2021年 9月号back

 

8月ももうすぐ終わり、
1年の2/3が過ぎようとしている。
えっ!と感じるか、まだ?と感じるか、
いずれにしろ、心を落ち着けるには、
そう、映画館!

 

 

 

今月の映画

 

7/26~8/25のオリンピック/パラリンピックを含む31日間に出会った作品は41本。
邦/洋画は14/27とほぼいつも通りだが、新/旧作は40/1と旧作が極端に少ない。
理由は2つ、一つは旧作を追うのに少し疲れてしまったこと、
もう一つは新作がどんどん出てくるようになったことだ。



<日本映画>

   14本(新13本+旧1本)

【新作】
パンケーキを毒見する 
キネマの神様 
映画 太陽の子 
オキナワ サントス 
サマーフィルムにのって 
子供はわかってあげない 
全員切腹 
カウラは忘れない 
a hope of Nagasaki 優しい人たち 
ドライブ・マイ・カー 
孤狼の血 LEVEL2 
映画大好きポンポさん
シュシュシュの娘

 

 

【旧作】
新幹線大爆破

 

 

<外国映画>

   27本(新27本+旧0本)

【新作】
夕霧花園
  (夕霧花園 / The Garden of Evening Mists) 
ジャッリカットウ 牛の怒り
  ( Jallikattu)
ジャングル・クルーズ
  (Jungle Cruise) 
イン・ザ・ハイツ
  (In The Heights) 
返校 言葉が消えた日
  (返校 / Detention) 
ココ・シャネル 時代と闘った女
  (Les Guerres de Coco Chanel) 
名もなき歌
  (Cancion sin Nombre / Song without A Name)  
アウシュヴィッツ・レポート
  (Sprava / The Auschwitz Report) 
日常対話
  (日常對話 / Small Talk) 
8時15分ヒロシマ 父から娘へ
  (8:15)
最後にして最初の人類
  (Last and First Man) 
親愛なる君へ
  (親愛的房客 / Dear Tenant) 
ワイルドスピード ジェットブレイク
  (Fast & Furious 9) 
明日に向かって笑え!
  (La Odesea de Los Giles / Heroic Losers) 
すべてが変わった日
  (Let Him Go) 
サムジンカンパニー 1995
  ( Samjin Company English Class) 
モロッコ,彼女たちの朝
  (Adam) 
フリーガイ
  (Free Guy)
ザ・スーサイド・スクワッド “極”悪人集結
  (The Suicide Squad) 
ジュゼップ戦場の画家
  (Josep) 
ドント・ブリーズ2
  (Don’t Breaths 2) 
Summer of 85
  (Ete 85 / Summer of 85) 
スザンヌ,16歳
  (16 Printemps / Spring Blossom)
リル・バック ストリートから世界へ
  (Lil’ Buck Real Swan)

 

 

【試写】
ミス・マルクス
  (Miss Marx)(9/4封切り)
ブライズ・スピリット 夫をシェアしたくはありません!
  (Blithe Spirit)(9/10封切り)
クーリエ:最高機密の運び屋
  (The Courier)(9/23封切り)

 

*これらの試写作品については

サイトUKWalker(https://ukwalker.jp

のエンターテイメント欄をご参照ください。9月前半公開の2作品については既にサイトにアップ済、後半の作品は9月10日前後にアップ予定です。

 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

  (新作だけを対象にしています)

 

①  ドライブ・マイ・カー
今年のカンヌ映画祭で脚本賞(濱口竜介、大江崇允の共同脚本)を日本人として初めて受賞、更に国際映画批評家連盟賞、AFCAE賞(フランスの独立興行主たちの連合組織AFCAEからの賞)、エキュメニカル審査員賞(キリスト教関係団体からの賞)という3つの独立賞も受賞した濱口竜介監督の新作は、期待を裏切らない出来だった。総ての言葉が意味を持つこの作品で脚本賞を取ったことは当然と言えば当然だ。

 

② すべてが変わった日
息子の急死でまだ乳児の孫と嫁が残された初老の夫婦。再婚した嫁夫婦と孫は暫くすると町からいなくなる。孫の姿を探して州を越えて捜索の旅に出る夫婦は、やがて再婚相手の母親という怪物に出会う。美しい自然、孫を自分たちで守ろうとする老夫婦は西部劇を想起させる。アメリカの元にある暴力と厳しさも描かれる、ケヴィン・コスナーとダイアン・レインの共演作。脚本・監督はトーマス・ベズーチャ。

 

③ モロッコ、彼女たちの朝
1980年生まれのモロッコ人女性監督マリアム・トゥザニのデビュー作。イスラム圏としてはかなり緩い社会であるモロッコでも女性の地位は低い。臨月の女性がカサブランカの町をさまよう。彼女に声をかけるパン屋を営む女性は幼い娘との二人暮らし。それぞれ独立して生きていきたい女性達を、変に妥協せず暖かくも厳しく描く。

 

 

 

映画館で楽しめる作品が他にもあります!(上映が終了しているものもあります。)

 

イン・ザ・ハイツ:2008年にブロードウェーで初演されたミュージカルの映画化。舞台の原作、作詞、作曲、主演のリン=マニュエル・ミランダのブロードウェーデビュー作。この後「ハミルトン」も成功させ、その後には映画「モアナと伝説の海」「メリー・ポピンズ リターンズ」にも関わっている。マンハッタンの北部ワシントンハイツはヒスパニック系住民が多く暮らす地域。そこでのヒスパニックの若者たち、家族の在り方を描く。ただ、大きなドラマがある訳ではなく、またラップ的曲調が一面平板に感じられ盛り上がりに欠ける。大人数での踊りも、残念ながら今一つと言えようか。

 

返校 ことばが消えた日:台湾では2・28事件(本省人(台湾人)に対する在台中国人の役人による暴行事件、1947年発生)以来38年に渡って、国民党が反体制派に対して政治的弾圧(白色テロと言われた)を行い戒厳令がひかれた。この白色テロを取り入れたホラーゲームが大ヒットしたというのも驚きだが、この映画はそのゲームを基に作られた映画だ。この背景が分かっていないと完全なる理解が難しいかもしれない。

 

ココ・シャネル 時代と闘った女:今までにも多くのココ・シャネルストーリーを見てきたが、この作品は55分と短い時間の中に彼女の真実をぎゅっと詰め込んでいる。若い頃から愛人になり、ナチ側にいたと批判されスイスに隠れた戦後から、1957年にはファッション界に復帰、女性の動きやすさからのデザインで圧勝する。この時70歳。強い。

 

名もなき歌:1988年のチリ、ピノチェト軍事独裁政権の末期、無料出産を宣伝する放送が街に流れるが、それは乳児売買のためだった。実話からの映画化だという。乳児売買は政権側も承知していたともとれる作り。事件を追う新聞記者にも圧力がかかる。

 

パンケーキを毒見する:もうじき1年になってしまう菅首相、これほど政治家に見えず、姑息なおじさんとしか思えない人だったとは!それを1本の映画にしてしまったのは、スターサンズの河村光庸(企画・製作)だ。「新聞記者」や「宮本から君へ」を作ってきた人。こうした映画ができたことに感心。作らざるを得なかったほどひどい政権と言えようか。

 

アウシュヴィッツ・レポート:ポーランドに作られたナチスのアウシュヴィッツ・ビルケナウ収容所から1944年に脱走した二人のスロバキア系ユダヤ人、彼等は収容所の状況や精密な施設のレイアウトなどについて32ページに及ぶレポートを完成させた。二人の名前から“ヴルバ=ヴェツラ-・レポート”(通報アウシュヴィッツ・レポート)と呼ばれたものに基づいて作られた映画。久しぶりにアウシュヴィッツ強制収容所を見たような気がする。

 

8時15分ヒロシマ 父から娘へ:父、美甘進示(みかもしんじ)の被爆体験を「8時15分 ヒロシマで生きぬいて許す心」として英語で執筆した美甘章子が自らプロデュース、出演もして55分の中編映画として完成させた。J.R.ヘッフェルフィンガー監督によるアメリカ映画のドキュメンタリー。俳優が演じる当時の状況も素直に受け入れられる。

 

日常対話:2016年に作られた台湾映画、侯孝賢(ホウ・シャオシェン)が製作総指揮としてクレジットされている。監督・撮影の黃惠偵(ホアン・フイチェン)によるドキュメンタリーは、自身の母親との勇気ある会話をカメラに収めたもの。親子である前に一人の女として生きた母の思いを聞き出す。

 

ワイルドスピード ジェットブレイク:2001年の第一作から20年が過ぎ、10本(シリーズ作9本+スピンオフ作1本)目となる本作品。どんなに大作になろうとも、テイストはB級というのが凄い。今回は宇宙空間にまで行ってしまうという破天荒さ。笑うしかない。

 

映画 太陽の子:日本でも原子爆弾開発が進められていたという事実に基づいて作られた映画。映画はNHKによって製作され、昨年夏にBSで放映されたドラマを基に、作り直され完成版として映画館公開になったものだ。監督・脚本はNHK職員である黒崎博。

 

明日に向かって笑え:アルゼンチンからやってきた映画は、2001年アルゼンチンの金融危機に踊らされた人々を描く喜劇。金融恐慌の際一番力を持っていた通貨は米ドルで、その現金の争奪になる。その中で、映画「おしゃれ泥棒」が一役買うという面白く悲しい映画。

 

オキナワ サントス:第二次世界大戦時、アメリカにいた日系人が強制収容されたことは知っていたが、ブラジルでも日系移民強制退去事件があったことを初めて知った。特にサンパウロの南、港町サントスに暮らす移民には24時間以内の退去命令が下され、家財、土地を残したまま強制収容された。日系人の中でもこの事件は長くタブーとされていたという。松林監督は当時の生存者を訪ね、現場を訪れる。日系人の中でも沖縄の人が集まっていた地区であり、人々は今まで誰にも話してこなかったという。

 

サムジンカンパニー 1995:四半世紀前、韓国に国際的な会社が大きくなりつつあった頃、会社の中で高卒女性3人のグループが会社で見つけたおかしなことを追求してゆくドラマ。当時、日本以上に男性社会が強かった韓国で、大卒でもない彼女たちが革命を起こす。

 

ジュゼップ 戦場の画家:ジュゼップ・バルトリという画家を知らなかった。1910年バルセロナ生まれ、スペイン内戦ではフランコ軍に抵抗し、1939年には避難先のフランスの収容所で過酷な難民生活を送る。ここでの生活を中心に最後にはフリーダ・カーロの愛人ともなる画家をアニメーションで描いたのは、1980年生まれフランスの漫画家・イラストレーター、オーレル、彼の長編アニメーションデビュー作だ。

 

子供はわかってあげない:同名漫画を原作にした沖田修一監督の新作。高校2年生の水泳部女子美波がなかなかよく、書道部男子のもじくん等、登場人物がそれぞれ面白い。劇中アニメのKOTOKOもね。

 

カウラは忘れない:瀬戸内海放送のドキュメンタリーは教えてくれる、1944年8月5日オーストラリアのカウラにあった捕虜収容所からの日本人捕虜1104人による集団脱走事件を。その目的は死ぬことだったという悲しい目的も。

 

映画大好きポンポさん:その題名から気にはなっていたもののアニメの絵柄ゆえに見ていなかった作品を見て、かなり驚いた。こんな漫画(原作)が書かれていたのか!映画ファンは必見としておこうか。かなり細かくハリウッドの映画作りが描かれる。

 

スザンヌ、16歳:16歳のパリの高校生スザンヌを主人公に、若い人の生活を描くのかと思いきや、ひとえに彼女の年上男性に対する恋を描く。全くふざけることなく、実に細かく丁寧に描いている。脚本・監督・主演のスザンヌ・ランドンが脚本を書いたのは15歳の時、作品完成が19歳の時というのも驚き。音楽も良い。

 

 

 

 

 


Ⅱ 今月の旧作

 

<日本映画>
新幹線大爆破:今まで何度も機会はあったのに、何故か邪魔が入って見られなかった作品を、やっと見ることができた。見る価値ありの作品だった。
1975年と言えば、日本映画界が最低に近い状態、大きな変革等が始まろうとしていた頃である。それまでの大手五社(松竹、東宝、日活、大映、東映)体制が崩れ始める。大映は倒産し1974年には徳間書店に買収され、日活は経営難のため1971年からロマンポルノを始めることになる。1950~60年代は映画10本作れば6本は黒字だったものが、1970年代後半には10本中2本となったという。観客数もピーク時(1958年)の7分の1となっている。そんな映画業界の不況の真っただ中に作られたのが「新幹線大爆破」だったのである。
東映にとってもやくざ映画の人気が下火になり、新しい路線を探していた時期に当たる。ハリウッド映画が大型パニック映画でヒットしているのに影響され、日本しかできないものとして新幹線でパニック映画をとなったのである。オールスターキャストを揃え、力を入れて作ったのだが、問題は国鉄(現JR)の協力が得られなかったことである。隠し撮りや特撮でやりくりして作品は作られた。
しかし思ったような集客はできなかった。大きな原因の一つは、製作に時間が取られ作品が完成したのが封切り日の2日前。当然ながらマスメディアも含め事前試写をすることができず、話題作りが上手く浸透しなかった。国鉄は上映中止要請をし、広告も車内、新聞等が十分にはできなかったと言われる。
しかし、これだけ緻密に書き込まれ、休む間もなくサスペンスが繰り出される作品は、今見ても感心してしまう。今の韓国映画も相当なものだが、変な盛り上げ作りもなく、平静でいながらわくわくさせるこの作品は全ての人に見てもらいたい。

 

 

 

 

 

 

Ⅲ 今月のグルーピング

 

今月3つの珍しい出会いがあった。


短い映画
珍しく短い映画を複本数見た。添え物として公開された訳ではなく、1本立てでの封切りである。ただ、それだけではあるが。短い順に並べてみる。
全員切腹:26分
8時15分ヒロシマ 父から娘へ:51分
ココ・シャネル 時代と闘う女:55分
30分以下は短編、1時間以下は中編という感じだろうか?特別な規定というものはない。
短編はショートフィルムフェスティヴァルのような形で上映されることはある。短編は物語であれば、エピソードの一つのような感じでもある。
中編はいわゆる文化映画の作品には多くある。今回はどちらもドキュメンタリーだ。

 

台湾映画
珍しく台湾映画を4本見ることができた。先月号の「1秒先の彼女」もあり、最近の台湾映画は好調かも。
夕霧花園:マレーシアが舞台の映画だが、製作は台湾、日本人庭師の役で阿部寛が主演。
返校 言葉の消えた日:戒厳令下の1962年の台湾を舞台に、自由が罪になる世界を描く。
親愛なる君へ:同性パートナーの突然の死、ゲイの主人公は相手の家族を守ろうとする。
日常対話:好きではない母との会話を始めようと監督自身が撮ったドキュメンタリー。

 

フランスの16歳
フランスの16歳が主人公の映画が男/女で1本ずつあった。共に16歳の恋愛映画。
Summer of 85:ヨットが転覆した時助けてくれた18歳の男性に恋心を抱く16歳の男性主人公。同性愛という形で初恋の純粋性を描いたというのは自身がゲイであるフランソワ・オゾン監督。
スザンヌ、16:35歳の舞台俳優に徐々に惹かれていく16歳の主人公、この主人公の行動に徹底的に張り付いた映画を作ったのはスザンヌ・ランドン。脚本・監督・主演の一人3役。2000年パリ生まれ、俳優ヴァンサン・ランドンの娘である。

 

 

 

 

 

 

 今月のつぶやき


●まあ確かに凄いものではあったが、期待ほどではなかったのが「ジャッリカットウ 牛の怒り」。人が多くて、混沌としているところがいかにもインドだった。

 

●やる気があればできるんだと思わせてくれたのは「パンケーキを毒見する」。今まで政治的な映画は日本ではほとんど作られないと感じてきたが、現職総理大臣に関する映画が突如現れたので驚いた。映画に限らず日本社会では政治について話すことに慣れていない。大きく構えることなく、日常生活の中で話題にされてもおかしくないのだが。

 

●何も予備知識なく見に行ってしまったのは失敗だったなあと思わせてくれたのが「最後にして最初の人類」だ。なにせ、分からない。基本音楽家のヨハン・ヨハンソンが監督したということも見た後で知った。映画音楽も手掛けている人でドゥニ・ヴィルヌーヴ監督の「メッセージ」など3作とか、「博士と彼女のセオリー」も手掛けている。画像が何を意味するかは見る方の勝手ではあるが、言葉・ナレーションでやっとどこかの岸に辿り着く感じ。

 

●原作の原田マハの小説は面白かったし、達者な出演者など期待度の高かった「キネマの神様」は、残念ながら期待外れだった。もうじき80歳の山田洋次監督のペースはいかにも遅い。男はつらいよシリーズは渥美清のペースがあった。今回も志村けんであれば、彼の持つペースが生かされたのではと思うばかり。

 

●オンライン・ゲームをしたことがないので今一つのれなかったのだろうか?「フリーガイ」は期待ほど笑えなかった。やはり、人間ではなかったから?

 

●劇中アニメが重要な役割をする「子供はわかってあげない」。題名は「魔法左官少女バッファローKOTEKO」で、主人公はKOTEKOつまりコテ(鏝)子、他にセメント伯爵、使い魔モルタル、コンクリ太郎が出演、アニソンもなかなか良いです。そういえば、本編の中の水泳部コーチが話す時、文の終わりに必ず“な!”と付けるのも笑えます。

 

 

 

 

 

 



今月のトピックス:今月は戦争映画   

 

Ⅰ 今月は戦争映画


映画は基本的には季節商品ではないのだが、昔は結構季節に当て込んだ映画もあった。夏にはビーチものや納涼お化け映画、冬にはスキー映画やクリスマス映画と誰でもが思いつく故に受け入れられやすい映画群だ。
8月は15日の終戦記念日や、6日の広島、9日の長崎の原爆投下があり戦争にかかわる作品が多く公開されてもいた。単純に戦争映画と言えば、アクションものの1種としての戦争映画となってしまうが、8月のそれはかつての戦争を回顧する映画ということになる。かつて、東宝が8・15シリーズとして1967年から6年続けて戦争映画を製作・公開していた。それ以降、こうしたシリーズものとしての作品はないが、戦争・原爆についての映画が8月に公開されることは度々見られた。
これから公開されるものも含め、8本の映画が8月に公開された。大きく日本とナチス関連に分けてみた。7月にはナチス関係の「復讐者たち」も公開されている。


<日本関連>
オキナワ サントス:日本軍による太平洋戦争が、ブラジルの日系移民に与えた影響を描く。


カウラは忘れない:オーストラリア・カウラにあった捕虜収容所からの日本兵大量脱走。


夕霧花園:マレーシアに侵攻した日本軍が現地に与えた影響を1980年代にわたって描く。


映画 太陽の子:第二次世界大戦下、京都大学で進められていた原子爆弾開発の物語。


8時15分ヒロシマ 父から娘へ:被爆者だった父の状況を英語で伝えるドキュメンタリー。


A hope of Nagasaki 優しい人たち:被爆者へのインタビュー映像だけで語る長崎被爆。

 

 


<ナチス関連>
アウシュヴィッツ・レポート:アウシュヴィッツから脱走した二人の強制収容所報告。


ホロコーストの罪人:(未見、予告編から)ナチスのノルウェー侵攻と国内協力者の物語。

 

 

 

 

 

 

Ⅱ 濱口竜介


映画人で今年最もマスメディアに登場したのは濱口竜介監督ではなかろうか?3月にはベルリン国際映画祭で「偶然と想像」が金熊賞に次ぐ審査員大賞(銀熊賞)を受賞、7月のカンヌ国際映画祭では「ドライブ・マイ・カー」が脚本賞を受賞したのだ。昨年9月のベネチア映画祭では共同脚本を担当した「スパイと妻」(黒沢清監督)が監督賞を受賞していて、3大映画祭の総てで受賞に絡んでいたのである。騒がれない方がおかしいかも。
7月31日朝日新聞の土曜日版beのフロントランナー欄で特集記事が掲載された。その表題は「国際映画祭に愛される新世代」というもの。神奈川県生まれの42歳である。
彼の作品が映画館で普通に上映されたのは「ハッピー・アワー」が最初、2015年のことだ。この作品は「即興演技ワークショップin Kobe」というワークショップから生まれた。参加者の中の4人の30代後半女性達から彼女たちの物語のインスピレーションを得て、映画にしたものだ。一人一人の女性のドラマを丁寧に描き、上映時間は5時間17分となっていたが、見始めた人には離れられない強さを持っていた。
次作が初めての商業映画「寝ても覚めても」で2018年だ。
監督作品としては3作目が「偶然と想像」となるが、これはまだ公開されていない。3つのストーリーからなるオムニバス作品のようだが、7つのストーリーにシリーズ化される予定らしい。
「ドライブ・マイ・カー」は4作目となる。
私も3作品しか見ていないが、「ドライブ・マイ・カー」の完成度の高さには驚く。前2作も人物に張り付いた丁寧な作りに感心したが、今回の作品にはほとんどスキがない。
beの記事に、“「真実の声」を引き出すために、無感情で何度もせりふを音読し本番で初めて解釈を加える独自の演出法を取る。”とある。これは「ドライブ・マイ・カー」の主人公が取っている方法と同じではないか。主人公は監督そのものということか?
映画館に出てきてまだ3本目の監督がここまでの作品を作ったことに感激した。

 

 

 

 

 

 映画館配信


今、映画館は営業できているが、営業時間や座席の一部不使用(1席空け等)で完全な形では行われていないところが多い。それによる減収を補填するため一部の映画館で配信を始めたように見える。


アップリンク:現在渋谷と京都に映画館を経営しているアップリンクは元々映画配給会社なので、その作品を直接消費者に届ける配信をしていても不思議ではない。その名称は“アップリンクのオンライン映画館 Cloud”となっている。


シネマート:新宿と心斎橋に映画館があるシネマートは、SPOエンターテイメントの直営映画館。SPOの事業の一つに劇場用映画の輸出入があり、アップリンク同様、配給会社として配信の運営をしていると言える。その名称は“おうちでシネマート”というものだ。


ル・シネマ:映画館文化村ル・シネマのサイトに、ニュースとして“Bunkamuraル・シネマが手掛けるオンライン映画館「APARTMENT by Bunkamura LE CINÉMA」が2021年8月11日にオープンいたしました!”と発表されている。そこには、“ル・シネマが独自に権利を取得した日本初公開作品を中心に”という言葉が見られる。Apartmentとまるで住宅宣伝のようなチラシも見た。

 

3つの映画館は表面的には映画館が配信を始めたように見える。

 

 

 

 

 

 

 

 NHKと映画


今月封切られた「太陽の子」が、正式名「映画 太陽の子」となっているのは、昨夏NHK BSで同名のドラマが放映されていたためだ。残念ながらこのドラマは見ていないので、今回の「映画 太陽の子」とどの程度同じで、また違うのかは分からない。
朝日新聞の8月18日朝刊文化欄に「NHK 映画界で存在感」と題した記事があった。そこでは昨年の「スパイの妻」が、昨年6月にNHKがBS8Kで放送したドラマを別仕様に編集し「劇場版」と謳った作品だったとあった。他の例として、8月27日に封切られる「アーヤと魔女」(スタジオジブリと協力)、2019年2月に封切られた「バーニング」(韓国のイ・チャンドン監督に依頼し2018年12月の4K開局特番ドラマとして作られたものの映画版)などが挙げられている。
今回の「映画 太陽の子」も公開方は同じように見える。
「スパイの妻」の黒沢清監督はNHKが製作に加わることで大河「いだてん」のセットを使いまわすことができ、お金を掛けずに1940年代の神戸の街並みを映画に取り入れることができたと話している。また、「太陽の子」の監督でNHK職員でもある黒崎監督は、NHKには何度も使うことを前提に作ってあるパーツがたくさん保管されていると語っている。
予算上厳しい映画が、こうした形をとることで製作可能になるのであれば、今後もこうした製作、公開方法を歓迎したい。

 

 

 

 

 

 

今月はここまで。

次号はオリパラも終わり、“芸術の秋”の9月25日にお送りします。


                         - 神谷二三夫 -


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