年の2倍近い数字をあげそうだという。その増加分がそのまま日本全体の興収分アップとなっているようだ。今や、一時のジブリ作品と同じように観客から絶対的信頼を得ているディズニーの頑張りは称賛に値するが、映画界全体で見ればそうそう喜んでもいられない。映画興行の厳しさはそれほど変わってはいないようだ。それでも、大きな成績を残せたのは良かった。

2019/01/01~12/31の1年間に見た映画の本数は544本となりました。そのうち旧作が187本でしたので、新作は357本になりました。映画祭や特集上映で上映された作品も含んだ新作から2019年の私的ベスト10+1を選びました。

 

 

 


 

2019年間ベスト10

 


<日本映画>

1.i 新聞記者ドキュメント
2.新聞記者
3.愛がなんだ
4.カツベン
5.宮本から君へ
6.よこがお
7.旅のおわり 世界のはじまり
8.ダンスウィズミー
9.火口のふたり
10.つつんで、ひらいて
次 翔んで埼玉

 

 

 

 

日本映画で政治的なものが描かれることが殆どなくなっているとは、毎月の通信でもよく書いていたのだが、それもあって今年の1、2位に選んだ“新聞記者”はその渇きを十分に潤してくれるものだった。「i 新聞記者ドキュメント」は東京新聞の望月衣塑子記者を追ったドキュメンタリーである。ドキュメンタリーは言葉より画面で見せるところに意義があり、特に菅官房長官会見場における官房長官の木で鼻をくくったような回答と、外から聞こえてくる会見担当者の“簡潔に”とか“時間です”と反復する声が、この会見がいかに異様であるかを見せてくれる。ニュース等でも見せられたものだが、こうして集められると、より実感できる。記者クラブというあり方自体が日本的忖度社会に合っていたのかもしれないが、事前に質問を提出して回答を得るとか、時間制限ありとかいろいろ信じられないことが多いのだ。ジャーナリストは人に何かを知らせることに存在意義があり、普通の人が知りえないことを代わって聞き出すことが仕事だろう。それが機能しないようにするなど冗談にもほどがある。
年末に「男はつらいよ50 お帰り寅さん」を見たが、少し寂しい入りだった。寅さん映画のメイン客層が高齢化のために映画館に来なくなっているのが影響したのか?桑田佳祐の初めの主題歌は良かったのかとか、渥美清の偉大さだけが目立つ映画になっていて…など様々な要因があるのだろうが、ホームランバッターがいなくなった感じで寂しかった。
昨年の新年特別号では若い監督が躍進しているとしたが、今回は30歳代が5人、50歳代1人、60歳代3人、70歳代1人となり、結構バランスが取れている。そんな中、「カツベン」「ダンスウィズミー」という映画の愉しさにあふれた作品を作ったのが、周防正行(63歳)と矢口史靖(52歳)というのが嬉しかった。ベテランに差し掛かった人たちも頑張っている。若い人たちは「愛がなんだ」や「宮本から君へ」のような飛び跳ねて、元気な作品を送り出している。次のホームランバッターが上手く育ってほしい。


 

 

 

 

 

 

<外国映画>

1.COLD WAR あの歌、2つの心

  (ポーランド・イギリス・フランス)
2.ROMA/ローマ(メキシコ)
3.グリーンブック(アメリカ)
4.アイリッシュマン(アメリカ)
5.ジョーカー(アメリカ)
6.ニューヨーク公共図書館 エクス・リブリス(アメリカ)
7.記者たち 衝撃と畏怖の真実(アメリカ)
8.セメントの記憶

  (ドイツ、レバノン、シリア、アラブ首長国連邦、カタール)
9.鉄道運転士の花束(セルビア、クロアチア)
10.ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(アメリカ)
次 主戦場(アメリカ)

 

 


白黒画面は色がない分、濃淡で多くを表現しなければならない。基本的には冷たい覚めた印象を残す白黒画面が多い。今年外国映画の1、2位に選んだ映画は共に白黒のモノクロ映画だ。どうも私は冷たい美しさが好きなようだ。特に「COLD WAR あの歌、2つの心」は強いコントラストが二人の愛の激しさを示す。時代を超えて、国を超えてゆるゆると続く。“あの歌”にもしびれた。この2作品、日本題名の前に共にローマ字が付けられている。こちらは特に好きということはない。
次点を加え11本の内7本がアメリカ映画となった。アメリカ映画の幅広さ、人材の豊富さはやはり群を抜いているということか。勿論、作られている映画の多くが来ていない中国、インドという2大巨大国の状況がどんなものか分かってはいないのであるが。
「グリーンブック」「ジョーカー」は共にそれまでコメディ的な映画を作っていた人が監督している。特に「ジョーカー」はアメコミ映画であそこまで深刻な映画にしてしまうのが凄い。ずーと見ていてもバットマンになかなか結び付けられなかったくらいだ。
8位に入れた「セメントの記憶」はベイルートで働くシリア人移民労働者を追ったドキュメンタリーである。その厳しい内容と裏腹というか、沿うというか、その美しさに目を見張る。画面の構図や映画のペースが私の好みに合ったのだろう。

今年の1本目はアニエス・ヴァルダの「ラ・ポワント・クールト」を見てきた。後に「幸福」を作るヴァルダの覚めていて、それでも幸せな描写が心地よかった。
今年も良い映画を見られますように。

 



                         - 神谷二三夫 -


感想はこちらへ 

back                                                                         

copyright