いつものように梅雨の季節になり鬱陶しい上に、
収まらないコロナウイルスの脅威もあり、
なかなか平常心に戻れない日々。
そんな時落ち着くのは一人でいる映画館!
5/26~6/25の日本の全映画館がオープンとなった31日間に出会った作品は33本。
多くの作品の公開が延期され、特に大作群は封切り時期を見極めるため、
半年、1年と延期になったものもあり作品があるのかと心配していた。
心配は的中したが、思ったより充実した作品群に出会えた。
5本(新3本+旧2本)
【新作】
島にて
タゴール・ソングス
精神0
【旧作】
<源氏鶏太と大衆小説の愉しみ>
人間模様
珍品堂主人
28本(新17本+旧11本)
【新作】
暗数殺人
( Dark Figure of Crime)
サーホー
(Sahoo)
21世紀の資本
(Capital in The Twenty-First Century)
最高の花婿 アンコール
(Qu’est-Ce Qu’on A Encore Fait Au Bon Dieu? / Serial(Bad) Weddings 2)
ハリエット
(Harriet)
ポップスター
(Vox Lux)
お名前はアドルフ?
(Der Vorname / How About Adolf?)
ルース・エドガー
(Luce)
罪と女王
(Dronningen / Queen of Heart)
その手に触れるまで
(Le Jeune Ahmed / Young Ahmed)
ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語
(Little Women)
コリーニ事件
(Der Fall Collini / The Collini Case)
15年後のラブソング
(Juliet, Naked)
ペイン・アンド・グローリー
(Dolor y Gloria / Pain And Glory)
ドクター・ドリトル
(Dolittle)
エジソンズ・ゲーム
(The Current War: Director’s Cut)
凱里ブルース
(路邊野餐 / Kaili Blues)
【旧作】
<ヒッチコック監督特集Ⅱ>
ヒッチコックのゆすり
(Blackmail)
汚名
(Notorious)
パラダイン夫人の恋
(The Paradine Case)
リッチ・アンド・ストレンジ
(Rich and Strange)
快楽の園
(The Pleasure Garden)
殺人!
(Murder!)
山羊座のもとに
(Under Capricorn)
断崖
(Suspicion)
舞台恐怖症
(Stage Fright)
第17番
(Number Seventeen)
白い恐怖
(Spellbound)
(新作だけを対象にしています)
①-1 コリーニ事件
ドイツの弁護士・作家フェルディナント・フォン・シーラッハが書いた同名の小説からの映画化。第ニ次大戦中の1944年、イタリア・トスカーナ地方のモンテプルチアーノで起こった事件が、半世紀以上経ったドイツでの殺人事件に結びつく。ナチスの犯罪、他民族に対する偏見、隠された法律の改定など、多くの問題を露にしながら正義を目指す。
①-2 ペイン・アンド・グローリー
スペインのペドロ・アルモドバル監督は1951年生まれの68歳、40年になる自らの監督生活を題材に子供~大人~現在までを振り返る。静かな、落ち着いた画面はアルモドバルの成熟か、美しいという印象が残る。アントニオ・バンデラス、ペネロペ・クルスという常連スターを揃え、見やすくも心に沁みる作品。
②-1 ストーリー・オブ・マイ・ライフ わたしの若草物語
監督グレタ・ガーウィグ、主演シアーシャ・ローナンといえば「レディバード」でもコンビを組んだ。オルコットの「若草物語」の新作は現代に通じるヴィヴィッドな映画となった。36歳の監督、26歳の主演者、若い女性二人が古臭いイメージを吹き飛ばしている。
②-2 ハリエット
ミンティと呼ばれた奴隷の主人公は農場主の借金返済のため売りに出され逃亡を決意する。1849年から始まる物語は、メリーランド州からペンシルバニア州のフィラデルフィアを目指す。ハリエット・タブマンと改名した彼女は家族や仲間を助けるために元の農場に何度も戻るのだ。その後奴隷解放運動家として活躍、南北戦争時には黒人兵士を率いて戦う英雄になり、2020年に発行される新しい20ドル紙幣にアフリカ系アメリカ人として初めてデザインされることが決まっている。
③-1 島にて
山形県沖、日本海に浮かぶ飛島は1日1本の定期フェリーが酒田からやってくる。かつて1800人が暮らしたが今は140人、日本のどこにでもある過疎の島だ。最後の中学生の一人だけの卒業式、島を出る時帰ってくるなよと送り出されたのに帰ってきた若者たち、老いた夫婦二人で続ける漁師、日本全国から移り住んできた若い人たち等々を総花的に見せてくれるドキュメンタリーは、それ故にまるで日本の未来を写しているようでもある。この素材で、こんなに元気をくれる稀有な作品だ。
③-2 その手に触れるまで
13歳のアメッドはベルギーに暮らすムスリムの少年だ。1カ月前まではゲームに夢中だった彼が、急に厳格なイスラム教徒となり女性教師にさえ挨拶をしなくなる。そして背教者を排除しようと…。最後まで無駄な寄り道をせず、問題を見つめて真直ぐに進んだのはジャン=ピエールとリュックのダルデンヌ兄弟。流石の出来。
心躍る作品は他にも、映画館でお楽しみください。(上映が終了しているものもあります。)
◎暗数殺人:暗数とは実際の数値と統計結果との誤差で、主に犯罪数値で警察など公的機関が発表する犯罪件数と実際に起きている件数との差を表すらしい。犯罪者が告白する数々の殺人を追う刑事はなかなか真実にたどり着けず、犯罪者との知恵比べが続く。実際の連続殺人事件に想を得て作られたという。
◎タゴール・ソングス:インドの詩人タゴールについてのドキュメンタリーは、彼が2000曲にも及ぶ歌も作曲していたことを教えてくれる。正確にはベンガル人(バングラデッシュ及びインド西ベンガル州)で、映画関係ではサタジット・ライ監督がベンガル人だった。インド的旋律だけではなく、様々な曲想のタゴール・ソングスを聞かせる映画は日本の若い女性、佐々木美佳さんによって作られた。
◎21世紀の資本:同名の本を書いたトマ・ピケティが案内役になって内容を映像化。フランス革命以来現在までの様々な出来事を解説、格差社会が復活している21世紀を照射する。ピケティ以外に有名経済学者等も登場、分かりやすく現在の資本主義を見せてくれる。
◎精神0:想田和弘監督の10年前の作品「精神」は山本医師のもとにやってくる様々な患者を描いていたが、82歳となった山本医師と奥さんを描いたこの作品は老夫婦の物語。何とも暖かいドキュメンタリーだ。
◎お名前はアドルフ?:フランス発の舞台劇の映画化だという。確かに会話が絶え間なく飛び交うのは舞台劇の作劇だ。ヒトラーの名前を巡る劇がフランスで作られたというのも不思議だが、今回は正しく(?)ドイツで映画化された。アドルフという名前に対する笑劇はドイツで作られてこそ衝撃となる。いやいや、笑いも深い!
◎ルース・エドガー:文武両道に秀でた17歳の高校生ルース・エドガーは、幼い頃戦火のアフリカの国を逃れ、養子としてアメリカにやってきた。完璧な高校生はやがて女教師と対立することに。完璧の裏に隠されたものは何か?いやいや、元から完璧なんてものはない?
◎15年後のラブソング:イギリスの作家ニック・ホーンビィの小説の映画化。主人公は15年も同棲している女性、相手はここ何年か20年前に表舞台から消えたロックシンガーに入れ込んでいる男。そこに絡むのはそのロックシンガーという面白いアイディア。楽しめます。
<日本映画>
神保町シアターで<源氏鶏太と大衆小説の愉しみ>の残りの部分を7/03まで上映中。
今回見た2本はもしよろしければという出来だった。あと1本見たいものが残っている。
<外国映画>
渋谷シネマヴェーラでGWに予定されていた<ヒッチコック監督特集Ⅱ>が只今上映中。
7/03まで続いていて、これから見ようと計画している作品も残っている。落穂ひろいのように見ていない作品を中心に11作品を見た。「汚名」「断崖」は再見、流石の出来。それ以外では次の4作が楽しめた。
ヒッチコックのゆすり:1929年のヒッチ初のトーキー作。映像に力があってスッキリ感。
殺人!:1930年作。オープニングの殺人、ソフトな探偵役が謎を追うヒッチらしい作品。
白い恐怖:1945年作。ヤク中の話ではなかった。記憶喪失。人間の記憶は不思議、複雑。
舞台恐怖症:1950年作。ディートリッヒの大胆さ、ジェーン・ワイマンの奇妙な可愛さ。
今回イングリッド・バーグマンのヒッチコック作品出演全3作(白い恐怖、汚名、山羊座のもとに)を見た。美人好きなヒッチコックの主演女優の中でも正統派美人では断トツか?しかしヒッチコックの好きな美人いじめにはちょっと頑丈過ぎる感もあり、存在感のある立派な女性を演じているが、「山羊座のもとに」だけはかなりいじめられる。
6月から始まった東京の映画館、見るこちらは嬉しかったが、作り手の方がもっと嬉しかったようで、初日に見にいった2本で思いもよらず挨拶をされた。
6月1日 ポレポレ東中野 「タゴール・ソングス」 佐々木美佳監督
終映後、突然Zoomでの監督挨拶が行われた。別の場所にいる佐々木監督は“コロナの状況下お越しいただいてありがとうございます。何とかお礼を申し上げたくてZoomでご挨拶をさせていただきます”と話された。
6月6日 イメージフォーラム 「精神0」 想田和弘監督 柏木規与子製作
5月2日に封切り予定だった「精神0」は、監督と配給会社東風が話し合い「仮設の映画館」というオンラインでの上映を決め5月2日から配信をしていた。映画館がオープンし封切りとなった6月6日、終映後突然、想田-柏木夫婦が挨拶に来られた。
“やっと皆さんに見ていただくことができるようになりました。”ここで想田監督は涙目になっていた。“仮設の映画館で3500名様ほどの方に見ていただきました。しかし映画館で見て頂けて、こんなうれしいことはありません。”と話され、質問に答えて“ニューヨークに住んで27年、拠点はアメリカですが観察映画は日本で作ることが多く、今回も岡山県で撮影しました。思いもよらず夫婦の映画になりました。”とのことでした。
●舞台でミュージカル化された「カラー・パープル」でブロードウェイデビューし、トニー賞を獲得したというイギリス出身のシンシア・エリヴォは、主演した「ハリエット」でも歌を聴かせる。しかもストーリーに結びついた重要な歌を。
●ダンス振付は彼女の夫バンジャマン・ミルピエ(前パリオペラ座バレエ団芸術監督)だという「ポップスター」のナタリー・ポートマン、製作総指揮に共演のジュード・ロウ共々名を連ねている。それにしてもこの作品についてのWikipediaをみると、製作者に9名、製作総指揮者に6名の名前が挙がっている。ちょっと多いよね。ナタリーは頑張っているが、この映画自体がどうも古臭く感じたのは私だけでしょうか?スターの在り方とかが古いと思う。何年か前のイメージ。
●ドイツ映画にフランコ・ネロが出てくるとは思わなかった。青い瞳の渋い風貌でファブリッツィオ・コリーニを演じる「コリーニ事件」。口数少ない人物とはいえドイツ語を話すのは大変だったろうが、彼だからこそ人物に真実味を与えられたのだろう。
新型コロナウイルスの感染は簡単には止まりそうにない。これからも辛抱強く戦っていくことが重要だ。日常生活にウイルス対策をうまく取り入れ、新しい日常としていく必要がありそうだ。
①映画館の状況
5月25日緊急事態解除宣言が発令され、最後まで残っていた7都道県も緊急事態が解除された。それに伴い映画館も東京都以外は5月27日~にはオープンしていった。東京都だけはStep2になって初めて映画館の営業が認められるとされ、Step2となった6月1日から上映を開始した。
感染予防には3密が重要と言われている。小屋の中で見るというイメージから映画館は3密の場所と思われがちだ。それもあってStep1ではなくStep2とされていた。しかし、実際に映画館に出かけてみれば、次のことが分かる。
密閉:映画館は密閉されているように見えるが、それ故に換気が義務付けられているので密閉とは言えない。換気の基準も細かく決められ常時換気されている。
密集:現在の映画館では座席の間隔を取るため前後左右に1席ずつ空けていることが殆どのため、たとえ満席になっても密集とはならない。6月以降に出かけた映画館で満席になっていることはなかった。それだけ映画館に来る人が減っている。
密接:映画館で話し込んでいる人はほとんどいない。勿論複数の知り合いと来ている人たちは別だ。あるいは久しぶりに映画マニア同士が出会い話し合うことがあるかもしれないが、それはロビーでのことであり、しかも例外的なことである。
ということで、Step1でOKとなった美術館等より感染の危険性は低いのではないかと思われる。
どの映画館においても従業員はマスクをし、館内は消毒され、来館者にはマスク着用をお願いし、体調の悪い場合は来館を控えるように案内し、映画館によっては体温測定をして37.5度以上の方には入館をお断りしている。
営業ができるようになった映画館ではあるが、映画館にとって定員が半分になっていることは、どんなに映画がヒットしても従来の半分の収入しかないことになる。このままでは映画館の存続自体が危なくなる。
②新作映画の状況
先週末(6/20-21)の全国興行収入ベスト10には次の作品が入っていた。
「天気の子」「AKIRA」
全国の映画館がオープンした後の最初の週末(6/06-07)にはこの2作品以外に次の作品も入っていた。つまりベスト10の半分がこれらの作品だった。
「アベンジャーズ」「アベンジャーズ エイジ・オブ・ウルトロン」「シビル・ウォー キャプテン・アメリカ」
これら5作品は封切りではなく、公開済みの作品だ。「AKIRA」だけはIMAX上映という違いはあるものの。オープンしてから3週間経っても新作の封切り数が多くなかったためにこうした結果となったのだ。
寅さんシリースの複数作品や、初公開から50周年とかで「ひまわり」が公開されたり、最近でもスタジオジブリの4作品がシネコンにかけられたりしている。新作が空けた穴を埋めているように見える。
毎週金曜日の夕刊には封切り映画の広告が掲載される。4月3日以来途絶えていた広告が載り始めたのが6月5日、4月3日に載っていた「ポップスター」等が再び掲載された。
金曜夕刊には新作評も掲載されるが、2か月の間DVD作品、配信作品等が評価されていたが、以前のように完全に新作評に戻ったのは6月12日の夕刊から。徐々に元の日常に戻りつつあるという印象だった。 (朝日新聞による)
③コロナの先へ
外出自粛要請の約2か月の間、自宅でDVD、TV放映、配信等の形で映画を楽しんだという話を多くの人から聞いた。配信大手Netflixの業績は大きく伸びたらしい。
いつもはTVやDVDを見ない私もTV放映でのクリント・イーストウッド監督作品2本とゴッドファーザーシリーズ3本を久しぶりに見た。画面が暗い。これが印象深く残った。特にイーストウッド作品は「ダーティ・ハリー4」にしても暗くてよく見えない画面が目立った。作家的な画面作成かとも思えるが、スクリーン上であればここまで暗くはないのではないか。テレビ機器自体の問題なのかもしれないが、画面の小ささは致命的だ。
これも大きなサイズのテレビで解決するだろうか?
いずれにしても今回の外出自粛で家での映画に慣れ親しんだ人たちが、映画館に戻ってくるだろうか?分からない。どんな形であれ映画を楽しんでもらえるなら、それもいいとも思う。どんなものであれ、その人流で楽しんでもらえることが一番いい。
私は映画館で観たいだけだ。
6月15日、米映画芸術アカデミーは2021年2月28日に開く予定だった第93回アカデミー賞授賞式を、4月25日に延期すると発表したと新聞が報じていた。さらに、通常前年度中(1月1日~12月31日)にロサンゼルス地区で公開された映画が選定の対象になるが、第93回は2020年1月1日~2021年2月28日に公開された作品が対象になるとのこと。
多くの作品の公開が延期されたり、あるいは新しく製作中の作品も製作遅延が想定されるので、対象期間を延長し、早めに発表したようだ。
ミニシアターを救え!運動については前々号、前号でお伝えした。ミニシアター関連でマスコミ等でもよく取り上げられたアップリンク、その代表浅井隆氏が5名の元従業員からパワーハラスメントを受けたとして、会社と共に訴えられている。
アップリンクは1987年に浅井氏によって設立された映画会社。映画の製作、輸入、配給、映画館経営、ソフトの販売などを行っている。現在、渋谷、吉祥寺、京都で映画館を経営している。浅井隆氏は寺山修司が主催していた演劇実験室天井桟敷で10年程舞台監督をした後、1987年に独立してアップリンクを立ち上げた。
訴えた側は記者会見で“浅井氏は仕事のミスや自分の気に入らないことがあると、日常的に従業員に怒鳴ったり暴言を吐いたりした”と述べた。760万円の損害賠償を求めて浅井氏及び会社を相手取り訴訟を起こした。
これに対し浅井氏は謝罪の声明をアップリンクのサイトに掲載した。興味のある方は次のサイトをご参照ください。
https://uplink.co.jp/
お知らせに「元従業員からの訴訟について」「謝罪と今後の対応について」として掲載されています。
それに対して原告側も記者会見して反論していてまだ解決には至っていない。
映画に限ったことではないが、徐々に以前の日常を取り戻しつつあるとはいえ、完全に元に戻ることは難しいかもしれない。それを受け入れていかなければ!
今月はここまで。
次号は暑い日が続いているだろう7月25日にお送りします。