2022年 12月号 元エロ映画の監督たちback

 

サッカーワールドカップで日本が初戦勝利、
これで暫くはサッカー熱が日本全土を覆うのか~!
全体が熱く燃えている時、
ふと静かな時を過ごしたい時は、
そう、映画館!

 

 

 

今月の映画

 

10/26~11/25の3人の閣僚が更迭された31日間に出会った作品は42本、
邦/洋画は16/26,新/旧は32/10となりました。
新作に関しては邦画と洋画は同数でした。
流石に芸術の秋、日本映画も頑張っています。



<日本映画>

   16本(新16本+旧0本)

【新作】
大事なことほど小声でささやく 
カラダ探し 
こころの通訳者たち
あの娘は知らない 
天間荘の三姉妹 
線は,僕を描く 
窓辺にて 
桜色の風が咲く 
すずめの戸締り 
あちらにいる鬼 
土を喰らう十二カ月
Yokosuka1953 
わたしのお母さん 
あなたの微笑み 
ある男 
宮松と山下

 

<外国映画>

   26本(新16本+旧10本)

【新作】
アムステルダム
  (Amsterdam) 
シャイニー・シュリンプス 世界に羽ばたけ
  (La Revanche des Crevettes Pailletees

  / The Revenge of The Shiny Shrimps) 
ノベンバー
(November) 
チケット・トゥ・パラダイス
(Ticket to Paradise)、
犯罪都市The Roundup
(The Roundup) 
ソウル・オブ・ワイン
(L’Ame du Vin / The Soul of Wine) 
恋人はアンバー
(Dating Amber) 
パラレル・マザーズ
(Madres Paralelas / Parallel Mothers) 
ヒューマン・ボイス
(the Human Voice)(短編) 
ブラック・パンサー ワカンダ・フォーエバー
(Black Panther: Wakanda Forever) 
ドント・ウォーリー・ダーリン
(Don’t Worry Darling) 
奈落のマイホーム
( Sinkhole) 
ザリガニの鳴くところ
(Where The Crawdads Sing) 
ミセス・ハリス パリへ行く
(Mrs. Harris Goes to Paris) 
ザ・メニュー
(The Menu)

 

【試写】
トゥモロー・モーニング

  (Tomorrow Morning)(12月16日公開)

  Webサイト UK Walkerに掲載予定 

 

【旧作】
<ジュディ・ガーランド生誕100年記念特集 永遠のジュディ>
フォー・ミー・アンド・マイ・ギャル
  (For Me and May Gal) 
ワーズ&ミュージック
  (Words & Music) 
リッスン・ダーリン
  (Listen, Darling) 
ハーヴェイ・ガールズ
  (The Harvey Girls) 
ジーグフェルド・フォーリーズ
  (Ziegfeld Follies) 
雲流るる果てに
  (Till The Clouds Roll By) 
ガール・クレイジー
  (Girl Crazy) 
二日間の出会い
  (The Clock) 
エブリバディ・シング
  (Everybody Sing) 
初恋合戦
  (Love Finds Andy Hardy) 

 

 

Ⅰ 今月のベストスリー

  (新作だけを対象にしています)

 

①-1 ノベンバー
白黒の美しい画面に驚く。圧倒的な画面は60年代のポーランド映画を思い起こさせる。エストニアを舞台に幻想的な話が繰り広げられる映画は、アンドルス・キヴィラフクの小説を原作としている。監督はタリン生まれのライナル・サルネット。素晴らしい画面を作り出した撮影監督はマルト・タニエル。エストニア、ポーランド、オランダの合作。

 

①-2 パラレル・マザーズ
スペインのペドロ・アルモドバル監督の新作。産院での赤ちゃん取替え事件は日本でも起こっていて病院が問題にされたが、写真家のジャニスはDNA鑑定で自分の子ではないと知ってもとりあえず打ち明けない。そこから始まるドラマは、一方でスペイン内戦にて殺され、埋葬された人たちの発掘をも描く。71歳になったアルモドバル監督は、40年に渡って様々な作品を見せてくれたが、より深い境地に達したかのよう。今月は30分の短編「ヒューマン・ボイス」もロードショー公開された。

 

② アムステルダム
まるでウェス・アンダーソン監督の映画のように天の上から人物を見ているような映像が、それにしてはちょっと湿っているなあと思っていたら、「世界にひとつのプレイバック」のデヴィッド・O・ラッセルの作品だった。実話も含まれる1918~1933年の時間的にも、地理的にも大きく変化する物語を豪華スターで描く作品。

 

③-1 あちらにいる鬼
瀬戸内晴美と井上光晴の恋愛を描いた井上荒野(光晴の娘)の同名小説の映画化。脚本は荒井晴彦、監督は廣木隆一、二人は「ヴァイブレータ」「やわらかい生活」でも組んでいた。寺島しのぶ、豊川悦司、広末涼子というキャストを得て、晴美が寂聴になるまでの7年間の3角関係を描いた映画、見る価値ありです。今月のトークショー参照。

 

③-2 ある男
平野啓一郎の同名小説からの映画化、脚本は向井康介、監督は石川慶。再婚して5年、子供に優しい夫は亡くなって、実は名前の人物ではないことが分かる。そのミステリーは単純には解決はしない。むしろ、どんどん深みにはまるごとく、様々な人を巻き込んで膨らんでいく。多彩な俳優を使いながら、少しも浮き上がっていないのは流石に石川監督。

 

 

 

 

 

他にも沢山あります、映画館で楽しめる映画!
(上映が終了しているものもあります。)

 

天間荘の三姉妹:高橋ツトムの同名漫画から、現在はハリウッドを拠点にしている北村龍平が映画化。アニメ「この世界の片隅に」を製作した真木太郎が製作し、アニメの主人公すずさんの声をしたのんが主演するこの作品は、こうした結びつきがいい方向に働きなかなか良い映画になった。能年玲奈→のんになった以降では最も彼女らしい作品。

 

シャイニー・シュリンプス 世界に羽ばたけ:シャイニー・シュリンプスの第2弾は日本が舞台になる予定だったのだが・・・。想定ロシアと思われるゲイ禁止国でのドタバタ。ゲイの水球チームが繰り広げるコメディは第一作と同じ監督、出演者で作られた。

 

線は、僕を描く:砥上裕將の同名小説からの映画化。作家自身が水墨画家であり、その世界を舞台に青春が描かれる。「ちはやふる」の脚本・監督の小泉徳宏が今回の脚本・監督を担当。最近好調な三浦友和がいい味を出し、横浜流星、清原果耶、江口洋介と俳優陣も良。

 

チケット・トゥ・パラダイス:久しぶりにハリウッドらしいロマコメを見た。とはいえ、結婚5年後に離婚してから20年の元夫婦のお話。ジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツの共演に用意されたのは、娘の結婚を阻止するためにバリ島に出向く元夫婦。このロマコメが気に入って、ふたりは製作にも参加。楽しい作品に仕上げたのはオル・パーカー。

 

窓辺にて:日本のホン・サンスといっていいか、今泉力哉監督の今年3本目の新作。例によっていろいろある愛の形を探して、中年ライターと女高生を中心に話が拡がる。稲垣吾郎が結構くつろいでいる感じなのは、今泉マジック?数ある今泉作品の中でも良の部。

 

恋人はアンバー:共に同性が好きな男女の高校生が、周りに悟られないようにと恋人風をよそおう映画がアイルランドからやってきた。1993年に同性愛が違法でなくなった、その2年後のお話、田舎町が舞台で、もし知られたら大変。楽しめて学べる良作。

 

すずめの戸締り:新海誠監督の新作は、例によって(と言っても「君の名は。」以降のことだが)大ヒット中となっている。日本各地にある廃墟、そこに現れる扉、それが開き始めると災いがやってくる。それを閉めて行く閉じ師と謎の猫との闘い。繊細に描かれた絵で魅了しつつ物語が進むアニメ。

 

ブラック・パンサー ワカンダ・フォーエバー:2018年の「ブラック・パンサー」の続編は、引き続きライアン・クーグラーが監督している。前作の主演者チャドウィック・ボーズマンが2020年8月に亡くなってしまった。そのためか、続編は女性の映画、アマゾネスのように戦う女性の映画になっている。

 

土を喰らう十二カ月:映画の公式サイトから知ったことだが、水上勉(少年時代京都の禅寺で精進料理を学ぶ)の料理エッセイから監督の中江裕司(沖縄の印象が強いが生まれは京都)が脚本を書き監督をしたという。京都育ちの沢田研二が季節に合わせて1年半かけて撮影したという。京都ではなく信州の山荘で暮らす作家のお話。日々の生活が心地よい。

 

Yokosuka1953:その人は1947年横須賀に外国人の父と日本人の母の間に生まれ、5歳の時養子縁組でアメリカに渡った。それから66年、母を探しに日本を訪れた彼女を追うドキュメンタリー。戦後日本の様々な問題が見えてくる映像を作ったのは、その人、木川洋子さん(アメリカ名バーバラ)と同じ苗字を持つ大学教授木川剛志。 今月のトークショー参照。

 

ドント・ウォーリー・ダーリン:「ブックスマート 卒業前夜のパーティデビュー」で監督デビューしたオリビア・ワイルドの2作目。元気な女子高生の跳んでる姿を描いた前作から、都市郊外の快適な家に住む若妻を主人公にその裏に潜む混沌がセンス良く描かれる今作に成長した。

 

わたしのお母さん:母と娘の関係は結構難しい場合がある。互いにちょっとしたことが気にかかり、ちょっとしたことなのに許せないことがあるのだ。そんな微妙な関係を、脚本:松井香奈、監督:杉田真一で映画化。娘は井上真央、母は石田えりが演じている。

 

奈落のマイホーム:今の韓国映画には力があり、やる時はやると言っても、ここまでやるか?ソウルの新築マンションが巨大陥没穴に落ち込んでしまう。その深さは何と500m。そこから這い上がっていく。これを真剣に描くので笑って、感動してしまう。監督のキム・ジフンの作品には、「ザ・タワー 超高層ビル大火災」なんてのもあった。

 

ザリガニの鳴くところ:リース・ウィザースプーンが惚れ込んで映画の製作を買って出た原作は、全世界で1500万部を超えるベストセラーになった。ノースカロライナ州の湿地帯で発見された死体から始まるミステリーは、主人公カイアの6才の時から一人で湿地に住み、生活し、成長する姿を追っている。ミステリー以上に切なさが胸に沁みるのは、美しい自然の中で1人健気に生きる主人公の姿が孤独に見えるからだろう。監督はオリヴィア・ニューマン。

 

ミセス・ハリス パリへ行く:ロンドンで家政婦として働くハリスおばさんが、ディオールのドレスに魅せられ、お金を貯めてパリに行く。そこで出会う様々な人々、出来事が楽しめる作品。いじわるなイザベル・ユペールと貴族役のランベール・ウィルソンが懐かしい。

 

宮松と山下:来る日も来る日も、切られ、撃たれ、射られ死んで行くエキストラの主人公宮松には記憶がない。ある時昔の知り合いが宮松を訪ねてきて、山下と呼ぶ…。画面がいつも冷静なのは、監督が3人からなる監督集団「5月」だからか。香川照之が口数少なく、主人公を存在感たっぷりに演じる。

 

 

 

 


Ⅱ 今月の旧作

 

<外国映画>

ジュディ・ガーランド生誕100年記念特集 永遠のジュディ
生誕100年ということで、フランシス・エセル・ガムは、ボードビリアンの父とピアニストの母の間に1922年に生まれた。1929年に2人の姉と一緒に3人でガム・シスターズとしてデビューしたというから、7歳で芸能の道に進んだことになる。1935年にその歌唱力からMGMと契約、その時には芸名ジュディ・ガーランドになっていた。1939年に「オズの魔法使い」のドロシー役に抜擢されたことで、その主題歌である『オーバー・ザ・レインボウ』とともに、彼女が今もってアメリカのショービジネス界である象徴として記憶されることになる。人生の後半は色々あり苦しんで、1969年睡眠薬の過剰摂取により47歳で亡くなってしまう。


今回の特集は1935~50年までの、ミュージカルスターとして彼女が一番輝いていた作品群(「二日間の出会い」はミュージカルではないストレートプレイ)で構成されていた。改めて彼女の実力を認識させられる素晴らしさだった。上手さと楽しさ、若さがどの作品にもあふれ、何度も見てみたい気にさせる。

 

 

 

 

Ⅲ 今月のトークショー 

 

11月12日 銀座シネスイッチ「あちらにいる鬼」上映後 舞台挨拶 寺島しのぶ、豊川悦司、広末涼子、廣木隆一(監督)
ロードショー開始2日目土曜日の舞台挨拶。女性(映画ライター?)の司会で始まった。
舞台には左から、司会者、広末、豊川、寺島、廣木と並んでいる。女性は広末の黒と、寺島の白という衣装だった。豊川のスーツは何色だったか覚えていないが、蝶ネクタイだった。廣木はかなりラフな格好だった。
この日は別の映画館で上映前の挨拶をしており、2回目の挨拶となる。少し慣れているような気もした。一番定石通りのお礼などをきちんとしていたのは広末、寺島もまあまあだったが、男性陣は二人とも情けない。豊川は他の人の話を聞いていなくて頓珍漢な話をしているし、監督の廣木はきっちり言葉にできていない。まあ、映画はきっちりできていたので許されるが。1か月の間に、「あちらにいる鬼」「母性」「月の満ち欠け」と3作品が公開されるので、超忙しかったのかもしれない。
久しぶりに華やかさのある舞台挨拶で楽しめた。

 

11月14日 新宿K’sシネマ 「Yokosuka1953」上映後 木川剛志監督の挨拶
2018年の夏、木川という名字を頼りにフェイスブックメッセージで監督のところにアメリカから連絡が入る。映画の主人公バーバラさんの娘シャーナさんから、母が日本の母を探していて、親族ではないかとコンタクトしたというのだ。このメールに興味をひかれ、アメリカまで会いに出かけた木川氏は、映画監督ではなく、大学で都市工学を中心に研究している人だった。戦後時代の日本にも興味があり、話を聞けたらという思いもあったという。
話を聞いて、彼女を日本に呼ぶためのクラウドファンディングを立ち上げ、母親を探す手伝いをすることになる。初めからドキュメンタリーにしようという気持ちはなく、記録を残しておこうとしたことがドキュメンタリーに結実したという。
最終的には母親の墓参りをしてもらい、母親の写真(バーバラさんは5歳で別れた母の顔を思い出せなくなっていた)を見せることができた。
映画には描かれていないが、バーバラさんは2回の結婚、離婚後、現在は新しいパートナーと暮らしているという。

 

11月16日 イメージフォーラム 「あなたの微笑み」上映後の対談 平山ひかり(出演者)、平山ユージ(ひかりの父親、クライマー)、リム・カーワイ(監督)
この映画の公式サイトには次の文がある。
【実力はあるはずなのに、なんだかうまくいかない……ちょっとザンネンな映画監督“世界の渡辺”が、インディーズ映画界の底辺で自分と向き合っていく、ちょっと遅れてきた青春ロードムービー!!】
私は映画好きといってもここまで突っ込んでいないなあ、インディーズ映画界なんて知らないしと思うしかない。何でこの映画を見に来たのだろうと思ってしまった。
映画を作ったリム・カーワイ氏は大阪を拠点に映画を作るマレーシア出身の華僑だと後で調べて分かった。この映画はインディーズ映画の監督が、インディーズ映画の監督を主人公に青春映画を作ったことになる。
平山ひかりはこの映画でダンサーを演じているが、その父親の平山ユージは映画とは関係がない人。後で調べるとプロクライマーで、芸術的なクライミングスタイルの人らしい。この人の話は、話すことに慣れている人らしく聞き易かったが。
う~む、こういうトークショーもあるのかという印象。

 

 

 

 

 今月のつぶやき

 

●2016年9月開館というから既に6年以上が経っている映画館シネマ・チュプキ・タバタから派生した映画「こころの通訳者たち」。車いすの人以外に、見えない人、聞こえない人にも映画を楽しんでもらおうとする東京田端にある映画館だ。耳の聞こえない人に演劇を楽しんでもらおうとする3人の舞台手話通訳者(出演者と一緒に舞台に上がっている)たちの記録を、目の見えない人たちにその手話を伝えるためには…の試みが描かれる。

●韓国のスター、マ・ドンソクはその強さが評価されてか、ハリウッドにも進出しマーベル作品「エターナルズ」に出演したが、18歳の時に家族と共にアメリカに移住、国籍もアメリカに変更している。その彼が主演した「犯罪都市 The Roundup」は韓国で大ヒットしたらしい。しかし、日本ではそれほどヒットしていない。彼の良さは野蛮さの中に可愛さのあるところだが、このあたりがあまり受け入れられていないのだろうか?

●様式美が凄いなと感じたのは「ブラック・パンサー ワカンダ・フォーエバー」だ。女性戦士たちがあまりに硬く戦うのにも驚いた。チャドウィック・ボーズマンが死んでしまったことを、ずっと悲しんでいる印象だ。

●ポール・ギャリコという作家は映画を見ていて時に気づくが、その代表作の一つハリスおばさんシリーズが映画化された「ミセス・ハリス、パリへ行く」。楽しい作品だった。今月もう1本彼の小説が原作の映画を見た。旧作ジュディのミュージカルではない「二日間の出会い」だ。二日間の休暇の兵士との恋を描いている。さらに、「ポセイドン・アドベンチャー」の原作が彼の小説だ。元スポーツライターだったという彼の描く小説は、人々を勇気づけてくれる。

 

 

 

 



今月のトピックス:元エロ映画の監督たち  

 

Ⅰ 元エロ映画の監督たち

 

1960年代、映画業界は50年代の隆盛から一転、下降線を描き始めた。60年代の映画界といえば、フランスのヌーベルバーグやアメリカンニューシネマなど、世界的には従来の映画にとらわれない、まさに”新しい波”が目立っていた。そうした中、日本映画界でも新しいものを目指す流れはあったものの、それが組織や会社として確立されることはなく、古い組織での映画会社が多くのものを握っていた。しかし、時代の流れはそのままの体制で業界を維持することをどんどん不可能にしていき、映画会社も変化せざるを得ない方向に動きだす。70年代には映画会社の組織自体が維持できず、倒産や大幅な組織改編に追い込まれていく。
映画会社の中で、人材育成もされていたのであるが、それが不可能になっていく。80年代には映画会社内での映画製作がどんどん縮小され、人材を育てる場が無くなっていったのである。
先月号の今月のトピックス、Ⅲ 映画人の本で紹介した浜野佐知さんは、70年代に監督になろうとしたが映画会社の募集は男性だけだったため、ピンク映画界で監督を目指していた。しかし、80年代になると男性ですら映画会社を目指すのは難しくなる、募集自体が激減、或いは無くなったのである。
1971年から始まった日活ロマンポルノは、映画の大手会社が普通作品では会社維持ができず、方向転換を図ったものである。1988年まで続いたロマンポルノは量産するために多くの若手を採用し、育成したのである。
ロマンポルノやピンク映画界で監督を目指さざるを得なかった監督は多い。こうした元エロ映画の監督で、現在エロ映画ではない通常(?)作品を作っている、あるいは作っていた監督の中には次の名前がある。(戦後生まれのみ、生年月日順、代表作)
相米慎二(故人):セーラー服と機関銃、お引越し
崔洋一:月はどっちに出ている、血と骨
森田芳光(故人):家族ゲーム、武士の家計簿
根岸吉太郎:探偵物語、ヴィヨンの妻~桜桃とタンポポ~
中原俊:櫻の園、12人の優しい日本人
廣木隆一:ヴァイブレータ、あちらにいる鬼
滝田洋二郎:コミック雑誌なんかいらない!、おくりびと
周防正行:Shall weダンス?、舞妓はレディ
瀬々敬久:ヘヴンズ ストーリー、護られなかった者たちへ

今回これを取り上げようと思ったのは、今年だけで5本の映画が公開されようとしている廣木隆一監督が話題になっているから。特に後半の3本、あちらにいる鬼(11月11日公開)、母性(11月23日公開)、月の満ち欠け(12月2日公開予定)は1か月の間に3本封切りということで、エロ映画以上に多い本数になったのである。

 

 

 

 

Ⅱ 刈谷日劇 その2


先月号で紹介した高校時代に通っていた刈谷日劇には今月も驚かされた。
11月11日に公開された「わたしのお母さん」を15日に渋谷のユーロスペースに見に行った。題名の次に出てきたのが製作会社、その一番上に刈谷日劇の名前があったのである。何社かが表示されていたのだが、その一番上に刈谷日劇、その右には堀部姓の二人の名前が出ていた。これには心底驚いた。刈谷日劇は映画館なのに、映画の製作もするようになったのか?凄いというか、びっくりした。刈谷日劇のサイトをチェックし、製作者として名前が出ていたのは刈谷日劇支配人の堀部昭広氏とその奥様ではないかと思った。
偶然高校の同窓会があり、地元に帰ることになったので映画館を訪ねることにした。


11月19日(土)の午前中、昼から始まる同窓会の前に出かけた。10時からスタートする映画が上映されていたので、始まって少し経った10時15分頃に伺った。初めにお会いしたのは、堀部俊仁氏、3年程前まで刈谷日劇の支配人をしていらしたという。
刈谷日劇は1954年に開館、父親が創業し、俊仁氏は2代目になる。3年前に3代目の昭広氏に引き継いだという。洋画の専門映画館として名作、大作を中心に上映し、それなりの集客をしてきた。しかし、周辺にシネコンができ始めると集客が厳しくなってきた。3年前に引き継いだ後、昭広氏は洋画から日本映画も含むミニシアター的な作品編成に変更したという。息子さんは映画好きでその変更をされたのでしょうかとお聞きすると、いや息子は特に映画好きというのではないとの回答が帰ってきた。これにはちょっと驚いた。息子さんは多くの映画人と付き合う努力をされ、そこから情報を得て番組編成をされているという。
ちなみにその時上映されていたのは次の作品群(2スクリーンで1日で上映)である。
さすらいのボンボンキャンディ(舞台挨拶有り)、グッド・ナース、ドライビング・バニー、彼女のいない部屋、渇きと偽り、わたしのお母さん、秘密の森の,その向こう、呪い返し師 塩子誕生
これらはシネコンで掛けられない作品との観点から選ばれているようだ。
時間の関係で現支配人の昭広氏にはご挨拶程度になってしまった。
いずれにしても地方都市の映画館で、開館後68年の歴史を持ち、ミニシアター的番組で勝負しようとしている姿には驚き、感心した。

 

 

 

 

Ⅲ 11月25日 36歳


本日11月25日はこの通信発刊日であるとともに、ジェラール・フィリップの命日でもある。1959年11月25日に36歳でこの世を去ってしまった。Wikipediaには『1950年代のフランスの美としてその人気を不動のものとした(ちなみに1940年代の美はジャン・マレーであり、1960年代の美はアラン・ドロンである。またその持ち味も、マレーが感性、ジェラールは知性、ドロンは野心の美とそれぞれ違う)。』とある。元々美男好きとは言えない、というか、個性派好きのフランスからはアラン・ドロン後には美男の大スターはいないように思われる。
彼の命日の今日「ジェラール・フィリップ 生誕100年映画祭」がスタートする。“フランス映画史上最も愛された夭折のスター”として、彼の11作品と最新ドキュメンタリーが上映される。
ジェラール・フィリップ映画祭は今までに何度も行われている。何故なら、彼の映画を輸入配給するためにセテラ・インターナショナルという会社を立ち上げた山中陽子さんという方がいるからだ。会社案内には『フランスの名優ジェラール・フィリップの映画を上映するために映像輸入会社に勤務していた現社長の山中陽子が設立。』とある。設立は1989年だから33年も前のこと。ジェラール・フィリップが去った30年後になる。
情熱は時代を超えると教えられる。

 

 

 

 

今月はここまで。
次号は、クリスマスの12月25日にお送りします。

 


                         - 神谷二三夫 -


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