『桐島、部活やめるってよ』は、作者朝井リョウが高校時代を送った頃,2006年前後の体験をもとに描かれている。勿論そのままの体験ではないが。
作者の出身高校は岐阜県の大垣北高校。岐阜県でも有数の進学校で、歴史もあり、作品にでてくる文武両道を目標にしている学校だ。作品には場所を示すような具体的地名はなく、大垣を知っているものとしては全体の雰囲気が実際の大垣とはかなりの違いがある感じる。岐阜県を意識して読むことはできないし、その必要もない。
21世紀が始まったばかりの日本社会のある部分を圧縮して、それを背景とした青春小説である。その文体の軽快さとリズムの良さ、歯切れの心地良さが特徴的だ。その時代の生き生きとした若者、高校生の抱えた日常的な問題意識、苦悩がリアルに描写されている。
今となっては過去の遺物であるがMP3プレイヤー、Ipod、携帯電話などが身近なものとなり始めた頃。インターネットが日常生活に浸透し始める時期でもあった。若者のコミュニケーション手段が大きく変化をし始めていた。そうした道具やら環境によって他者とのつながりが大きく広がって行く中で、青春特有の個々人の孤独感や疎外感は依然として濃密にただよっていた頃。このような背景が、『桐島、部活やめるってよ』の登場人物たちの心情や行動にも色濃く反映されている。
青臭い未熟さを感じさせながらも、作品の中では人物は生き生きとした会話をし、若者達の様々な悩みや葛藤を心理描写として見事に描かれてゆく。
青春を描いた作品は様々な時代に常にあり、どの作品も時代背景を考えながら読みこんでゆくと、作品価値はいつまでたっても色あせることがない。青春文学は読者の年齢が重なってゆくとともに読まれることは少なくなりますが、時として誰しも立ち返ってみるのもいいことかもしれません。自分の時代との比較により、今の自分の生き様もありありと映し出されるかもしれません。

2025年1月15日