今年、東京の桜開花はかなり早いらしい。
期待する心が弾む、
まるで映画が始まる前の、そう映画館!
1/26~2/25の新型コロナウィルスが広まった31日間に出会った作品は43本、
日本/外国の本数は18/25とかなり拮抗しています。新作/旧作は33/10となりました。
リストにある<キネマ旬報表彰式>の3本、<舞台演劇>の1本の計4本は上記本数に入れていません。
【新作】
プリズン・サークル
his
mellow
東京パラリンピック 愛と栄光の祭典 デジタル修復版
嘘八百 京町ロワイヤル
コンプリシティ 優しい共犯
音楽
Fukushima50(試写会)
愛国者に気をつけろ!鈴木邦男
ヲタクに恋は難しい
グッドバイ 嘘からはじまる人生喜劇
影裏
【旧作】
<脚本家 新藤兼人>
銀座の女
雲がちぎれる時
暁の追跡
真夜中の顔
鉄輪
鬼婆
<キネマ旬報表彰式>
i 新聞記者ドキュメント
火口のふたり
【新作】
9人の翻訳家 囚われたベストセラー
(Les Traducteurs / The Translators)
盗まれたカラヴァッジョ
(Una Storia Senza Nome / The Stolen Caravaggio)
テリー・ギリアムのドン・キホーテ
(The Man Who Killed Don Quixote)、
イーディ,83歳 はじめての山登り
(Edie)
彼らは生きていた
(They Shall Not Grow Old)
ナイブズ・アウト 名探偵と刀の館の秘密
(Knives Out)
母との約束 250通の手紙
(La Promessa dell’Alba / Promise at Dawn)
男と女 人生最良の日々
(Les Plus Belles Annees d’Une Vie
/ The Best Years of A Life)
淪落の人
(淪落人 / Still Human)
バッドボーイズ フォー・ライフ
(Bad Boys For Life)
プロジェクト・グーテンベルク 贋札王
( Project Gutenberg)
私の知らないわたしの素顔
(Celle Que Vous Croyez / Who You Think I Am)
ロニートとエスティ 彼女たちの選択
(Disobedience)
ハスラーズ
(Hustlers)
1917 命をかけた伝令
(1917)
グッドライアー 偽りのゲーム
(The Good Liar)
ザ・ピーナッツバター・ファルコン
(The Peanut Butter Falcon)
ドミノ 復讐の咆哮
(Domino)
グリンゴ 最強の悪運男
(Gringo)
屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ
(Der Goldene Handschuh / The Golden Glove)
スキャンダル
(Bombshell)
<舞台演劇>
リーマン・トリロジー
(National Theatre Live: The Lehman Trilogy)
【旧作】
続・荒野の用心棒
(Django)
フォンターナ広場 イタリアの陰謀
(Romanzo di Una Strage
/ Piazza Fontana, The Italian Conspiracy)
写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと
(In No Great Hurry:
13Lessons in Life with Saul Leiter)
山の焚火
(Hohenfeuer / Alpine Fire)
<キネマ旬報表彰式>
グリーンブック
(Green Book)
(新作だけを対象にしています)
① 1917 命をかけた伝令
全編ワンカット映像が話題になっている。確かに主人公と共に映像が移動し、その場にいる臨場感を見ている我々に感じさせる。カメラはじっとしている訳ではなく動き続けているので、これを成し遂げるのは容易ではない。しかも、映像的にも美しい画面を作り上げている。サム・メンディス監督の祖父の話からインスピレーションを得て作られた作品は、監督の脚本家としてのデビュー作でもあるという。後半にはまるで「地獄の黙示録」的映像まで現れる。話としても無理がなく、アカデミー作品賞でも不思議はない。
② スキャンダル
2016年実際に起こったスキャンダルを描く。FOX TVのCEOが首にされたベテランニュースキャスターからセクハラで訴えられたのだ。ハーヴェイ・ワインスタイン事件の1年前のことだ。この事件を今作らなければ忘れられてしまうという危機感から製作されたという。特殊メイクでアカデミー賞を受賞している。製作もしたシャーリーズ・セロンが快演。
③ 屋根裏の殺人鬼フリッツ・ホンカ
1970年代ドイツに実在した殺人鬼の物語には驚く。そのみじめったらしさが半端ではない。22歳の若手俳優が特殊メイクで演じるフリッツ・ホンカの醜男ぶりも物凄く、見るのが怖いほどというか、笑ってしまうほど。ファティ・アキン監督の快作。何度も流れるアダモの“ひとつぶの涙”がドイツ語で日本人には甘くない。
面白い作品は他にも。ジャンル的にまとまるものはまとめています。(終わったものもあり)。
◆推理もの4作品:ミステリー、探偵ものなど好きな人は多い。しかし、欠点があると十全には楽しめない。△:ちょっと残念 ○:そこそこ ◎:おすすめ
△9人の翻訳家 囚われたベストセラー:期待したのだが、思った方向には行かず残念。
○盗まれたカラヴァッジョ:まだ解決していない盗まれたカラヴァッジョの謎、映画製作に絡ませた脚本が面白く楽しめるが、マフィア関係で分かり難いところも。
◎ナイブズ・アウト 名探偵と刀の館の秘密:ライアン・ジョンソン監督のオリジナル脚本は、名探偵物の復活を狙ったもの。謎解きには?となるところもあるが、事件の在り方、豪華スターの共演など楽しめる要素が多い。
◎グッドライアー 偽りのゲーム:ビル・コンドン監督の映画作りはメリハリがはっきり。ヘレン・ミレンとイアン・マッケランの騙し合い演技が楽しめ、その裏にあった原因も心に残る。
◆今泉力哉監督の2作品:昨年「愛がなんだ」でリアルな愛の在り方を探っていた今泉監督。続けて2作品、しかもどちらもローマ字題名の作品が公開された。両作とも「愛がなんだ」の熱さはなく、むしろこちらの方が今泉監督の本来の作風かと感じた。
○his:田舎に引っ込んだ男の許にかつて愛し合った男が子連れで訪ねてくるLGBT映画。高齢者ばかりが残る田舎は優しく彼らを受け入れる。
○mellow:花が好きで花屋を営む男性と彼の周りの女性達を柔らかく描く。
◎プリズン・サークル:島根あさひ社会復帰促進センターという官民協働の新しい刑務所にカメラを入れたドキュメンタリー。日本の刑罰は閉鎖的で外に開かれず、さらに社会復帰体制が十分でないという印象だが、ここでは回復のためのプログラムが実施され、社会への繋がりが模索されている。
◎彼らは生きている:「ロード・オブ・ザ・リング」のピーター・ジャクソン監督が第一次世界大戦に出征したイギリス兵たちの記録映像と声を集め、4年の歳月をかけて現在に蘇らせる。画像に色を付け、フィルムの速さを調整し、画に合う言葉を探し出した快作。
◎嘘八百 京町ロワイヤル:関西を舞台に活躍する骨董コンビの嘘八百シリーズ第2弾は結構快調だ。足立紳と今井雅子の共同脚本を武正晴監督が楽しそうに作り上げている。
◎コンプリシティ 優しい共犯:技能実習生という外国人に決して優しくない日本の制度の裏で苦しむ彼らの実態を描く近浦啓の監督・脚本・編集・製作の長編デビュー作品。
◎男と女 人生最良の日々:53年前に「男と女」が現れた時は、流麗なカメラワークとフランシス・レイの音楽にショックを受けた。それから多くのクロード・ルルーシュ作品を見てきたからこそ、後日談たるこの新作は非常に心配だったのだが一安心した。
◎Fukushima50:東日本大震災から9年が経とうとしている。あの時福島原発で何が起き、どう処理されていたのかを時系列的に細かく描いた作品。事故後も現地にとどまり被害拡大阻止に努めた50名を海外メディアはFukushima50と呼んだ。よくできているが、あれからの長い年月の後、その後の視点がほぼなく、事実として提出するだけで良かったのか?
◎淪落の人:突然の事故で半身不随になった男の許に、何人目かの家政婦がやってくる。フィリピンでの看護師を辞めやってきた彼女は、自分の問題も夢もある。言葉も違い、意思疎通さえ難しかった二人が互いに理解していく心温まる物語。香港の女性監督オリヴァー・チャンの長編デビュー作。
◎愛国者に気を付けろ!鈴木邦男:右翼として語られる鈴木邦男は従来の右翼イメージと違い、幅広い人たちと付き合い、クニオガールズまでいて、しかし肝心なところは曲げない。感心したのは住まい、まるで学生アパートみたいに質素、贅沢は求めない。
◎プロジェクト・グーテンベルク 贋札王:久しぶりのチョウ・ユンファが演じる画家は偽札づくりの天才。だまし合い、最後まで目が離せない。監督・脚本はフェリックス・チョン、「インファナル・アフェア」の脚本を書いた人で、流石の面白さだ。
◎ドミノ 復讐の咆哮:ブライアン・デ・パルマ監督の8年ぶりの新作は、前作に続きヨーロッパ資本で作られ、映画の舞台もデンマーク、スペインとなっている。ISIS、反ISIS、デンマーク警察にCIAが絡む複雑構造も上手くさばかれて分かりやすい。
◎グリンゴ 最強の悪運男:グリンゴはアメリカ人を小バカにしたスペイン語のスラング。アメリカの製薬会社のメキシコ工場を舞台に、管理部長、友人の社長とその愛人で共同経営者の女、社長の兄、メキシコ麻薬組織のボス、さらにアメリカの麻薬捜査官も絡んでなかなかの見もの。性悪な愛人を演じるシャーリーズ・セロンはこれも快演。
<日本映画>脚本家 新藤兼人
2012年に100歳で亡くなった監督新藤兼人は、98歳で遺作になった「一枚のハガキ」を監督するなど、多くの監督作品を残しているが、それ以上に370本とも言われる脚本作品を残されている。元々は脚本家としてデビューし、幅広い題材を手掛けた。特に人間関係の濃さ、情念の深さなど人間の業を巡る物語を得意としていた。日本映画界に多くのものを残してくれた新藤兼人、その脚本を使用した映画の特集が渋谷シネマヴェーラで2月8日~3月6日の日程で行われている。
今月見た6本の中で印象に残ったのは次の2本だ。
銀座の女:監督は吉村公三郎、主演轟夕起子の明るさが全編に明るい力を与えている。
鬼婆:新藤自身が監督、戦国時代、息子を失った姑と嫁の生き抜く力、鬼への変身を描く。
☆モニカ・ベルッチ
「男の女 人生最良の日々」でジャン=ルイ(・トランティニアン)の娘を演じたのは、「マレーナ」や2015年には「007スペクター」で最年長のボンドガールとして活躍していたモニカ・ベルッチ。長らくヨーロッパ一の美女として活躍した彼女も55歳、特に今回の役はおばさんぽいところもあり、松坂慶子のような女優になるかもなどと思わせる。
☆アンソニー・ウォン
「淪落の人」で車椅子の主人公を演じていたのは「インファナル・アフェア」の警視役など香港映画界で長らく、多くの作品で活躍してきたアンソニー・ウォン。2014年、映画の撮影で滞在していた上海で香港民主化を求める雨傘運動への支持を表明し、それが中国のSNSに転載され避難の嵐、炎上してしまう。その日を境に中国、香港の映画界から締め出しを受けているという。5年程“干されて”しまったのだ。道理でしばらく見なかったはずだ。香港名は黄秋生、知り合いのファンはアキオさんと呼んでいる。
昨年再び香港のデモへの弾圧が行われた時、ずっと干されていた彼はそれでも当局批判を続けたという。曲げない人なんですねえ。えらい!「淪落の人」は新人監督のデビュー作。予算もなく、大スターアンソニー・ウォンのギャラが払えるはずがない。彼は新人を育てたいため無料で出演したという。アキオさん、本当にえらい!!
本来であればここに登場する人ではないのだが。
2/24 「山の焚火」ユーロスペース 深田晃司(映画監督)X横浜聡子(映画監督)対談
スイスの監督フレディ・M・ムーラーの「山の焚火」がデジタルリマスター版で35年ぶりに再上映されるのに合わせて対談が行われた。期待される若手監督二人のトークショーだ。
映画作りに関する話をいろいろしていたが、なかなか「山の焚火」に結びつかない。徹底した日常描写とか、上下の動きで距離感を出すとかの指摘もあったのだが。耳が聞こえず意思疎通に難がある弟の存在とか、社会のない家族4人だけの生活とかについても聞きたかった。
●構想30年、企画頓挫9回の作品がついに完成、公開されたのが「テリー・ギリアムのドン・キホーテ」だ。ま、思いの強さはよく分かるのだが、思い込みの強さがとんでもないところに連れて行く場合もあるようで。
●1年半ほど前に日帰り低山の山歩きを始めた私にとって見ると、「イーディ83歳、はじめての山歩き」は興味のある題材だ。元々イギリスには高い山はないと知っていたが、今回イーディが登った山はどこなのか?映画の公式サイトによれば、スコットランドのスイルベン(Suilven)山で731mの高さとなっている。映画でも遠景が出てくるが、フタコブラクダの様に2つの頂上がある。高い方は847mだが、この山の特徴である丸っこい山は731mで、多分こちらの方にイーディは登ったのだろう。甘さのない、しかし嘘もない映画でイーディの生き方を見せてくれる。オススメに入れた方が良かったかな。
●第一次世界大戦を蘇らせる映画2本に出会った今月、1本目は「彼らは生きている」だった。「ロード・オブ・ザ・リング」のピーター・ジャクソン監督が作り上げた最大のものはやはりコマ数を合わせたことだろう。1917年頃1秒に13~4コマが普通であった映像を現在の1秒24コマにしたのである。更にカラーにし、まるで今生きているように変えたのだ。塹壕での戦いがどんどん大変になっていく様子が実感できる。2本目は「1917」。
●香港にはフィリピンからの出稼ぎ家政婦が普通の風景としてあるということを「淪落の人」は教えてくれる。仲間同士の集まりが彼女たちの娯楽だったし、そこで学ぶことも多かった。主人公についた家政婦が夢に向かって出発するラストも感動的だ。
●もっと面白くなっても不思議ではないと感じたのは「ヲタクに恋は難しい」だ。どうも中途半端な笑いで心から笑えない。韓国映画くらいに脚本の書き込みに努めてほしい。
●アカデミー賞授賞式を見ていたらシャイア・ラブーフとダウン症の俳優ザック・ゴッツァーゲンが一緒にプレゼンターとして出てきた。ふたりは「ザ・ピーナッツバター・ファルコン」で共演している。大きな舞台であがってしまったのか、ザックは言葉を発するのに時間がかかっていて、ラブーフにフォローされていた。
現地時間2月9日にハリウッドのドルビーシアターで行われた第92回アカデミー賞授賞式。昨年に続き司会者なしの授賞式だった。芸達者の多いアメリカ芸能界、今までにも日本には知られていない人を含め何人かが司会者になってきたが、かつてのビリー・クリスタル(14回司会をした)のようにピタッと来る人がいない。司会者なしはちょっと残念。
①予想→結果はいかに?
作品賞、監督賞、主演男・女優賞、助演男・女優賞の結果は次のようになった。
◎太字になっているのが先月予想したもの。
作品賞:パラサイト 半地下の家族
監督賞:ポン・ジュノ (パラサイト 半地下の家族)
主演男優賞:◎ホアキン・フェニックス (ジョーカー)
主演女優賞:レネー・ゼルウィガー (ジュディ 虹の彼方に)
助演男優賞:ブラッド・ピット (ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド)
助演女優賞:◎ローラ・ダーン (マリッジ・ストーリー)
ということで、6部門中2部門のみ予想が的中という結果で、33.3%の的中率でした。
②最多受賞映画は?
ノミネーション数が10以上あった4作品の結果は次の通り。
ジョーカー:11ノミネーション → 2部門受賞
アイリッシュマン:10ノミネーション → 受賞無し
1917 命をかけた伝令:10ノミネーション → 3部門受賞
ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド:10ノミネーション → 2部門受賞
今年は娯楽性と芸術性を兼ね備えた作品が多く、上記4作品が10以上のノミネーションを受けていたのだが、主要な部門は殆ど獲得できなかった。主要部門を獲得したのは「パラサイト 半地下の家族」だった。複数受賞をした作品は多い順に次の通り。
4部門受賞:パラサイト 半地下の家族(作品賞、監督賞、脚本賞、国際長編映画賞)
3部門受賞:1917 命をかけた伝令(撮影賞、視覚効果賞、録音賞)
2部門受賞:ジョーカー(主演男優賞、作曲賞)
2部門受賞:ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド(助演男優賞、美術賞)
2部門受賞:フォードvsフェラーリ(編集賞、音響編集賞)
③多様性?
ノミネーション発表後、“白人ばっかり”と批判された今年のアカデミー賞。男女優、監督のノミネートを受けた24人の割合が白人23人、黒人1人となったことで話題になったのだ。それ以外に技術部門を含め女性が少ないとか、白人男性に偏り過ぎているというのが数年来批判されてきた。それもあってか、多様性ということで(もちろん作品に力があったのですが)、最近は監督、作品で受賞するメキシコ人が続いてきた。
今年だれもが驚いたのが「パラサイト 半地下の家族」の快進撃だ。作品、監督、脚本と映画作品的に重要な部門を独占したのだ。ポン・ジュノ監督自身が国際長編映画賞(昨年までの外国語映画賞から名称変更された)を受賞した時、これで今日の仕事は終わったと発言していたが、その後で監督、作品を受賞したのだ。勿論素晴らしい作品だったので当然と言えば当然だが、多様性の観点から黒人に代わって韓国作品かとも感じたのだった。
④Netflix?
3作品(アイリッシュマン、マリッジ・ストーリー、2人のローマ教皇)で19ノミネーションを受けていたNetflix作品は、助演女優賞(マリッジ・ストーリーのローラ・ダーン)のみに終わった。
アメリカでも映画館主からは批判が出ているようで、アカデミー賞に投票できるのは映画産業に従事するアカデミー会員のみというところからの結果かなと想像する。今後どういう方向になるのか注目していきたい。
⑤日本人?
2年前の第90回アカデミー賞で、「ウィンストン・チャーチル ヒトラーから世界を救った男」の特殊メイクでメイクアップ賞を受賞した辻一弘さんが、今年のアカデミー賞でも同じ賞を「スキャンダル」で受賞した。ただし、受賞者はカズ・ヒロさんで辻一弘さんではない。前会受賞の1年後、2018年3月にアメリカ国籍になったのだ。
受賞後のインタビューで語っていたが、“日本人は、日本人ということにこだわりすぎて、個人のアイデンティティが確立していないと思うんですよ。だからなかなか進歩しない。そこから抜け出せない。一番大事なのは、個人としてどんな存在なのか、何をやっているかということ。それもあって日本国籍を捨てるのがいいかなと思ったんですよね”という事らしい。前の受賞の時、日本を代表してとか、日本人として初とかの言葉があまり心地良くなかったという。
アカデミー賞より1回多い第93回キネマ旬報ベスト・テン第一位映画鑑賞会と表彰式が2月11日に行われた。
名前にある通り、各部門の第一位映画を上映するのだが、今年は違った。第一位は次の通り。
日本映画:火口のふたり、 外国映画:ジョーカー、 文化映画:i 新聞記者ドキュメント
この内、外国映画では「ジョーカー」が上映されず、「グリーンブック」が上映されたのだ。再見した「グリーンブック」は改めて良い映画と認識したのだが、何故「ジョーカー」は上映されなかったのかは説明されなかった。謎である。真実が明かされるのは何年後か?
「火口のふたり」の荒井晴彦監督は「こんなエロ映画がキネ旬の一位でいいんですかね?」と言いながら、長い脚本家生活で1981年「遠雷」は2位、84年「Wの悲劇」で2位、02年「KT」で3位、03年「ヴァイブレーター」で3位などと立て板に水の如く挙げ、やっと1位と申し訳なくもうれしそうでした。
「i 新聞記者ドキュメント」は森達也監督が登場、しかし客席の1列目には望月衣塑子記者が、いつもの大きなバッグ持参で陣取っていた。式後のメディア向け撮影タイムには彼女もスマホで撮影していた。
サム・メンディスの舞台での最新作を見に映画館に行った。「リーマン・トリロジー」だ。リーマンショックで有名になったリーマンブラザースについての物語。1844年ドイツ・バイエルンのリンパーという町からアメリカにやってきたヘンリー・リーマン、追ってやってきた弟のエマニュエルとメイヤーのリーマン兄弟の物語を2008年のリーマンショックまで3世代にわたって描いている。3人の男優が出ずっぱりで女性・子供を含め総てを演じ、ガラスで囲まれた回転する四角の中で演じられるという斬新な舞台は流石である。
こうした舞台昨品がかなり上映されるようになってきた。今回の英国ナショナルシアターとかの演劇、メトロポリタンオペラとか、ロシアバレエとか、ブロードウェーミュージカルとか、日本の歌舞伎とか様々なものが展開されている。多分いずれも3000円だ。
今回ビックリしたのは、三部構成の2回の休憩時間も客席が写されていて舞台通りになっていたこと。
今話題の「パラサイト 半地下の家族」は12月27日~1月9日の2週間、TOHOシネマズ日比谷で特別上映された。本当の封切りは1月10日だった。先行特別上映は封切り日の前の週の週末などに時々行われてきた。その時特別料金だったかは思い出せないが、今回の2週間にも渡る特別上映では特別料金となっていた。一律に1900円というのである。つまり、一般料金と同じだが、シニアも1900円というものだ。
今月見た「写真家ソール・ライター 急がない人生で見つけた13のこと」は渋谷の文化村ミュージアムで行われている「ニューヨークが生んだ伝説の写真家 永遠のソール・ライター」展に合わせ、文化村ル・シネマにて再上映されているものだ。ここも特別料金で1300円均一(展覧会の半券があれば1100円)となっていた。シニアにとっては値上げだ。
なんだか、特別料金という名前でシニアは無視されている(ひがみ?)。今やメインの客層だろうのに。これを虐待と言わずして何という?!
今月はここまで。
次号は桜が満開だろうかの3月25日にお送りします。