いよいよというか、やっと梅雨入り、
これから暫くは雨の季節、
その後ろには暑い夏、
こんな季節にも快適に過ごせるのは、
そう、映画館!
5/26~6/25の季節の変わり目の31日間に出会った作品は34本、
邦/洋画は20/14と邦画が洋画を圧倒しました。
新作も17/14と邦画が洋画の約1.2倍。
洋画の公開本数が少し減っているのではという印象。
それにしては4K版とかでのリバイバルは多いのだが。
なお、黒沢清監督、柴崎コウ主演の「蛇の道」は洋画に入れている。
20本(新17本+旧3本)
【新作】
ちゃわんやのはなし―四百年の旅人―
おいしい給食 Road to イカメシ
若武者
ゲバルトの杜~彼は早稲田で死んだ~
#つぶやき市長と議会のオキテ 劇場版
キッチンから花束を
告白 コンフェッション
お終活 再春! 人生ラプソディ
トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代
空の港のありがとう
帰ってきたあぶない刑事
わたくしどもは。
明日を綴る写真館
違国日記
ディア・ファミリー
九十歳。何がめでたい
あんのこと
【旧作】
コタンの口笛
地獄変
太平洋ひとりぼっち
14本(新14本+旧0本)
【新作】
関心領域
(The Zone of Interest)
バティモン5 望まれざる者
(Batiment 5)
ユニコーン・ウォーズ
(Unicorn Wars)
マッドマックス:フュリオサ
(Furiosa,A Mad Max Saga)
アニマル ぼくたちと動物のこと
(Animal)
ライド・オン
(龍馬精神 / Ride On)
ドライブアウェイ・ドールズ
(Drive-Away Dolls)
東京カウボーイ
(Tokyo Cowboy)
チャレンジャーズ
(Challengers)
美しき仕事
(Beau Travail)
蛇の道
( Le chemin du serpent)
オールド・フォックス 11歳の選択
(老狐狸 / Ols Fox)
アンゼウム “傷ついた世界” の芸術家
(Anselm:Bas Rainsoren der Zeit / Anselm)
ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ
(The Holdovers)
(新作だけを対象にしています)
今月の2、3位は同じジャンルのドラマとドキュメンタリーをまとめたため、本数が多くなりました。
① 関心領域
今年の米アカデミー賞で国際長編映画賞、音響賞を受賞した作品。ポーランドのアウシュビッツ収容所の隣で暮らすナチス幹部家族の日常。隣からの音が聞こえる中、毛皮のコートを自慢する幹部の妻。彼らの関心はあくまでそこにあり、それ以上には広がらない。
②-1 東京カウボーイ
井浦新主演、他に國村隼や藤谷文子が出演しているが、純然たるアメリカ映画。会社が所有するモンタナの牧場を収益化するために送られた主人公が、上手くいかない現地との交渉に苦しんだ後、現地のカウボーイとの交流から光を見出すといったお話。今月のトークショー参照。
②-2 オールド・フォックス 11歳の選択
台湾の監督シャオ・ヤーチュエンの新作。38年間続いた台湾の戒厳令が解除されたのは1987年7月、そのため台湾経済は混乱し、物価が急騰する。父と息子の二人生活を続けていたリャオ家族は、慎ましく倹約して、家と店を手に入れようとしていたのだが、不動産価格は2倍以上になってしまう。そんな時11歳の息子のリャオ・ジエは街の実力者シャに出会う。繊細に描かれる切ない話。
②-3 ホールドオーバーズ 置いてけぼりのホリディ
「サイドウェイ」のアレクサンダー・ペイン監督の新作。ボストン近郊の全寮制のバートン校を舞台に、クリスマス休暇なのに学校に残らざるを得ない3人、生徒からも教師仲間からも嫌われている教師ハナム、息子をベトナムで亡くしたばかりの料理長メアリー、勉強はできるが家族関係が複雑な17歳のアンガス。やがて1971年を迎える。誰もが傷を持っているのがいかにもペインだ。メアリーを演じたダヴァイン・ジョイ・ランドルフが、今年の米アカデミー賞で助演女優賞を受賞した。ハナムを演じたポール・ジアマッティは、アカデミー賞主演男優賞はノミネートだけに終わったが、ゴールデングローブ賞のミュージカル・コメディ部門男優賞を受賞。
②-4 あんのこと
新聞の三面記事からヒントを得て作られた物語。脚本・監督は入江悠。母親の暴力、更に客を取って稼いでこいとの圧力の下、しゃぶ中で売春をするあん。そうした事実に気づき、彼女を救い出そうとする刑事、更に薬ちゅう自助グループを取材している週刊誌記者が織りなす現代の暗闇。そうした状況の中、更生を目指したあんも、新型コロナによる変化の中で…。現在の日本の情況の悲惨さが後に残る。
③-1 ちゃわんやのはなし―四百年の旅人―
秀吉が朝鮮出兵時に朝鮮から連れ帰った朝鮮人陶工たち。彼らが日本人に技術を教え、薩摩焼を作り出す。薩摩の地で続く沈壽官家の十五代目を中心に、韓国からやってきた陶芸文化が日本で如何に根付いていったかを描くドキュメンタリー。監督は松倉大夏、製作は李鳳宇。
③-2 ゲバルトの杜~彼は早稲田で死んだ~
1972年11月9日早朝、東大附属病院前で男性の遺体が発見された。早稲田大学の学生である川口大三郎(当時20歳)で、全身殴打されていた。早稲田の革マル派が“中核派のスパイだった”との声明を発表、内ゲバ殺人と判明する。あの当時こうした内ゲバ殺人により全国で100人近くが殺されたという。あさま山荘事件は1972年の2月19日だった。代島治彦監督によるドキュメンタリーは鴻上尚史よるドラマパートや、多くの人のインタビューにより、当時の空気を思い出させる。
③-3 トノバン 音楽家 加藤和彦とその時代
トノバンの愛称で呼ばれた加藤和彦のドキュメンタリー。「帰ってきたヨッパライ」で我々の前に現れたフォーククルセダーズの加藤和彦は、その後、一時期のソロ活動、更にサディスティック・ミカバンドで活躍の後、再度ソロに。こうした歌手活動以上に、様々な分野で最先端を目指していた印象。安井かずみとの結婚と死別、その後オペラ歌手の中丸三千繪と結婚していたらしい。このことは映画には出てこないが、調べていて知ってちょっと驚いた。5年後の2000年には離婚。その後2009年に自殺するまでのことは映画にはない。
他にも映画館で楽しめる映画が沢山。(上映終了済作品もあります。)
◎バティモン5 望まれざる者:来月にはパリのオリンピックが始まる。オリンピックを見に来る観客に見せたくないとして、整理されるかも知れないパリ郊外にある10階建ての団地。そんな10階建てのスラム、通称バティモン5を舞台に、住民と行政の対立、治安改善のため強硬策をとる愚かな市長等を描くドキュメンタリー的なフィクション。監督はこうした地区出身のラジ・リ。
◎ユニコーン・ウォーズ:スペインのアニメーション作家アルベルト・バスケス監督の新作。絵柄の可愛さゆえ子供向けアニメかと勘違いされそうだが、この作品は大人向けダーク・ファンタジー。取り扱い注意商品。勿論監督の狙いはそこにある。
◎#つぶやき市長と議会のオキテ 劇場版:東京都知事選挙に最初に手を挙げた石丸伸二は広島県の安芸高田市の前市長だった。この映画を見た時点ではそのことを認識していず、広島ホームテレビが数百時間に渡って石丸市長と市議会に密着取材したドキュメンタリーを面白く見た。初めは良い印象だった石丸市長だが、後半に行くにしたがって、悪い印象になった。自分は正しいという姿勢が強すぎたことが原因か?
◎キッチンから花束を:随分前からNHKきょうの料理に出演する斉風(さいふう)瑞(み)さんが好きだった。本当の家庭の中華料理を教えてくれるようで。その人のドキュメンタリー映画ができるとは驚いた。「ふーみん」と言う中華風家庭料理の店をされていたことを初めて知った。しかも50年もされていたとは。彼女が台湾に行ったところでは、言葉ができない彼女に驚いた。両親は台湾人だが、彼女は日本生まれで、日本育ちだから当然か?
◎ライド・オン:ジャッキー・チェンの50周年記念アクション大作と言うのがこの作品の惹句。香港映画界の伝説のスタントマンながら、今は借金取りに追われながら中国の撮影所に住み、愛馬とエキストラなどを地味にこなす日々の老スタントマンを演じる。まるで70歳になったジャッキー自身を演じているようでもある。
◎ドライブアウェイ・ドールズ:コーエン兄弟の弟イーサンの初単独監督作品。レズビアンの二人が配送を依頼された車はギャングが配送を依頼したもの、そこに積み込まれていたものは…。これをB級映画みたいにざわざわ描く映画。
◎ディア・ファミリー:娘が心臓病で余命10年と知った男が、自分で人工心臓を作ろうとする実話に基づく映画。清武英寿氏の原作ノンフィクション「アトムの心臓 23年間の記録」の映画化。モデルは東海メディカルプロダクツの会長筒井宣征氏とその家族。不可能に挑む主人公の姿勢には感動する。
◎蛇の道:黒沢清監督の1998年の同名作を自らリメイクした作品。前作は見ていないので調べてみると、日本舞台で男二人が主人公だったらしい。パリ舞台の男女の話になっている。なぜ女は男の復讐を助けることになったのか、よく分からないまま、彼女の突き進む姿に驚く。
◎九十歳。何がめでたい:初めに草笛光子90歳記念映画と出てくるので驚く。2016年、佐藤愛子が93歳の時出版した原作エッセイの映画化。彼女は現在100歳で現役。いずれにしてもお元気な女性達だ。清水ミチコ、三谷幸喜、オダギリジョーなどゲスト出演も多数、嫌みのない笑いの映画を作ったのは前田哲監督。
◎アンゼウム “傷ついた世界” の芸術家:アンゼウム・キーファーというドイツの画家については何も知らなかった。ドイツのヴィム・ヴェンダース監督が、彼の芸術について作ったドキュメンタリー映画。説明的な描写はなく、キーファーの作品を見せることに徹している。今月のトークショー参照。
6月2日 ヒューマントラストシネマ渋谷「空の港のありがとう」上映終了後 関係者のプレゼンテーション (空港についてよく知るライターが登場したが、名前を失念)
上映時間25分の短編映画が何故かロードショー映画館で上映された。その何故を探るために見に行った。ちなみに料金は一律1000円だった。映画館は開場する前からロビーにやたらと人が多かった。日曜日の昼間の上映だからといえばいえるが、この短編に何故こんなに?開場すると、中に入らない人も多かったのである。この日は封切りから2日目。封切りから1~2日目はよく配給会社の人が数人来て、映画がヒットするか否かを心配そうに見守るのだが、そんな人数ではなく10人以上の人が、入場する我々を両側に分かれて見送る感じだった。更に驚いたのは、上映が終わると拍手が起きたのである。勿論、時々拍手が起きる映画はある。しかし、この拍手はちょっと違うなと感じたのは私だけか?
後で調べて分かったのだが、この映画は吉本興業の地域発信型映画プロジェクトの一作として、成田空港を舞台として作られていたのである。
このトークショーで今回エキストラとして参加した人は手を挙げての問いに、かなりの人が手を挙げていたのである。これで拍手の謎が解けた。しかもこうした人々は全国各地から来ていて、事前にエキストラ募集がされたということだ。彼らの多くが背中にNARITAと書かれたT-シャツを着ていた。
ということで、一種のPR映画だったのだ。主人公は成田のグランド要員で清水美沙が演じている。彼女の家族の話もあり、単純なPR映画ではない。さらに、この映画が成田空港を利用するフライト内で近々上映されることになるという。
それにしても、これで1000円は、普通の映画がシニア料金で1300円の身にとってみると高すぎるかも。
6月8日 恵比寿ガーデンシネマ「東京カウボーイ」上映前のトークショー
マーク・マリオット監督、主演の井浦新、出演・脚本(共同)の藤谷文子、音楽担当のチャド・キャノンが出席
公開2日目のこの日、この映画のトークショーは恵比寿ガーデンシネマ以外に、3つの映画館で行われ、しかも恵比寿では2回行われたので、1日に5回をこなしたことになる。後で調べて分かったことだが、それにしてもハードスケジュール。予定では音楽担当のチャド・キャノンは入っていなかったので、3人ではきつすぎると判断したのかも。キャノンは日本語がペラペラだった。なお、このトークショーは確か2000円均一料金だった。
監督のマーク・エリオットは30年くらい前に広島・岡山に2年くらい暮し、日本の静かな文化に惹かれたという。その後山田洋次監督の寅さん映画に魅せられ、弟子入りすることに。日本が世界初公開、アメリカ公開は8月とのこと。
井浦からは今撮影中のドラマの照明の方が、30年前のマークさんを知っていておめでとうと伝えてくださいと言っていたと。この映画の台本を読んで、お芝居よりは人の温かさや心の変化を演じようと思った。初めてのモンタナでのロケで、それが主人公と重なるのでそのままを演じようとも思った。
藤谷文子は脚本をアメリカ人のデイヴ・ボイルと共同で書いている。デイヴは人の話をよく聞く人だった。映画の舞台はアメリカの牧場で、基本的に男性社会だが、女性の繊細な感性を入れてくれたとマリオット監督が藤谷に感謝。
音楽担当のチャド・キャノンからは、主題歌は藤谷の詩で、男性の声はオペラ歌手に依頼したとか。
6月23日 新宿武蔵野館「アンゼルム “傷ついた世界”の芸術家」上映後 建築評論家の五十嵐太郎さんのトーク
アンゼルム・キーファーは20~30年前に一度だけ日本で展覧会が行われた。日本には余り紹介されていない画家である。
今回のヴェンダースの映画は基本的に説明がなく、絵画名も表示されない。作品(絵画)自体に語らせるという方法で作っている。2010年の短編「もし建物が話せたら」と同じである。
キーファーはアメリカで80年代に評価されスターになった。
当初キーファーはナチス時代の記憶を、ナチス式敬礼などで表していて批判もあったが、それは戦略的に行われていた。
作品のサイズがどんどん大きくなって、最終的には高さ30mくらいのものが出てきている。さらに建物と結びついてのものもあり、こうなると普通の展覧会で見せるのは不可能になっている。
6月11日~18日の8日間でニューヨークに出かけた。9年ぶりのニューヨークで一番驚いたのは、人の多さ。ミュージカルを見るのが目的だったので、ブロードウェイ地区に宿泊したが、タイムズスクエア近辺を中心に街自体が満員という言葉が最適という状態があった。世界各国(日本以外の)から観光客が来ているようだった。
ニューヨークの街は、歩いている人の速度が日本より早いというのが今までの印象だったが、今回日中から夜にかけては随分速度が遅い。多分観光客速度だったのだろう。朝7~8時頃に歩いていると、出勤時間でもあり、普通のニューヨークスピードに戻っていた。
今回見たミュージカルは次の9本。前回に比べると昼間のマチネ公演が広がり、この本数を見るのが可能になっていた。
Outsiders、 Hell’s Kitchen、 Great Gatsby、 Water for Elephant、 Cabaret at Kit Kat Club、 Hadestown、 Merrily We Roll Along、 Back to The Future、 A Beautiful noise
9本の中に映画と関係する作品が3本ある。
Outsiders:1983年に公開されたフランシス・フォード・コッポラの「アウトサイダー」
Great Gatsby:S・フィッツジェラルドの小説は何度も映画化されているが、有名なのは1974年の「華麗なるギャッツビー」(ロバート・レッドフォード主演)か。
Back to The Future:1985年公開のロバート・ゼメキス監督作品
3本とも今年の新しいミュージカル。原作小説があるものもあるが、映画からの映像イメージが大きく影響している。
Outsidersは今年のトニー賞でミュージカル作品賞を含む4部門を受賞している。
今年のトニー賞は丁度ニューヨーク滞在中の6月16日の夜にリンカーンセンター内の劇場で行われた。残念ながら見には行けなかったが。その授賞式でMerrily We Roll Alongに出演していたダニエル・ラドクリフ(映画のハリー・ポッターで有名)がミュージカル助演男優賞を受賞した。この作品はミュージカルリバイバル作品賞、ミュージカル主演男優賞など4部門を受賞している。
映画で有名なスターでは、エディ・レッドメイン(「博士と彼女のセオリー」「ファンタスティック・ビースト」)がCabaret at Kit Kat Clubで主演していた。トニー賞のミュージカル主演男優賞にノミネートされていたが、受賞はならなかった。このCabaretは前後に客席のある円形劇場という変わった空間で上演された。
各作品とも充実していた。劇場もほぼ満席のところが多かった。そこで驚いたのは、観客の反応だ。ほとんどの劇場で叫び声が聞こえるのだ。賞賛の叫びである。9年前にはそこまで叫びは聞こえなかった。どうしてこんなに叫ぶことになったのか?もっとも叫びが大きかったのはMerrily We Roll Alongで、隣に座っていた人が雄たけびを上げた時には、何も聞こえなくなった。ちなみにこの作品だけは入場料が高かった。他の作品が1階のOrchestra席で120~200ドルくらいだったが、この作品だけは350~600ドルくらいだった。劇場窓口の人に聞いたら、一番高かった席は750ドル位したというから日本円で12万円ということになる。これが窓口での料金だというのだから驚く。
今月はここまで。
次号は、夏の真ん中で暑いに違いない7月25日にお送りします。