2022年 9月号 夏のあれこれback

 

8月も終わりに近い。
夏休みの宿題は早めに片付ける方だったので、
悩むことはなかったが、
最近は悩みの先送りが多い。
悩みは時に休んで気分転換、
それは、そう、映画館で!

 

 

 

今月の映画

 

7/26~8/25の宗教と政治団体の関係について考えた30日間に出会った作品は45本、邦/洋画は15/30,新/旧は33/12と通常ペース。
映画観もどんどん通常ペースに戻りつつあります。



<日本映画>

   15本(新11本+旧4本)

【新作】
ビリーバーズ 
今夜,世界からこの恋が消えても
荒野に希望に火をともす 
掘る女 縄文人の落とし物
長崎の郵便配達
野球部に花束を 
TANGタング 
バイオレンス・アクション
SABAKANサバカン 
失われた時の中で、
コンビニエンス・ストーリー

 

【旧作】
<東宝の90年 モダンと革新の映画史>
ハワイマレー沖海戦
激動の昭和史 沖縄決戦 
都会の横顔 
女ばかりの夜 

 

 

<外国映画>

   30本(新22本+旧8本)

【新作】
アウシュビッツのチャンピオン
  (Mistrz / The Champion of Auschwitz) 
魂のまなざし
  (Helene) 
ジュラシックワールド 新たなる支配者
  (Jurassic World: Dominion) 
アプローズ,アプローズ! 囚人たちの大舞台
  (Un Triomphe / The Big Hit) 
1640日の家族
  (La Vraie Famille / The Family) 
C.R.A.Z.Y
  (C.R.A.Z.Y) 
プアン 友だちと呼ばせて
  (One For The Road)
ファイナル・アカウント 第三帝国最後の証言
  (Final Account) 
映画はアリスから始まった
  (Be Natural: The Untold Story of

   Alice Guy Blanche) 
L.A.コールドケース
(City of Lies) 
きっと地上には満天の星
(Topside) 
アンデス,ふたりぼっち
(Winaypacha / Eternity) 
ウクライナから平和を叫ぶ
(Mir Vam / Peace to You All) 
ブライアン・ウィルソン 約束の旅路
(Brian Wilson: Long Promised Road) 
キングメーカー 大統領を作った男
(Kingmaker) 
ストーリー・オブ・マイワイフ
(A Felesegem Tortenete / The Story of My Wife) 
復讐は私に任せて
(Seperti Dendam, Rindu Harus Dibayar Tuntas /   Vengence Is Mine, All Otkers Pay) 
みんなのヴァカンス
(A L’Abordage! / All Hands on Deck) 
セイント・フランシス
(Saint Frances)

 

【試写】
ダウントン・アビー/新たなる時代へ
  (Downton Abbey: A New Era)(9月30日封切り)
プリンセス・ダイアナ
  (The Princess)(9月30日封切り) 
スペンサー ダイアナの決意
  (Spencer)(10月14日封切り)

 

【旧作】
花の影 
<二十一世紀のジョン・フォード PartⅠ>
プリースト判事
  (Judge Priest)
俺は善人だ
  (The Whole Town’s Talking) 
モガンボ
  (Mogambo) 
タバコロード
  (Tobacco Road) 
荒野の女たち
  (7 Women) 
若きリンカーン
  (Young Mr. Lincoln) 
リバティ・バランスを撃った男
  (The Man Who Shot Liberty Valance) 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

  (新作だけを対象にしています)

 

 アンデス、ふたりぼっち
高齢化社会が来ているが、高齢者がこれほど災難に遭う映画には驚いた。まず、住んでいるのが標高5000メートルのアンデスの山、妻に頼まれてマッチを買いに行く夫、と言っても店が近くにある訳でなく、リャマと一緒に山を下りていくのだが、途中で倒れた夫は立ち上がれず…。帰らない夫をさがしに行った妻とやっと帰った翌朝、飼っていた羊と守っていた犬も狐に襲われて死んでいた。更に…。本当にきれいなアンデスの風景と、そこでシンプルに生きている老夫婦。おススメします。今月のトークショー参照。

 

 映画はアリスから始まった
映画の誕生は1895年12月28日フランスのリュミエール兄弟が「ラ・シオタ駅への列車の到着」「工場の出口」等をパリのグラン・カフェで上映した時とされている。同じ1895年に映写機・カメラなどの機材を扱う会社ゴーモンが創業した。会社は連続写真撮影機を発売、その販促用に短編映画を製作した。この時ゴーモンの秘書であった女性アリス・ギイが撮影にあたった。初めは記録映画を撮っていたが、彼女の考えで物語を持つ作品を作り始める。ゴーモンは世界最古の映画会社として今も存続し、アリス・ギイは史上初めて劇映画を作った人とされている。このアリス・ギイについてのドキュメンタリーは、アメリカ人女性パメラ・B・グリーンが監督、製作にはジョディ・フォスターやサンダンス・インスティテュートのロバート・レッドフォードが当たっている。ジョディ・フォスターは作品のナレーターも務めている。今月のトークショー及び今月のつぶやき参照。

 

 コンビニエンス・ストーリー
奇妙な味の映画を作ったのは、監督・脚本が三木聡、企画マーク・シリングとある。三木監督作品は「大怪獣のあとしまつ」しか見ていない。マーク・シリングは東京をベースとするアメリカ人で映画評論家、Japan Times等に批評を書いているとか。この映画は彼が書いた短編小説から、三木が好きに脚本を書いたという。コンビニの飲料ケースを開けると異世界があって…。

 

 

 

 

楽しめる映画は他にも沢山あります!

(上映が終了しているものもあります。)


ジュラシックワールド 新たなる支配者:1993年に公開された「ジュラシック・パーク」には驚き、感動した。恐竜が動いた時の驚きは今も覚えている。30年目にやってきたこの作品には、初作に出ていたサム・ニール、ローラ・ダーン、ジェフ・ゴールドブラムが出ていて懐かしい。今回は恐竜の数も多い。

 

アプローズ,アプローズ! 囚人たちの大舞台:この映画はスウェーデンの俳優が経験したことにヒントを得て作られたという。囚人たちに演技を教える講師として招かれた俳優と囚人たちが、同じ情熱に動かされて、刑務所外での公演をするようになるお話。演目はサミュエル・ベケットによる不条理劇「ゴドーを待ちながら」。不条理的に終わるのか?

 

荒野に希望の灯をともす:中村哲さんがアフガニスタンで殺されたのは2019年12月4日。医師でありながら、アフガニスタンに用水路を作った中村さんを追ったドキュメンタリーは、その実直な姿を見せてくれる。映画館は混んでいた。中村さんを応援していた人が多いのだなと感心する。今月のトークショー参照。

 

プアン 友だちと呼ばせて:タイからやってきた映画は、驚くほどスマートでセンスがいい。監督はバズ・ブーンビリヤ、1981年生まれ、大学の芸術学部で舞台演出を学び、テレビ広告業界で働いた後、ニューヨークでグラフィックデザインを学んだとある。これだけの経歴があればセンスがいいのも当然かもしれないが、更に作品の製作総指揮にあたったのがウォン・カーウァイだったのだ。「天使の涙」や「花様年華」等センスの良さで有名な監督。

 

掘る女 縄文人の落とし物:昔からオタク文化は男性中心に語られてきた。寝食を忘れて入れ込むのは男の方が多いということだった。しかし最近は変わりつつある。遺跡発掘はきれいな仕事ではない。地面にはいつくばって丁寧に掘り進めるのである。壊さずに、細かいところに気を使いながら掘り進めるのは女性に向いているのかもしれない。

 

長崎の郵便配達:イギリスのジャーナリスト、故ピーター・タウンゼンドさんが16歳で郵便配達の途中に被爆した長崎の谷口稜曄(すみてる)さんと出会い、生涯かけて核廃絶を訴えた谷口さんを取材し、1984年にノンフィクション小説「The Postman of Nagasaki」を出版した。彼の娘で女優のイザベル・タウンゼンドさんが、この書物に沿って長崎を訪ねる姿を追うドキュメンタリー。

 

L.A.コールドケース:この映画を何の知識もなく見てしまったが、分からないことが多く、ここにあげるべきではないかもしれない。1990年代に二人のラッパーが別々に殺された事件を巡り、その時の刑事とフィクションとして加えられたジャーナリストの二人によって、現在も未解決の事件に光と当てようというものだ。

 

きっと地上には満天の星:ニューヨークの地下鉄の廃トンネルに住む母ニッキーと5歳の娘リトル。リトルは生まれて以来まだ地上に出たことがない。ある時市の職員が不法居住者を排除にやってきて、逃れるように親子は地上に。地下鉄車両の扉が閉まり母娘は離れ離れに。その時の母ニッキーの娘を探して動く様子がリアルに描かれる。監督・脚本はセリーヌ・ヘルドとローガン・ジョージの共同。セリーヌは母ニッキーを演じてもいる。

 

ウクライナから平和を叫ぶ:2016年に発表されたスロバキアの映画は、写真家ユライ・ムラヴェッツがウクライナ東部に入り、ドネツク側とウクライナ側の生の声を伝えるドキュメンタリーだ。2014年のロシアによるクリミア併合とほぼ時を同じくして東部地域が親ロシア分離派とウクライナとの戦闘が始まったことが分かる。この状況は日本人にはどの程度届いていたのだろう?ウクライナ戦争はそれほど突飛なことではないことを理解した。

 

ブライアン・ウィルソン 約束の旅路:ビーチボーイズと言えば、中学生から高校生になる頃サーフィンサウンドで楽しませてくれたロックグループ。その中心にいたのがブライアン・ウィルソン。彼の人となりを見せてくれるこの作品、明るく楽しいビーチボーイズサウンドからは想像できない静かで、ちょっと暗め、鬱にもなった人だったと教えてくれる。

 

キングメーカー 大統領を作った男:金大中(キム・デジュン)と選挙参謀だった厳昌録(オム・チャンノク)の実話を基に多くのエピソードが描かれたという。韓国の大統領は任期明けに逮捕されることも多いが、この映画を観ていると大統領選挙での闘いも激しいことが分かる。

 

みんなのヴァカンス:フランスのギヨーム・ブラック監督はのほほんとしたゆったり感覚が作品に共通に見られる。と言って、以前には2本の短編映画「女っ気なし」「遭難者」しか見ていない。今回も、ヴァカンスを迎えてネットで車のシェア相手を探し、女性っぽい名前で受け入れられた男3人のドライブで南仏に向かうことに。今月のトークショー参照。

 

SABAKANサバカン:1986年、長崎、小学5年生の少年が過ごす夏休みは、それまで友達ではなかった同じクラスの少年と冒険の旅に出ることに。自転車の二人乗りで、イルカが来ているという不確かな情報に乗せられてブーメラン島に。途中自転車が故障したり、島までは泳いでいくしかなかったり…。長崎出身の金沢知樹監督の長編デビュー作。

 

セイント・フランシス:34歳の独身女性ブリジット、彼女が夏のナニー(子守)として6才のフランシスの世話をする物語。脚本を書いたのはブリジットを演じているケリー・オサリヴァン、監督は彼女のパートナーであるアレックス・トンプソンで、彼の長編デビュー作である。堕胎や生理出血をここまでオープンに、明るく普通の事として描いたのに感心。

 

ダウントン・アビー/新たなる時代へ:ダウントン・アビーの映画版第2作は屋敷にやってきた映画の撮影チームと南仏の別荘贈呈事件で面白い。(9月30日封切り、UK Walker https://ukwalker.jp には今月末掲載) 

 

プリンセス・ダイアナ:多くの人に愛されたダイアナ妃のドキュメンタリー。(9月30日封切り) (ダイアナの2本はUK Walkerに9月中旬頃掲載)

 

スペンサー ダイアナの決意:1991年、英王室のクリスマスにやってきたダイアナ妃の3日間を寓話として描く。(10月14日封切り)

 

 

 

 


Ⅱ 今月の旧作

 

<日本映画>
国立映画アーカイブの<東宝の90年 モダンと革新の映画史>を前月号に引き続き通い、4本を見た。それぞれに面白い作品だったが、中では「ハワイマレー沖海戦」に感心した。
この作品は1942年に山本嘉次郎監督によって作られた。海軍省後援の元、太平洋戦争開戦1周年記念の作品として作られたものだ。バリバリの国策映画である。それにしては結構静かな映画になっている。感心したのは真珠湾攻撃や、マレー沖での英軍艦隊への攻撃の特撮だ。円谷英二を中心として作られた特撮は戦争下と感じさせない見事なものだったことだ。戦後様々な特撮作品を作っていくことになる。円谷について調べてみると、「ハワイマレー沖海戦」にいたるまでに、通常のカメラマンから始め、自身は16歳の時日本飛行学校の1期生として入学するなど操縦士に憧れていたほどのヒコーキ好きが上手く合体して、特撮に向かっていく長い歴史があったようなのだ。

 

 

<外国映画>
渋谷シネヴェーラでの<二十一世紀のジョン・フォード PartⅠ>で7本を見た。蓮實重彦著の「ジョン・フォード論」に合わせて企画された特集だろう。この特集のPartⅡは9月10~10月7日に行われる。
ジョン・フォード(1894年2月1日~1973年8月31日)は1910年代~60年代まで50年以上の間に140本以上の作品を監督した、アメリカを代表する監督の一人。特に西部劇を得意とし、西部劇の神様とも呼ばれた。しかし作品には、アイルランド移民の子という出自からアイルランド気質を描いた作品やコメディ、社会派作品等もあり幅広いものだった。
今回見た7本の中で西部劇は「リバティ・バランスを撃った男」1本のみ、様々なジャンルの作品を楽しんだ。

 

プリースト判事:名物判事の裁判ものだが、コメディの要素が強い。


俺は善人だ:ギャングを数多く演じてきたエドワード・G・ロビンソンによる2役の喜劇。


モガンボ:アフリカを舞台に男女関係を描く。C・ゲーブル、E・ガードナー共にセクシー。

タバコロード:貧農を描いても「怒りの葡萄」とは大違い、奇妙な人々で笑い飛ばす。

荒野の女たち:西部ではなく1935年の中国僻地の伝導地での女のドラマ。フォードの遺作。

若きリンカーン:弁護士をしていた若き日のリンカーンを描く偉人伝。

リバティ・バランスを撃った男:フォードのジョン・ウエインとの最後のコンビ作品。

 

 

 

 

 

Ⅲ 今月のトークショー 

 

8月3日 ポレポレ東中野「荒野に希望の灯をともす」上映後挨拶 撮影・監督谷津賢二
中村哲さんのアフガニスタンでの活動を追ったドキュメンタリーを作ったのは谷津賢二さん。20年程中村さんを撮影してきたという。中村さんは仁義の人だったという。人を愛し、正しいことを行う人だった。そして実際の行動を自らする人だったという。映画を観ていれば、言葉以上に実際の中村さんの姿がよく分かる。ブルドーザーを自ら運転しながら川に入っていく姿に何度も出会う。さらに、中村さんは肝っ玉の大きい人だったという。冒険的なことも結構行っていたという。

 

8月6日 アップリンク吉祥寺「映画はアリスから始まった」上映後、石坂健治さん(東京国際映画祭「アジアの風」プログラム・ディレクター)によるトークショー
2001年に日本語版が出たアリス・ギイの自伝「私は銀幕のアリス」を持って現れ、面白い内容なのでお勧めしますと話が始まった。
この映画に登場するジョルジュ・サドールによる「世界映画前史」という大著(12巻もある)が今までの映画史の基準のように考えられてきたが、今回の映画を観ていると、かなり訂正しなければならない部分がある。まだ130年余りと映画の歴史はそれほど長くないが、間違った記述が他の著者にも引用され、間違いが拡散している状況がある。今回のように映像によるインタビューなどのオーラルな歴史も重要になってくる。

 

8月10日 K’sシネマ「アンデス、ふたりぼっち」上映後 上村カルロス(ペルーの日系三世、30年近く前に来日、現在旅行会社「ラティーノ中南米」勤務)
殆ど前知識なく見たこの作品、ずっとドキュメンタリーとばかり思っていたが、途中からそれにしてはあまりに劇的過ぎると思い始めた。エンドロールを見ると、俳優名が出ていたので、やはりフィクションかと納得したのだ。それにしても高度5000メートル近い地でのフィクション撮影とは。
この映画で使われているのはアイマラ語、カルロスさんも全く分からない言葉だそうで、日本語字幕を読んでいたとか。彼はこの日ペルーの民族衣装で登場したが、こうした衣装は田舎者と思われるので恥ずかしいとか。アイマラ語も田舎者と思われ差別されるかもという。
この映画の監督は30代半ばのオスカル・カタコラ監督で、この作品がデビュー作だ。監督は地方の、田舎の映画を作りたいという希望があり、次回作も田舎で製作している時、盲腸になり死んでしまった。田舎のため病院がなかったためらしい。ちょっと驚き。デビューしたばかりの若い監督がそんなことになるとは。
ペルー人は家族で集まるのが好きで、絆も強い。ペルーの刑務所には家族で、大人数で面会に来ることが多いとか。母親は無条件に子供たちを肯定するらしい。

8月20日 イメージフォーラム「復讐は私にまかせて」上映後 芦澤明子(撮影監督)
芦澤さんは日本でも、世界でも数少ない女性カメラマン、日本では黒沢清監督とのコンビが有名だが、沖田修一監督、深田晃司監督などとも組んでいる。今回はインドネシアに出かけ、エドウィン監督作品のカメラを担当している。今回彼女のトークショーがあると知って出かけた。1951年生まれと言うことは70歳を超えているが、すっきりしゃっきりしていて若々しい。発言もクリアで分かりやすい。
今回インドネシア、タイ、日本のスタッフと共に働いたが、若い人が多かった。技術的にもしっかりしていた。インドネシアの映画作りは朝早く(4時半ころと言っていたが!)に集まり朝食を一緒に食べてから始まる。ゆったりした雰囲気の現場だった。監督の意向でデジタルではなくフィルムでの撮影だった。デジタルが粒粒でできているとして、フィルムはその空間を埋めるという印象で、今回日蝕場面などはその特性で上手く撮影できた。
この映画、娯楽作ではあるが結構理解するのが難しい。芦澤さんも今回字幕付きで少しは理解しやすくなったと言っていた。

 

8月20日 ユーロスペース「みんなのヴァカンス」上映前 オンラインにて、ギヨーム・ブラック監督、サリフ・シセ(俳優)、エドゥアール・シュルピス(俳優)のトークショー
この映画はブラック監督が自分の出身校であるフランス国立高等演劇学校の学生たちと製作しており、ふたりの俳優もこの学校出身の人たち。
気持ちのままにヴァカンスを楽しもうという映画の内容に合わせ、ゆったりペースで進む映画と同じように、ゆったり自由なペースで進むトークショー。
ブラック監督からはこんなにフランス的な映画が日本で受け入れられていることに感謝の言葉が。サリフからは12歳の頃からアニメで馴染んでいた日本語でインタビューされることに感動していると。エドゥアールからは自分が学生だった時に映画の撮影があり、緊張していたとのこと。3人がそれぞれの場所にてオンライン参加で、気楽な感じがなかなか良かった。ギヨーム監督は何か食べていたか、ガムかで口が動いていた。

 

 

 

 

 

 今月のつぶやき

 

●フランスの里親制度を描く「1640日の家族」には驚いた。映画の公式サイトには次のように書かれている。【さまざまな理由で家族と離れて暮らす子どもを家庭に迎え入れて養育する制度。里親と子どもに法的な親子関係はなく、実親が親権者である。本作でシモンが経験するように、週末は実の家族と一緒に過ごし、平日は里親の家庭で過ごすなど、柔軟な里親制度は日本でも注目を集めている。】題名の1640日は里親の家で暮らした4年半を表している。4年半後実の父親が同居して暮らすことができると息子を引き取りに来たのである。

 

●彼女は映画製作にかかわった20年間に短編を含む1000本近くの作品を残したというアリス・ギイのドキュメンタリー「映画はアリスから始まった」。彼女の名前が表舞台から消えていたのには、映画は男が作るものという固定観念から、彼女の名前を周りにいる男性の名前に変えてしまってきたという歴史がある。世界的に映画史の基本とされるジョルジュ・サドールの「世界映画史」にも間違った名前が掲載され、それが世界に広まってしまった。何とも残念なことである。

 

●『ローマの休日』のモチーフになったといわれるタウンゼンド大佐が長崎の少年に出会い、生まれた物語という宣伝文句の「長崎の郵便配達」。公式サイトからその説明部分を以下に引用。【戦時中、英空軍のパイロットとして英雄となり、退官後はイギリス王室に仕え、マーガレット王女と恋に落ちるも周囲の猛反対で破局。この世紀の悲恋は世界中で話題となり、映画『ローマの休日』のモチーフになったともいわれる。】う~む、そうだったのか!

 

 

 

 

 



今月のトピックス:夏のあれこれ   

 

Ⅰ 夏のあれこれ

 

映画館で流れるコロナ対策映像
主要な映画館に行くと、本編が上映になる前に予告編などと一緒にお客様へのコロナ対策映像が上映される。水色基調の模様画面に文字での案内が表示され、ゆったりした音楽が流れる映像をコロナ以来何度見たことだろう。最後には全興連と表示されるものだ。全興連は全国興行生活衛生同業組合連合会の略である。
この映像、全国統一でどの映画館でも同じと思っていたのが覆されたのは1年程前だったろうか。吉祥寺のアップリンクで映像が流れた時、画面はほぼ同じなのに音楽が全く違うので驚いた。その後もこの音楽は他で聞くことはなかったので、アップリンクが独自に変更したとしか思えない。関東地区に他のアップリンクはないので確認はできないのだが。もう一つのアップリンクは京都にある。
最近、もう一つの変種が現れた。映像には最後にCOCOAの案内があるのだが、この案内だけが省かれたもの(音楽は同じ)が現れたのは数カ月前ではなかったか。実はアップリンクのものにもこの部分はなかった。
今や3種類の映像が、少なくとも東京では流れている。他の地方ではどうなのだろうか?

 

 

②戦争
8月15日の終戦、8月6日の広島、8月9日の長崎での原爆投下など、8月は第2次世界大戦関連の日付があり、また、かつて東宝が8.15シリーズと銘打って戦争映画をこの時期に封切っていたので戦争関連映画が想起されることが多い。
今年の日本映画では「長崎の郵便配達」が唯一の作品。長崎で被爆した谷口さんとピーター・タウンゼンドさんを追うことによって、原爆に対する思いを静かに訴えてくる。
この作品の中で原爆を投下したのがB-29であったとの発言があり、英語ではボーイング29と発音されていて、ハッと気づかされたのである。BはボーイングのBだったと。少し頭を働かせば気付いてもおかしくないことだったのだが、旅客機のボーイングと戦闘機のB-29が結びついていなかった。
外国映画では「アウシュビッツのチャンピオン」「ファイナル・アカウント 第三帝国最後の証言」の2本のナチス関係の映画があった。

 

 

 

 

 

Ⅱ 満席


①岩波ホール
7月29日をもって岩波ホールは営業を終え、閉館となった。新聞にも取り上げられたのでご存知の方も多いだろう。満席になった最終日には行けなかったが、最終プログラムで上映された「ヴェルナー・ヘルツォーク レトロスペクティブ 極地への旅」で7月に3回ほど通った。3回の内2回は満席だった。久しぶりの満席に感心した。

 

②ジョン・フォード
今月の旧作で紹介している<二十一世紀のジョン・フォード PartⅠ>、初めに「プリースト判事」を見に行った時、自由席定員制のシネマヴェーラが満員近くになっていて驚いた。定員制だから、もし満席になったら見られなくなるので次からは少し早目に出かけた。いつもは10:30オープンなのに、10分近く前に着いた時既にチケットを売っていた。この日見た2本は共に満席になったのだが、どちらも幸運にも見ることはできた。その他の作品を見た時にも、ほぼ満席状態になっていた。若い人も多く、何故この人気?蓮實先生の「ジョン・フォード論」のため?原因はよく分からない。

 

 

 

今月はここまで。
次号は、涼しい秋になっていてほしい9月25日にお送りします。

 


                         - 神谷二三夫 -


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